Fontan術後の蛋白漏出性胃腸症の低IgG血症をどうする?
埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センター小児循環器科部門
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蛋白漏出性胃腸症(PLE)1)
は,Fontan術後症例の5%から15%が罹患する2, 3)
.PLEは,Fontan術後合併症の中で,もっとも治療に難渋するものの一つである.近年,PLEの死亡率は,以前の報告より大きな低下がみられるものの,最近のまとまった報告でも診断後5年間の死亡率は12%(PLE42例中11例)と依然高い4).この11例の死亡原因は,敗血症が7例,Fontan conversion後合併症が1例,不明3例であり4),PLEの生命予後改善には感染対策が重要と言える.
PLEでは血清IgG値の減少のほか,末梢血リンパ球数5)や,リンパ球CD4サブセットの低下が報告されている6, 7)
.このうち血清IgG低値は,免疫グロブリン製剤の補充により一時的に血清IgG低値を改善させることが可能である.先天性免疫不全症の場合は,IgG低値はB細胞異常に基づく産生低下であり,血清IgG低値での補充が広く行われている.これに対しPLEでは,IgG自体の喪失過多による血清IgG低値であって,血清IgG低値のみで補充をすべきか,その目安があるのかについては明らかでない.
二つの観点を考える必要がある.一つはPLEと先天性免疫不全症で同程度の血清IgG低値が同程度の免疫不全状態なのか,二つ目は免疫グロブリン製剤補充による血清IgG値の維持効果である.
まず,産生自体に問題がある先天性免疫不全症と,喪失過多のPLEでは,同程度の血清IgG低値であっても,免疫能に及ぼす意義が異なる可能性が多いに考えられる.つまり血清IgGの中味の問題である.先天性免疫不全症の投与基準を,そのままPLEにあてはめてよいとは考えにくい.
実際,海外からのFontan術後PLEの多数例の報告を紐解くと,免疫グロブリン投与症例の頻度は以下に述べるように低い.メイヨ・クリニックの2010年までの18年間のデータベースの後方視的検討では,Fontan術後PLE42例中,経静脈的免疫グロブリン投与を受けたのは3例のみであった4).フィラデルフィアの178例のFontan術後症例の後方視的検討では,PLE群31例の血清IgG値(中央値(四分位))は200(146~397)mg/dL,非PLE群147例では868(711~1110)mg/dLであった5).このPLE群31例のうち免疫グロブリン投与の臨床的適応があったのは2例(1例は心不全死亡直前の短期間投与,1例は細菌性敗血症と蜂窩織炎)のみであった5).また,ミシガンのFontan術後の前方視的検討では,PLE群8例の血清IgG値は106(61~296)mg/dL,非PLE群8例では996(548~1620)mg/dLであった.このPLE群8例の中で,直近の4週間に免疫グロブリン製剤の投与を受けたのは加療を要する蜂窩織炎を反復した2例のみであり,その他6例(75%)では感染の記載がない7).したがって,免疫不全であれば免疫グロブリン製剤を補充するレベルの低IgG血症を伴うPLE症例のなかで,感染に難渋する症例が一部に存在するものの,多数例においては免疫グロブリン製剤の補充を行わないからといって,すぐに感染に難渋するとは限らないことがうかがえる.
二つ目の観点は,免疫グロブリン製剤補充による血清IgG値の維持効果である.同様の血清IgG低値と同量の免疫グロブリン製剤の補充でも,産生低下による血清IgG低値を示す先天性免疫不全症では,血清IgG値からみた補充効果は長く維持されるが,血清IgG低値が喪失増多によるPLEでは,補充により血清IgG値が増加しても,その後急激に血清IgG値が低下してしまう8)
.PLE不安定期で免疫グロブリン製剤の補充を考慮するレベルに血清IgG値が低値のときほど,その腸管への喪失が大きく,投与を行っても血清IgG値が維持されない.それがこれまでの静脈投与の問題点であった.
これに対し,皮下投与製剤は緩徐に吸収されるため,血清IgG値の維持効果持続が期待される.山田らは,成人Fontan術後PLE症例においては,免疫グロブリン皮下注射(SCIG)製剤を用い,週16 gの投与により血清IgGを平均484 mg/dLに保つことができ,感染症による入院回避に有効であったと報告した9)
.さらに,この報告は医療費の検討も詳細に行い,医療費は微増にとどまったという9)
.皮下投与製剤は自宅で投与可能で,通院や入院の必要性が減少し,当患者でQOLの改善に結びつく可能性が考えられる.この報告からは,免疫グロブリン製剤の皮下投与は,血清IgG値を維持しにくいという静注免疫グロブリン投与の問題点を改善し,感染対策に貢献することが期待される.
しかし,Fontan術後PLEへの免疫グロブリン製剤投与については,今後解明すべきたくさんのクリニカル・クエスチョンが残されている.考えられるものを列挙すると,
これらの疑問点を明らかするためには,PLEデータベースの構築や,PLEでIgG値が低下した感染反復のない症例を対象とし,免疫グロブリン製剤投与・非投与で比較するランダム化試験も望まれる.Fontan術後PLEの効果的な治療法の開発には,一施設あたりの症例数は多くないため,多施設共同研究が必要と考える.
1) 市橋 光:Fontan術後蛋白漏出性胃腸症の原因と治療.日小児循環器会誌2013; 29: 251–253
2) Feldt RH, Driscoll DJ, Offord KP, et al: Protein-losing enteropathy after the Fontan operation. J Thorac Cardiovasc Surg 1996; 112: 672–680
3) Mertens L, Hagler DJ, Sauer U, et al: Protein-losing enteropathy after the Fontan operation: An international multicenter study. PLE study group. J Thorac Cardiovasc Surg 1998; 115: 1063–1073
4) John AS, Johnson JA, Khan M, et al: Clinical outcomes and improved survival in patients with protein-losing enteropathy after the Fontan operation. J Am Coll Cardiol 2014; 64: 54–62
5) Morsheimer MM, Rychik J, Forbes L, et al: Risk factors and clinical significance of lymphopenia in survivors of the Fontan procedure for single-ventricle congenital cardiac disease. J Allergy Clin Immunol Pract 2016; 4: 491–496
6) Koch A, Hofbeck M, Feistel H, et al: Circumscribed intestinal protein loss with deficiency in CD4+ lymphocytes after the Fontan procedure. Eur J Pediatr 1999; 158: 847–850
7) Magdo HS, Stillwell TL, Greenhawt MJ, et al: Immune abnormalities in Fontan protein-losing enteropathy: A case-control study. J Pediatr 2015; 167: 331–337
8) De Giacomo C, Maggiore G, Scotta MS, et al: Administration of intravenous immunoglobulin in two children with hypogammaglobulinaemia due to protein losing enteropathy. Clin Exp Immunol 1985; 60: 447–448
9) 山田佑也,太田宇哉,倉石建治,ほか:TCPC術後の蛋白漏出性胃腸症に伴う低IgG血症に対し,pH 4処理酸性人免疫グロブリン(皮下注射)による在宅補充療法を導入した1例.日小児循環器会誌2016; 32: 432–436
*注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.
山田佑也,ほか:TCPC術後の蛋白漏出性胃腸症に伴う低IgG血症に対し,pH 4処理酸性人免疫グロブリン(皮下注射)による在宅補充療法を導入した1例.日小児循環器会誌2016; 32: 432–436
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