遺伝性出血性末梢血管拡張症における肺動静脈瘻のスクリーニングと遺伝子検査Screening of Pulmonary Arteriovenous Malformations and Genetic Test in Patients with Hereditary Hemorrhagic Telangiectasia
名古屋大学医学部附属病院小児科Department of Pediatrics, Nagoya University Hospital ◇ Aichi, Japan
名古屋大学医学部附属病院小児科Department of Pediatrics, Nagoya University Hospital ◇ Aichi, Japan
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松尾論文は,遺伝性出血性末梢血管拡張症(以下,HHT)に伴う多発性肺動静脈瘻に対して,流入動脈径3 mm未満であったが低酸素血症を認めたため,コイル塞栓術を施行した症例報告である.本文中にも挙げられているように,流入動脈径3 mm以上の病変に対しては,積極的治療介入のコンセンサスが得られている.3 mm未満でも脳梗塞,脳膿瘍の合併症を起こしえるため,治療を行ったほうがよいという意見は多く,最近の国際ガイドラインでも治療を行うことは妥当性があるとされている1, 2).その一方で,長期的な経過を考えたときに,再開通や新規病変の出現,肺動静脈瘻に起因する塞栓や感染性心内膜炎などの合併症の出現などの面で,早期治療がどの程度の意義があったのかも,今後重要な検討項目となるであろう.そのため,本報告は貴重な報告であるとともに,今後の長期的な経過の報告も何らかの形で著者らにはしていただければと思う.
さて,松尾論文では検討すべきもう一つの点として,低酸素血症を来す肺動静脈瘻でも自覚症状はなく,家族歴からスクリーニング検査を行い,治療に至ることができた点を挙げている.HHTは本文にも挙げられているCuraçao criteriaによって診断がなされる3).しかしながら,小児では診断基準に含まれる症状が出現せずに,年齢が進むにしたがって症状が出現する点で,早期診断に困難を伴う場合がある.
こうした肺動静脈瘻のスクリーニングについては,経皮的酸素飽和度が重要と考えられる.HHTが疑われる,あるいは診断がついた小児においては,1~2年ごとに計測することがよいとする意見もあり,とくにこの疾患における肺動静脈瘻が下葉や舌区に起こりやすいことから,仰臥位と座位で測定し,仰臥位より座位の方が低い場合,特に疑わしいとされる4).酸素飽和度にて,肺動静脈瘻の存在が疑われた場合は,経胸壁コントラスト心エコーやthin slice CTが考慮される.CTにて肺動静脈瘻が確認されている成人症例において,検査法ごとの感度を比較した検討では,肺動静脈瘻の検出として,胸部レントゲンは70%,肺血流シンチグラムは71%の感度であったのに対して,経胸壁コントラスト心エコーの感度が93%と最も高かったことから,本文中にも述べられている経胸壁コントラスト心エコーは有用な検査と言える5).ただし,塞栓術後も90%近い症例で経胸壁コントラスト心エコーでは陽性所見が出るという報告もあり6),フォローアップについては,経胸壁コントラスト心エコーのみではなく,臨床症状,経皮的酸素飽和度,CTなど総合的に判断する必要がある.
さて,HHTの診断でもう一つ重要なものとして遺伝子診断が挙げられる.HHTではこれまでに疾患原因遺伝子として,ENG, ACVRL1, MADH4のほか,同じシグナル伝達系の遺伝子であるGDF2が報告されている7, 8).ENG, ACVRL1の遺伝子解析でおおむね75%の患者で変異を認める.ENGはTGF-βのIII型受容体であるEndoglinをコードする遺伝子で,この変異を持つ場合,遺伝性出血性末梢血管拡張症1型(HHT1)とされる.また,ACVRL1はTGF-βのI型受容体であるALK1をコードする遺伝子で,ENGの変異の頻度とほぼ等しく,この変異を持つ場合,遺伝性出血性末梢血管拡張症2型(HHT2)とされる.ACVRL1, ENGは肺動脈性肺高血圧症の原因遺伝子であることでも知られている.HHTにおいて,ある種の遺伝性疾患に見られるような,変異が集中する部位である,いわゆるhotspotはこれまでの報告の中で見られていない.また,臨床型は特別な変異または変異型との間に関連性は見られない.ただし,特定の変異ではないが,肺動静脈瘻は本報告のようにHHT1で多く,肝動静脈奇形はHHT2で多い傾向がある.また,MADH4はTGF-βシグナル系における細胞内シグナル分子として機能するSmad4をコードする遺伝子で,頻度は1~2%と少ないが,若年性ポリポーシスに変異して合併する遺伝性出血性末梢血管拡張症という特異な臨床症状を呈する.この場合,ほかのHHTと異なり,消化管ポリープの悪性化のリスクがある2).こうした点からも遺伝子診断は臨床上の管理において重要な意味を持つと言える.なお,最近変異が報告されたGDF2はALK1を介してシグナル伝達がなされるリガンドである,BMP9をコードする遺伝子である.しかし,これまでに数例の報告にとどまっており,特異的な臨床症状は報告されていない.
遺伝子診断の適応とその結果の解釈においては,その疾患の遺伝学的特徴を把握することは重要である.HHTは常染色体優性遺伝の疾患であり,疾患を疑う場合は,松尾論文でもなされていたような詳細な家族歴の聴取と臨床症状の評価が必須である.遺伝形式の推定・確認のためには家系図は重要であり,これについては正式な記載法を参照していただければと思う9, 10).なお,遺伝形式の推定が複雑となる可能性がある生殖細胞モザイクは,HHTでは可能性はあるものの,これまで報告されていない.臨床症状との関連としては,遺伝子変異を有する者における変異型の症状が現れる割合,すなわち浸透率が,HHTでは年齢と関連して増加する特徴がある.こうした点でも小児においては時にCuraçao criteriaによる判断を慎重に行う必要があることは上述した通りである.また,家族内において,同一変異でも臨床症状は大きく異なる場合もあるので,変異が認められた際の家族への説明では注意を要する.一方で,世代を経るごとに発症年齢が若年化し,より重篤になるという,いわゆる表現促進現象は認められない.
なお,遺伝子診断にあたっては,現在の日本医学会の「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」(2011年)では未成年に対する非発症保因者の診断は,原則として本人が成人し自律的に判断できるまで実施を延期すべきで,両親などの代諾で検査を実施すべきではないとされており,家族歴があるからという理由のみで,小児も含め血縁者全員の遺伝子検査を行うのではなく,しっかりした臨床評価を行った上で行われるべきである.また,こうした遺伝子診断の結果をどう説明するかということについては,遺伝カウンセリングと連携して行うことが望ましい.HHTは肺血管以外にも,肝動静脈瘻,脳や脊髄の動静脈奇形などの多臓器にわたる多発性動静脈奇形を特徴とする疾患であり,複数科での連携が管理において重要であることを改めて認識したい.
1) Mager JJ, Overtoom TT, Blauw H, et al: Embolotherapy of pulmonary arteriovenous malformations: Long-term results in 112 patients. J Vasc Interv Radiol 2004; 15: 451–456
2) Faughnan ME, Palda VA, Garcia-Tsao G, et al: International guidelines for the diagnosis and management of hereditary haemorrhagic telangiectasia. J Med Genet 2011; 48: 73–87
3) Shovlin CL, Guttmacher AE, Buscarini E, et al: Diagnostic criteria for hereditary hemorrhagic telangiectasia (Rendu-Osler-Weber syndrome). Am J Med Genet 2000; 91: 66–67
4) McDonald J, Bayrak-Toydemir P, Pyeritz RE: Hereditary hemorrhagic telangiectasia: An overview of diagnosis, management, and pathogenesis. Genet Med 2011; 13: 607–616
5) Cottin V, Plauchu H, Bayle JY, et al: Pulmonary arteriovenous malformations in patients with hereditary hemorrhagic telangiectasia. Am J Respir Crit Care Med 2004; 169: 994–1000
6) Lee WL, Graham AF, Pugash RA, et al: Contrast echocardiography remains positive after treatment of pulmonary arteriovenous malformations. Chest 2003; 123: 351–358
7) McDonald J, Wooderchak-Donahue W, VanSant Webb C, et al: Hereditary hemorrhagic telangiectasia: Genetics and molecular diagnostics in a new era. Front Genet 2015; 6: 1
8) Wooderchak-Donahue WL, McDonald J, O’Fallon B, et al: BMP9 mutations cause a vascular-anomaly syndrome with phenotypic overlap with hereditary hemorrhagic telangiectasia. Am J Hum Genet 2013; 93: 530–537
9) Bennett RL, Steinhaus KA, Uhrich SB, et al: Recommendations for standardized human pedigree nomenclature: Pedigree Standardization Task Force of the National Society of Genetic Counselors. Am J Hum Genet 1995; 56: 745–752
10) Bennett RL, French KS, Resta RG, et al: Standardized human pedigree nomenclature: Update and assessment of the recommendations of the National Society of Genetic Counselors. J Genet Couns 2008; 17: 424–433
注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである. 松尾 倫,ほか:低酸素血症を呈した遺伝性毛細血管拡張症に伴う多発性肺動静脈瘻に対して病変選択的に経カテーテル的コイル塞栓術を施行した1例.日小児循環器会誌2017; 33: 241–246
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