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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(4): 261-269 (2016)
doi:10.9794/jspccs.32.261

ReviewReview

動脈管薬の実験40年Experimental Study of the Pharmacological Manipulation of the Fetal Rat Ductus Arteriosus over 40 Years

東京女子医科大学循環器小児科Division of Pediatric Cardiology, Heart Center, Tokyo Women’s Medical University ◇ Tokyo, Japan

発行日:2016年7月1日Published: July 1, 2016
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動脈管は胎生期に特有の血管で出生後肺循環の確立と同時に速やかに閉鎖する.生後に閉鎖しないと動脈管開存症となる.新生児動脈管の生理的閉鎖機序は酸素によることが1950年までに確定し,1973年にはプロスタグランジンの動脈管拡張作用,1974年には非ステロイド性抗炎薬の動脈管収縮作用が発見された.未熟児動脈管開存症の閉鎖薬として1976年にインドメサシンが使われ,同年に私が始めた全身急速凍結法実験の結果から,その後イブプロフェン,アセトアミノフェンが使われてきた.1993年に糖尿病薬スルホニル尿素薬のグリベンクラミドが動脈管平滑筋KATPチャネルを介して兎胎仔動脈管切片を収縮することが中西敏雄教授により発見された.その第一世代ラスチノン,クロルプロパミドは1960年代初頭に妊娠糖尿病に使用され,高率の胎児死亡を生じた.私の実験では大量投与でラット胎仔動脈管は閉鎖するが,臨床量での動脈管収縮は軽度なので,妊娠糖尿病の経過中に解熱剤,鎮痛剤の併用で動脈管が閉鎖して胎児死亡を起こしたと推定される.グリベンクラミドの動脈管収縮作用はラット胎仔実験上用量依存性で,未熟胎仔の収縮は成熟胎仔よりやや弱い.臨床常用量(1 mg/kg)では胎仔動脈管内径は30%縮小し,大量投与(100 mg/kg)で胎仔動脈管は完全に閉鎖する.グリベンクラミドは親ラット保育中の生後1日のラット新生仔に大量胃内投与しても低血糖以外の副作用が全くないので,低血糖予防にブドウ糖を併用すればインドメサシン効果不十分例の未熟児動脈管閉鎖薬になるだろう.

Since 1976, patent ductus arteriosus (DA) in the premature infants has been treated with cyclooxygenase inhibitors with some success. In 1993, Nakanishi discovered that DA strips in rabbit fetuses could be constricted with glibenclamide, an anti-diabetic sulfonylurea drug. In fetal rats with direct fetal administration and whole-body freezing, glibenclamide constricts the DA dose-dependently. In the near-term fetus, DA constriction is mild and the inner diameter was shortened up to 30% with 1 mg/kg glibenclamide (a clinical dose for children with diabetes with Kir 6.2 mutations). The fetal DA closes completely with 100 mg/kg glibenclamide. Following the administration of indomethacin, glibenclamide induced the same additional DA constriction in both near-term and preterm fetuses. In 1-day-old neonatal rats under maternal feeding, orogastric administration of large doses (up to 100 mg/kg) of glibenclamide induced hypoglycemia over 3 days with blood glucose levels of about 30 mg/dL. All of the neonates showed intact survival with good body weight gain and normal blood parameters. These findings suggest that glibenclamide at doses of 1 mg/kg and lhigher, with concomitant administration of glucose to prevent hypoglycemia, is useful for the closure of patent DA in the premature infants following unsuccessful treatment with indomethacin.

Key words: ductus arteriosus; patent ductus arteriosus in premature infant; sulfonylurea; glibenclamide

はじめに

動脈管開存症に対する動脈管収縮薬の開発は英国の薬理学者John Vaneによるアスピリンの抗炎症作用とプロスタグランジンの生理作用の発見1)(1971年,1982年のNobel賞)に続く爆発的なプロスタグランジンの薬理作用の解明(1971~75)2)で始まった.私は動脈管薬の動物実験を1976年から2016年まで40年続けたが,2015年7月の本学会功労賞受賞を記念して40年の動脈管薬研究をReviewする.

循環器小児科基礎研究の事始め

私の循環器小児科基礎研究は小児科医になって5年後から3年間のカリフォルニア大学UCLA Section of Pediatric CardiologyのResearch Fellow(1966~69)で始まった.UCLA医学部はhigh levelで全米Best 5に入るといわれ,私がお顔を記憶する方では,その後NOの発見で1998年Nobel賞を受けた薬理学の色の浅黒いLouis Ignarro教授などNobel賞級の複数の教授を擁していた.UCLA循環器小児科は優れた教育者の循環器部門の主任教授Forrest Adams以下,Adams教授より5歳年上の臨床家Arthur Moss教授(ねじれた関係の小児科全体の主任教授),若い元気なAssociate Professor 1人,Assistant Professor 3人,Clinical Fellow 3人,Research Fellow 5~6人を擁する,小児科の中でも突出して充実した部門で,その高いレベルと実力はMoss–Adamsの小児心臓学書1968年初版3)に結実している.Moss教授は実験を行わず臨床研究に専念していたが,Adams教授以下ほかのStaffは全て臨床と基礎研究を両立させていた.私はLinde助教授(1965年東京大学客員教授,のち南カリフォルニア大学教授)とGoldberg助教授(のちアリゾナ大学教授,小児心臓超音波学の第一人者)の肺循環の研究グループに属し,3年間で肺循環の実験で3論文,脾臓症候群の調律異常で2論文を書いた.主任のAdams教授は10年以上,週1日を動物実験日に決めて隣の実験室で自ら手を汚して羊で未熟児肺硝子膜症(surfactant)の困難な研究をしていた.東北大学小児科から藤原哲郎先生(のちの岩手医科大学教授)が大学院卒業の次年1962年から2年,66年から3年来てAdams教授の右腕となって研究を助けていた.事実その研究はAdams教授の数年後の退任までには結実せず,研究を引き継いだ藤原先生が1970~79年東北大学と秋田大学で10年研究を続けて完成した4).隣町のカリフォルニア大学サンフランシスコ校ではAbe Rudolph教授(のち教科書Pediatrics5)の編著者)がAdams教授と同様,週1日を実験日と決めて,国の内外から来たFellowを相手に自ら羊で胎児,新生児循環の実験をして目覚ましい成果をあげていた.Adams教授の若手StaffとFellow教育の成果は目覚ましく,当時のAssociate Professor, Assistant Professor, Clinical Fellowの7人の全てが優れた研究を続けて,その後10年で米国中西部の大学教授になった.東京都出身,インディアナ大学医学部卒で,のちロサンゼルス小児病院(南カリフォルニア大学)で川崎病研究の第一人者となったMike Takahashi教授6)(2年前よりシアトル小児病院)は,私の渡米直後の半年間,同じ実験室のResearch Fellow同期生で,公私ともにお世話になった.Adams教授,Rudolph教授の実像は帰国後の私の目指す研究者像となった.

動脈管収縮機序

出生後の動脈管収縮の複雑な分子機序は現在この方面の研究の第一人者である横浜市立大学医学部循環制御医学横山詩子準教授と東京慈恵医科大学細胞生理学南沢享教授によりFig. 1に要約されている7).即ち動脈管収縮拡張因子として,平滑筋細胞へ細胞外から来る外因性の酸素,プロスタグランジン(PGE2),一酸化窒素(NO),エンドセリン(ET-1)があり,平滑筋細胞内では酸素増加に始まる多くの分子と細胞膜チャネルが働いている.これらの生理活性分子,チャネルはいずれも動脈管以外の組織,臓器にも存在して生理的役割をもつので,臨床上動脈管薬は副作用を解決できるもののみとなる.現在の未熟児動脈管収縮薬は動脈管平滑筋細胞の外から拡張性に働くプロスタグランジン(PGE2)の生成を抑制する薬剤(COX inhibitor,インドメタシンなど)のみである.この図のなかで酸素の増加は酸素センサー(ATP, H2O2)増加により複数あるカリウムチャネル(KATP,VDKCなど)が閉鎖して収縮の引金となる.

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Fig. 1 Molecular mechanisms of the constriction of the ductus smooth muscle cell by oxygen at birth

Modified and cited with the permissions of the authors from Reference 7). K: potassium ion, Ca2+: calcium ion, O2: oxygen, O2: superoxide anion, H2O2: hydrogen peroxide, ATP: adenosine triphosphate, KATP: ATP-dependent potassium channel, VDCK: voltage-dependent potassium channel, VDCC: voltage-dependent calcium channel, SOC: store-operated calcium channel, Mt: mitochondria, SR/ER: sarco/endoplasmic reticulum, IP3: inositol triphosphate, IP3R: IP3 receptor, PLC: phospholipase C, MLCK: myosin light chain kinase, CYP: cytochrome P450.

酸素による動脈管収縮

出生時の動脈管収縮が肺呼吸の確立による酸素分圧の上昇によることは1950年までに確定し,羊胎仔と新生仔で動脈管収縮の実験を行ったRudolph8)により定量的に研究,記載された.Clyman9)(UCSF)はその研究を引き継いで未熟児動脈管の臨床と基礎の研究を行い,旭川医科大学から梶野先生もその基礎研究に参加した.私の実験系であるラットはヒトや羊と異なり,生後の動脈管収縮が非常に早く,非麻酔帝王切開出生後の新生仔をroom air,室温34度で育てると,7~8分で呼吸が確立してチアノーゼがなくなり,SpO2が96~99%となって動脈管収縮が始まり,生後15分で内径が胎生期の35%,30分で15%になり,90分で完全に閉じる.Hoernblad10)(Karolinska, 1967~73)はラット胎仔と新生仔の動脈管研究を彼らの開発した全身急速凍結法(私もこれを継承した)で行い,ラット新生仔の動脈管閉鎖がヒトや羊より速やかで環境温度依存性であること,即ち低温では閉鎖が遅れることなど,動物実験で動脈管収縮の基礎的なデータを10論文で報告した.その後,北米から同じ研究室に加わったSharpe11)がアスピリン,インドメサシンのラット動脈管収縮作用を1974年に臨床に先駆けて報告した.臨床の報告はFreedman12)(当時UCSD,後UCLA),Heyman et al.13)(1976)に始まる.

酸素による動脈管収縮の分子メカニズムは1993年NakanishiのCirculation Researchの論文14)で明らかになった.即ち酸素が動脈管平滑筋のミトコンドリア内でATP産生を増やし,KATPチャネルを閉じるのがその後の一連の収縮機序の始まりであることを証明した.この研究は中西敏雄教授が中国からの留学生,顧虹さん(現女子医科大学非常勤講師,北京安貞医院小児科)を助手に全てoriginalに行って完成した.その3年あとで,Archerら15)がKATPチャネルよりもKvチャネル(VDKC)の方が酸素感受の役割が大きいと報告し,その後のmolecular studyでも酸素による動脈管収縮ではKvチャネルが主役でKATPチャネルは補助役との結果が報告されている.KATPチャネルを遮断するのがグリベンクラミドであり,KVチャネルを遮断するのが4-amino-pyridine(4AP)である.

プロスタグランジン(PG)による動脈管拡張

1970年代初頭に羊を使って世界の3か所で活発な動脈管薬の研究が行われていた.即ちトロント小児病院のOlley, Coceani, ニュージーランド・オークランドにあるグリーンレーン病院のStarling, Elliott16),前述のUCSFである.グリーンレーン病院におけるPGEによる肺動脈閉鎖新生児治療成功のニュースは,1974年に現地の新聞に報道されて世界をかけめぐり,論文は1975年にLancet11)に掲載された.その数年あとプロスタグランジン国際学会で発表していたDr. Starlingは言語容貌とも脳性小児麻痺後遺症様に見受けられた.身体障害を持ちながら優れた研究をされた小児科医には,(ポリオで?)片足を引きずる小児免疫学研究の第一人者ミネソタ大学のRobert A. Good教授がおられた.我が国では小野薬品株式会社が1970年代初頭から各種プロスタグランジンの製造製品化をすすめており,1976年にはその臨床応用が始まった.

1976年より,当時和歌山県立医科大学から心研小児科に研修にきていた上村茂君(現昭和大学横浜北部病院名誉教授)と私の動脈管実験が始まった.はじめモルモットを使ったが妊娠期間が80日と長く,胎仔数がばらばらで実験しにくく,アドレナリン,ノルアドレナリンで動脈管が弱い収縮を起こすことを確かめるだけで終わった.次に兎で全身急速凍結法を使ってPGE1の新生仔で収縮した動脈管の拡張作用を調べ,生後3時間で収縮した動脈管はPGE1で100%拡張するのに,6時間,12時間後には次第に拡張性が失われること2),注射に比べて経口投与ではやや効果が少ないが,作用があることなどの結果を得て,1979年東京で開かれた世界周産期学会の動脈管シンポジウムでRudolph教授と一緒に発表できた.それ以後Rudolph教授とは学会で顔を合わせると挨拶する仲になり,1974年初版の彼の主著Congenital Diseases of the Heartの改訂を注文していたら,2001年に出た改訂版を贈ってくれたので,秘蔵している.PGE1の経口投与法はこの国際学会の私の発表後英国でSilove教授が臨床に応用して論文を書いている.兎は胎仔が大きくて凍結ミクロトームで切るのが困難で,胎仔数がばらばらで実験しにくいため1年でやめてラットに替えた.ラットは妊娠期間が21.5日で短く,1腹の胎仔数も安定して12匹前後でやりやすい.PGE1, PGE2とも動脈管拡張作用が強く,現在でも重症新生児で使われる.1976年に発見されたプロスタサイクリン(PGI2)とその誘導体の動脈管拡張作用は弱く,PGEの1/1000であるが,肺血管拡張作用が強いので肺高血圧症の治療に用いられている.

PGEは胎盤で産生され,胎児の血中濃度は母親のそれの数倍高く,胎児の動脈管拡張の一因となっている.PGEは肺毛細血管を1回通過すると90%不活化されるので,出生後の新生児では胎盤からの供給停止と肺循環の確立により,その血中濃度は急速に低下する.これと血中酸素増加により新生児動脈管が閉鎖する.

抗炎症薬の動脈管収縮作用

アスピリン,インドメサシンなど抗炎症薬は炎症時のプロスタグランジン合成酵素cyclooxygenase(COX)を阻害して,抗炎症作用を生じる.1970年代後半にはアスピリンをはじめ各種の抗炎症剤による未熟児動脈管開存症の治療例が報告されたが,1976年のインドメサシン治療の報告12, 13)とGersony達の米国多施設共同研究(1983年)を経てインドメサシンが広く用いられてきた.この頃我が国では50種にのぼる抗炎症薬が市販されており,私は研修に来ていた西原重剛君(熊本大学),竹内東光君(群馬大学),萩原温久君(川崎医科大学)に手伝っていただき,その全てについて2年かけてラットで胎仔動脈管収縮作用を調べた18–20).通常の酸性抗炎症薬には全て投与量依存性に動脈管収縮作用があり,臨床常用量ではアセトアミノフェン,アスピリンで10~20%程度の弱い収縮,インドメサシンで30%程度の収縮,イブプロフェンではより強い60%程度の収縮を生じた19)Fig. 2).その後このデータをもとに欧州でイブプロフェンが未熟児動脈管開存症の治療に使われ始めた.その後の研究でcyclooxygenaseに生理的発現性のCOX1と炎症で活性化するCOX2の2種類があり,それぞれの選択的疎害薬が開発された.私もそれぞれの動脈管収縮作用を調べたが,両者ともに動脈管収縮作用があり,特にCOX2阻害薬に強かった.

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Fig. 2 Constriction of the fetal ductus arteriosus following orogastric administration of clinical doses of four common analgesics to the near-term pregnant rat

抗炎症薬のラット胎仔動脈管収縮を調べると満期(21日目)と満期前(19日目)では動脈管収縮作用に大差があり,満期で動脈管収縮が強く,満期前では収縮がほとんどなかった21).ヒトでも同じ現象があり,妊娠後半の流産止めにインドメサシンを使用すると妊娠32週以後には胎児動脈管が収縮することが明らかになった.妊娠末期にこの収縮が最も強くなり,1969年にArcillaが報告した胎児動脈管早期閉鎖の臨床第一例も満期出産前11日間のアスピリン大量服用例である22)

満期近くの胎仔動脈管がプロスタグランジンで開いているのと異なり,未熟児動脈管は一酸化窒素(NO)で開いている.この証明に使ったのはL-NAMEで,19日目の妊娠ラットに投与すると強い胎仔動脈管収縮を生じ,満期ラットでは収縮はわずかであった23).しかしL-NAMEは全身血管を強く収縮し,高血圧症を生じるので,未熟児動脈管開存症の治療には使えない.

1985年には大量のインドメサシンを満期前に親ラットに投与すると満期のラット胎仔動脈管がインドメサシンに対して収縮しなくなる不思議な現象を発見し,北海道大学から来た小西貴幸君(のちに旭川市立病院)が未熟な動脈管に対するインドメサシンの成熟抑制作用として1986年に日本新生児学会雑誌に発表24)したが,当時は全く注目されなかった.同じ現象が臨床でも生じて,1993年にMorton–Clymanの論文としてNew England Journal of Medicineに発表された25).この現象は未熟児動脈管開存症の大問題となり,その機序はYokoyama–Minamisawaの研究26)で解明されているが,私達は1986年論文執筆時にはこの現象の重要性を認識できず,全く理論づけできなかったので英文論文にするのをためらい,日本語の論文にしたのが悔やまれる.

2000年代には器官,組織により異なる複数のプロスタグランジン受容体の存在が判明し,それに対する特異的アゴニストとアンタゴニストが開発された.これらを用いて実験すると動脈管平滑筋のPGE受容体はEP4であった27)

糖尿病薬スルホニル尿素薬(SU)

1993年Nakanishi14)は酸素による動脈管収縮の分子機序をグリベンクラミドと兎胎仔動脈管切片を使って世界で初めて証明したが,私がグリベンクラミドでラット胎仔動脈管収縮を証明できたのはその18年後であった.時間がかかった理由は,初め(1994年),2回目(2001年)ともグリベンクラミドの胎盤不移行性に気づかず,グリベンクラミドを親に投与して胎仔の動脈管収縮がないとの結果を得たためである.2010年には第一世代のスルホニル尿素薬であるヘキストラスチノンを親ラットに胃内注入して胎仔動脈管の強い収縮を得た.文献を調べてみると,1991年と1994年に,ヘキストラスチノンは胎盤をよく通過するがグリベンクラミドはほとんど通過しないとのLanger達の論文28)が米国産婦人科学会雑誌に出ていた.私のそれまでの実験でラット胎仔動脈管収縮を証明した経口投与薬60種は全て胎盤通過性がよい薬剤ばかりで,胎盤通過性のない経口投与薬薬は初めてであった.推定するに1960年代初頭に第一世代のSU薬が妊娠中に使われて高率に胎児死亡を起こした29, 30)ので,製薬会社はisotopeを使ってスクリーンして胎盤通過性の少ない第二世代のSU薬を開発したのであろう.2012年にイソフルラン麻酔下に妊娠ラットを開腹してグリベンクラミドを胎仔に直接注射すると,投与量依存性に強い動脈管収縮が生じた(Fig. 3B).この実験法は当時早稲田大学理工学術院の教授をされていた南沢教授と大学院生の横田知大君(現UCLA)と梶村いちげさん(現東京慈恵医科大学)に教わった.スルホニル尿素薬によるラット胎仔動脈管収縮は19日目,21日目で同じように生じるが,19日目でやや弱い.

スルホニル尿素薬による動脈管収縮の臨床上の第一の問題は,1960年代に妊娠糖尿病に投与されて動脈管収縮により胎児死亡を起こしたか?という問題である.ヘキストラスチノンとクロルプロパミドは第一世代のSU薬で,クロルプロパミドは1962~63年に妊娠糖尿病に投与され63%に胎児死亡を生じたと南ア連邦から報告され29),1964年には英国でヘキストラスチノンとクロルプロパミドの妊娠後半の投与で胎児死亡と周産期死亡が確認された30).いずれの胎児と新生児の剖検でも死亡機序は不明であったが,それ以後スルホニル尿素薬は妊娠中には禁忌となった.この事件当時(1962年)には胎児動脈管早期閉鎖(第一例報告が1969年)は知られていなかった.

ヘキストラスチノン臨床投与量(10 mg/kg)を妊娠ラットに経口投与して全身急速凍結法で胎仔動脈管を調べると2~4時間後に軽度の動脈管収縮(約30%の内径短縮)を生じる.その10倍,100倍量を投与すると収縮は強くなり,内径は70%, 95%縮小する.アスピリン,イブプロフェンなどの非ステロイド抗炎症薬は臨床量で胎児動脈管の収縮を生じ,スルホニル尿素薬との併用で収縮は相加的に強くなる(Fig. 3C, D).したがって,1960年代に生じた胎児死亡は妊娠中に糖尿病薬としてスルホニル尿素薬を服用中に発熱,頭痛,腰痛などで服用した非ステロイド抗炎症薬が胎児動脈管閉鎖を生じたことによると推定される.

臨床上の第二の問題はグリベンクラミドを未熟児動脈管開存症の治療に使えるか?である.グリベンクラミドの成人糖尿病治療の常用量は0.1 mg/kg,遺伝子Kir異常による新生児糖尿病の小児で1 mg/kgである31).1 mg/kgのラット21日目胎仔動脈管収縮作用は約20~30%(内径減少率)であり,10 mg/kgで60%,100 mg/kgで95%(ほぼ完全閉鎖)である.(Fig. 3A, B)インドメサシンとグリベンクラミドの動脈管収縮作用の動脈管収縮作用は19日(preterm)でも21日(near-term)でも相加的である(Fig. 3C, D).したがって,未熟児動脈管開存症ではインドメサシンをまず使い,その後に動脈管がまだ開いている場合に1 mg/kgを投与することになるだろう.なお,副作用について生後1日の母ラット飼育中の新生仔でグリベンクラミド1, 10, 100, 1,000 mg/kgを胃内注入して観察したが,100 mgの大量投与では30 mg/dLの低血糖が3日間続いたが回復してほぼ全例生存し,体重増加も対照群と差がなく,肝機能,腎機能も正常であった(Fig. 4A, B).この実験は向かいの研究室の羽山恵美子理学博士(女子医科大学非常勤講師)に手伝っていただいた.

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Fig. 3 Construction of the fetal DA with intraperitoneal injection of glibenclamide

A: Cross-sections of the ductus arteriosus (DA) and aortic arch (Ao) in the fetal rat 1 h after direct intraperitoneal injection of glibenclamide in dimethylsulfoxide; C: Control, with injection of dimethylsulfoxide. G(1): glibenclamide 1 mg/kg. G(10): glibenclamide 10 mg/kg. G(100): glibenclamide 100 mg/kg. LPA: left pulmonary artery. RPA: right pulmonary artery. B: Constriction of the fetal ductus arteriosus by glibenclamide injected intraperitoneally to the fetal rat under general anesthesia with isoflurane and laparotomy of the pregnant rat. C and D: Combined effects of indometacin and glibenclamide in preterm (19th day) and near-term (21st day) fetal rats. Indomethacin (0.1, 1, or 10 mg/kg) was first administered orogastrically to the pregnant rat, then 3 h later, glibenclamide (1 mg/kg) was injected directly to the fetus. The ductus was studied 1h later. Glibenclamide constricted the ductus to the same degree in preterm and near-term fetuses.

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Fig. 4 Hypoglycemia in rat neonates with glibenclamide and treatment with glucose

A: Hypoglycemia in 1-day-old neonatal rats with orogastric glibenclamide under maternal feeding. B: Mortality and weight gain in the neonatal rats with glibenclamide. Mortality is shown as the number of deaths the over the total. Death occurred within 24 h of glibenclamide administration. 1,000 mg/kg glibenclamide was given to 12 rats and 2 died. Ten survivors showed good weight gain. C and D: Glucose tolerance test in 1-day-old rats. Glucose water (5%, 10%, or 20%) was administered to 1-day old rats under maternal feeding. Rats with administration of glibenclamide at 3 h before showed smaller rises and rapid falls of blood glucose (D).

グリベンクラミド投与後3~6時間の低血糖に対する5%, 10%, 20%ブドウ糖胃内注入の効果を調べると,グリベンクラミド非投与群ではブドウ糖1 gm/kgで+80 mg/dLの血糖値上昇が30分から2時間後まで生じ,グリベンクラミド100 mg/kg投与後にはブドウ糖1 gm/kgおよび2 gm/kg投与後血糖値上昇はそれぞれ+20 mg/dLおよび+30 mg/dLであった(Fig. 4C, D).したがって,大量のブドウ糖を補給すれば大量のグリベンクラミドの使用が可能と推定される.この実験ではラット新生仔の薬剤胃内注入に未熟児用の3Fアトムチューブを活用した.

酸素センサーの主役であるH2O2により閉じるカリウムチャネル(VDKC)のinhibitorは4-アミノピリジン(4AP)で,動脈管収縮作用があるはずであるが,4APは毒性が強く充分量をラットに投与すると全て死亡するので,薬としては使えない.

KATPチャネルopener

KATPチャネルのopenerがジアゾキシドで,新生児の高インスリン性低血糖の治療に用いられている.ジアゾキシドはグリベンクラミドとは逆にKATPチャネルを開くため動脈管作用があるはずで,ラット胎仔と新生仔で実験すると,中程度の胎仔新生仔の動脈管拡張作用があった.同じKATPチャネルのopenerであるPinacidilにも動脈管拡張作用があった.この結果は共同研究者豊島勝昭博士(神奈川こども医療センター新生児科医長)が新生児内分泌研究会で2011年に発表し32),同じ年にトルコから臨床の第1例が国際誌に報告された33).その後我が国でも複数の臨床例が見つかった.これによりKATPチャネルが動脈管で生理的に働いていることが裏づけられた.

謝辞Acknowledgments

本稿の実験は全て東京女子医科大学心研地下の共同実験室で行われました.研究費は,2001年の定年まで科研費があり,定年後は実験室と同じ建物の2階にある日本心臓血圧研究振興会で定年前に積み立てた研究基金から補充し,定年後数年で積立金が枯渇した後は自前で研究基金へ寄付をして実験費用としました.2014~15年には中西敏雄教授と石井徹子講師の動脈管研究費も使わせていただきました.40年に及ぶ動脈管研究を経て感謝したいのは,大部分が故人となられましたが,東京大学,UCLA,東京女子医科大学で御指導お世話をいただいた先生方です.次に,お世話になった東京女子医科大学心研実験室の職員の方々と,いつも協力してくれた家内に感謝します.嬉しいことに,2年前に国際学会で逢ったClyman教授によると,Rudolph教授は御健在で,今も大学で仕事をなさっているそうです.また2011年発行のPediatrics 22版はご子息のColin Rudolph教授(専門は小児消化器病学)と一緒に編集していますし,2016年1月のCirculationのご自分が査読をした論文について編集者へのLetter34)(健筆です!)を寄せておられます.また,藤原教授の年賀状によると,Adams教授は目を悪くされたが御長寿を楽しまれているとのことです.

利益相反

本稿について,開示すべき利益相反(COI)はない.

引用文献References

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32) 豊島勝昭,門間和夫,中西敏雄:ジアゾキサイドの動脈管拡張作用.第5回新生児内分泌研究会学術集会(東京コンファレンスセンター).2011年9月17日

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