カテコラミン誘発多形性心室頻拍に対するフレカイニド療法の運動負荷心電図所見と血中濃度の関係
1 旭川医科大学小児科
2 名寄市立総合病院小児科
カテコラミン誘発多形性心室頻拍(Catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia: CPVT)は小児の突然死の原因の一つである.CPVTの初期治療としてはβ遮断薬が推奨されているが,それのみでは致死的なイベントを完全に防ぐことはできない.フレカイニドはIc群の抗不整脈薬であり,近年β遮断薬と同様にCPVT患者での運動誘発性の心室性不整脈の発症を減少させ,心イベントを予防すると報告された.フレカイニドに対する不整脈の改善は用量依存性であるとされているが,CPVT患者においてフレカイニド血中濃度と運動負荷心電図との直接的な関係をみた報告はない.我々は,8歳のCPVT患者に対して,β遮断薬とフレカイニドで治療を行い,治療効果判定として運動負荷心電図とフレカイニド血中濃度の測定を繰り返し行った.患者は十分な効果を得るために高用量のフレカイニド内服を要した.CPVT患者の治療に当たる際に,血中濃度と運動負荷心電図を繰り返し行うことはフレカイニドの効果判定に重要である.
Key words: catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia; flecainide; exercise electrocardiography
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カテコラミン誘発多形性心室頻拍(Catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia: CPVT)は小児の突然死の原因の一つである.CPVTの治療にはβ遮断薬が広く用いられているが,それのみでは致死的なイベントを完全に防ぐことはできず,本邦ではCPVT患者の90%以上がβ遮断薬を内服しているが,そのうちの19%は治療抵抗性で失神などを繰り返すことが多いと報告されている1, 2)
.フレカイニドはIc群の抗不整脈薬であり,近年,CPVT患者の運動誘発性の心室性不整脈の発症を減少させ,心イベントを予防することが報告された3, 4)
.フレカイニドは用量依存性に不整脈を改善するとされており,その効果判定にはフレカイニドの血中濃度と不整脈の発現頻度をみることが望ましいが,血中濃度と運動負荷心電図所見を比較した報告は少ない.特に小児においては薬物動態が成人と異なっており,薬物血中濃度の推移の予測が難しいことも多い.つまりは,どのタイミングで運動負荷心電図検査をすることが効果判定に最も有用であるかもわかっていない.我々は,CPVTの8歳男児に対して,β遮断薬とフレカイニドで治療を行い,治療効果判定として運動負荷心電図とフレカイニド血中濃度モニタリングを繰り返し行うことで,薬物血中濃度と心電図所見の変化について比較検討した.
症例は8歳男児.運動直後に失神を認め,近医を受診した.4歳時に熱性けいれんを1度起こしている以外は特記すべき既往はなく,近医での頭部MRIでは異常所見を認めなかった.ホルター心電図で運動時の多形性心室頻拍を認めたため,CPVTの疑いで当院に紹介された.患児の父方祖母の兄弟が50歳代で突然死している以外は,不整脈や突然死の家族歴は認めなかった.当院入院時の身体所見や血液検査等では異常を認めず,心臓超音波検査でも構造異常などは認めなかった.安静時の心電図所見は,洞調律,HR 67 bpmでQT延長などは認めなかった.御両親の同意を得たうえで施行した遺伝子検査では,リアノジン2受容体の新規変異(p.A4247V and p.F4511L)を認め,CPVTと診断した.初期治療としてβ遮断薬であるカルベジロール(0.1 mg/kg/day,分2)を開始し,運動制限も行った.カルベジロール開始から1週間後に施行した運動負荷心電図(Bruceプロトコール)では,Stage Iで1分も経過しないうちに多源性心室性期外収縮を認めたため検査を中止した(Fig. 1).そのため同日よりフレカイニド(74 mg/m2/day,分2)をカルベジロールに併用して早期から開始した.しかし,フレカイニド併用後も不整脈の改善は認めず,フレカイニドの内服量は段階的に130 mg/m2/dayまで増量した.フレカイニドの内服量が高用量になったため,トラフ値以外の血中濃度の推移がどうなっているのか,半減期の血中濃度はトラフ値以下になっていないのかどうか,加えて運動負荷心電図とフレカイニド血中濃度との関係はどのようになっているのか検討を行った(Fig. 2, Table 1).検討にあたっては,成人ではフレカイニド内服後4日間で血中濃度が定常状態に達することから,フレカイニドの内服量を増量してから1週間後に運動負荷心電図検査および血中濃度の評価を行った.血中濃度が低い場合には検査翌日から再度増量を行い,1週間後に再評価するということを繰り返し行った.
Time after oral administration | Oral flecainide dose | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
130 mg/m2/day | 150 mg/m2/day | 187 mg/m2/day | ||||
2 h (peak time) | 8 h | 2 h (peak time) | 8 h | 2 h (peak time) | 8 h | |
Blood flecainide concentrations (ng/mL) | 245 | 143 | 371 | 183 | 438 | 289 |
Exercise time | 8 min 24 s | 2 min 30 s | 5 min 1 s | 7 min 53 s | 5 min 30 s | 4 min 0 s |
Max loading (Mets) | 10.1 | 10.1 | 12.8 | 10.1 | 12.8 | 12.8 |
Peak heart rate (bpm) | 165 | 159 | 180 | 169 | 168 | 171 |
Bruce stage/arrhythmia | Stage III/PVC | Stage III/short run | Stage IV/bigeminy | Stage III/couplets | Stage IV/PVC | Stage IV/bigeminy |
PVC: premature ventricular contraction |
運動負荷心電図検査はフレカイニド内服から2時間後(peak time)と8時間後の2回施行した.また,フレカイニドの血中濃度は,内服前,内服1時間後,2時間後,4時間後,8時間後の5回測定した.フレカイニドを130 mg/m2/day内服下の運動負荷心電図は,内服2時間後でStage IIIでの心室性期外収縮(Premature ventricular contraction: PVC)を認め,8時間後でStageIIIでの二段脈からShort runを認めた.その際のフレカイニド血中濃度は,内服2時間後で245 ng/mL,8時間後で143 ng/mLであった.フレカイニドを150 mg/m2/day内服下の運動負荷心電図は,内服2時間後でStageIVでの二段脈を認め,8時間後でStageIIIでの二段脈から二連発を認めた.その際のフレカイニド血中濃度は,内服2時間後で371 ng/mL,8時間後で183 ng/mLであった.フレカイニドを187 mg/m2/day内服下の運動負荷心電図は,内服2時間後でStageIVでのPVCを認め,8時間後でStageIVでの二段脈を認めた.その際のフレカイニド血中濃度は,内服2時間後で438 ng/mL,8時間後で289 ng/mLであった.フレカイニド増量中に心機能低下やQT時間の延長などの副作用は認めなかった.本症例は高用量のフレカイニド内服を必要とし,用量依存的に不整脈の改善を認めた.
その後のフォローアップでは不整脈の発現に改善がなかったが,最高投与量に近いフレカイニドを増量することができないため,カルベジロールを段階的に増量し,カルベジロール(0.58 mg/kg/day,分2),フレカイニド(187 mg/m2/day,分2)の二剤内服下で,運動負荷時の不整脈の消失を認めた(Fig. 3).
今回我々は,小児CPVT患者において運動負荷心電図とフレカイニド血中濃度との関係を初めて報告した.フレカイニドは用量依存的に不整脈を改善したが,血中濃度をみながら調整することで安全に投与することができた.Watanabeらはフレカイニドがリアノジン2受容体を直接阻害し,筋小胞体からのカルシウムイオン放出を抑制することを報告し,Van der WerfらはフレカイニドがCPVT患者で運動誘発性不整脈の発症率を減少させると報告した3, 4)
.小児において,フレカイニドの通常投与量は50~100 mg/m2/dayで,最高投与量は200 mg/m2/dayであり,有効血中濃度は200~1000 ng/mLとされている.しかし,本症例ではフレカイニド投与量は187 mg/m2/day(=7.6 mg/kg/day)と高用量を必要としたうえに,フレカイニド血中濃度のトラフ値は200 ng/mL未満であった.この原因の一つとして,フレカイニドの代謝が考えられる.Perryらはフレカイニドの代謝率が年齢で変化し,特に1~12歳は代謝率が他の年齢よりも高いと報告している5).また,フレカイニドはcytochrome P450 2D6(CYP2D6)で主に代謝され,その発現は2歳頃に成人と同程度になると報告されているが,おおよそ80%の日本人はCYP2D6の発現は良好(extensive metabolizers)であることがわかっており,フレカイニドが急速に代謝される可能性がありうる6, 7)
.その他の原因として,小児では母乳や乳製品の摂取でフレカイニドの吸収抑制が起こり有効血中濃度が低くなることがあるが,本症例は該当しないと思われる.今回測定した血中濃度の曲線をみても,成人のフレカイニド血中濃度のピークは内服1時間後で,半減期は11時間後となっているが,本症例ではピークは内服2時間後で,半減期は8~9時間後であった.Tillらは,フレカイニドの半減期と年齢は相関し,18歳未満の小児においては半減期は10時間未満であることが多いと報告している8).小児の半減期が成人よりも短いことは,フレカイニドの代謝が亢進していることを示唆し,トラフ値が有効血中濃度に達しなかった原因もこの点にあると考える.
また,フレカイニドの薬物効果をみるためには,血中濃度のみでは不十分であり運動負荷時の不整脈発現頻度がどの程度であるのかをみる必要がある.我々の検討では,血中フレカイニド値がピークの時の運動負荷心電図所見と,血中濃度が半分の時の運動負荷心電図所見では不整脈の発現頻度が大きく異なっていた.このことは,血中濃度がピークの時の運動負荷心電図所見のみでフレカイニドの効果判定をすることは不完全であることを示唆する.CPVT患者の管理で重要なことは,どの程度まで運動できるかということを決定することであり,ホルター心電図よりもさらに負荷がかかる運動負荷心電図を検査するほうが望ましく,さらに検査をする時間帯としては半減期の時期に施行すべきであると考える.
以上のことから,フレカイニドの内服量を増量しても,トラフ値が有効血中濃度に満たない症例や半減期での運動負荷心電図での不整脈発現の改善が乏しい症例などは,本症例のようにフレカイニドが急速に代謝され半減期が短くなっている可能性がある.このような症例においては,フレカイニドの内服回数を通常の2回から3回に変更することで,血中濃度を高く維持できる可能性があるため,投与回数を検討する余地もあると考える.フレカイニドの血中濃度をきめ細かくチェックし,モニタリングすることはCPVT患者の管理のうえで非常に重要である.
今回,我々はCPVTの小児例において,運動負荷心電図とフレカイニド血中濃度との関係を検討した.小児ではフレカイニドの代謝が成人とは異なっており,至適血中濃度を得るために,フレカイニドの血中濃度モニタリングが有用であった.また運動負荷心電図検査は,フレカイニドの半減期を考慮して施行すべきであることがわかった.運動負荷心電図と血中濃度をモニタリングすることはフレカイニドの効果判定および用量決定に重要である.
遺伝子検査を施行して頂いた滋賀医科大学呼吸循環器内科 大野聖子先生,堀江 稔先生に深謝いたします.
本論文について,開示すべき利益相反(COI)はありません.
本症例報告の要旨は第51回日本小児循環器学会総会・学術集会(2015年7月17日)で発表した.
1) Hayashi M, Denjoy I, Extramiana F, et al: Incidence and risk factors of arrhythmic events in catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia. Circulation 2009; 119: 2426–2434
2) Kawamura M, Ohno S, Naiki N, et al: Genetic background of catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia in Japan. Circ J 2013; 77: 1705–1713
3) Watanabe H, Chopra N, Laver D, et al: Flecainide prevents catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia in mice and humans. Nat Med 2009; 15: 380–383
4) van der Werf C, Kannankeril PJ, Sacher F, et al: Flecainide therapy reduces exercise-induced ventricular arrhythmias in patients with catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia. J Am Coll Cardiol 2011; 57: 2244–2254
5) Perry JC, McQuinn RL, Smith RT Jr., et al: Flecainide acetate for resistant arrhythmias in the young: Efficacy and pharmacokinetics. J Am Coll Cardiol 1989; 14: 185–191
6) Johnson TN, Rostami-Hodjegan A, Tucker GT: Prediction of the clearance of eleven drugs and associated variability in neonates, infants and children. Clin Pharmacokinet 2006; 45: 931–956
7) Doki K, Homma M, Kuga K, et al: Effect of CYP2D6 genotype on flecainide pharmacokinetics in Japanese patients with supraventricular tachyarrhythmia. Eur J Clin Pharmacol 2006; 62: 919–926
8) Till JA, Shinebourne EA, Rowland E, et al: Paediatric use of flecainide in supraventricular tachycardia: Clinical efficacy and pharmacokinetics. Br Heart J 1989; 62: 133–139
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