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特定非営利活動法人日本小児循環器学会
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 33(2): 180-186 (2017)
doi:10.9794/jspccs.33.180

症例報告

Fontan循環に併発したショック肝

1あかね会土谷総合病院小児科

2あかね会土谷総合病院心臓血管外科

3済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科

受付日:2016年10月21日
受理日:2016年12月19日
発行日:2017年3月1日
HTMLPDFEPUB3

Fontan関連肝疾患(FALD)の病態は不明な点が多く,高い中心静脈圧に起因するうっ血肝等により肝組織障害が発現すると考えられている.症例は13歳男児.Ebstein奇形,心室中隔欠損のため2歳時にFontan手術施行.4歳時蛋白漏出性胃腸症(PLE)発症.8歳時門脈体循環シャント(PSS)指摘.11歳時PLE再発.13歳8ヶ月時PLE再々発.経過中直接ビリルビン上昇が徐々に増悪し,13歳10ヶ月で永眠.肝組織で毛細胆管内の胆汁うっ滞,中心静脈・類洞拡大,肝細胞融解性壊死等を認め,循環不全に伴うショック肝と判断した.肝線維化は軽度であり類洞などへの血栓形成は認めなかった.PSSに伴う門脈血流減少に加え,心不全進行による中心静脈圧上昇があり,繰り返し肝細胞への虚血を生じた結果ショック肝に至ったと推察した.本症例もFALDの一病態と考えられる.今後の症例の積み重ねが大切である.

Key words: cholestasis; shock liver; Fontan associated liver disease; hypoxic hepatopathy; hyperbilirubinemia

緒言

Fontan術は,その非生理的循環に関連して術後遠隔期に様々な合併症を来すことが課題となっており,近年,肝線維症,肝硬変,肝細胞癌などの肝合併症に関する報告が増加している.これらのFontan関連肝合併症(Fontan associated liver disease: FALD)に関しては,頻度,機序,病態等に関してまだ不明な点が多い1)

我々はFontan術後10年で著明な黄疸で発症し,剖検所見でショック肝と診断した一例を経験した.Fontan術後にショック肝を合併した報告は少なく,その病態に関して文献的考察を加え報告する.

症例

症例

13歳男児.

家族歴

特記事項なし.

既往歴

セフェム系・ペニシリン系抗生剤で薬剤性肝障害の既往あり.

現病歴(心カテーテル検査データをTable 1に示す)

胎児期にEbstein奇形と診断.在胎40週0日,3,624 gで出生.Ebstein奇形,心室中隔欠損(筋性部,多孔性)(ventricular septal defect: VSD),心房中隔欠損,動脈管開存(patent ductus arteriosus: PDA)と診断.新生児マス・スクリーニングは正常で,高ガラクトース血症は指摘されなかった.日齢22にPDA閉鎖術,生後1ヶ月時に三尖弁閉鎖術+肺動脈絞扼術,生後5ヶ月時に右体肺動脈短絡術,1歳6ヶ月時にグレン術+右肺動脈形成術を施行した.2歳5ヶ月時の心カテーテル検査で平均上大静脈圧が17.0 mmHgであったため,2歳7ヶ月時に開胸肺生検を行い,Heath–Edwards分類1度,IPVD(index of pulmonary vascular disease)1.0であることを確認し,2歳11ヶ月時にFontan術(Total cavopulmonary connection: TCPC)(extra cardiac conduit)+右室切除術+VSD閉鎖術を施行した.3歳10ヶ月時の平均中心静脈圧(mean central venous pressure: mCVP)は14.0 mmHgで,肺血管抵抗(pulmonary vascular resistance: PVR)0.97 Wu·m2,体心室駆出率(left ventricle–ejection fraction: LV–EF)55.6%,心係数(cardiac index: CI)4.12 L/min/m2であった.4歳8ヶ月時に蛋白漏出性胃腸症(protein-losing gastroenteropathy: PLE)を発症し,ステロイド,spironolactone大量療法などで加療を行い,寛解した2)

.4歳9ヶ月時のmCVPは9.0 mmHgであった.8歳時に腹部エコーで門脈体循環シャント(portosystemic shunt: PSS)を指摘されたが無症候性であり,経過観察となった(Fig. 1).11歳0ヶ月時の心カテーテル検査ではmCVP10.5 mmHgであり,肝静脈から肺静脈への小さな体静脈肺静脈側副血行路(VV shunt)も認めた.11歳5ヶ月時にPLEを再発し,ステロイド,spironolactone大量療法などを行い,軽快するも,ステロイド漸減困難であったため,tadalafil, ambrisentanなどの併用を開始したが,ステロイド中止には至らなかった.11歳10ヶ月時に脳動静脈奇形に伴う脳出血を発症し,開頭手術を行った.11歳8ヶ月時の心カテーテル検査でmCVP9.0 mmHg, PVR0.26 Wu·m2,LV–EF 59.0%,CI 4.32 L/min/m2であり,人工血管肺動脈吻合部に限局性狭窄,僧帽弁逆流を認め,静脈還流改善目的で12歳1ヶ月時に心外導管修復術,僧帽弁置換術を施行したが,その後もステロイドは中止できなかった.12歳7ヶ月時のmCVPは8.5 mmHgで,PVR 0.15 Wu·m2,LV–EF 64.0%,CI 4.45 L/min/m2であった.13歳8ヶ月時にPLE再々発となり,入院加療となった.

Table 1 Hemodynamic assessment of the patient
Age4 m9 m1 y2 m2 y5 m3 y10 m4 y9 m11 y0 m11 y8 m12 y7 m
post PABpost shuntpre BCPSpre TCPCpost TCPCPLE (1st)pre MVRpost MVR
mSVCP (mmHg)3.05.06.017.015.011.012.011.010.0
mIVCP (mmHg)2.05.06.07.014.010.012.011.010.0
mCVP (mmHg)13.044.032.017.014.09.010.59.08.5
mPCWP (mmHg)6.010.09.010.010.08.07.510.07.5
LVEDP (mmHg)4.07.09.011.09.08.013.09.011.0
AP(s/d/m) (mmHg)77/43/5776/41/5892/44/6796/60/78117/76/95105/64/81108/65/8888/55/7185/44/64
PVR (Wu·m2)0.862.414.628.100.971.430.810.260.15
LV–EF (%)59.056.071.063.055.650.876.059.064.0
CI (L/min/m2)8.124.656.668.894.123.504.104.324.45
mSVCP: mean superior vena cava pressure, mIVCP: mean inferior vena cava pressure, mCVP: mean central venous pressure, mPCWP: mean pulmonary capillary wedge pressure, LVEDP: left ventricular end-diastolic pressure, AP(s/d/m): aortic pressure (systolic/diastolic/mean), PVR: pulmonary vascular resistance, LV–EF: left ventricular–ejection fraction, CI: cardiac index, PAB: pulmonary artery banding, BCPS: bidirectional cavopulmonary shunt, TCPC: toral cavopulmonary connection, PLE: protein-losing gastroenteropathy, MVR: mitral valve replacement
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Fig. 1 Abdominal ultrasonography and contrast-enhanced CT image show portosystemic shunt

HV: hepatic vein, IVC: inferior vena cava, PPS: portosystemic shunt, PV: portal vein

入院時現症

身長140 cm,体重31.4 kg,心拍数95拍,呼吸数20回/分,血圧82/40 mmHg,体温37.0度,経皮的酸素飽和度は酸素カニューラ2.0 L/min投与下で92%であった.理学的所見では,胸骨左縁第4肋間に左心室流出路狭窄に由来すると考えられるLevine1/6の収縮期雑音,胸骨左縁第4肋間に大動脈弁閉鎖不全に由来すると考えられるLevine2/6の拡張期雑音を聴取し,呼吸音は清,腹部は平坦,軟で,右季肋下に肝臓を2.0 cm触知した.全身浮腫は著明で,NYHA(New York Heart Association classification)はIII度であった.

入院時検査所見

胸部X線で心胸郭比62%であり,肺うっ血を軽度に認めた.胸水は認めなかった.心エコーでは左室駆出率72.0%であり,左室流出路血流はパルスドプラーで2.38 m/sであり,大動脈弁閉鎖不全をmildに認め,心嚢水貯留は認めなかった.血液・生化学検査(Table 2

)では,著明な低蛋白血症を認め,軽度の肝機能障害と軽度の直接ビリルビン上昇を認めた.血小板減少などは認めなかった.入院時内服薬剤:Fontan循環,PLEに対しprednisolone0.2 mg/kg日,tolvaptan0.2 mg/kg/日,enalapril0.2 mg/kg/日,furosemide1.3 mg/kg/日,spironolactone5.0 mg/kg/日,tadalafil1.0 mg/kg/日,ambrisentan0.1 mg/kg/日,warfarin0.05 mg/kg/日,さらにてんかん予防にlevetiracetam25.0 mg/kg/日などを内服していた.

Table 2 Laboratory data
(admission)(44 days after admission)
WBC (/µL)3980HAV-IgM0.15 (−)
RBC (×104/µL)406HAV Ab3.89 (+)
Hb (g/dL)10.7HBsAg0.03 (−)
Ht (%)31.6HBsAb48.44 (+)
Plt (×104/µL)29.3HCV Ab0.05 (−)
HEV IgA(−)
TP (g/dL)3.7CMV-IgM6.16 (+)
Alb (g/dL)2.1CMV-IgG19.7 (+)
AST (IU/L)89C7-HRP(−)
ALT (IU/L)91
LDH (IU/L)454EB-EA-IgG10
T-bil (mg/dL)2.5EB-IgM10
D-bil (mg/dL)1.7EB-IgG160
γGTP (IU/L)95EBNA160
ChE (IU/L)59
BUN (mg/dL)15ANA<40
Cre (mg/dL)0.50ALKM1A<5.0
BNP (pg/mL)46.5Cu (µg/dL)108
AFP (ng/mL)2.0
PT (%)17.6PIVKA2 (mAU/mL)23
PT-INR3.93IgG (mg/dL)776
IgA (mg/dL)140
IgM (mg/dL)104

入院後経過(Fig. 2)

入院後に急性胃粘膜病変に伴う下血,貧血を発症し,止血困難であったため,thrombin投与,頻回輸血を行い下血は改善傾向となった.しかし,頻回輸血による容量負荷に起因する肺うっ血に伴う呼吸障害を認めるようになり,水分制限,利尿剤増量などで加療を行った.この頃から直接型優位の高ビリルビン血症を認めるようになった.腹部エコー,腹部造影CT,血液検査などを行い,胆汁酸は上昇していたが閉塞性黄疸は否定的であり,アンモニア上昇も軽度であった.ウイルス学的検索ではサイトメガロウイルス抗体が陽性となっていたが,C7-HRP陰性であり,肝不全への影響は否定的であった(Table 2

).薬剤性肝障害の既往があり,tolvaptan, omeprazole, famotidineなど中止可能な薬剤は中止としたが高ビリルビン血症は改善しなかった.入院時の血圧は低めであったが,PLE軽快とともに回復し,その後の経過中に明らかな血圧低下は認めなかった.ビリルビン上昇が続き,総ビリルビン39.0 mg/dL,直接ビリルビン34.9 mg/dLとなったため,血漿交換を施行した.ビリルビンは著明に低下したが,その後再上昇し,次第に見当識障害を伴うようになったため,血漿交換+血液濾過透析を繰り返し行った.その後も意識障害などの改善に至らず,Fontan術後であり心肝同時移植も考慮したが国内での実施は困難であった.意識障害続き,痙攣も伴うようになり,13歳10ヶ月時に永眠した.

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Fig. 2 Clinical course of the patient

AGML, acute gastric mucosal lesion; Alb, albumin; collagen IV, type IV collagen; CHDF, continuous hemofiltration dialysis; HA, hyaluronic acid; P3P, type III procollagen-N-peptide; PE, plasma exchange; PSL, prednisolone; TBA, total bile acid.

同意を得て採取した肝組織で,毛細胆管・Disse腔内の胆汁うっ滞,中心静脈・類洞の拡大,肝細胞の融解性壊死,肝細胞萎縮などを認め,循環不全に伴うショック肝と診断した.肝線維化は軽度であり,類洞などへの血栓形成は認めず,炎症所見も乏しく,核内封入体や細胞質封入体は認めず,小葉間胆管の減少も認めなかった(Fig. 3

).

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Fig. 3 Hematoxylin–Eosin staining of liver (low magnification)

Pathological findings show necrosis of centrilobular hepatocyte (a) and sinusoidal dilatation (b). Bottom left: magnification of a hepatocyte. Bile pigment granules (arrow).

考察

肝循環系には全心拍出量の約25%が流入しており,その血流量の約3/4は門脈から,残りの約1/4は肝動脈から得ている3)

.門脈血流は主に腸管膜静脈に支えられており,食事,運動,睡眠などにより変動しやすい.一方で門脈血流は門脈圧と肝静脈圧の勾配に依存しており,門脈血流と肝動脈血流の間には肝動脈緩衝反応と呼ばれる相互緩衝機能が存在している.すなわち,肝組織に恒常的に酸素供給を維持するために,門脈血流量が減少した場合は肝動脈を拡張させ,門脈血流量が増加した場合は肝動脈を収縮することで肝血流量を調節している1, 3)

Fontan術後は慢性的にCVPが高いことが多く,下大静脈,肝静脈のうっ血に起因して肝類洞の線維化が生じ,次第に小葉内門脈域の線維化と門脈血流減少に関与してくると考えられている1, 3, 4)

.また門脈血流減少に伴う肝動脈緩衝反応により肝動脈血流が相対的に増加するが,これが上記病態に加わることでFocal nodular hyperplasia(FNH)などの発生にも関与してくると考えられている5, 6).さらにFontan術後に心拍出量が低下している場合は肝血流量が低下するとともに類洞などへ血栓を形成することがあり,これも肝循環系に悪影響を与える場合がある7).うっ血肝のみならず低心拍出がFALD進展に関与しているとする報告もある8).このようにFALDは,門脈血流と肝動脈血流の分布の変化,うっ血肝や血栓による肝循環不全,心拍出量低下などによる肝組織への酸素供給量の低下など,複合的な要因により肝類洞の線維化がみられ,さらに門脈域の線維化が加わることで肝硬変に進展すると考えられている1)

患児はFontan術後にPLEを発症し,その後の経過中にPSSを指摘された.PLEの発症機序・原因には,Fontan循環でみられる低心拍出やCVP上昇からの腸管循環障害などの関連が示唆されているが,発症機序には不明な点が多い9, 10)

.一方,PSSは門脈が体循環に直接流入する病態で,シャント血流量により無症候例から,高アンモニア血症,肝腫瘍,肝肺症候群,肺高血圧,脳症などを合併する例までその症状は多岐にわたる11, 12).先天性と肝疾患などに伴う後天性のものとがあり,先天性PSSの発生頻度は出生30,000に1人とされ11, 12),新生児マス・スクリーニング検査で精査対象となる高ガラクトース血症の内21.8%を占める13).無症候性の場合は無治療で経過観察されるが,症候性の場合は内科的治療・外科的治療の適応となる.しかし,その適応に関しては一定のコンセンサスは得られていないため,軽症例の中には長期間経過観察され治療時期を逸している症例もあるとされている14).患児は新生児マス・スクリーニング検査正常であり,その後も高アンモニア血症などのPSSを疑う所見を認めず,8歳時に行ったスクリーニングの腹部エコーで初めてPSSを指摘された.Fontan循環に伴い門脈圧亢進から後天的にPSSを生じた可能性は考えられるが,中心静脈圧が高い場合には必ずしも合併しやすいとは言いがたく,患児のPSSが先天性か後天性のものかは不明であった.PSSには明確な治療基準がなく,試験閉塞後門脈圧が門脈圧亢進を来さない範囲内であっても術後合併症を生じる可能性があるとされている15).そのため,この時点では無症候性であり,PLE既往もあり,門脈圧や腸管循環への影響も考慮して,経過観察方針となった.

患児が呈した直接型優位のビリルビン上昇の原因についてはウイルス性,薬剤性,代謝性などを考えたが経過中には明確にすることはできなかった.PSSでは胆汁酸は上昇するがビリルビンが上昇することはないとされており,PSSは直接的な原因ではないと考えた.FALDは線維化が基本的な病態であり,ほかの原因による慢性肝障害と異なりトランスアミナーゼなどの一般的な肝機能検査では異常が見られないことが多く,肝硬変に進行していなければ臨床症状は乏しく,黄疸,腹水などは見られないとされている1)

.薬剤性肝障害の多くはアレルギー機序によるものと個体の特異体質に基づいて産生された肝毒性を有する代謝産物によるものが考えられており,薬剤投与歴と経過,トランスアミナーゼ・γGTP高値,肝組織所見などから診断される16).患児は薬剤性肝障害の既往もあり,その可能性を十分考えたが,中止可能な薬剤を中止しても改善しなかったことやトランスアミナーゼ・γGTPの著明な上昇を認めなかったことから否定的であった.結局,出血傾向のため肝生検を行うことができず,最終的に剖検所見で,肝線維化・胆管減少などを認めず,循環不全に伴うショック肝と診断した.

ショック肝は肝臓への血流減少により酸素需要と供給の不均衡が生じた結果惹起される虚血性肝障害であり,血中トランスアミナーゼの急激かつ一過性の上昇に加え,時としてプロトロンビン時間延長や意識障害を伴う臨床像を呈し,肝組織では中心静脈域を中心とした炎症所見に乏しい肝細胞壊死,出血,類洞の拡張が認められるとされている17, 18)

.うっ血性心不全では心拍出量低下に伴い肝動脈血流量も低下し肝細胞は慢性的な循環不全状態となっており,これに加え,腸管膜動脈の収縮に伴う門脈を介した肝血流の減少,肝静脈圧を介した類洞内圧の上昇,うっ血した腸管から門脈系へのエンドトキシン流入などにより,肝細胞障害が生じやすいとされている18).一方,慢性肝疾患に伴う肝線維化の進行は門脈圧亢進をきたし,この結果PSSが発達し肝実質を還流する有効な門脈血流が減少し,肝障害が生じやすいと言われている18).これらの病態はショック肝発症のハイリスク群とされており,時に明らかな血圧低下や低酸素血症を認識し得ずに発症する例もある18).患児は心カテーテル検査では想定よりも心拍出量は高い値を呈していた.おそらくPSSのシャント血流による高心拍出性心不全の状態であったと推察している.さらにFontan循環であり,慢性的な肝うっ血も呈していたと思われ,肝細胞への血流が不足しやすく,ショック肝のハイリスク群であった.JenkinsらはFontan術後に合併したショック肝に伴う急性肝不全を報告しており,6例中4例が死亡し,全例CVPが21 mmHg以上であり,肝うっ血の存在を推察している19).患児の12歳時のCVPはFontan循環としては良好な値であった.直近のCVPなどのデータがないため推測であるが,PSSの存在により門脈血流が減少しており,これに心不全の進行,肺うっ血などの病態が加わり,中心静脈圧上昇に伴う肝うっ血の悪化を生じ,肝細胞への虚血を生じやすい病態を呈していたと考えた.そのため,水分制限,利尿剤増量などの要因も重なって繰り返し循環不全を生じた結果,ショック肝に陥り急性肝不全の病態へ至ったものと推察した.一方,当初の直接ビリルビン優位な上昇はトランスアミナーゼ,γGTP,アンモニアの上昇を伴っておらず,小葉間胆管より近位部の細胆管でのうっ滞が考えられた.患児の肝組織所見では肝線維化は軽度であり,小葉間胆管の減少なども認めず,この部位での胆汁うっ滞を来した原因については不明であった.一般的に肝虚血は中心静脈域に生じやすいのに対し,先天性心疾患児などで肝うっ血が強い時に急性循環不全に陥ると肝動脈・門脈末梢での脈圧が低下し,肝静脈うっ滞が増悪し,肝小葉レベルでの圧勾配は小葉中間帯が最低となり,その結果小葉中間帯が最も低酸素症に陥ると推察されている20).患児はFontan循環に伴う比較的高いCVPと肝うっ血に加え,PSSを合併しており,これらの複合的要因が特異的な経過を生じたものと推察した.また,Fontan循環に合併したPSSはFontan循環の病態悪化要因となりうる可能性も考えられ,今後症例の蓄積とともに積極的な治療介入についても検討する必要があると考えた.

利益相反

本論文について,開示すべき利益相反(COI)はない.

付記

本論文の要旨は,第52回日本小児循環器学会総会・学術集会(2016年7月,東京)にて発表し,座長から投稿推薦を受けた.

引用文献

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