世界の小児循環器学の臨床を変える研究をめざしましょうLet’s Aim a Study to Change the Clinical Practice in the World Pediatric Cardiology!
東京都立小児総合医療センター循環器科・臨床試験科Divisions of Cardiology and Clinical Research, Tokyo Metropolitan Children’s Medical Center ◇ Tokyo, Japan
東京都立小児総合医療センター循環器科・臨床試験科Divisions of Cardiology and Clinical Research, Tokyo Metropolitan Children’s Medical Center ◇ Tokyo, Japan
© 2017 特定非営利活動法人日本小児循環器学会© 2017 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
坂本喜三郎会長はじめ関係者のご尽力のもと,盛会のうちに第53回日本小児循環器学会総会・学術集会が終わりました.シンポジウム,パネルディスカッション,セミナーのほか,一般演題の討議も活発で興味深いものが多数ありました.最近の学術集会のご発展は,誠に喜ばしい限りです.
ただ,本学会の臨床試験委員長としては,臨床研究のレベルには少々物足りない印象を受けました.もちろん症例報告やケースシリーズは,若手の発表の登竜門としても臨床家へのメッセージとしても,重要な意義があります.しかし,多数例を対象とした臨床研究では,後向き研究が圧倒的に多い点は,いささか問題ではないでしょうか.学会発表だけがゴールのような後向き研究で,論文化が難しいと感じられるものも散見されました.
後向き研究を行ったのであれば,ぜひ前向き研究に発展させ,不十分な部分を補ってほしいと思います.その研究計画を練る過程で,対象の選択・除外基準,エンドポイント(主要と副次の区別)と正確な測定方法,目標症例数などを設定する必要が生じます.確実に前向き研究を実施できれば,後向き研究で明らかにできなかったリサーチクエスチョンを解決することができるはずです.
前向き研究であっても,真の(true)エンドポイントではなく,代理の(surrogate)エンドポイントを目的にした単施設研究も目立ちました.仮に目新しい検査値(例えば画像診断や血液検査の計測値)に有意差があったとしても,臨床的事象(合併症や手術などイベントの発生率)と関連するかどうかはわかりません.また,単施設のデータだけでは普遍性も不明ですので,多施設共同研究への発展が望まれます.
本学会から世界の小児循環器学の臨床を変える研究を発信するためには,ランダム化比較試験(RCT)が必要ですが,本学術集会で幾つのRCTがあったでしょうか? わが国の小児科領域でも,血液疾患や腎臓疾患などではRCTが行われており,本学会でも,今後は積極的に取り組むべきです.また,エビデンスを確立するという方向性は,治験の推進にもつながると考えます.
一方,学術集会のモーニングセミナーでご講演いただいた福原俊一先生(「臨床研究の道標」の著者;本稿のタイトルは,ご講演名を参考にしました)のお話にもありましたように,RCTは絶対的真実とは限りません.RCTはいわば理想的な環境における実験ですので,バリエーションの大きい実臨床では予想外の事態が起きる可能性があります.福原先生は,コホート研究によるリアルワールドデータ(RWD)を重視し,日本では適切な分析的観察研究が少ない問題点を指摘されていました.臨床研究のレベルアップは,日本の医学界全体の重要課題なのです.
RCTや前向きコホート研究では,臨床研究の最大の陥穽である交絡因子(要因とアウトカムに影響する第3の因子)を調整することができます.交絡因子の解釈を誤ると,重症例(例えば火事の規模が大きい)→強い治療(活動する消防士の数が多い)→予後不良(焼死者が多い)というデータに基づき,因果の逆転が起こり得ます(焼死者を減らすためには消防士を減らせばよい?).「そんな馬鹿な」と笑うかもしれませんが,そのような研究は意外に多いのです.
本学会でも,データベース委員会の精力的な活動により,ようやく新規に診断した症例数を把握できるようになりました.次のステップとして,主な疾患に対する前向きコホート研究が行われることを期待します.このような体制は,RWDにおける様々なリサーチクエスチョンを解決する分析的観察研究に結び付き,さらにはRCTなどの介入研究の基盤に成り得ます.
富田英会長の主催される第54回日本小児循環器学会総会・学術集会のテーマは,「伝え育てる小児循環器—20年後のために今できること—」と伺いました.未来に成果が残るような臨床研究が少しでも多く発表されることを,今から楽しみにしています.残念ながら早逝された佐地勉先生のご遺志に報いるためにも,われわれ学会員は力を合わせ,世界の臨床を変えるような質の高い研究をめざしましょう.
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