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特定非営利活動法人日本小児循環器学会
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(4): 323-327 (2016)
doi:10.9794/jspccs.32.323

症例報告

ダビガトランで右室内血栓が消失した不整脈原性右室心筋症の1例

1大垣市民病院小児循環器新生児科

2愛知県済生会リハビリテーション病院

受付日:2016年2月17日
受理日:2016年5月13日
発行日:2016年7月1日
HTMLPDFEPUB3

不整脈原性右室心筋症(Arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy: ARVC)は,心内血栓を生じることがある.ワーファリン治療の場合が多く,新規経口抗凝固薬(Novel oral anticoagulants: NOAC)による治療の報告は少ない.症例は30歳男性で,15歳時にARVCと診断され,16歳時より心不全治療のためカルベジロール,エナラプリルの内服を開始した.30歳時の外来受診時の心臓超音波検査で右心室内血栓を認めた.ワーファリンと未分画ヘパリンを開始したが,血栓の大きさは変わらなかった.第3病日にダビガトラン300 mg/日へ変更し,5週後に血栓は消失した.ARVCの心内血栓治療にダビガトランが有用である可能性がある.また,適切な抗凝固療法により血栓塞栓症や突然死などの重大な合併症を予防できる.

Key words: arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy; thrombosis; dabigatran etexilate; novel oral anticoagulants; anticoagulation

はじめに

2011年,本邦でワーファリンに代わる経口抗凝固薬として直接トロンビン阻害薬ダビガトランが発売され,続いてリバーロキサバンなどXa因子阻害薬が発売された.最近,これらの新規経口抗凝固薬(Novel oral anticoagulants: NOAC)は,非ビタミンK阻害経口抗凝固薬(Non-vitamin K antagonist oral anticoagulants: NOAC),直接経口抗凝固薬(Direct oral anticoagulants: DOAC)と呼ばれ,抗凝固療法の選択肢が広がっている.

不整脈原性右室心筋症(Arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy: ARVC)は,右室の拡大と機能低下,及び右室起源の心室性不整脈を特徴とする心筋症で,若年者の突然死の原因になりうる1)

.ARVCでは心内血栓を生じることがあるが,その原因や機序,危険因子については不明な点が多い.現在ARVCの心内血栓治療には主にワーファリンが使用され2–4),NOACによる治療の報告は少ない5).今回我々はダビガトランの内服治療で右室内血栓が消失したARVCの症例を経験したので報告する.

症例

症例

30歳男性.

家族歴,既往歴

特記事項はない.

現病歴

13歳時の学校心臓検診で心室期外収縮を指摘され当科を受診した.右室起源の心室期外収縮が出現していたが運動負荷で消失し,無投薬で経過観察とした.14歳時の心臓超音波検査で右室拡大と右室壁運動低下を認め,ARVCを疑った.15歳時の12誘導心電図でV1–V6誘導の陰性T波,ホルター心電図で多形性の心室期外収縮3,877回を認めた.診断基準の大項目1つ(右室病変を伴わない症例での右室の高度な拡大及び駆出率の低下)と小項目2つ(V2–V3で陰性T波,ホルター心電図で1,000回/24時間以上の心室期外収縮)を満たし,ARVCと診断した6)

.16歳時より心不全治療のため,カルベジロールとエナラプリルの内服を開始した.内服開始後1か月時に行った加算平均心電図で心室遅延電位が陽性だった.心筋生検は行っていないが,MRI上,心筋の脂肪線維置換変性を認めなかった.遺伝子検査は行っていない.24歳時から通院が途絶えたが,27歳時に心不全症状のため入院,内服治療を再開した.心房粗動を併発し,ジゴキシンとソタロールの内服を追加した.心房粗動の期間,ワーファリン内服による抗凝固療法を行い,洞調律へ復帰後中止した.30歳時の外来受診時に自覚症状はなかったが,心臓超音波検査で右室内血栓を認めたため入院とした.

入院時現症

身長186 cm,体重82.5 kg,脈拍数71回/分,血圧102/71 mmHg,体温36.5度

心音

不整 心雑音なし呼吸音清 腹部平坦軟肝脾を触知しない 浮腫なし NYHAII度

入院時検査所見

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Fig. 1 Chest X-ray and Electrocardiogram on admission

(A) Cardiothoracic ratio of 60%. (B) Electrocardiogram indicated a complete right bundle branch block (RBBB), negative T waves, and ε waves in V1–V6.

Table 1 Laboratory data
WBC5340/µLBNP90.8 pg/mLPT11.8 sec
RBC583×104/µLUA7.5 mg/dLPT-INR1.01
Hb18.5 g/dLTP7.5 g/dLAPTT28.6 sec
Hct53.6%Alb4.8 g/dLAPTT95%
Plt20.3×104/µLNa141 mEq/LFDP2.6 µg/mL
K4.1 mEq/LD-Dimer0.2 µg/mL
AST19 IU/LCl104 mEq/L
ALT22 IU/LCRP0.10 mg/dL
T-bil1.1 mg/dL
CPK72 IU/LGlu85 mg/dL
UN13.9 mg/dLDigoxin0.840 ng/mL
Cre1.06 mg/dL
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Fig. 2 Echocardiography and Computed Tomography on admission

(A) Echocardiography revealed thrombus (19×21 mm). (B) Contrast enhanced Computed Tomography revealed thrombus in the apex of the right ventricle (RV).

入院後経過(Fig. 3

血栓縮小を期待し,ワーファリン3 mg/日,アスピリン100 mg/日の内服と未分画ヘパリンの点滴を開始した.なお,本症例はCHA2DS2-VAScスコア1点(左室機能障害のみ該当),HAS-BLEDスコア0点だった.ワーファリンは第2病日に4 mg/日へ増量したが,プロトロンビン時間国際標準比(Prothrombin time-international normalized ratio: PT-INR)は1.16と基準範囲でワーファリンの用量不足と考えられた.しかし,本症例は前回入院時,ワーファリン4 mg/日以上の内服でPT-INRが著明に延長し,2回の休薬を要するなど内服量の調整に難渋していた.そのため,第3病日にワーファリンからダビガトラン300 mg/日の内服へ変更した.第7病日,心臓超音波検査上,血栓径は不変だったが無症状であり,第11病日に退院とした.第21病日,血栓径は14×10 mmへ縮小し,第35病日に血栓消失を確認した(Fig. 4

).血栓消失後もダビガトラン,アスピリン内服を継続している.ダビガトラン内服開始後から活性化部分トロンボプラスチン時間(Activated partial thromboplastin time: aPTT)は42~56秒で推移し,血栓の再発や出血等の副作用はない.

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Fig. 3 Clinical course

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Fig. 4 Echocardiography on day 35

The thrombus was finally eliminated.

考察

ARVCで心内血栓を生じる割合は約4%と報告されている2, 5)

.治療には手術やワーファリン内服が行われているが2–4, 7, 8),NOACを使用した報告はほとんどない5).ARVC患者193人を対象とした研究では,8例で心内血栓を生じ,ワーファリンと低分子ヘパリンによる治療で全例の血栓が消失していた4).本症例もワーファリンの増量で血栓が消失する可能性はあったが,ダビガトラン300 mg/日へ変更したところ,5週間で副作用なく血栓が消失した.非弁膜症性心房細動患者の血栓塞栓症予防効果に関するRE-LY試験では,ダビガトラン150 mg 1日2回投与がワーファリンに対する優越性を示した9).近年,ダビガトランの投与により心内血栓の縮小・消失が報告されており10–12),心内血栓治療でもワーファリンと同等以上の効果が期待される.

直接的トロンビン阻害薬のダビガトランはワーファリンの欠点を克服している.ダビガトランは効果の発現と消退が速く,治療初期から導入することで入院期間が短縮できる可能性がある.また,ARVCは比較的若年の患者が多く,内服治療は長期間になることが予想される.ダビガトランは他の薬剤や食材との相互作用が少なく,日常生活での制限が少ないことは有利である.

ダビガトランの最も重篤な副作用は出血である.RE-LY試験での大出血の頻度は,ダビガトラン150 mg群でワーファリンと同等だった(150 mg群:3.32%/年vs.ワーファリン群:3.57%/年,p=0.32)9)

.RE-LY試験に続くRELY-ABLE試験でも,観察期間2.3年間で大出血の発現率はRE-LY試験と同様で,長期的な安全性が示されている13).出血のリスクには高齢,腎障害,高血圧等が挙げられ,出血症状に注意が必要である.

一方,ダビガトランは小児への使用経験が極めて乏しく,用法・用量は定まっていない.現在,静脈血栓症の患者を中心に,小児を対象としたNOACの臨床試験が多数進行中で,その結果が待たれる14)

ダビガトランは定期採血による用量調節が不要という点が長所とされてきた.しかし,発売直後からダビガトラン投与中の患者で重篤な出血が報告されるなど,現在は効果と副作用の評価のため,血中濃度の指標が必要とされている.ダビガトランの血中濃度はaPTTと相関がみられ15)

,aPTT 60~70秒のような症例では,減量または中止が検討されている16).副作用予防のためaPTTを適宜確認することが必要である.

血栓塞栓症はARVCの死因の1つで,血栓塞栓症により突然死したARVCの報告が散見される4, 17).心筋症に対する抗凝固療法について日本循環器学会は,血栓症の既往がある症例へのワーファリン投与は推奨しているが,洞調律で血栓塞栓症の既往がない症例への抗凝固療法は推奨していない18)

.ARVCにおける血栓形成の危険因子について,Wlodarskaらは,重度の右室拡大と壁運動異常により右室内血栓が形成されるとしている2).Wuらの報告では血栓を有した患者群で,女性,CHA2DS2-VASCスコア高値,右房拡大,左室機能低下,高血圧の割合が有意に多かった4).右室拡大は患者数が少なく有意差を認めなかったとしているが,多変量解析では心房細動と同様,女性と左室機能低下が独立して血栓形成に関連していた.本症例は血栓形成前から左室機能低下や右室拡大を認め,血栓形成の危険性は比較的高かったと予想される.今後,血栓形成の危険性が高い患者を選択し,適切な抗凝固薬の予防投与を行うことで,血栓塞栓症によるARVC患者の突然死を予防できる可能性がある.

利益相反

本論文について,開示すべき利益相反(COI)はない.

付記

この論文の電子版にて動画を配信している.

引用文献

1) 野上昭彦:不整脈原性右室心筋症.日内会誌2014; 103: 316–326

2) Wlodarska EK, Wozniak O, Konka M, et al: Thromboembolic complications in patients with arrhythmogenic right ventricular dysplasia/cardiomyopathy. Europace 2006; 8: 596–600

3) Alper AT, Güngör B, Murat A, et al: Concomitant diagnosis of a large apical right ventricular thrombus in a newly diagnosed case of arrhythmogenic right ventricular dysplasia. Turk Kardiyol Dern Ars 2013; 41: 458

4) Wu L, Yao Y, Chen G, et al: Intracardiac thrombosis in patients with arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy. J Cardiovasc Electrophysiol 2014; 25: 1359–1362

5) 志貴祐一郎,加藤律史,飛梅 威,ほか:ダビガトランで両心室内血栓が消失した不整脈原性右室心筋症の1例.心電図2013; 33: S-4-199

6) McKenna WJ, Thiene G, Nava A, et al: Diagnosis of arrhythmogenic right ventricular dysplasia/cardiomyopathy. Br Heart J 1994; 71: 215–218

7) Kurisu S, Inoue I, Kawagoe T, et al: Right atrial thrombosis as a complication of arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy. Intern Med 2006; 45: 457–460

8) Hu Y, Zhong Q, Li Z, et al: Multiple thrombosis caused by arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy. Ann Thorac Surg 2013; 95: 1436–1439

9) Connolly SJ, Ezekowitz MD, Yusuf S, et al: Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2009; 361: 1139–1151

10) Nagamoto Y, Shiomi T, Matsuura T, et al: Resolution of a left ventricular thrombus by the thrombolytic action of dabigatran. Heart Vessels 2014; 29: 560–562

11) 岡田 武,規岡谷健史,麻奥英毅:ダビガトラン投与により縮小を認めた左房内血栓合併の肥大型心筋症の1例.心臓2014; 46: 592–597

12) 中島一夫,樋口 陽,後藤暁子,ほか:心原性脳塞栓症急性期よりのdabigatran etexilate投与後に左房内血栓消失が確認された非弁膜症性心房細動5例.脳卒中2015; 37: 111–116

13) Connolly SJ, Wallentin L, Ezekowitz MD, et al: The long-term multicenter observational study of dabigatran treatment in patients with atrial fibrillation (RELY-ABLE) study. Circulation 2013; 128: 237–243

14) von Vajna E, Alam R, So TY: Current clinical trials on the use of direct oral anticoagulants in the pediatric population. Cardiol Ther 2016; 5: 19–41

15) Stangier J, Rathgen K, Stähle H, et al: The pharmacokinetics, pharmacodynamics and tolerability of dabigatran etexilate, a new oral direct thrombin inhibitor, in healthy male subjects. Br J Clin Pharmacol 2007; 64: 292–303

16) 鈴木信也:ダビガトランの実力.血管医学2013; 14: 143–151

17) 三上修司,大久保英明,工藤宏計,ほか:肺血栓塞栓症を合併した不整脈源性右室心筋症の1剖検例.呼吸と循環2012; 60: 439–444

18) 友池仁暢,和泉 徹,今泉 勉,ほか:拡張型心筋症ならびに関連する二次性心筋症の診療に関するガイドライン.循環器病の診断と治療に関するガイドライン.2011, p 51

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