チーム医療の楽しさThe Real Pleasure of Team Medical Care
済生会横浜市東部病院こどもセンター総合小児科Children’s Center for Health and Development, Saiseikai Yokohama City Tobu Hospital ◇ Kanagawa, Japan
© 2016 特定非営利活動法人日本小児循環器学会© 2016 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
小児循環器の診療は,究極のチーム医療のうえに成り立っている.チーム医療の必要性や大切さは近年になってクローズアップされているが,小児循環器はその必然性によって初めからチーム医療を展開している.内科系と外科系が合同で会員である学会は他にあまり見当たらず,そういった意味では貴重な領域であろう.それは主たる対象疾患が先天性心疾患であり,その大部分で心臓手術が必要となることが大きな要因であることは間違いない.手術が必要な先天性心疾患の子を小児循環器内科医が診断と内科的治療を担い,心臓血管外科医が手術を施行する.両科がそれぞれの立場で意見を交換し,症例毎に最適な手術方法と時期を決定する.心臓手術は生命や予後を大きく左右するため,多くの経験を積んだスタッフの協力が必要となる.重要なのは,手術の術中術後管理を支える麻酔科やMEスタッフ,看護師である.すべてのスタッフが同じ目標に向かってチーム医療を展開する.全員がベストを尽くしてはじめていい結果が得られる.すなわち一人の心臓病の子の命を助けるだけでなく,限りなく健康な子に近づくことを目指す.これが小児循環器が目指すものの原点となる.
このきわめて純粋な目標をチーム全員が共有して,ぶれない.スタッフのQOLを多少犠牲にしても,同じ目標に向かって力を尽くしている.小児循環器のような重症で手間のかかる患者を好んで診ようとするようなスタッフの多くは労力を惜しまない人々ばかりで,一緒に働いて気持ちがいい.そして見事に元気になっていく子供たちをみると,チーム医療の偉大さを感じる.そうした医療に支えられながら疾患と戦い成長したこどもたちが立派な社会人となって働く姿は,私たちのチーム医療の結晶と言えるだろう.彼らを通じて私たちは大きな社会貢献をしていると自負している.
その中で自分(小児循環器内科医)の役割を考えると,正確な診断を下して心臓血管外科医に的確に伝えて治療方針を示すこと,小さな兆候に気がついて治療の適切なタイミングを計ること,術後の慢性期に患者に寄り添っていくことなどがある.いずれも簡単ではなく,研鑽をいくら積んでも充分とは言えない.
また,対象が胎児であれば産科・新生児科とのチーム医療,成人になれば循環器内科・不整脈科とのチーム医療,合併症があれば他臓器の専門家や遺伝科,成人では腎臓内科や代謝(糖尿病)などの内科との組み合わせでのチーム医療となる.
チーム医療を行うために必要なことは何だろう.まず同じ目標に向かっていることが最低条件で,その中で各スタッフが自分の役割をきちんと果たすこと,さらにスタッフがお互いをrespectすることではないか.自分の役割を果たすために独自の専門性を磨いて常に知識や技術をup dateしてチームに貢献し,それによって他のスタッフから信頼されお互いをrespectすることにつながる.
小児循環器は疾患の種類が多様であり,同じ病名であっても病態が個々で異なり複雑である.疾患に対する治療方針は内科のように一律ではなく,個々の病態に合わせたオーダーメイドであることが多い.重症疾患の場合,きめ細かい医療ケアと専門家のチーム医療により,手をかけたなりの結果が返ってくることはよく経験される.小児循環器はそれがとくに明確で,チーム医療の楽しさとやりがいを最も感じることのできる領域だと考えている.
一緒にチームを組んだスタッフは学生時代の部活の仲間のようである.
私は1年前から,17年も過ごした小児循環器だけの世界から一転して地域中核病院の小児科に所属している.心臓病のこどもは多いと考えていたが,そうでもないことに驚いた.多くのこどもの病気は小児循環器ほどcriticalではないので,チーム医療でなくて個人プレーでもやっていける部分がある.それでもやはり医師1人だけでは目の届かないことはたくさんある.小児科のなかに多様なsubspecialistがいると,より高度で繊細な医療を提供できる.看護師や栄養士・保育士・理学療法士・臨床心理士・ME・薬剤師と同じ目標をもってチームを組むと最高レベルの地域医療を提供できると確信している.
私は小児循環器で経験したチーム医療の楽しさ,をここでも謳歌させていただくことになりそうだ.
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