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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 33(2): 187-188 (2017)
doi:10.9794/jspccs.33.187

Editorial CommentEditorial Comment

Fontan関連肝疾患と“ショック肝”Fontan Associated Liver Disease and “Shock Liver”

北海道立子ども総合医療・療育センター小児循環器内科Hokkaido Medical Center for Child Health and Rehabilitation

発行日:2017年3月1日Published: March 1, 2017
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田原論文はFontan術後遠隔期にショック肝を併発した死亡例の肝組織所見を示した貴重な報告である1)

ショック肝は肝血流低下に起因する虚血性肝障害で,一過性かつ急激な肝逸脱酵素の上昇と中心静脈領域の肝細胞壊死を特徴とする.決して稀な病態ではなく罹患率は2/1000,集中治療室入室者の1~2.5%と報告されている2).病理組織的にはcentrilobar necrosisを主体としており,1900年代は“ischemic hepatitis”と報告されることが多かった.その後救急領域から“shock liver”という用語が汎用されたが,Birrerらが“shock liver”の半数が低血圧の既往がなく“hypoxic hepatopathy”を提唱した3).彼らはその病態を虚血性肝細胞障害の機序として低酸素血症,肝細胞への酸素供給低下,肝細胞の酸素取り込み能の低下および酸素消費増大の4群を考察している.これらを踏まえ現在では”hypoxic hepatitis”が頻用されている2–4).本稿では,田原論文と混乱を生じないようショック肝という用語を用いる.

ショック肝の予後は不良で,Jungらは心原性ショック172例の18%にhypoxic hepatitisを併発し,30日死亡率が併発群68%に対し非併発群が34%と有意に低いことを示した4).またWaseemらは,院内死亡率は50%と高率だが,死因の多くは原疾患であり,肝障害自体ではないとしている2)

一方,Fontan関連肝疾患はFontan循環に伴う肝障害の総称で,高い肝静脈圧によるうっ血肝がその本態と考えられており,肝組織の剖検および生検報告が散見される5–8).Kendallらはoriginal FontanのEC conversion前の18例に肝生検を行っている5).全例に類洞の線維化と拡張を,14例にbridging fibrosisを,2例に肝硬変を認めた.同様にEvansらは56生検を検討し生下時のobstructive pulmonary blood flowや右室体心室でfibrosis scoreが高いと報告し6),Surreyらは74例の生検全例に類洞の線維化,93%に門脈域の線維化,5.4%に肝硬変を認めたと報告している7).これらの報告はショック肝とは明らかに異なる組織像を示している.

Fontan術後におけるショック肝の病理所見はGhaferiらが示している8).彼らは9例のFontan剖検例でchronic passive congestion(CPC)とcentrilobar necrosis(CLN)の2種類を示した.CPCは中心静脈周囲の実質萎縮,Disse腔や類洞の拡大所見で,CLNは中心静脈から門脈三角に向かって壊死が進むいわゆるショック肝である.9例中CPCは7例に認め,CLNを5例に認めた.ただしCLNの5例中3例は術後2週間以内の死亡であり,残る2例も肺塞栓と肝腫瘍破裂に伴う死亡である.いずれもショック状態後の変化と推察でき,Fontan循環特有の変化と読み取ることはできない.

田原らの報告例1)は急性消化管出血と肺うっ血が肝機能障害に先行している.肺うっ血改善後の25病日頃にビリルビンが急上昇しており,肝細胞壊死はこの頃に生じたと推察される.病理所見は,線維化が軽度で炎症所見に乏しいわりに,中心静脈と類洞拡大,肝細胞の萎縮と壊死を認めた.明らかな低血圧やショックは認めないが先行した急性消化管出血と肺うっ血を誘因としたショック肝と考えられる.原因は肝細胞虚血と考えられるが,炎症所見は乏しくhypoxic hepatitisより田原らのショック肝との表現は妥当と言える.

一方,本例のショック肝をFontan関連性肝障害とするかは議論が残る.Ghaferiの報告に当てはめると本例はCPC軽度,CLNを認めた群に相当する8).またショック肝の定義には一過性肝機能障害とあり,死亡原因の多くは原疾患である2).救急集中治療の現場ではショックや心肺蘇生の後に肝逸脱酵素が一過性に上昇し,基礎疾患の種類や転帰にかかわらず経過とともに回復する過程をしばしば経験する.しかし本例の肝機能障害は改善どころか痙攣,意識障害を惹起し直接死因とも言える経過を示している.ショック肝から肝機能が回復しなかった理由としては,Fontan循環による肝うっ血により肝臓の還流圧が低く肝臓細胞虚血が遷延したと考えられる2).こうした意味で田原らが述べる如くFontan循環に合併した一過性ではないショック肝は広義のFontan関連性肝障害として捉えてよいと考えられる.また田原らの考察にあるように門脈肺短絡が肝血流をさらに減らした可能性はあるが,影響の程度や臨床的対応は今後の課題であり,組織所見と短絡血流量に一定の傾向を示しうる症例の蓄積が必要であろう.

最後に,不幸な転帰をとった患児には哀悼の意を示すほかないが,ご遺族の同意を得て組織を採取し誌上報告した著者らの努力にも敬意を表したい.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.田原昌博,ほか:Fontan循環に併発したショック肝.日小児循環器会誌2017; 33: 180–186

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