動脈管開存症に対する動脈管収縮薬の開発は英国の薬理学者John Vaneによるアスピリンの抗炎症作用とプロスタグランジンの生理作用の発見1)(1971年,1982年のNobel賞)に続く爆発的なプロスタグランジンの薬理作用の解明(1971~75)2)- 2) Curtis-Prior PB (ed): Prostaglandins: Biology and chemistry of prostaglandins and related eicosanoids. Churchill Livingstone, Edinburgh London, 1988
で始まった.私は動脈管薬の動物実験を1976年から2016年まで40年続けたが,2015年7月の本学会功労賞受賞を記念して40年の動脈管薬研究をReviewする.
私の循環器小児科基礎研究は小児科医になって5年後から3年間のカリフォルニア大学UCLA Section of Pediatric CardiologyのResearch Fellow(1966~69)で始まった.UCLA医学部はhigh levelで全米Best 5に入るといわれ,私がお顔を記憶する方では,その後NOの発見で1998年Nobel賞を受けた薬理学の色の浅黒いLouis Ignarro教授などNobel賞級の複数の教授を擁していた.UCLA循環器小児科は優れた教育者の循環器部門の主任教授Forrest Adams以下,Adams教授より5歳年上の臨床家Arthur Moss教授(ねじれた関係の小児科全体の主任教授),若い元気なAssociate Professor 1人,Assistant Professor 3人,Clinical Fellow 3人,Research Fellow 5~6人を擁する,小児科の中でも突出して充実した部門で,その高いレベルと実力はMoss–Adamsの小児心臓学書1968年初版3)- 3) Moss AJ, Adams FH (eds): Heart Disease in infants, children and adolescents. Baltimore, The Williams & Wilkins Co., 1968
に結実している.Moss教授は実験を行わず臨床研究に専念していたが,Adams教授以下ほかのStaffは全て臨床と基礎研究を両立させていた.私はLinde助教授(1965年東京大学客員教授,のち南カリフォルニア大学教授)とGoldberg助教授(のちアリゾナ大学教授,小児心臓超音波学の第一人者)の肺循環の研究グループに属し,3年間で肺循環の実験で3論文,脾臓症候群の調律異常で2論文を書いた.主任のAdams教授は10年以上,週1日を動物実験日に決めて隣の実験室で自ら手を汚して羊で未熟児肺硝子膜症(surfactant)の困難な研究をしていた.東北大学小児科から藤原哲郎先生(のちの岩手医科大学教授)が大学院卒業の次年1962年から2年,66年から3年来てAdams教授の右腕となって研究を助けていた.事実その研究はAdams教授の数年後の退任までには結実せず,研究を引き継いだ藤原先生が1970~79年東北大学と秋田大学で10年研究を続けて完成した4).隣町のカリフォルニア大学サンフランシスコ校ではAbe Rudolph教授(のち教科書Pediatrics5)- 5) Rudolph CD, Rudolph AM, et al (eds): Rudolph’s Pediatrics. 22nd ed. McGraw-Hill Co., 2011
の編著者)がAdams教授と同様,週1日を実験日と決めて,国の内外から来たFellowを相手に自ら羊で胎児,新生児循環の実験をして目覚ましい成果をあげていた.Adams教授の若手StaffとFellow教育の成果は目覚ましく,当時のAssociate Professor, Assistant Professor, Clinical Fellowの7人の全てが優れた研究を続けて,その後10年で米国中西部の大学教授になった.東京都出身,インディアナ大学医学部卒で,のちロサンゼルス小児病院(南カリフォルニア大学)で川崎病研究の第一人者となったMike Takahashi教授6)- 6) Takahashi M, Newburger JW: Kawasaki Disease, in Allen HD, Driscoll DJ, Shaddy RE, et al (eds): Moss and Adams Heart Disese in Infants, Children, and Adolescents. Philadelphia, Wolters Kluwer/Lippincott Williams & Wilkins, 2008, pp 1242–1256
(2年前よりシアトル小児病院)は,私の渡米直後の半年間,同じ実験室のResearch Fellow同期生で,公私ともにお世話になった.Adams教授,Rudolph教授の実像は帰国後の私の目指す研究者像となった.
出生後の動脈管収縮の複雑な分子機序は現在この方面の研究の第一人者である横浜市立大学医学部循環制御医学横山詩子準教授と東京慈恵医科大学細胞生理学南沢享教授によりFig. 1に要約されている7).即ち動脈管収縮拡張因子として,平滑筋細胞へ細胞外から来る外因性の酸素,プロスタグランジン(PGE2),一酸化窒素(NO),エンドセリン(ET-1)があり,平滑筋細胞内では酸素増加に始まる多くの分子と細胞膜チャネルが働いている.これらの生理活性分子,チャネルはいずれも動脈管以外の組織,臓器にも存在して生理的役割をもつので,臨床上動脈管薬は副作用を解決できるもののみとなる.現在の未熟児動脈管収縮薬は動脈管平滑筋細胞の外から拡張性に働くプロスタグランジン(PGE2)の生成を抑制する薬剤(COX inhibitor,インドメタシンなど)のみである.この図のなかで酸素の増加は酸素センサー(ATP, H2O2)増加により複数あるカリウムチャネル(KATP,VDKCなど)が閉鎖して収縮の引金となる.
出生時の動脈管収縮が肺呼吸の確立による酸素分圧の上昇によることは1950年までに確定し,羊胎仔と新生仔で動脈管収縮の実験を行ったRudolph8)- 8) Rudolph AM: Congenital Diseases of the Heart. 3rd ed. Chichester, UK, Willey-Blackwell, 2009, pp115–147
により定量的に研究,記載された.Clyman9)(UCSF)はその研究を引き継いで未熟児動脈管の臨床と基礎の研究を行い,旭川医科大学から梶野先生もその基礎研究に参加した.私の実験系であるラットはヒトや羊と異なり,生後の動脈管収縮が非常に早く,非麻酔帝王切開出生後の新生仔をroom air,室温34度で育てると,7~8分で呼吸が確立してチアノーゼがなくなり,SpO2が96~99%となって動脈管収縮が始まり,生後15分で内径が胎生期の35%,30分で15%になり,90分で完全に閉じる.Hoernblad10)(Karolinska, 1967~73)はラット胎仔と新生仔の動脈管研究を彼らの開発した全身急速凍結法(私もこれを継承した)で行い,ラット新生仔の動脈管閉鎖がヒトや羊より速やかで環境温度依存性であること,即ち低温では閉鎖が遅れることなど,動物実験で動脈管収縮の基礎的なデータを10論文で報告した.その後,北米から同じ研究室に加わったSharpe11)がアスピリン,インドメサシンのラット動脈管収縮作用を1974年に臨床に先駆けて報告した.臨床の報告はFreedman12)(当時UCSD,後UCLA),Heyman et al.13)(1976)に始まる.
酸素による動脈管収縮の分子メカニズムは1993年NakanishiのCirculation Researchの論文14)で明らかになった.即ち酸素が動脈管平滑筋のミトコンドリア内でATP産生を増やし,KATPチャネルを閉じるのがその後の一連の収縮機序の始まりであることを証明した.この研究は中西敏雄教授が中国からの留学生,顧虹さん(現女子医科大学非常勤講師,北京安貞医院小児科)を助手に全てoriginalに行って完成した.その3年あとで,Archerら15)がKATPチャネルよりもKvチャネル(VDKC)の方が酸素感受の役割が大きいと報告し,その後のmolecular studyでも酸素による動脈管収縮ではKvチャネルが主役でKATPチャネルは補助役との結果が報告されている.KATPチャネルを遮断するのがグリベンクラミドであり,KVチャネルを遮断するのが4-amino-pyridine(4AP)である.
1970年代初頭に羊を使って世界の3か所で活発な動脈管薬の研究が行われていた.即ちトロント小児病院のOlley, Coceani, ニュージーランド・オークランドにあるグリーンレーン病院のStarling, Elliott16),前述のUCSFである.グリーンレーン病院におけるPGEによる肺動脈閉鎖新生児治療成功のニュースは,1974年に現地の新聞に報道されて世界をかけめぐり,論文は1975年にLancet11)に掲載された.その数年あとプロスタグランジン国際学会で発表していたDr. Starlingは言語容貌とも脳性小児麻痺後遺症様に見受けられた.身体障害を持ちながら優れた研究をされた小児科医には,(ポリオで?)片足を引きずる小児免疫学研究の第一人者ミネソタ大学のRobert A. Good教授がおられた.我が国では小野薬品株式会社が1970年代初頭から各種プロスタグランジンの製造製品化をすすめており,1976年にはその臨床応用が始まった.
1976年より,当時和歌山県立医科大学から心研小児科に研修にきていた上村茂君(現昭和大学横浜北部病院名誉教授)と私の動脈管実験が始まった.はじめモルモットを使ったが妊娠期間が80日と長く,胎仔数がばらばらで実験しにくく,アドレナリン,ノルアドレナリンで動脈管が弱い収縮を起こすことを確かめるだけで終わった.次に兎で全身急速凍結法を使ってPGE1の新生仔で収縮した動脈管の拡張作用を調べ,生後3時間で収縮した動脈管はPGE1で100%拡張するのに,6時間,12時間後には次第に拡張性が失われること2)- 2) Curtis-Prior PB (ed): Prostaglandins: Biology and chemistry of prostaglandins and related eicosanoids. Churchill Livingstone, Edinburgh London, 1988
,注射に比べて経口投与ではやや効果が少ないが,作用があることなどの結果を得て,1979年東京で開かれた世界周産期学会の動脈管シンポジウムでRudolph教授と一緒に発表できた.それ以後Rudolph教授とは学会で顔を合わせると挨拶する仲になり,1974年初版の彼の主著Congenital Diseases of the Heartの改訂を注文していたら,2001年に出た改訂版を贈ってくれたので,秘蔵している.PGE1の経口投与法はこの国際学会の私の発表後英国でSilove教授が臨床に応用して論文を書いている.兎は胎仔が大きくて凍結ミクロトームで切るのが困難で,胎仔数がばらばらで実験しにくいため1年でやめてラットに替えた.ラットは妊娠期間が21.5日で短く,1腹の胎仔数も安定して12匹前後でやりやすい.PGE1, PGE2とも動脈管拡張作用が強く,現在でも重症新生児で使われる.1976年に発見されたプロスタサイクリン(PGI2)とその誘導体の動脈管拡張作用は弱く,PGEの1/1000であるが,肺血管拡張作用が強いので肺高血圧症の治療に用いられている.
PGEは胎盤で産生され,胎児の血中濃度は母親のそれの数倍高く,胎児の動脈管拡張の一因となっている.PGEは肺毛細血管を1回通過すると90%不活化されるので,出生後の新生児では胎盤からの供給停止と肺循環の確立により,その血中濃度は急速に低下する.これと血中酸素増加により新生児動脈管が閉鎖する.
アスピリン,インドメサシンなど抗炎症薬は炎症時のプロスタグランジン合成酵素cyclooxygenase(COX)を阻害して,抗炎症作用を生じる.1970年代後半にはアスピリンをはじめ各種の抗炎症剤による未熟児動脈管開存症の治療例が報告されたが,1976年のインドメサシン治療の報告12, 13)とGersony達の米国多施設共同研究(1983年)を経てインドメサシンが広く用いられてきた.この頃我が国では50種にのぼる抗炎症薬が市販されており,私は研修に来ていた西原重剛君(熊本大学),竹内東光君(群馬大学),萩原温久君(川崎医科大学)に手伝っていただき,その全てについて2年かけてラットで胎仔動脈管収縮作用を調べた18–20).通常の酸性抗炎症薬には全て投与量依存性に動脈管収縮作用があり,臨床常用量ではアセトアミノフェン,アスピリンで10~20%程度の弱い収縮,インドメサシンで30%程度の収縮,イブプロフェンではより強い60%程度の収縮を生じた19)(Fig. 2).その後このデータをもとに欧州でイブプロフェンが未熟児動脈管開存症の治療に使われ始めた.その後の研究でcyclooxygenaseに生理的発現性のCOX1と炎症で活性化するCOX2の2種類があり,それぞれの選択的疎害薬が開発された.私もそれぞれの動脈管収縮作用を調べたが,両者ともに動脈管収縮作用があり,特にCOX2阻害薬に強かった.
抗炎症薬のラット胎仔動脈管収縮を調べると満期(21日目)と満期前(19日目)では動脈管収縮作用に大差があり,満期で動脈管収縮が強く,満期前では収縮がほとんどなかった21).ヒトでも同じ現象があり,妊娠後半の流産止めにインドメサシンを使用すると妊娠32週以後には胎児動脈管が収縮することが明らかになった.妊娠末期にこの収縮が最も強くなり,1969年にArcillaが報告した胎児動脈管早期閉鎖の臨床第一例も満期出産前11日間のアスピリン大量服用例である22).
満期近くの胎仔動脈管がプロスタグランジンで開いているのと異なり,未熟児動脈管は一酸化窒素(NO)で開いている.この証明に使ったのはL-NAMEで,19日目の妊娠ラットに投与すると強い胎仔動脈管収縮を生じ,満期ラットでは収縮はわずかであった23).しかしL-NAMEは全身血管を強く収縮し,高血圧症を生じるので,未熟児動脈管開存症の治療には使えない.
1985年には大量のインドメサシンを満期前に親ラットに投与すると満期のラット胎仔動脈管がインドメサシンに対して収縮しなくなる不思議な現象を発見し,北海道大学から来た小西貴幸君(のちに旭川市立病院)が未熟な動脈管に対するインドメサシンの成熟抑制作用として1986年に日本新生児学会雑誌に発表24)- 24) 小西貴幸,門間和夫,高尾篤良:未熟な動脈管に対するインドメサシンの成熟抑制作用.日本新生児学会雑誌1986: 22: 430–435
したが,当時は全く注目されなかった.同じ現象が臨床でも生じて,1993年にMorton–Clymanの論文としてNew England Journal of Medicineに発表された25).この現象は未熟児動脈管開存症の大問題となり,その機序はYokoyama–Minamisawaの研究26)で解明されているが,私達は1986年論文執筆時にはこの現象の重要性を認識できず,全く理論づけできなかったので英文論文にするのをためらい,日本語の論文にしたのが悔やまれる.
2000年代には器官,組織により異なる複数のプロスタグランジン受容体の存在が判明し,それに対する特異的アゴニストとアンタゴニストが開発された.これらを用いて実験すると動脈管平滑筋のPGE受容体はEP4であった27).
1993年Nakanishi14)は酸素による動脈管収縮の分子機序をグリベンクラミドと兎胎仔動脈管切片を使って世界で初めて証明したが,私がグリベンクラミドでラット胎仔動脈管収縮を証明できたのはその18年後であった.時間がかかった理由は,初め(1994年),2回目(2001年)ともグリベンクラミドの胎盤不移行性に気づかず,グリベンクラミドを親に投与して胎仔の動脈管収縮がないとの結果を得たためである.2010年には第一世代のスルホニル尿素薬であるヘキストラスチノンを親ラットに胃内注入して胎仔動脈管の強い収縮を得た.文献を調べてみると,1991年と1994年に,ヘキストラスチノンは胎盤をよく通過するがグリベンクラミドはほとんど通過しないとのLanger達の論文28)が米国産婦人科学会雑誌に出ていた.私のそれまでの実験でラット胎仔動脈管収縮を証明した経口投与薬60種は全て胎盤通過性がよい薬剤ばかりで,胎盤通過性のない経口投与薬薬は初めてであった.推定するに1960年代初頭に第一世代のSU薬が妊娠中に使われて高率に胎児死亡を起こした29, 30)ので,製薬会社はisotopeを使ってスクリーンして胎盤通過性の少ない第二世代のSU薬を開発したのであろう.2012年にイソフルラン麻酔下に妊娠ラットを開腹してグリベンクラミドを胎仔に直接注射すると,投与量依存性に強い動脈管収縮が生じた(Fig. 3B).この実験法は当時早稲田大学理工学術院の教授をされていた南沢教授と大学院生の横田知大君(現UCLA)と梶村いちげさん(現東京慈恵医科大学)に教わった.スルホニル尿素薬によるラット胎仔動脈管収縮は19日目,21日目で同じように生じるが,19日目でやや弱い.
スルホニル尿素薬による動脈管収縮の臨床上の第一の問題は,1960年代に妊娠糖尿病に投与されて動脈管収縮により胎児死亡を起こしたか?という問題である.ヘキストラスチノンとクロルプロパミドは第一世代のSU薬で,クロルプロパミドは1962~63年に妊娠糖尿病に投与され63%に胎児死亡を生じたと南ア連邦から報告され29)- 29) Jackson WPU, Campbell GD, Notelovitz M, et al: Tolbutamide and chlorpropamide during pregnancy in human diabetes. Diabetes 1962; 11 (Suppl): 98–101
,1964年には英国でヘキストラスチノンとクロルプロパミドの妊娠後半の投与で胎児死亡と周産期死亡が確認された30).いずれの胎児と新生児の剖検でも死亡機序は不明であったが,それ以後スルホニル尿素薬は妊娠中には禁忌となった.この事件当時(1962年)には胎児動脈管早期閉鎖(第一例報告が1969年)は知られていなかった.
ヘキストラスチノン臨床投与量(10 mg/kg)を妊娠ラットに経口投与して全身急速凍結法で胎仔動脈管を調べると2~4時間後に軽度の動脈管収縮(約30%の内径短縮)を生じる.その10倍,100倍量を投与すると収縮は強くなり,内径は70%, 95%縮小する.アスピリン,イブプロフェンなどの非ステロイド抗炎症薬は臨床量で胎児動脈管の収縮を生じ,スルホニル尿素薬との併用で収縮は相加的に強くなる(Fig. 3C, D).したがって,1960年代に生じた胎児死亡は妊娠中に糖尿病薬としてスルホニル尿素薬を服用中に発熱,頭痛,腰痛などで服用した非ステロイド抗炎症薬が胎児動脈管閉鎖を生じたことによると推定される.
臨床上の第二の問題はグリベンクラミドを未熟児動脈管開存症の治療に使えるか?である.グリベンクラミドの成人糖尿病治療の常用量は0.1 mg/kg,遺伝子Kir異常による新生児糖尿病の小児で1 mg/kgである31).1 mg/kgのラット21日目胎仔動脈管収縮作用は約20~30%(内径減少率)であり,10 mg/kgで60%,100 mg/kgで95%(ほぼ完全閉鎖)である.(Fig. 3A, B)インドメサシンとグリベンクラミドの動脈管収縮作用の動脈管収縮作用は19日(preterm)でも21日(near-term)でも相加的である(Fig. 3C, D).したがって,未熟児動脈管開存症ではインドメサシンをまず使い,その後に動脈管がまだ開いている場合に1 mg/kgを投与することになるだろう.なお,副作用について生後1日の母ラット飼育中の新生仔でグリベンクラミド1, 10, 100, 1,000 mg/kgを胃内注入して観察したが,100 mgの大量投与では30 mg/dLの低血糖が3日間続いたが回復してほぼ全例生存し,体重増加も対照群と差がなく,肝機能,腎機能も正常であった(Fig. 4A, B).この実験は向かいの研究室の羽山恵美子理学博士(女子医科大学非常勤講師)に手伝っていただいた.
グリベンクラミド投与後3~6時間の低血糖に対する5%, 10%, 20%ブドウ糖胃内注入の効果を調べると,グリベンクラミド非投与群ではブドウ糖1 gm/kgで+80 mg/dLの血糖値上昇が30分から2時間後まで生じ,グリベンクラミド100 mg/kg投与後にはブドウ糖1 gm/kgおよび2 gm/kg投与後血糖値上昇はそれぞれ+20 mg/dLおよび+30 mg/dLであった(Fig. 4C, D).したがって,大量のブドウ糖を補給すれば大量のグリベンクラミドの使用が可能と推定される.この実験ではラット新生仔の薬剤胃内注入に未熟児用の3Fアトムチューブを活用した.
酸素センサーの主役であるH2O2により閉じるカリウムチャネル(VDKC)のinhibitorは4-アミノピリジン(4AP)で,動脈管収縮作用があるはずであるが,4APは毒性が強く充分量をラットに投与すると全て死亡するので,薬としては使えない.
KATPチャネルのopenerがジアゾキシドで,新生児の高インスリン性低血糖の治療に用いられている.ジアゾキシドはグリベンクラミドとは逆にKATPチャネルを開くため動脈管作用があるはずで,ラット胎仔と新生仔で実験すると,中程度の胎仔新生仔の動脈管拡張作用があった.同じKATPチャネルのopenerであるPinacidilにも動脈管拡張作用があった.この結果は共同研究者豊島勝昭博士(神奈川こども医療センター新生児科医長)が新生児内分泌研究会で2011年に発表し32)- 32) 豊島勝昭,門間和夫,中西敏雄:ジアゾキサイドの動脈管拡張作用.第5回新生児内分泌研究会学術集会(東京コンファレンスセンター).2011年9月17日
,同じ年にトルコから臨床の第1例が国際誌に報告された33).その後我が国でも複数の臨床例が見つかった.これによりKATPチャネルが動脈管で生理的に働いていることが裏づけられた.
謝辞Acknowledgments
本稿の実験は全て東京女子医科大学心研地下の共同実験室で行われました.研究費は,2001年の定年まで科研費があり,定年後は実験室と同じ建物の2階にある日本心臓血圧研究振興会で定年前に積み立てた研究基金から補充し,定年後数年で積立金が枯渇した後は自前で研究基金へ寄付をして実験費用としました.2014~15年には中西敏雄教授と石井徹子講師の動脈管研究費も使わせていただきました.40年に及ぶ動脈管研究を経て感謝したいのは,大部分が故人となられましたが,東京大学,UCLA,東京女子医科大学で御指導お世話をいただいた先生方です.次に,お世話になった東京女子医科大学心研実験室の職員の方々と,いつも協力してくれた家内に感謝します.嬉しいことに,2年前に国際学会で逢ったClyman教授によると,Rudolph教授は御健在で,今も大学で仕事をなさっているそうです.また2011年発行のPediatrics 22版はご子息のColin Rudolph教授(専門は小児消化器病学)と一緒に編集していますし,2016年1月のCirculationのご自分が査読をした論文について編集者へのLetter34)(健筆です!)を寄せておられます.また,藤原教授の年賀状によると,Adams教授は目を悪くされたが御長寿を楽しまれているとのことです.
利益相反
本稿について,開示すべき利益相反(COI)はない.
引用文献References
1) Vane JR: Inhibition of prostaglandin synthesis as a mechanism of action for aspirin-like drugs. Nat New Biol 1971; 231: 232–235
2) Curtis-Prior PB (ed): Prostaglandins: Biology and chemistry of prostaglandins and related eicosanoids. Churchill Livingstone, Edinburgh London, 1988
3) Moss AJ, Adams FH (eds): Heart Disease in infants, children and adolescents. Baltimore, The Williams & Wilkins Co., 1968
4) Fujiwara T, Maeta H, Chida S, et al: Artificial surfactant therapy in hyaline-membrane disease. Lancet 1980; 315: 55–59
5) Rudolph CD, Rudolph AM, et al (eds): Rudolph’s Pediatrics. 22nd ed. McGraw-Hill Co., 2011
6) Takahashi M, Newburger JW: Kawasaki Disease, in Allen HD, Driscoll DJ, Shaddy RE, et al (eds): Moss and Adams Heart Disese in Infants, Children, and Adolescents. Philadelphia, Wolters Kluwer/Lippincott Williams & Wilkins, 2008, pp 1242–1256
7) Yokoyama U, Minamisawa S, Ishikawa Y: Regulation of vascular tone and remodeling of the ductus arteriosus. J Smooth Muscle Res 2010; 46: 77–87
8) Rudolph AM: Congenital Diseases of the Heart. 3rd ed. Chichester, UK, Willey-Blackwell, 2009, pp115–147
9) Clyman RI: Mechanisms regulating the ductus arteriosus. Biol Neonate 2006; 89: 330–335
10) Hörnblad IP: Effect of oxygen and umbilical cord clamping on closure of the ductus arteriosus in the guinea-pig and the rat. Studies on closure of the ductus arteriosus. VI. Acta Physiol Scand 1969; 76: 58–66
11) Sharpe GL, Thalme B, Larson KS: Studies on closure of the ductus arteriosus XI. Ductal closure in utero by a prostaglandin synthetase inhibitor. Prostaglandins 1974; 8: 363–368
12) Friedman F, Hirschklau MJ, Printz MP, et al: Pharmacologic closure of patent ductus arteriosus in the premature infants. N Engl J Med 1976; 295: 526–529
13) Heyman MA, Rudolph AM, Silverman NH: Closure of the ductus arteriosus in premature infants by inhibition of prostaglandin synthesis. N Engl J Med 1976; 295: 530–533
14) Nakanishi T, Hong G, Hagiwara N, et al: Mechanisms of oxygen-induced contraction of ductus arteriosus isolated from the fetal rabbit. Circ Res 1993; 72: 1218–1228
15) Tristani-Firouzi M, Reeve H, Tolarova S, et al: Oxygen-induced constriction of rabbit ductus arteriosus occurs via inhibition of a 4-aminopyridine- voltage-sensitive potassium channel. J Clin Invest 1996; 98: 1959–1965
16) Elliott RB, Starling MB, Neutze JM: Medical manupulation of the ductus arteriosus. Lancet 1975; 305: 140–142
17) Momma K, Takeuchi H: Constriction of fetal ductus arteriosus by non-steroidal anti-inflammatory drugs. Prostaglandins 1983; 26: 631–643
18) Momma K, Hagiwara H, Konishi T: Constriction of fetal ductus arteriosus by non-steroidal anti-inflammatory drugs: Study of additional 34 drugs. Prostaglandins 1984; 28: 527–536
19) Momma K, Takao A: Transplacental cardiovascular effects of four popular analgesics in rats. Am J Obstet Gynecol 1990; 162: 1304–1310
20) Momma K: Fetal and neonatal ductus arteriosus, in Cutis-Prior P (ed): The Eicosanoids. The John Wiley & Sons, 2004, pp 569–581
21) Momma K, Takao A: In vivo constriction of the ductus arteriosus by nonsteroidal anti-inflammatory drugs in near-term and preterm fetal rats. Pediatr Res 1987; 22: 567–572
22) Arcilla RA, Thilenius OG, Ranninger K: Congestive heart failure from suspected ductal closure in utero. J Pediatr 1969; 75: 74–78
23) Momma K, Toyono M: The role of nitric oxide in dilating the fetal ductus arteriosus in rats. Pediatr Res 1999; 46: 311–315
24) 小西貴幸,門間和夫,高尾篤良:未熟な動脈管に対するインドメサシンの成熟抑制作用.日本新生児学会雑誌1986: 22: 430–435
25) Norton ME, Merrill J, Cooper BAB, et al: Neonatal complications after the administration of indomethacin for preterm labor. N Engl J Med 1993; 329: 1602–1607
26) Yokoyama U, Minamisawa S, Quan H, et al: Chronic activation of the prostaglandin receptor EP4 promotes hyaluronan-mediated neointimal formation in the ductus arteriosus. J Clin Invest 2006; 116: 3026–3034
27) Momma K, Toyoshika K, Takeuchi D, et al: In vivo constriction of fetal and neonatal ductus arteriosus by a prostanoid EP4-receptor antagonist in rats. Pediatr Res 2005; 58: 971–975
28) Elliott BD, Schenker S, Langer O, et al: Comparative placental transport of oral hypoglycemic agents in humans: A model of human placental drug transfer. Am J Obstet Gynecol 1994; 171: 653–660
29) Jackson WPU, Campbell GD, Notelovitz M, et al: Tolbutamide and chlorpropamide during pregnancy in human diabetes. Diabetes 1962; 11 (Suppl): 98–101
30) Malins JM, Cooke AM, Pyke DA, et al: Sulphonylurea drugs in pregnancy. BMJ 1964; 2: 187
31) Pearson ER, Flechtner I, Norstad PR, et al: Switching from insulin to oral sulfonylureas in patients with diabetes due to Kir 6.2 mutations. N Engl J Med 2006; 355: 467–477
32) 豊島勝昭,門間和夫,中西敏雄:ジアゾキサイドの動脈管拡張作用.第5回新生児内分泌研究会学術集会(東京コンファレンスセンター).2011年9月17日
33) Demirel F, Unal S, Cetin II, et al: Pulmonary hypertension and reopening of the ductus arteriosus in an infant treated with diazoxide. J Pediatr Endocrinol Metab 2011; 24: 603–605
34) Rudolph AM: Letter by Rudolph regarding article, “Reduced fetal cerebral oxygen consumption is associated with smaller brain size in fetuses with congenital heart disease”. Circulation 2016; 133: e7