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特定非営利活動法人日本小児循環器学会
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 33(3): 197-201 (2017)
doi:10.9794/jspccs.33.197

原著

積極的にPrimary Norwood手術を選択した治療戦略でのFontan手術到達への手術成績の検討

1北里大学心臓血管外科

2和歌山県立医科大学心臓血管外科

3北里大学小児科

受付日:2017年1月13日
受理日:2017年4月10日
発行日:2017年5月1日
HTMLPDFEPUB3

背景:左心低形成症候群(HLHS)では近年初回に両側肺動脈絞扼術が姑息術として行われるようになったが,遠隔期の問題が指摘されている.初回手術として積極的にNorwood手術を行い,Fontan手術に至る中期遠隔成績と危険因子を解析した.

方法:2004年10月から2014年5月までにHLHS等の症例に対しNorwood手術を受けた連続する16名に対し後方視的解析を行った.

結果:1例を除く15例に初回Norwood手術を行った.Norwood手術後1年生存率は69%,3年生存率は56%であり,遺伝子異常(p=0.037),Heterotaxy(p=0.026)が死亡の危険因子であった.BCPS後1.0±0.5年で,全例がFontan手術に到達した.

結論:初回Norwood手術は遺伝子異常やHeterotaxyを除き有効な治療戦略であった.同病態への治療方針は再考の余地がある.

Key words: Norwood operation; Hypoplastic Left Heart Syndrome; Fontan operation; congenital heart disease

背景

左心低形成症候群(HLHS)の外科治療は近年めざましい進歩を遂げた1)

.初回姑息術として両側肺動脈絞扼術が行われるようになった.両側肺動脈絞扼術により救命率が向上したものの,PGE1長期投与の合併症,その後Fontan手術に至るまで肺動脈の発育の問題点,および複数回の手術介入が必要な点など遠隔期の問題が指摘されている2).初回姑息術をNorwood手術,両側肺動脈絞扼術のどちらにするべきかの議論は未だ結論づけられてはいない.当院では初回手術として積極的にNorwood手術を行う方針としている.primary Norwood手術からFontan手術までの中期遠隔成績を示し,危険因子の解析を行うのが本研究の目的である.

方法

2004年10月から2014年5月までに左心低形成症候群等で当院にてNorwood手術を受けた連続する16名(男6名:女10名)を対象とし後方視的解析を行った(Table 1

).15番染色体部分欠損と診断された生後34日目の患児1例に初回手術として両側肺動脈絞扼術を施行し,術後91日にNorwood手術を施行した.15例にprimary Norwood手術を施行した(Fig. 1).Norwood手術の新大動脈再建はhomograftや人工血管を使用せず自家組織のみで行った3, 4).全例で右室–肺動脈導管を5 mmもしくは6 mm Expanded Polytetrafluoroethylene(ePTFE)tube graftを用いて作成した.また全例に高流量選択的脳灌流(High-Flow Regional Cerebral Perfusion(HFRCP))を用いた4).1例のみ下行大動脈送血も併用した.診断はHLHSが13例,unbalanced AVSD, TAPVC cardiac type,大動脈弓離断(IAA)type Cがそれぞれ1例ずつであった.16例中8例に遺伝子異常または心外形態異常,Heterotaxyを認めた.Norwood手術施行時の年齢,体重,同時手術の有無,平均人工心肺時間,遮断時間,下半身阻血時間を評価した.

Table 1 Sixteen consecutive patients who undertook Norwood operations (male/female: 6/10) were included from October 2004 to May 2014. Six patients with Genetic Disorder/Malformation or Heterotaxy were included
VariablesTotal=16
Gender (M/F)6/10
Age at Norwood (days)7±7.4
Body Weight (kg)2.8±0.4
Aristotle Score18.1±2.5
Diagnosis
HLHS13
Unbalanced AVSD1
TAPVC cardiac type1
IAA type C1
Shone’s complex2
Polysplenia1
Asplenia1
Genetic disorder, malformation6
Turner synd.1
21-trisomy1
Kabuki synd.1
15th chromosome partial deletion1
Others2
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Fig. 1 One patient who was 34-day old baby and had 15th chromosome partial deletion underwent bilateral pulmonary artery banding as the first palliation, who then underwent a Norwood operation 91 days after that. Fifteen patients underwent Primary Norwood operations

Cox Proportional Hazard Modelを用いて死亡に対する危険因子の解析を行った.Kaplan–Meierにより生存曲線を描き生存率を解析した.

結果

Norwood手術時日齢は平均8日(1~124日),体重は2.8±0.4 kg,平均Aristotle Scoreは16.5であった.Norwood手術の際,11例にASD拡大術を,1例に両側肺動脈形成術を同時に行った.Norwood手術の平均人工心肺時間は225±60分,遮断時間88±21分,下半身阻血時間71±16分であった.1例のみ人工心肺離脱できず,術後体外循環補助装置(ECMO)を必要とした.二期的胸骨閉鎖術を平均4±2日後(2~8日)に施行した.周術期16例中8例(50%)に一酸化窒素(NO)を用いて管理した.primary Norwoodを施行した15例中6例(40%)が両方向性上大静脈肺動脈シャント手術(BCPS)到達前に,平均132±186日後(10~498日)に死亡した.6例中3例に遺伝子異常/心外形態異常,Heterotaxyを認めた.Norwood手術後1年生存率は69%,3年生存率は56%であった(Fig. 2

).また遺伝子異常/心外形態異常,Heterotaxyの有無で2群に分けKaplan–Meier生存曲線を描き比較検討した.遺伝子異常/心外形態異常,Heterotaxyがある群の1年生存率,3年生存率はそれぞれ63%, 38%で,遺伝子異常/心外形態異常,Heterotaxyがない群の1年生存率,3年生存率はともに75%であった.遺伝子異常/心外形態異常,Heterotaxyがない群でNorwood術後の成績は良好であったが有意差はなかった(p=0.149)(Fig. 3).Norwood術後1例に,術後9か月と10か月に三尖弁置換術(TVR)を施行し,2度目のTVR 6か月後に死亡した.5 mm PTFE tube graftを用いてNorwood手術を施行した1例で,術後2か月時に右室–肺動脈導管交換を必要とした.16例中9例(56%)がBCPSに到達し,現在1例がBCPSを待機中である.Norwood手術からBCPSまでの期間は平均131±33日(93~168日)であった.BCPS時,4例で大動脈弓部再建を,1例で右肺動脈形成術を同時に行った.BCPS術後,1例で大動脈弓に圧格差を認めたため術後2か月時に大動脈弓部再建術を施行した.また,3例で横隔膜縫縮術を必要とした.

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Fig. 2 Estimated survival rate was 69% at 1 year and 56% at 3 years after the Norwood operations

Red line: 95% confidence interval

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Fig. 3 The surgical outcomes of primary Norwood operations were good except for Genetic Disorder/Malformation and Heterotaxy

BCPS後1.0±0.5年で,全例(9例)がFontan手術に到達した.primary Norwoodを行った症例のFontan手術までの心臓手術介入回数は2.5±0.8回であった.Fontan手術時のPA indexは平均204±90(117~380)mm2/BSAであった.Fontan手術は全例PTFE 16 mmを使用し,fenestrationを作成した.fenestrationのサイズは2.7 mmが2例,4 mmが6例,5 mmが1例であった.15番染色体部分欠損と診断された1例がFontan手術後5日目に死亡した.Fontan術後6±2.6年での8名の経過は,1例に蛋白漏出性胃腸症(PLE)を認めた以外は,7名がNYHA 1度と良好であった.

考察

今回の我々の研究では遺伝子異常/心外形態異常,Heterotaxyを除く症例においてprimary Norwood手術はFontan手術までの段階的治療戦略において有効であった.HLHSに対する外科手術の歴史は1983年,Boston小児病院のNorwoodが初の成功例を報告したことから始まった5)

.1990年代に入り,第二期手術としてのBCPS,最終手術としてのFontan手術という段階的手術が導入され手術成績は大きく向上したが6)依然として第二期手術までの待機中の死亡が多かった.2002年にAkintuerkらにより7),両側肺動脈絞扼術と動脈管ステントの合併手術(PAB/DS)について報告があり,現在ではPAB/DSがハイリスク症例に対して多く行われている.

日本では,その簡便性や術後管理の容易さなどからHLHS患者に対する初回姑息術として両側肺動脈絞扼術が広く普及した8)

.ハイリスク患者の定義として以下のような報告がある.笠原ら9)は,右室–肺動脈導管を用いたNorwood手術の危険因子として,1)未熟児・体重2.5 kg未満,2)2度以上の三尖弁逆流を挙げ,そのような症例は初回姑息術としての両側肺動脈絞扼術が成績改善に寄与すると報告している.また初回姑息術について,primary Norwoodと両側肺動脈絞扼術での短期成績の比較検討は以下のようなものがある.Christopherらは2007年に機能性単心室に対するPAB/DSの短期成績について報告しNorwood手術成績と比較している10).PAB/DSを施行した症例全体の1年生存率は68%であった.Salvage症例を除いたNorwood手術の台替治療としてのPAB/DSの1年生存率は80.0%,Norwood手術の1年生存率が71.4%であった.DiBardinoら11)は,HLHS患者を標準リスク群とハイリスク群(体重2.5 kg以下,未熟児,中枢神経異常,多臓器不全,狭小化した心房中隔,高度な心室機能低下,高度な房室弁逆流)に分類し成績を比較している.2007~2012年の68手術症例の検討でハイリスク群のNorwood手術症例で5例中3例死亡し,生存率が低かったとしている.基本的には標準リスク患者にはprimary Norwoodを行い,ハイリスク患者にはPAB/DSを行う方針としているが,5年生存率ではprimary Norwood手術が78.1%と高く,PAB/DSで56.4%と低値であった.PAB/DSの成績はハイリスク症例であり単純に比較することは困難であるが,PAB/DS術後には肺動脈の発育の問題があること,複数回の手術介入が必要となること,そして標準リスク群に対するNorwood手術の中期成績が良いことから,症例を選んで初回手術として積極的にNorwood手術を行うことは一つの有効な戦略と考えられる.

また肺動脈に関する検討について以下の報告がある.Daveら12)

は,2014年にHLHS患者に対するPAB/DSの28例の成績を,29例のNorwood手術成績と比較している.PAB/DSでは39か月間(10~81か月)で,86%(18/21)が肺動脈への介入を必要としたが,Norwood手術後の症例では58か月(16~128か月)で,肺動脈への治療を必要とした割合は31%(9/29)と,より少なかった.Fontan手術時のPA indexはPAB/DS症例では平均153(56~230)mm2/BSAと小さく,Norwood症例が平均206(118~406)mm2/BSAと高値であった.また,近年では血行動態が不安定でNorwood手術を施行困難な症例に対して初回姑息術としてPABを行い,血行動態が改善後早期にNorwood手術を施行する“rapid two-stage” Norwood手術が広く行われているが13, 14),PAB後はその期間にかかわらず肺動脈狭窄が起きやすいとされている.佐々木ら13)は,PAB後平均67日(15~147日)でNorwood手術を施行しているが,10例中6例で肺動脈狭窄を認め,2例がinterventionを必要としたと報告している.また,Daviesら15)は,PABの期間が90日以上の場合,高い確率で肺動脈へ介入が必要となるが,短期間でも10%を超える症例で介入が必要となったと報告し,その原因としてPABを行うことで長期間にわたり肺動脈の成長が阻害されるというわけではなく,手術操作自体やその影響から生じる急性期の炎症により狭窄を来すためと考察している.以上より,肺動脈の発育に関しては,PAB後早期にNorwood手術を行う“rapid two-stage” Norwood手術を含めて考慮してもprimary Norwoodの方が有利と考えられる.

なお,当院では患者個別に血流解析を行い16)

,wall shear stress(WSS)やenergy loss index(ELI)を求め,圧格差がなくても,WSS>100 PaかつELI>40 W/m2を一つの基準とし,積極的にpatch augmentationを行っている.今回,この基準を満たした4例でBCPS時に大動脈弓部再建を同時施行したところ,術前後のWSS(p=0.029)及びELI(p=0.049)は有意に改善した.

今回,我々は連続する15例でprimary Norwood手術を施行した.Norwood手術後1年生存率は69%,3年生存率は56%であった.体重2.5 kg未満は4名いたが,体重は死亡に対する有意な因子ではなかった(p=0.162).一方,遺伝子異常/心外形態異常(p=0.037)と, Heterotaxy(p=0.026)は有意な因子であった(Table 2

).遺伝子異常/心外形態異常,Heterotaxyを除く症例ではNorwood術後の成績は良好であった(Fig. 3).BCPS到達後の全例がFontan手術に到達した.Fontan手術時のPA indexは平均204±90(117~380)mm2/BSAで,肺動脈への手術介入を必要としたのは1例のみであった.primary Norwoodを行った15例中8例(53%)の患者がFontan手術に到達したが,PABを行う場合と比べ,肺動脈への手術介入回数は少なかった.Norwood手術を乗り越えた患者ではFontan手術の手術成績は良好であった.

Table 2 Low body weight was not a significant risk factor for death (p=0.162). Meanwhile Genetic Disorder/Malformation (p=0.037) and Heterotaxy (p=0.026) were significant risk factors for death
VariablesHazard Ratio95% CIp value
Body Weight5.820.49–68.70.162
Genetic Disorder/Malformation14.031.17–167.80.037
Heterotaxy18.661.43–244.40.026

以上より,遺伝子異常/心外形態異常,Heterotaxyがない症例に対してはprimary Norwood手術による手術戦略が有効であることがわかった.遺伝子異常/心外形態異常,Heterotaxyに該当する症例に対しては,救命率向上のために初回両側肺動脈絞扼術も考慮すべきとも考えられる.ただし,症例によっては,出生後すぐに血行動態が不安定化し,早期に初回姑息手術に臨まなければならない場合も多く,遺伝子検査の結果の前に手術になることもあるため今後慎重な検討が必要である.

結論

中期遠隔において,primary Norwood手術は遺伝子異常/心外形態異常,Heterotaxyを除く症例に対してFontan手術に至る有効な治療戦略であった.遺伝子異常/心外形態異常,Heterotaxyは死亡の危険因子であり,今後はこれらハイリスク症例での治療戦略の検討が必要である.

利益相反

本論文に関連し,開示すべき利益相反はありません.

引用文献

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