特集:日本小児循環器学会第 13 回教育セミナー
12誘導心電図でここまで読みたい不整脈
済生会横浜市東部病院こどもセンター
12誘導心電図で不整脈が記録されている場合には,まず不整脈の存在を確定する.2 : 1房室伝導が継続している心房粗動や心房頻拍では12誘導を細かく見ることでP波を見つけることが可能になる.またQRS幅の広い頻拍でもP波とQRSの関連をみることで心室内変行伝導なのか心室頻拍なのかを鑑別する.心室性不整脈であればQRS形態からその起源を推測しアブレーション治療の重要な情報となる.また心電図記録中に不整脈がなくても12誘導心電図から不整脈基質を知ることが可能である.不整脈基質に遺伝性不整脈があり,QT延長症候群・QT短縮症候群・Brugada症候群等は12誘導心電図から診断可能だが,カテコラミン誘発多型性心室頻拍の安静時心電図は正常であり病歴と運動負荷心電図が必須である.また器質的心疾患に伴った不整脈(心筋症他)では疾患に応じた心電図異常があり不整脈基質として重要である.
Key words: ventricular arrhythmia; supraventricular tachycardia with conduction delay; inherited arrhythmia; long QT syndrome; cardiomyopathy
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不整脈の診断は実際に不整脈が出現している時の心電図記録によって確定される.不整脈の発作時の心電図や常に不整脈がある場合,不整脈が頻繁に出現している場合は,心電図での証明はそれほど難渋しない.しかし不整脈発作頻度が少ないと発作時心電図を捉えることは容易でないことがしばしばある.また12誘導心電図では洞性脈時の心電図から不整脈基質を予測できる状況が少なからずある.ここでは12誘導心電図で不整脈が記録されている場合に何を読むのか,また不整脈が記録されてない場合の不整脈基質の診断について解説していく.
12誘導心電図からは,以下の3点について見極める.
明らかな不整脈や心室性不整脈であれば不整脈の確定は容易であるが,心房性不整脈では不整脈の存在がわかりにくい場合がある.その一例をFig. 1に示す.日齢1の男児で生後より150 bpmの脈拍であり,活気良好,血圧・呼吸数は正常範囲で,身体所見に特記すべきことはなかった.脈拍は啼泣時も睡眠時も150 bpmと常に一定であり変動がなかった.モニター心電図では不整脈の存在がわからなかったが,12誘導心電図ではV1とV2で心房波が300 bpmで2 : 1房室伝導となっていることが示された(Fig. 1a).他の誘導では心房波がQRSやT波に隠れてわかりにくいものであった.ATPを急速静注して房室伝導を抑制すると心房波が顕在化して300 bpmの心房粗動であることがわかった(Fig. 1b).このように心房粗動や心房頻拍で2 : 1房室伝導によって脈拍が安定している場合は,誘導によっては心房波が小さく同定しにくいことがある.このため12誘導心電図のすべての誘導の中で心房波の見える誘導を探して診断に至ることが可能となる.しかしP波が同定しにくい・確定できないことも少なからずあり,この場合は食道誘導心電図記録で心房波を同時記録することがP波の同定に有用である.
(a) ECG of a 1 day-old male with no structural heart disease. His heart rate was consistently 150 bpm during sleep or crying. P waves were prominent at V1 and V2, indicating an atrial flutter with 2 : 1 A–V conduction. (b) Same case as in Fig. 1(a) following ATP 0.5 mg/kg IV, showing the P-wave clearly because of A–V block.
QRS幅の広い頻拍症の多くは心室性不整脈であるが,残りは心室内変行伝導を伴う上室性不整脈である.心室内変行伝導には脚ブロックを伴う場合や副伝導路を順行伝導する場合などがある.これらは常に認められるとは限らず頻拍の時のみ出現したり(脈拍が速くなると伝導障害が明らかになる場合),逆に脈が速くなると消失する(顕性WPW症候群における順行性副伝導路の不応期より短いRR間隔の場合にδ波が消失してnarrow QRS波形になる)こともある.QRS幅の広い頻拍で上室性または心室性不整脈の鑑別に重要なのは心房波の同定である.12誘導心電図ではいずれかの誘導でP波を探しだす.PとQRS波の関係をみることによって不整脈が上室性か心室性かを見極める.QRS幅の広い頻脈でP波とQRS波がバラバラで同期していなければ(房室解離の状態であれば)心室頻拍といえる.WPW症候群でみとめる房室回帰頻拍(Atrio-ventricular reciprocating tachycardia:以下AVRT)は,多くがnarrow QRS tachycardiaで房室結節を通る正常刺激伝導系を下行して副伝導路を逆行するもので正方向性房室回帰頻拍(orthdromic AVRT)と呼んでいる(Fig. 2a).またこの逆向き(副伝導路を下行し房室結節を逆行)の場合を反方向性房室回帰頻拍(antidromic AVRT)と呼び(Fig. 2b),この場合QRSはデルタ波を呈するのでQRS幅は広い.両者ともにQRS波のすぐ後に逆行性P波がみられる.またWPW症候群に伴う心房細動では副伝導路を順行性に通るので不整なQRS幅の広い(δ波)頻脈を呈する(Fig. 3).この場合は心室細動・突然死のリスクがあるので注意が必要であるが,小児では成人と比べて心房細動の頻度は極めて少ない.
(a) orthodromic AVRT. (b) antidromic AVRT.
There is an irregular rhythm with a wide QRS (δ-wave), and small P waves (f wave) occur just prior to an R wave.
12誘導心電図中に期外収縮や頻拍が記録されていれば,その形態から不整脈の起源をある程度推測できる.心室性を例にして解説する.まず心室期外収縮や頻拍のQRS形態が同一なのか(単形性),2種類以上あるのか(多源性・多形性)をみる.QRS形態から起源を推定する.R波のベクトルの方向からその起源を推定するのであるが,例えば下向きベクトルであれば起源は上方,左向きベクトルであれば起源は右といった具合である.また心電図の単極誘導においてQSパターンを示す部位が起源に近いと想定し,aVRでQSパターンであれば右室起源,V6でQSパターンであれば左室心尖部起源といった具合である.心室頻拍の例を呈示する.
多くは右室流出路,一部は左室流出路からの起源であり,器質的疾患がない特発性心室頻拍のうち「流出路心室頻拍」と呼ばれる.QRS形態によって右室流出路の中隔側・自由壁側,左室流出路・大動脈冠尖・心外膜側等の予測をすることが可能でカテーテルアブレーション時の参考になる.小児や若年期の特発性心室頻拍の大部分を占め予後良好であるが,運動により誘発されることが多い.実例の心電図を呈示する.6歳女児で学校検診によって心室期外収縮を指摘された.無症状であった.心室期外収縮は単形性で左脚ブロック・下方軸パターンであった(Fig. 4a).運動負荷心電図ではBruce stage IIに2~3連発の期外収縮が出現(心室拍数150 bpm)したが洞性脈が160 bpm以上になると心室期外収縮は消失した(Fig. 4b).この間本人の自覚症状はなかった.流出路心室頻拍の約6割が数年の経過で自然消失することが知られており1),一方でカテーテルアブレーションの成績が良好なので治療適応は個別に検討する.抗不整脈薬ではβブロッカー・カルシウム拮抗薬などが有効であることが多い.
(a) A 12-lead ECG at rest. The PVC morphology exhibits LBBB and inferior axis pattern with a recognized outflow origin. (b) Treadmill exercise test of the same case, short runs of PVC have been seemed during exercise.
(ベラパミル感受性)左心室頻拍あるいは束枝心室頻拍とも呼ばれる.機序は左束枝の一部がリエントリー回路に含まれるマクロリエントリである.90%が左脚後枝で左軸偏位を呈し,10%は左脚前枝で右軸偏位を呈する.多くは持続性心室頻拍である.Fig. 5に9歳女児の実例を呈示するが,回路の中に伝導速度の速いプルキンエ線維が含まれるため心室頻拍時のQRS幅は比較的狭いのも特徴的である.カテーテルアブレーションでは拡張期の異常プルキンエ電位を指標にする.
QRS morphology exhibits RBBB and north-west pattern, and the QRS duration is not as wide.
心室期外収縮の起源の推定と同様の考え方でおおよその副伝導路の部位を推定する.12誘導心電図でみられるデルタ波の形態から副伝導路の部位の推定はカテーテルアブレーションの実績よりいくつかのアルゴリズムが紹介されている2–4)
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心電図記録中に必ずしも不整脈を記録できるわけではない.症状や状況から不整脈の存在が強く疑われても,不整脈発作の頻度が低いと不整脈の心電図記録が困難であることがしばしば経験される.しかしながら12誘導心電図から不整脈基質を抽出することが可能な疾患として遺伝性不整脈と器質性心疾患に合併する不整脈とがあげられる.
主なものにQT延長症候群,Brugada症候群,QT短縮症候群,カテコラミン誘発多形性心室頻拍(Catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia;以下CPVT)などがある5).いずれも不整脈発作は心室性不整脈で失神や突然死の原因になりうる.家族歴を有することが多い.CPVT以外の3疾患では不整脈発作時でなくとも安静時の12誘導心電図で診断可能である.
現在では15種類以上の遺伝子異常が判明しているが,LQT1・LQT2・LQT3で90%以上を占める.12誘導心電図でQT延長や時に特徴的な形態のT波がみられる.QT延長症候群の診断は心電図所見・病歴・家族歴等を参考にする6).QT間隔の補正方法は一般的にBazett補正{(QT間隔)/(RR間隔)1/2}が多く用いられているが,心拍数が高い場合は過剰に補正される.そのため心拍数の高い小児ではFridericia補正{(QT間隔)/(RR間隔)1/3}の併用または採用が望ましい7)
.LQTSの心電図を呈示する.ここではLQTS症例に限ってQT間隔を読みやすくするために心電図の記録条件を20 mm/mV, 50 mm/secとし,QT間隔の補正はFridericia法でQTc(F)と表示した.Fig. 6はLQT1で運動時失神を呈する症例であるがQTc時間は474 msでT波はnormal appearance pattern,運動負荷によってQTc時間は通常では短縮するところが,この症例では逆に延長した.Fig. 7はLQT2で安静時に大きな音をきっかけに心室細動を呈する症例の12誘導心電図で,QTc時間は550 msと延長しT波は2峰性を呈していた.Fig. 8は乳児期に2 : 1房室ブロックを呈したLQT2の症例で24時間心電図にて睡眠中にTorsade de Pointes(TdP)が記録された.安静時の12誘導心電図ではQTc時間600 ms, T波はlate onset Tの形態でQT延長による2 : 1房室ブロックを呈していた.TdPの誘因として期外収縮によってRR間隔が「long-short」になり,先行するRR間隔が延長した次の心室不応期が延長して,R on Tになりやすいことがあげられる.
She experienced syncope following exercise. QTc during and soon after the exercise test became longer.
She experienced occasional syncope after she heard laud sounds. There is QT prolongation (QT=500 nsec, QTc=570 msec) and bifid T waves.
There are 2 : 1 A–V blockages due to prolonged QT (functional A–V block), soon after PVC which exhibits R on T, and Torsade de Pointes appeared.
QT時間の著明な短縮と心室細動,または失神などの症状を合併した場合に診断する.QTc時間で300 msec以下の場合にQT短縮と定義する.
12誘導心電図で右脚ブロックと右側胸部誘導(V1-3誘導)の恒常的なST上昇を認める.成人(若年~中年)男性に多く特発性心室細動を呈する疾患群である.1992年のBrugadaの報告8例中3例が小児であったが8),実際に小児例は稀と考えられている.
運動・ストレスによって心室頻拍・失神・突然死が誘発される予後不良な疾患である.原因遺伝子としてリアノジン受容体(RyR2),Calsequestrin(CACSQ2)などがある.この疾患では安静時12誘導心電図では異常を認めないので,学校検診では失神歴・突然死の家族歴などの問診に注意する9).運動負荷心電図で運動中と直後に多形性心室頻拍が出現する.実際には失神・運動時の動悸や眼前暗黒感等の症状を主訴に医療機関を受診することが多い.
小児では先天性心疾患や心臓手術後,心筋症(肥大型心筋症,拡張型心筋症,拘束型心筋症,左室緻密化障害,不整脈原性右室心筋症)で不整脈の合併がみられる.成人では心筋虚血・サルコイドーシスなどの頻度が多い.心筋症の中でもとくに肥大型心筋症は若年者の運動中の失神や突然死の原因として注意すべき疾患である.初期は無症状で心電図変化が先行することが多い.心エコーで心室壁肥厚などの変化があっても,初期の軽度心室拡張障害では自覚症状に乏しい.12誘導心電図では左室肥大,異常Q波,ST-T変化などを呈するが,その組み合わせは様々である.Fig. 9は深いQ波を呈した肥大型心筋症の例で,Fig. 10はST-T変化が主体の肥大型心筋症の例である.運動時の失神・突然死の機序としては,心室性不整脈(特に心室細動)が原因と言われている.また不整脈原性右室心筋症は,小児例は少ないが若年者にみられる心室性不整脈とそれに伴う症状が主体の心筋症である.Fig. 11は15歳時に学校検診で心電図異常を指摘され,経過中に持続性心室頻拍を頻回に呈した症例である.安静時の洞性脈時にはV1でε波を認め,その後持続性心室頻拍が始まっている.MRIでは右室心筋の脂肪変性を広範に認めた(Fig. 12).
There are deep Q waves at III, aVF, and an ST depression at aVL·V4·V5 and biphasic T waves at aVL·V1–4.
There are ε-waves with the first three sinus rhythms at the V1–2 lead, and from the fourth strip, sustained ventricular tachycardia is initiated.
12誘導心電図から私たちは多くの貴重な情報を得ることができる.それは不整脈の存在,起源,さらには予後も予測することも可能となることがある.また不整脈が記録されていなくても,12誘導心電図の中に不整脈基質を見出すことができる場合もある.診療の中で12誘導心電図をじっくり見ることの重要性を認識してもらえれば幸いである.
本論文について,開示すべき利益相反(COI)はない.
1) Iwamoto M, Niimura I, Shibata T, et al: Long-term course and clinical characteristics of ventricular tachycardia detected by children by school-based heart disease screening. Circ J 2005; 69: 273–276
2) Arruda MS, McClelland JH, Wsng X, et al: Development and validation of an ECG algorithm for identifying accessory pathway ablation site in Wolf-Parkinson-White syndrome. J Cardiovasc Electrophysiol 1998; 9: 2–12
3) d’Avila A, Brugada J, Skeberis V, et al: A fast and reliable algorithm to localize accessory pathways based on the polarity of the QRS complex on the surface ECG during sinus rhythm. Pacing Clin Electrophysiol 1995; 9: 1615–1627
4) Chiang CE, Chen SA, Teo WS, et al: An accurate stepwise electrocardiographic algorithm for localization of accessory pathways in patients with Wolff-Parkinson-White syndrome from a comprehensive analysis of delta waves and R/S ratio during sinus rhythm. Am J Cardiol 1995; 76: 40–46
5) Schwartz PJ, Crottu L: QTc behavior during exercise and genetic testing for the long Q-T syndrome. Circulation 2011; 124: 2181–2184
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7) 日本小児循環器学会学校心臓検診委員会(吉永正夫委員長):QT延長,器質的心疾患を認めない不整脈の学校生活管理指導ガイドライン(2013年改訂版).日小児循環器会誌2013; 29: 277–290
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9) Pflaumer A, Davis AM: Guidelines for the diagnosis and management of catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia. Heart Lung Circ 2012; 21: 96–100
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