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特定非営利活動法人日本小児循環器学会
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 33(3): 228-233 (2017)
doi:10.9794/jspccs.33.228

症例報告

先天性心疾患における着用型自動除細動器(WCD)の使用経験

1東京女子医科大学循環器小児科

2東京女子医科大学成人先天性心疾患病態学研究部門

3東京女子医科大学循環器内科

4東京女子医科大学先進電気的心臓制御研究部門

受付日:2016年12月7日
受理日:2017年3月23日
発行日:2017年5月1日
HTMLPDFEPUB3

着用型自動除細動器 WCD(旭化成ZOLL Medical社製:LifeVest®)は,2014年に保険償還され,国内での使用が開始された.当科で成人先天性心疾患(CHD)2症例に対しWCD導入を経験したので報告する.

症例1は,Fallot四徴症(TOF),Rastelli手術後の35歳女性.第一子分娩後に血圧低下,前失神発作を伴う非持続性心室頻拍(VT)を認めたが,VTに対する治療を拒否された.今回,第二子妊娠を契機に突然死予防目的でWCDを使用した.症例2は,TOF, Rastelli手術後の37歳女性.通勤中に心肺停止となり心肺蘇生が開始され,心室細動(VF)に対しAEDが作動し心拍は再開した.致死性不整脈が原因と考えられたが,直ちに植込み型除細動器(ICD)を植込むことを拒否したため,待機期間中にWCDを使用した.2症例の1日平均着用時間はそれぞれ8時間と18時間で,使用期間中にVT/VFは出現することなく経過しショックによる作動も認めなかった.

着用のみで非侵襲的に使用可能なWCDは,今後CHD症例においても突然死を予防するために需要が高まると思われる.

Key words: congenital heart disease; wearable cardioverter defibrillator; ventricular tachycardia; implantable cardioverter defibrillator

はじめに

2014年に保険償還された着用型自動除細動器(Wearable Cardioverter Defibrillator: WCD,旭化成ZOLL Medical社製:LifeVest®)は,欧米では10年以上の使用実績がある医療機器である1)

.適応は,心室頻拍(VT)または心室細動(VF)による心臓突然死のリスクが高いが,植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator: ICD)の適応の可否が未確定である場合や,ICDの適応であるが様々な事情により直ちにICDが植込めない患者を対象とし,除細動治療を目的に一時的に使用するものである.ICDは,致死的な心室性不整脈による突然死予防の有用性が確立しており,デバイスの技術の進歩や大規模臨床試験の結果により適応が拡大しつつあるのが現状である.先天性心疾患(CHD)症例においても例外ではない.しかしVT/VFの既往のある心停止ハイリスク症例については複雑な心形態異常から,直ちにICD植込とはならない場合があり,このような時WCDが選択肢となる可能性がある.当院では,これまで14名にWCDが処方された.このうち当科外来でフォローされている2例の成人CHD症例に対し,WCDを導入したので報告する.

症例1

右胸心,Fallot四徴症(TOF)の35歳女性.6歳時にRastelli手術,17歳時に心外導管交換による右室流出路再建術を施行された.32歳で第一子を妊娠,週数が進むにつれ非持続性上室頻拍,および心室性期外収縮の頻度が増加した.無痛・吸引分娩で第一子を出産した.労作,疼痛等により心室性期外収縮が出現していたが,産褥期2日に血圧低下および前失神症状を伴う非持続性VTが出現した(Fig. 1

).しかし母乳栄養を強く希望され,アミオダロンをはじめとする抗不整脈薬の導入は同意が得られなかった.幸い,症状を伴うVTはその後認めることなく経過した.第二子の妊娠は推奨されていなかったが,34歳時,自然妊娠した.16週6日,自宅で15分持続する動悸および意識が朦朧とする自覚症状を認め,経過観察入院となった.救急隊到着時すでに動悸は消失していたため,有意な心電図波形は得られなかった.入院後にカルベジロールを開始した.妊娠継続に伴う致死性不整脈出現の可能性,心不全増悪,生命の危険等について,繰り返しインフォームド・コンセントが行われたのち,妊娠を継続の方針で退院した.34週0日,心負荷の増大に伴い周産期管理目的で入院した.心室性期外収縮の増加を認めたが年末年始の外泊を強く希望したため,35週0日にWCDを導入し外泊を許可した.アラーム設定は,VTは心拍数150/分以上,VFは心拍数200/分以上とし,ショックが入るまでの時間は,VTは60秒,VFは25秒,電気ショックのエネルギーは二相性で150 Jと設定した.妊娠週数が進み,腹囲の増大にあわせてWCDのサイズを1段階大きなものに変更した.38週0日に帝王切開分娩を施行した.産褥期は2日まで硬膜外麻酔を使用し,その後も積極的に鎮痛剤を使用し疼痛管理を行った.ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は,出産前88 pg/mLから分娩後209 pg/mLと上昇したが易疲労や浮腫など心不全の所見はなく,持続するVTも出現せず分娩後12日目に退院した.しかし退院後に易疲労や動悸が増悪し,ホルター心電図を施行したところ,心室性期外収縮出現時に一致して自覚症状を認めた.アミオダロン内服は希望しなかったため,ソタロールを開始し動悸はいったん軽減した.WCDは半年のレンタル期間をもって終了した.

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Fig. 1 Case1 presented repetitive nonsustained rapid ventricular tachyarrhythmias with pre-syncope 2 days after delivery of the first newborn

WCDの使用状況

フォローアップは,外来定期診察とオンラインシステム“LifeVest Network®”において,日々の着用状況,作動歴等をチェックした(Fig. 2(a)

).

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Fig. 2 The bars represent the daily wear times of Case 1 (a) and Case 2 (b), which could be checked by using “LifeVest Network®”

(a) Duration of wearing the WCD: Case 1. The days of patient use were 52 out of 180 days, and the average daily patient use was only 8 hours. (b) Duration of wearing the WCD: Case 2. The days of patient use were 61 days, and the average daily patient use was 18 hours. But, the frequency of use gradually decreased every month.

入院中は心電図モニター装着で不整脈の管理を行い,WCDは外泊時のみ着用した.安静を心がけていても疼痛負荷や睡眠不足,育児による疲労・消耗が増強すると心室性不整脈が出現しやすいことを説明し,退院後そのような状況の場合において必ずWCDを着用していた.実母が同居し,育児による負担軽減に努めてくれていたものの,第一子の保育園に関わる労作が増大する時期を焦点に入れ,WCDのレンタル期間を3か月延長した.以上より,WCDの着用は選択的かつ集中的に行われたため,着用開始および終了日を除く180日間のうち実着用日数は52日,その1日平均着用時間は8時間という結果であった.着用期間中,適切作動および不適切作動のいずれも認められなかった.

症例2

TOF,肺動脈閉鎖の37歳女性.11歳時にRastelli手術が施行された.27歳時の心臓カテーテル検査では,右室流出路狭窄が進行し,右室圧が左室圧の8割となっており手術を勧めたが同意が得られなかった.また,30歳より永続性心房細動であった.出勤時,職場の入口で胸苦しさを訴え心肺停止となり,その場で直ちに心肺蘇生が開始された.AEDの心電図解析はVFで,1回のショックで心拍は再開した.しかし意識レベルはJapan Coma Scale 300であったため,搬送先の病院で低体温療法を施行した.冠動脈造影では異常所見を認めなかった.VFに対しアミオダロンを開始した.覚醒後,神経学的後遺症は認めなかった.抜管後,当院へ転院搬送され,再度心臓カテーテル検査を施行したところ,右室圧は左室圧と等圧であった.右室流出路狭窄解除目的の再手術,および二次予防でICD新規植込みの方針で,待機期間中にWCDを使用した.アラーム設定,電気ショックが入るまでの時間,ショックのエネルギー設定は,症例1と同様とした.しかし再手術は一貫して希望しなかったため,ICD植込み術のみ施行した.

WCDの使用状況

外来定期診察および,“LifeVest Network®”によると,着用開始および終了日を除いた実着用日数は61日で,平均着用時間は18時間/日であった.着用時間を1か月ごとにチェックすると,初めは平均23時間とコンプライアンスは良好であったが,3か月目は平均14時間に短縮し時間経過とともにコンプライアンスが低下していった(Fig. 2(b)

).使用期間中,適切作動および不適切作動は認められなかった.

考察

WCDは心停止のハイリスク症例に対し,突然死を予防する医療機器であり,救助者がなくとも除細動治療が可能である.4つの心電図電極と,背面2か所と左胸部1か所の除細動電極がついたベストと有線のコントローラーから構成され,体表面に直接着用し,入浴時以外は常時着用する(Fig. 3

).WCDは,4つの心電図電極から得られた波形をコントローラーで解析し,設定した脈拍数以上のVT/VFと確認されると,バイブレーションアラーム,サイレンアラームにより,患者本人および周囲の人に認識させる.意識があれば,電気ショックの解除ボタンを押すことで回避できる.しかし,意識が消失して一定時間内に解除操作ができなければ,除細動電極から導電性ジェルが放出され電気ショックが行われる.WCDは侵襲的な手術を介さずに体表面に直接着用するだけで使用可能であり,ICDの診断感度・特異度と同等(非劣性)であり1–3),様々な場面での救命に期待しうるものである.しかし,ペーシング機能が搭載されていないため徐脈ペーシング,抗頻拍ペーシング,両心室ペーシングが必要な場合や,不整脈感知機能に問題がある場合,ベストの規格サイズ(胸囲66~142 cmの間で5種類)から外れる場合は適応外となる.最小サイズ胸囲66 cmが着用可能な年齢については,平成6年度の学校保健統計調査による年齢別胸囲/体重の平均値を参考にすると,9歳(男)で65.6 cm/30.7 kg, 9歳(女)で64.3 cm/30.3 kg, 10歳(男)で68.1 cm/34.2 kg, 10歳(女)で67.8 cm/34.6 kgであり平均的な9~10歳で着用可能である.

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Fig. 3 Wearable Cardioverter Defibrillator

(a) The LifeVest device is comprised of those parts. (b) The device is worn under the patient’s clothing

症例1は,妊娠後期にWCDを導入しており使用中にベストのサイズを変更した.右胸心については,除細動電極が前後で心臓を挟むよう配置されているため通常通りの着用でよいというWanら4)

の報告を参考に使用した.

WCDの実際の使用状況は,米国ではICD抜去後が23.4%,非虚血性心筋症20.0%,ICD植込みを延期された症例16.1%であった1)

.また,RaoらCHD 43症例の報告では,移植待機35%,感染によるICD抜去後28%,手術をはじめとした治療待機17%であった5).国内では保険で認められている使用期間が3か月までである.平成28年現在,保険点数は心臓ペースメーカー指導管理料(WCDによる場合)360点と,ICD移行期加算として31,510点が月1回算定できるのみで,レンタル料金(月額415,000円)より低く,その差額を病院が毎月負担するためWCD導入が容易でない施設もある.そのような医療事情から,日本不整脈学会「着用型自動除細動器の臨床使用に関するステートメント(2015年4月改訂)」において,ガイドラインにおける「推奨」の形ではなく「WCDの使用を考慮する病態」6)として示されている.

CHD症例では,VT/VFを契機に再手術を検討することがある.本症例2では最終的に再手術を施行せずICD植込みまでの待機期間中に着用したが,Raoらの報告にもあるような手術等の治療待機期間中にWCDを使用する症例は,今後も出てくると思われる.また,本症例1のようなCHD女性患者の妊娠症例においても,周産期に出現する(非)持続性VTに対し直ちにICD植込ができない,または適応決定の検査ができないなどの理由でWCDを使用する状況が予想される.

着用コンプライアンスついては,本症例では一日平均着用時間はそれぞれ8時間(33%)と18時間(75%)であったが,これまでには19~23時間1, 5, 7)

と良好な報告もある.しかし,Chungらの報告では,14.2%の症例でベストのサイズやコントローラーの重さを理由に使用を中断していた1).装着状況は,オンラインシステム“LifeVest Network®”により把握できるため,着用率が低い場合は早期に指導するなどの介入が可能である.本症例の着用コンプライアンスは前出の報告のように良好ではなかったが,幸いVT/VFの発症がなくWCDのショック作動が発生しなかったため大事には至らなかった.RaoらのCHD症例でもVT/VFによるショック作動はなかった5).しかし,WEARIT-II registryではWCDを着用した2,000症例中,13%は先天性/遺伝性心疾患(うちCHDは61%)で(ほか虚血性心筋症40%,非虚血性心筋症46%),3か月のフォロー期間での持続性VT/VF発生率は,先天性/遺伝性心疾患と虚血性心筋症(いずれも3%)が非虚血性心筋症(1%)より有意に高く(p=0.02),ショックによる治療の割合も同様に高かった8).よって,突然死予防のためにも着用コンプライアンスが不良であることは避けるべき事態である.

結論

突然死のリスクがあるが,直ちにICD植込を行うことのできないCHD 2症例に対するWCDの使用経験を報告した.CHD症例は,VT/VFのリスクに加え低心機能も伴うことが多く,不整脈治療・心不全治療・手術など複数の治療を組み合わせる必要があり,直ちにICD植込みとはならないことも多いためWCDは大いに貢献しうるものと思われる.今後,実臨床における保険点数や使用期間の見直しや,機器の軽装化,軽量化に期待する.

利益相反

本論文について,開示すべき利益相反(COI)はない.

引用文献

1) Chung MK, Szymkiewicz SJ, Shao M, et al: Aggregate national experience with the wearable cardioverter-defibrillator: Event rates, compliance, and survival. J Am Coll Cardiol 2010; 56: 194–203

2) Epstein AE, Abraham WT, Bianco NR, et al: Wearable cardioverter-defibrillator use in patients perceived to be at high risk early post-myocardial infarction. J Am Coll Cardiol 2013; 62: 2000–2007

3) Feldman AM, Klein H, Tchou P, et al; WEARIT investigators and coordinators; BIROAD investigators and coordinators: Use of a wearable defibrillator in terminating tachyarrhythmias in patients at high risk for sudden death: Results of the WEARIT/BIROAD. Pacing Clin Electrophysiol 2004; 27: 4–9

4) Wan C, Oren JW, Szymkiewicz SJ: Successful use of wearable cardioverter defibrillator in a patient with dextrocardia and persistent left superior vena cava. Ann Noninvasive Electrocardiol 2013; 18: 487–490

5) Rao M, Goldenberg I, Moss AJ, et al: Wearable defibrillator in congenital structural heart disease and inherited arrhythmias. Am J Cardiol 2011; 108: 1632–1638

6) 日本不整脈学会WCDワーキンググループ;庭野慎一,関口幸夫,石井庸介,ほか:着用型自動除細動器(WCD)の臨床使用に関するステートメント(2015年4月改訂)

7) Sasaki S, Tomita H, Shibutani S, et al: Usefulness of the wearable cardioverter–defibrillator in patients at high risk for sudden cardiac death: A single-center primary experience. Circ J 2014; 78: 2987–2989

8) Kutyifa V, Moss AJ, Klein H, et al: Use of the wearable cardioverter defibrillator in high-risk cardiac patients data from the Prospective Registry of Patients using the Wearable Cardioverter Defibrillator (WEARIT-II Registry). Circulation 2015; 132: 1613–1619

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