歴史
CLSとは,医療環境下にいる子どもや家族に心理社会的支援を提供する専門職である.病院における体験に対する精神的負担を軽減し,Child(子ども)のLife(生きる力)を引き出す支援を行うことにより,子どもたちがより主体的に医療に臨めるように,医療チームの一員として活動している.
CLSの活動は,1920年代のアメリカで病院の医療環境が子どもたちに与える影響を危惧し,病院での子どもへの遊びのプログラムとして始まった.その後,処置前の説明や心の準備のサポート(プリパレーション)を行うチャイルド・ライフ・プログラムとして発展し,現在に至るものである1).アメリカ小児科学会は,1980年代から医療現場でのチャイルド・ライフ・プログラムの必要性を認め,最新版のpolicy statementでも,CLSの活動は小児医療や,それに関わる子どもたちとその家族の医療体験の質,および結果を向上させるものであると明確に提言し,15人の入院患者につき最低1人の常勤のCLSの配置と,週7日の活動が望ましいとしている2).
資格概要
CLSはアメリカにあるAssociation of Child Life Professionals(以下,ACLP)が定める国際資格である.資格を得るためには,大学または大学院のクラスにおいて,患児と家族のアセスメント方法や,医療現場での介入方法,緩和ケアやグリーフ・サポートについてなど,ACLPが定めた専門的なクラスを10クラス以上履修する必要があり,それらのクラスを履修するには,児童発達学,心理学,幼児教育学などの知識があることが求められている.クラス履修後は病院でのインターンを行い,最終的に認定試験に合格することで認定チャイルド・ライフ・スペシャリスト(Certified Child Life Specialist)と名乗ることができるのである.CLSの資格は日本での取得が未だできないため,アメリカかカナダへの留学が必須であるが,CLSの活動は,資格取得が可能である北米だけではなく,日本,オーストラリア,ニュージーランド,南アフリカ,シンガポール,クウェート,アルゼンチンなど世界各国に広がっており,約600のプログラムが展開されている.日本においても,2016年12月現在,29施設で40名のCLSが活動している1).
役割・業務内容
CLSの主な役割と業務内容は,①子どもの発達段階を考慮した治癒的遊びと環境の提供,②子どもの発達段階に合った治療や検査の説明と心の準備のサポート(プリパレーション),③検査・処置中の心理的サポートの提供,④退院・復学支援,⑤きょうだい,家族へのサポート,⑥グリーフ・サポートなどがあり,CLSは,活動している施設や子どもと家族のニーズに合わせたプログラムを展開している1).
次項からは,心臓移植医療におけるCLSの役割について,筆者の実際の活動やアメリカのCLSの活動例を踏まえて具体的に紹介していく.
治癒的遊びと環境の提供
遊びはすべての子どもにとっての“日常”であり,子どもたちは遊びを通してさまざまなことを学んでいる.心臓移植医療の中で子どもたちは,移植待機中はもちろん移植後も,服薬,受診,検査入院など,医療環境とは切っても切れない生活を送っており,医療経験に対してさまざまな思いや感情を抱いているといえる.CLSは医療環境下においても子どもの“日常”を保つため,そして,子どもが抱くさまざまな感情や思いを安全かつ適切な方法で表出させるために,遊びを用いた介入を行っている.CLSは,子どもの発達年齢やその時のニーズをアセスメントしたうえでさまざまな遊びを提供しているが,特に,遊びを通してその子が置かれている医療環境に適応したり,自信や自尊心を取り戻したりというような,子どもが自分自身の心を癒やすことを目的とした遊びのことを“治癒的遊び”(therapeutic play)という.
この遊びは,心理療法としての遊びや遊戯療法としての遊びではなく,ベッドサイドや病棟のプレイルームなどで,医療環境下にいる子どもの生活の一部として行うものである.工作,人形やぬいぐるみなどを使ったごっこ遊び,カードゲームやボードゲーム,コラージュなど遊びの種類は多岐にわたり,CLSが子どもの発達年齢や興味,関心,その時の病状やニーズなどを考慮しながら,遊びに必要なものを用意して遊びのきっかけを子どもたちへ提供するが,あくまでもその遊びを主導していくのは子どもたちである.それらの遊びの中でCLSは,子どもの様子を観察し,子どもが抱いているさまざまな感情や思いを,その子が安心する方法で安全に表出し,消化,受容できるよう寄り添っている.
さらに,CLSの特徴的な治癒的遊びの介入方法として“メディカル・プレイ”(medical play)がある(Fig. 1).これは,人形やお医者さんごっこの道具などのおもちゃだけではなく,実際の医療器具などを使った医療をテーマにした遊びである.この遊びを通して子どもたちは,遊びという身近かつ安全な方法で医療環境や医療機器に触れ,それらに対する思いや理解度を表現する.また,メディカル・プレイの中で子どもたちが医療体験に対する誤解を表現する場合もあるため,CLSが,子どもたちの状態をアセスメントしながら適切な情報を与え,誤解が解消されるような関わりを行っている.このようなやりとりを通して,CLSは子どもたちの病気やその治療に対する理解を促し,医療環境下での体験を自分自身で乗り越える力を引き出す支援を行っている.他にも,絆創膏やガーゼ,シリンジなどを使って絵を描いたり,工作をしたりする“メディカル・アート”(medical art)もメディカル・プレイの一つである(Fig. 2).このような遊びが,子どもたちにとって,家族や友人に対する気持ちや,自分自身への思いを表現するきっかけとなることもある.
心臓移植が必要な子どもたちの待機期間中の状態や病気の経過,それに伴う医療経験はそれぞれ異なったものである.また,治療と待機のために家庭環境の急激な変化を経験する場合もあり,子どもとその家族は,多様な医療的・社会的バックグラウンドと共に待機期間を過ごし,移植後も生活している.さらに子どもたちは,移植後も毎日の服薬や生活の制限,定期的な通院と入院が必要であるため,移植待機中から移植後も継続的にCLSが介入を行い,子ども一人ひとりの状態,ストレスの度合いやニーズを常にアセスメントしながら,必要に応じた遊びの機会を提供することで,子どもの日常を保ち,心身の発達や感情表出を促すようなサポートを行うこと重要であるといえる.
治療や検査の説明と心理的準備のサポート(プリパレーション)
プリパレーション(preparation)は“心理的準備”と日本語訳される心理社会的支援の概念である.その内容は主に,①発達年齢を考慮した方法による情報提供,②感情表出の促進,③医療者との信頼関係の構築という3つの要素を含んでおり3),CLSは,検査や処置,手術などの前に,医師や看護師,付き添っている家族と連携しながら,子どもの年齢や発達段階,過去の医療経験を考慮し,その子に合った説明を行うことで心の準備を促す支援を行っている.プリパレーションの際には,写真,絵本,実際の医療器具,人形など(Fig. 3),子どもが親しみやすいものと,処置中に実際に目にする医療器具を織り交ぜながら行うため,前述したメディカル・プレイの要素を含むものになるが,プリパレーションは限られた時間の中で行うことが多いため,子どもが主導で行うのではなく,CLSが,子どもの不安の程度などをアセスメントしながら進めていくものとなる.CLSが主導となり,与えた情報に対する子どもの思いを受け止め,疑問や質問に答え,どのように乗り越えるかを子どもと一緒に考えながら,少しでもその子が主体的に医療体験に臨めるようにサポートを行っている.
プリパレーションによる子どもへの介入は,ある程度言葉による感情表出やコミュニケーションが可能で,お医者さんごっこなどの模倣遊びができるようになる3歳ぐらいから開始している.プリパレーションの際に伝える内容は,主に処置や検査の順番,それらを受ける部屋の様子,目にするもの,音,におい,冷たさや温かさといった,五感に関わる事柄,さらに検査のおおよその時間,検査中の子どもの役割を伝えている.また,鎮静や麻酔を使う検査や処置は,それらの導入までのことと,目が覚めてからの外見の変化などを伝えるようにしている.プリパレーションは,一つの検査や処置,入院体験で終止するものではなく,子どもの人生の経験の積み重ねの中にあるものである.そのため,医療環境や医療体験に対する不安や恐怖心の程度や理解度は,同じ年齢の子であっても一人ひとり異なる.心臓移植医療の中には,エコーや心筋生検,心臓カテーテル検査など,子どもたちが,移植待機中そして移植後も定期的に受けなければならない検査がいくつかあるが,「何度も繰り返して受けているし,前回は問題なくできたから今回も大丈夫だろう」や「これは痛くない検査だから平気だろう」と大人の予測で安易に動くことは避けるべきであり,毎回子どもの様子や状態のアセスメントを行うことが大切であると考える.
そして,プリパレーションを行う際の,言葉選びにも注意を払う必要がある.ごまかしの言葉や嘘を伝えることは,後に医療者や親への不信感に変わる可能性があるため避けるべきであり,処置や検査に対する恐怖心を最小限にとどめ,誤解を生まないように子どもの理解を促すには,発達年齢に合った言葉を選び的確に伝えることが大切である.例えば,CLSは,採血や点滴の流れを子どもたちに説明する際に「刺す」という言葉を使わずに,「入れる」という言葉を使うようにしている.「刺す」という言葉は,その言葉だけで痛みを想像するものであるが,子どもがその処置中に感じる痛みの種類とその程度はそれぞれ異なるため,あくまでも「入れる」という流れを伝え,「入れる」時に「チクッとするよ」や「つねられた感じがするよ」と,感覚的な事柄を伝えるようにしている.さらには,学童期,思春期の子どもたちの中で,同じ検査や処置を繰り返し受けている子たちに対しては,前回の体験の様子やその時の気持ちを子どもから聞き,その内容から,その子の不安の程度やストレス・ポイントを見極め,その対処方法(coping)を一緒に考えるような関わりを行っている.
プリパレーションによる介入のタイミングは,年齢によって異なっている.幼児期の子どもたちへは,予定されている検査や処置の直前に行うことが望ましいといわれている一方で,学童期や思春期の子どもたちへは,少なくとも1週間前までには伝えることが望ましいといわれている4, 5).しかし,子どもの病状,心理的状態,処置や検査の緊急度や頻度,今までの医療体験の時の様子などを考慮し,プリパレーションのタイミングや伝え方を決定する必要がある.さらに,子どもたちにとっては,退院して外来通院へ移行することも入院とは異なった環境での医療体験となりうる.そのため,プリパレーションは,外来通院で移植待機をしている子どもや移植後の子どもに対しても継続的に行うべきであると考える(Fig. 4).
検査・処置中の心理的サポートの提供
CLSにとって“痛いことをしない存在”として処置や検査の時に介入を行うことも重要な役割の一つである.処置や検査中に子どもが少しでも安心できるように,また,処置や検査の苦痛や恐怖への注意や関心を別の事柄に向かわせるために,子どもの年齢や興味・関心に適したおもちゃを使用したり,呼吸を整え,気持ちを落ちつかせるためのリラクゼーションの技法を用いたディストラクション(distraction)を行っている.
ディストラクションの際によく使うツールは,処置場面から視界を遮るように使うことのできる絵本,処置場面から視線をそらし,意識をツールに集中させることができる,さまざまなおもちゃ,処置中に握っていることができる,変形したり固さや触感が異なるボールなど(Fig. 5)が挙げられる.深呼吸やリラックスを促す関わりを行う際には,音楽を流したり,風車や紙風船,アメリカではシャボン玉をよく使用した.このようなツールの中から,子どもたち一人ひとりに適切なものを選ぶことはもちろんであるが,さらに,子どもが受ける処置や検査の種類,部屋の大きさやベッド周りのスペースの有無,処置に関わる医療者の人数,家族の処置時の付き添いの有無,CLSが可能なポジショニングなどを把握し,検査や処置の妨げにならない方法を選択しなければならない.また,処置の間においても,穿刺などの痛みを伴う場面ではCLSの手やボールを握るという対処方法をとり,その他の時には,処置の様子が見えないように絵本を読んで過ごすというように,いくつかの手法を使い分けることで,子どもの意識をうまく転換させることができるように柔軟に取り組んでいる.このようなディストラクションや対処方法を,プリパレーションの際に子どもと決めてから医療体験に臨むことで,子どもにとってその体験をより主体的なものにすることができ,そのことが,終了後の達成感や乗り越えられたという自信にもつながる.また,処置後の振り返りを子どもと共に行うことで,その時の医療体験と対処方法を,次回以降同じ医療体験をした際に生かすためにはどうしたらよいかを考えることができるのである4).
退院・復学支援
長期間入院を経験した子どもにとって,退院や復学は待ちに待った嬉しい出来事である一方で,心臓移植医療の中では,長期入院で学業に遅れが出てしまうという問題の他に,治療や待機のために退院後も病院近郊で暮らさなければならず,引っ越しや転校をして,不安を抱えながら新しい環境での生活をスタートする子どもやその家族がいることも事実である.入院前の同じ学校へ復学する場合であっても,子どもたちは,定期的な外来受診や検査入院が必要なため,クラスメイトとは異なるスケジュールで行動しなければならない場合もあり,家族という集団から学校という社会へ出て,同世代との人間関係を築いていこうとする学童期の子どもたちや,家族よりも友人との関わりを求め,それを重視する中で,個々のアイデンティティーを確立していく思春期の年代の子どもたちにとって,それらの“違い”が大きなストレスとなる場合もある.
また,VADを装着して待機期間を過ごすという経験や,移植後も長期入院による体力や筋力の低下,薬の副作用による容姿の変化を子どもなりに実感していたり,処置や手術の傷跡を目にすることは,学童期,思春期の子どもたちのボディー・イメージにマイナスの影響を及ぼすことも考えられる.他にも,日常生活や学校生活の中での活動制限,食事制限を守らなければならない子どもたちは,さまざまな変化や制限について,たとえ医師やレシピエント・コーディネーター,CLSなどから十分に説明を受けて退院し,家族や友人との時間を楽しむ喜びを感じながらであっても,体調の変化への不安やさまざまな制限に対する不満,葛藤や身体を大切にしなければならないというプレッシャー,疎外感や孤独感などの思いを抱いている6).CLSは,退院,外来移行後も子どもたちへの介入を継続し,受診の待ち時間などを利用して子どもたちが抱いている思いを表出できる機会を設け,表現されたありのままの思いや考えを尊重し,寄り添うことによって,その子自身のペースや方法で,その時々に抱えている困難を乗り越えられるよう支援を行っている.このような介入を行う際には,それまでの病状の経過や医療体験に対するリアクション,家庭や学校の環境やその変化などを把握しながらの関わりが重要であるため,他職種の医療者との連携はもちろん,子どもやその家族との定期的な情報共有もとても大切である.
きょうだい,家族へのサポート
医療環境下において,常に子どもと寄り添う立場で活動をしているCLSのサポートは,病気の子どもだけではなく,そのきょうだい,家族にまで及ぶものである.病気の子どものきょうだいは,病気や入院というイベントをきっかけに,親と離ればなれになったり,生活リズムや生活環境の変化,家庭での役割の変化などを経験し,さまざまな思いを抱いている.それは,病気の子どもを心配する気持ちだけではなく,「親を取られた」という誤解や怒りを含むものであり,さらには,生活環境が変化したことで家族関係や友人関係が変化し,孤独感や疎外感を感じてしまうこともある.そして,そのような感情を抱いてしまったという後悔や罪悪感を持つことも少なくない.
そのようなきょうだいに対してCLSは,医療環境への恐怖心の程度やきょうだいの病気への理解度,疑問,知りたいことの有無などを聴取した上で,説明する機会を設けたり,治癒的遊びを通して,きょうだいが抱いている思いを安全にその子なりに表現できるような場を作り,たとえ離れていても患児や家族とのつながりを感じられるような関わりを行っている.
心臓移植待機中の子どものきょうだいは,家族と一緒に病院へ来ても,面会制限があり病気のきょうだいに会えない場合もあり,また,面会できたとしても,点滴がつながっていたりカニューレを付けていたりといった患児の変化を目にしただけで,不安になってしまう場合もある.さらに,小児補助人工心臓(Berlin Heart EXCOR,以下EXCOR)やVADを装着しているきょうだいを突然目にすることは,とても大きなストレスになりうる.CLSは親や家族から,家で待っていてくれるきょうだいの様子を聞き,きょうだいへの関わり方のアドバイスを行ったり,面会の前にきょうだいに対して,写真や人形などを使って,点滴やVAD,カニューレの役割などをきょうだいにお話しし,面会中にできること,気をつけてほしいことをお話しすることもとても大切であると考えている.
アメリカの病院では,院内にきょうだい専用のプレイルームがあったり,毎日きょうだい支援のアクティビティーがCLSによって行われていたりする.同じ病気のきょうだいがいる子ども同士が遊ぶ機会があったり,CLSがスーパーバイズをする中で,きょうだいがグループで病気のことを教わったりもしている.
さらに,心臓移植後の子どものきょうだいに対してもサポートは必要である.拒絶反応を避けるために,活動の制限や,食事制限は家族が一丸となって取り組むことが求められる.しかし,きょうだいから移植後の生活について理解が得られていない場合,移植後の子どもたちが禁止されていることを知らずにやらせてしまったり,容姿や手術の跡のことをからかってしまうこともある6).また,自分も同じようになってしまうのではないかという誤解や恐怖感を持つ子もいる.このようなことは,移植を受けた子どもにとっても,そのきょうだいや家族にとっても大きなストレスになりうる.CLSは,医師,看護師,レシピエント・コーディネーター,家族と協働し,きょうだいへも移植待機期間中から移植後まで継続したサポートの提供が求められる.
また,筆者は移植医療部に所属し活動しているため,上記のようなサポートを成人の移植待機患者の子どもたちにも行っている.筆者が活動しているセンターの移植病棟は面会者の年齢制限があり,子どもたちは面会することができない.CLSは,大人の家族が患者に面会している時間を利用して,待ってくれている子どもの気持ちや,親の病気への興味の有無などをアセスメントしながら,家族やレシピエント・コーディネーターと伝える内容などを話し合い,身体のこと,病院のことや親の病気のことを子どもに伝えるようにしている(Fig. 6).患者の退院時には,子どもにVADを装着している家族と関わる時の注意点などを伝えて,理解を促し,役割意識を持たせることで移植医療に対する不安や誤解を最小限にし,スムーズな退院へつなげられるようになることが期待される.
グリーフ・サポート
残念ながら,心臓移植の待機期間中に病態の悪化やVADやEXCORを装着していることによる血栓塞栓症などの合併症によって亡くなってしまうことがある.また,移植後の子どもたちも,服薬をきちんと守っていたとしても,感染症への罹患や拒絶反応により体調が急変し亡くなってしまうこともある.そのような時に,亡くなられた子どもの家族に対して,少しでも穏やかな時間を過ごせるように多職種が連携しながらプライバシーが守られた部屋や環境を提供し,絵の具や紙粘土を使った手形,足形の作成など,家族での思い出作りの場を設けるグリーフ・サポートもCLSの大切な役割である.さらに,亡くなった子にきょうだいがいる場合には,その発達年齢によって死に対する反応や理解度が異なるため,考えられる残されたきょうだいの「死」に対する反応や行動の変化と,それらへの対処方法を,両親や大人家族へ伝えることも家族一人ひとりのグリーフを支えるためには必要である.
医療現場において,グリーフとそのサポートと聞くと,以上のような大切な人を亡くすという体験に対するサポートを連想するが,実はグリーフケアの「グリーフ」とは,決して大切な人の死だけではなく,その人にとって大切なものを失うことに対する悲嘆体験のことも指している.つまり,病気と闘う子どもたちとその家族は,日々「グリーフ」と隣り合わせで生きているといえる.例えば,病気やその治療による,体の一部または機能の喪失や変化もグリーフ体験の一つであり,家族との分離や住み慣れた場所やコミュニティーから離れることも,子どもにとって,そして家族にとって大きなグリーフであるといえる.
小児心臓移植医療の現場では,VADの普及やEXCORの承認により,以前よりも長期間の待機が可能になったといえるが,待機患者数と脳死臓器提供の数には未だ大きな差がある.そのため,待機期間中に起こりうる合併症のリスクを考慮し,海外渡航移植を決断する家族もいるのが現状である.住み慣れた場所やコミュニティーからの分離によるグリーフ体験へのサポートの例として,筆者は,海外渡航移植を決断された家族に対して,渡航先の病院のスタッフとコミュニケーションがとれるよう,渡航先の病院のCLSと連絡を取り,英語による自己紹介カードや,専門用語の日本語訳のカード,渡航先の医療スタッフの写真といったコミュニケーション・ツールを作成し,異国の地での生活,移植待機への不安を和らげ,少しでも早く渡航先の環境に慣れ,スタッフと円滑なコミュニケーションがとれるようにサポートしている(Fig. 7).
さらにもう一つ,心臓移植医療でレシピエントが経験する特徴的なグリーフ体験として,移植時に自分の臓器とのお別れをすること,そして,提供していただいた方の死を経験することという,二つの喪失体験をするということが挙げられる.このような体験の中で,移植を受けた子どもたちは,ドナーになられた方とその家族への感謝の気持ちを持ち続けてはいるものの,移植後の生活の中で,「どうして自分だったのか?」「本当に私が移植を受けて良かったのか?」「こんな私が生き残ってしまった」というようなサバイバーズ・ギルト(survivor’s guilt)を抱き,思い悩んでしまう子がいることも理解しておかなければならない.
以上のように,心臓移植医療の中で子どもとその家族は,さまざまなグリーフを経験している.そのため,グリーフに対する子どもや家族の反応は年齢や喪失体験の内容や状況によってそれぞれ異なるものであり,個々の反応や対処方法を尊重しながら,個別もしくはグループでの支援の提供が重要であるといえる.
以上のような役割を担いながら,CLSは医療チームの一員として日々活動しているが,このような活動を通して子どもやその家族をサポートするためには,他の医療スタッフとの多職種連携が不可欠である.特に,移植医療の中で子どもとその家族をサポートするには,子どもの移植待機時から移植後も,継続的で包括的な長期間の支援体制が求められる.医療スタッフがそれぞれの専門性を生かして活動するためには,各々の職種の役割の特性や共通点などを理解することが重要であり,それによって,子どもと家族を含む医療チーム全員が共通の目標に向かって歩むことができると考える.
医師
日々の活動の中で,CLSが頻繁に情報交換や共有を行う医療専門職は,医師と看護師であるといえる.医師とは,直接会って情報共有を行うことはもちろん,電話やメール,カルテの記録を通して,患児や家族についての情報交換を日々行っている.CLSが処置や検査に介入する時や,子どもやその家族への介入のタイミングの調整をする際の事前のコミュニケーションも不可欠である.病棟内では,例えば,EXCORや埋め込み型VADを装着している子どもたちの刺入部の消毒処置の際,子どもたちは痛みや恐怖を感じることも多く,身体の動きを制限されるため,CLSは,ディストラクションによる介入を行っているが,その際は外科の医師と処置がスムーズに進むように協働している.また,子ども自身がはじめて受ける検査や処置,採血などの痛みを伴うもの,カテーテル検査などの繰り返し受けている検査でも,子どものストレスや不安が高いことが予測できるものは,担当医師に検査,処置中の付き添いの許可を得て介入を行っている.そして,プリパレーションを行った際には,その時の子どもの様子を共有し,さらに終了後の子どもの様子,言動などで気になることがある場合はフィードバックを行い,次回以降に生かしていけるような情報共有を行っている.
看護師
医師と同様,直接会って情報共有を行い,特に,CLSが介入できない時間帯の子どもの様子を教えてもらい,日中の介入計画に生かしている.検査や処置の緊急性や,日々の業務の中での時間調整の難しさなどで,CLSが介入困難な場合も少なくないが,そのような場合でも処置中,処置後の子どもの様子を伝えてもらうことで,次回以降の処置の進め方や介入方法を考えることができるため,少しの時間,少しの情報でもコミュニケーションを継続することが大切であると考えている.また,CLSはプリパレーションを行うことが役割の一つとしてあるということは前述のとおりであるが,病院によっては,看護師が処置前にプリパレーションを行っているところもある.しかし,CLSと看護師の行うプリパレーションの方法には,子どもや家族に正確な情報を適切な方法で伝えることで,彼らの不安を軽減し,より主体的に医療体験に臨めるように導くという共通の目的があるが,看護師は,処置や検査についての詳しい知識を基に,待ち受けている医療体験に対して覚悟を決めることを支援している「説得」の視点が強い.一方でCLSは,子どもの不安やストレスの度合いをアセスメントしたうえで必要な情報を子どもに伝え,遊びを通して子どもたちの思いを表現させ,役割意識を持たせたり,対処方法,処置中の過ごし方などを考えたりというように,医療体験に関する子どもが知りたい情報とそれに対する気持ちや考えを,子どもとCLSが共有できるような関わりを,プリパレーションを通して行っているという違いがみられる7).このようなアプローチの違いをお互い理解したうえで,子どもへの介入方法を共に考え協働していくことで,より効果的なサポートを提供できるようになることが期待される.
レシピエント・コーディネーター
さらに,心臓移植医療の現場でCLSは,レシピエント・コーディネーターとも協働し,移植待機中や移植後の子どもたちへの介入を行っている.レシピエント・コーディネーターが,子どもたちやその家族に対して体調管理や服薬,日常生活の中での決まり事について指導・教育を行う際に,CLSは小児発達や心理の知識を用いて,発達年齢やニーズに適した指導方法や内容になるようにアイディアの共有を行っている.日々,共通の事柄を異なる角度から捉えている医療専門職との協働は,包括的なサポート体制を築き,それを提供する際の大きな強みであるといえるだろう.
病棟保育士
近年,小児科のベッドサイドやプレイルームで病棟保育士が活動している施設も増えてきている.CLSは医療環境下において遊びとその環境の提供を役割の一つとしているため,病棟保育士と混同されることが少なくない.他にも病棟保育士は,子どもに優しい環境作りや季節ごとの行事の開催,きょうだいや家族への支援を役割として活動しておりCLSと共通の部分もある.そのような共通点を持つ病棟保育士との協働もCLSにとって重要であると考えている.看護師同様,連携する際は子どもへの関わり方のポイントが異なるため,それぞれの専門性を生かした子どもへの関わりと,情報共有を行っていくことが大切である.最も大きく異なる点は,病棟保育士が,子どもの日常を保つための集団保育などの遊びやプレイルームの環境整備,食事の介助など,子どもの生活に関わる支援を小児発達や心理の知識を基に行っているのに対し9),CLSは,小児発達や心理の知識を基に介入をしているが,加えて,病気やその治療法,医療現場,処置,検査の場面においての関わり方の知識や経験を持ち合わせ,それを踏まえて活動しており,子どもの生活の支援より医療環境下においての危機介入の役割を担っているといえる.このような相違はあるが,集団保育中に子どもが処置や検査についての思いを表出したりすることもあるため,処置・検査中の様子を病棟保育士に伝えるといった情報共有を行うことによって,子どものことをより多角的な視点で捉えることができると考える.
理学療法士(PT)
さらに,筆者は日々の活動の中で,理学療法士(PT)と共に,移植待機中の子どもたちと,心臓移植後の子どもたちの移植から退院までの間のリハビリテーション(以下,リハビリ)に介入している.EXCORは,駆動チューブの長さに制限があり,その他のVADについても,皮膚貫通部の負荷について十分に考慮しながら行う必要があり,限られた空間や動作,行動範囲の中で効果的なリハビリを行うために,医師,看護師,コーディネーター,などと協働しながら実施する必要がある.CLSはその中で,リハビリを受ける子のモチベーションの形成とそれを維持するためのサポートや,子どもが恐怖心を紛らわしながらリハビリに取り組めるように,おもちゃや遊びを取り入れた支援を行っている.例えば,子どもが手足の関節を動かすリハビリを行う際に,音の鳴るおもちゃを握らせる.座位を保つリハビリを行う際には,一緒に絵本を読んだり,お絵かきをして過ごす.歩行訓練の時には,ただ限られた空間を往復するのではなく,電車ごっこやお店屋さんごっこをしながら行うことで,子どものリハビリに対するモチベーションを維持し,不安や恐怖心を最小限にしながら楽しく訓練できるように介入している.さらにリハビリの度にシールや工作のパーツを貼ったりというようなルーティーンを取り入れることで,子どもたちが目に見える形で達成感を感じることができたり,自尊心を保持できるような取り組みを行っている(Fig. 8).
上記に紹介した専門職の他にも筆者は,大人の移植待機中,移植後の患者や家族への心理的介入を行っている臨床心理士と,思春期後期から成人期への移行期にあたる,いわゆるヤング・アダルト世代(AYA世代)への支援について情報やアイディアの共有を行っている.また,子どもたちが移植後も定期的に受ける必要があるレントゲン,エコー,心臓カテーテル検査,RI検査などの際には,放射線技師や各部門専属の医師,看護師との連携も重要である.
さらに,CLSとして子どもの心理社会的支援を行ううえで,両親との密な連携は欠かすことができない.アメリカの小児医療の現場では,子どもとその家族は医療チームの一員であり,積極的にそして主体的に医療に参加すべきであり,それを実現させるために周囲の医療者は最大限のサポートを行うという「子ども・家族中心医療」(Patient-and Family-Centered Care)の理念の元で治療が行われている4, 5, 9).子どものことを一番よく知っているのは親であり,その親からの情報はCLSや医療者にとってとても有用である.入院前の様子や子どもの性格や癖,喜怒哀楽の表出方法などを把握することは,介入方法を決定する際,また処置中,処置後の子どもの心の状態を把握する時などに重要な尺度となる.さらには,家族の中での決まり事などを入院中も活用することで,子どもに付き添う家族のケアへの参加を促し,家庭に似た環境を病院においても維持できるようになる.このように,子どもやその家族に関わる全ての医療専門職が連携しサポートする体制を整えることは必要不可欠であるといえる.