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特定非営利活動法人日本小児循環器学会
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(3): 244-249 (2016)
doi:10.9794/jspccs.32.244

症例報告

肺動静脈瘻を伴う遺伝性毛細血管拡張症の新規遺伝子変異1女児例

1横浜市立大学附属病院小児循環器科

2国立循環器病研究センター研究所分子生物学部

3国立循環器病研究センター小児循環器科

4神奈川県立こども医療センター循環器内科

受付日:2015年12月8日
受理日:2016年3月31日
発行日:2016年5月1日
HTMLPDFEPUB3

症例は12歳女児.幼児期より鼻出血を繰り返し,母と母方祖父も鼻出血が多い.数年前から運動時の呼吸苦を認めており,近医で多血症を指摘されて精査目的に紹介受診した.左背部に連続性雑音を聴取し,胸部単純X線写真で左下肺野に結節影を認めたことから造影CT検査を施行し,左S1と左S9に異常血管病変を確認した.診断基準に基づき,遺伝性出血性毛細血管拡張症に伴う肺動静脈瘻と診断した.左S9の肺動静脈瘻に対してカテーテル塞栓術の適応と考え,コイル塞栓術を行い,完全閉塞に成功した.術後,運動時の呼吸苦は消失した.本人と母に施行した遺伝子解析の結果,endoglinENG)遺伝子に新規遺伝子変異IVS2-1G>C(c.220-1G>C)が同定され,本変異がHHT発症の原因遺伝子変異である可能性が示唆された.遺伝子変異と疾患関連性について今後の症例の蓄積が必要である.

Key words: hereditary hemorrhagic telangiectasia; pulmonary arteriovenous fistula; coil embolization; de novo mutation; endoglin

はじめに

遺伝性出血性毛細血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia: HHT)は皮膚粘膜の広範な毛細血管拡張と出血傾向を呈する常染色体優性遺伝の遺伝性疾患で,発症頻度は4万人に1人と言われている1)

.責任遺伝子としてendoglin(ENG),activin receptor-like kinase-1(ALK-1),mothers against decapentaplegic homolog 4(SMAD4)の3つが同定されている.

今回,私たちは肺動静脈瘻(pulmonary arteriovenous fistula: PAVF)を伴うHHTの新規ENG遺伝子変異例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

症例

症例

12歳,女児.

主訴

労作時呼吸困難,繰り返す鼻出血.

既往歴

喘息性気管支炎.

家族歴

同胞なし.母,母方祖父に以前から頻回の鼻出血既往があるが,いずれも精査せず.母は数年前から労作時呼吸困難を自覚していた.

常用薬

特記すべきことはない.

現病歴

小学校入学頃から毎日鼻出血を認めるようになった.また数年前からNYHA分類2度の労作時呼吸困難を認めており,体育のほとんどを見学していた.当院受診の2か月前に前医で多血症を指摘され,精査のため当院紹介受診した.

現症

身長140.8 cm,体重29.8 kg.体温36.9°C,血圧109/67 mmHg,脈拍81/分,呼吸数24/分,SpO2 89%(立位,大気下)95%(臥位,大気下).理学的診察では左背部に連続性雑音を認めた.また鼻粘膜に毛細血管拡張を認めた.腹部は平坦,軟で疼痛や圧痛は認めなかった.口腔内,眼瞼・眼球結膜,手指には毛細血管拡張は認めなかった.四肢にばち状指はなく,また神経学的異常所見は認めなかった.

検査所見

血算では赤血球が605×104/uL,Hbが15.3 g/dLと高値を認めた.血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)は22 pg/mL(正常値<38.3 pg/mL)であった.その他,生化学,凝固,呼吸機能検査では異常を認めなかった.心電図は正常洞調律で,心エコーでは肺高血圧所見はなかった.6分間歩行テストでは350 m(正常値500~700 m)と低下が認められ,歩行時にSpO2は大気下で82~85%に低下した.

画像所見

胸部単純X線写真上,左下肺野に円形の結節影を認めた(Fig. 1

).また胸部造影CTでは左S1及び左S9に異常血管を伴う境界明瞭な結節影を認めた(Fig. 1).大きさは左S1の結節影が7.0 mm,左S9の結節影が16 mm×20 mmであった.肝臓,消化管を含む腹腔内臓器に異常血管を疑う所見や腫瘤性病変はなかった.頭部単純MRIでは脳実質に異常信号域なく,異常血管を疑う所見はなかった(Fig. 2).肺動脈造影検査では,左上葉に流入動脈径1.9 mmで大きさが6.0 mm×5.0 mmのPAVFと,左下葉に流入動脈径5.4~6.0 mmで大きさが26 mm×29 mmのPAVFを1か所ずつ認めた(Fig. 3).大動脈及び気管支動脈から動静脈瘻への血流は認められなかった.心臓カテーテル検査では大動脈血のSaO2は大気下で93%と低下しており,Fick法による右→左シャント率は12%と推定された.右肺動脈では異常血管は認めなかったが,右肺動脈にコントラストを注入して行ったコントラストエコーは陽性であり,肉眼的に観察できない微小なPAVFの存在が示唆された.

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Fig. 1 Chest radiograph and contrast-enhanced computed tomography scan

A: Nodular shadow in the lower left lung field (arrow). B: Nodule with blood vessel measuring 7.0 mm in the left S1 (arrow). C: Nodule with blood vessel measuring 16×20 mm in the left S9.

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Fig. 2 Magnetic resonance imaging of the head revealing no abnormal findings

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Fig. 3 Pulmonary arteriography

A (right pulmonary artery): No abnormal findings. B (left pulmonary artery): Two pulmonary arteriovenous fistulas (arrows), one measuring 6.0×5.0 mm in the left S1 and another measuring 26×29 mm in the left S9.

経過

繰り返す鼻出血の既往,鼻粘膜の毛細血管拡張,PAVFの存在から,HHTに伴うPAVFと診断した.治療として,左S9のPAVFに対してカテーテル塞栓術の適応と考え,全身麻酔・人工呼吸管理下にコイル塞栓術を施行した.左肺動脈造影では左S9のPAVFは直径7.0 mmと15 mmの2つの瘤が連なる構造であった(Fig. 4A

).PAVFの血流量が多く,コイル留置困難が予測されたため,流入血管近位部に別に留置した6Fr wedge pressure catheterによる血流遮断を行いながら,Trufill DCS Orbit coil(Codman社製)を使用し塞栓を試みた.PAVF本体と流入血管に,最終的に25本のコイルを留置した.コイル留置後の肺動脈造影で瘻は造影されず,肺動脈からの血流の完全遮断を確認した(Fig. 4B).術中に出血や胸痛などの合併症は認めなかった.術後SpO2は98~99%に上昇し,体位や歩行による変動も消失した.HHTの精査のため,遺伝子解析を本人と母に施行した.遺伝子解析の結果,本人と母のENG遺伝子イントロン2(IVS2: intervening sequence 2)にこれまでに報告のない新規遺伝子変異IVS2-1G>C(c.220-1G>C)が同定された.これはイントロン2の3′側最末端塩基GをCに置換する一塩基置換であり,HHT Mutation Database2)において新規の遺伝子変異であった.またALK-1遺伝子,SMAD4遺伝子に変異は同定されなかった.

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Fig. 4 Coil embolization

A: A selective pulmonary artery wedge angiogram of left the S9 showing a pulmonary arteriovenous fistula (PAVF). B: The PAVF disappeared after coil embolization.

その後,PAVFの再発なく発症から2年が経過している.また同様の遺伝子変異を認めた母については,その後の精査で左S8に流入動脈径3.9 mmで大きさが11 mm×11 mmのPAVFを指摘された.脳動静脈瘻や肝動静脈瘻を含めたその他の内臓病変は認めなかった.PAVFに対しては,カテーテル塞栓術を施行され,労作時呼吸困難は消失した.母方祖父については家族の希望で遺伝子検査を含む精査は施行しなかった.

考察

HHTに伴うPAVFに対してコイル塞栓術を施行し,そのHHTに新規ENG遺伝子変異を認めた1女児例を報告した.

本症を臨床診断する場合には[1]反復性鼻出血,[2]皮膚・粘膜の毛細血管拡張,[3]内臓病変(胃腸毛細血管拡張,肺・脳・肝・脊髄動静脈奇形),[4]診断基準を満たす1親等の血縁者の存在,の4項目の中で3つ以上を有するものを「確実」,2つ以上を有するものを「疑い」,2つ未満を「可能性が低い」と診断する3)

.患者は,反復性鼻出血,鼻粘膜の毛細血管拡張,肺動静脈奇形を示しており,遺伝子検査前に3項目に合致しHHTと診断された.

HHTは常染色体優性遺伝の遺伝性疾患であり,責任遺伝子としてENGALK-1SMAD4の3つが同定されている.HHTはその責任遺伝子に応じてHHT1~HHT4と若年性腸管ポリープを合併する病型,合わせて5つに分類される.このうちHHT1はENG遺伝子が,HHT2はALK-1遺伝子が,若年性腸管ポリープを合併する病型はSMAD4遺伝子が,それぞれ責任遺伝子として確認されている4, 5)

.なおHHT3とHHT4は原因となっている遺伝子座は特定されているが,遺伝子は同定されていない.責任遺伝子の頻度としてはENGALK-1が大半を占め,全体ではENG遺伝子変異(61%)がALK-1遺伝子変異(37%)より多い.登録されたENGALK-1の突然変異はそれぞれ約400,330種類であるが,現在でも報告される変異の約3割は新規で増え続けている.また本邦での報告はわずかである3)

HHTは反復性鼻出血,皮膚・粘膜の毛細血管拡張,内臓病変(胃腸毛細血管拡張,肺・脳・肝・脊髄動静脈奇形)などの症状や徴候を認める疾患であるが,病因となる遺伝子異常によってそれらの症状や徴候の表現型に差異がみられる.Letteboerら6)

の報告によると,鼻腔粘膜の毛細血管拡張病変について,頻度はHHT1とHHT2のそれぞれの症例で95%と93%と高率で,遺伝子病型による差は認められなかった.しかしながら,発現した年齢は差異が認められ,HHT1では0~20歳で90%以上に認められるのに対して,HHT2では0~20歳で67%に認められ,発現する年齢はHHT1がより若年であった.一方,内臓病変について,PAVMの合併はHHT1で48.7%,HHT2で5.3%,脳動静脈瘻の合併はHHT1で14.6%,HHT2で1.3%に認めたとされており,明らかにHHT1において頻度が高かった7).反対に肝動静脈瘻の合併は,HHT1で7.6%に,HHT2で40.6%に認め,HHT2に頻度が高かったと報告されている7).なおHHT3,HHT4,若年性腸管ポリープを合併する病型の各表現型の頻度に関しては不明である.

HHT各遺伝子病型と重症度,予後の関連については,これまでのところまとまった報告はない.一般には多くの患者は鼻出血と毛細血管拡張のみの臨床症状や所見にとどまり,予後は悪くなく,正常者と同様の生存期間を得ることができるとされている8)

.一方,ENG遺伝子変異で高率に合併するPAVFを認めた場合,脳膿瘍の合併9)や思春期および妊娠中にはPAVFの急激な増大が危惧される.特に,妊娠中は血液量,心拍出量が増加するためPAVF破裂のリスクが高く10),PAVFの合併した症例は決して予後は良いとはいえない.本症例においてPAVFの存在は,若年女性であることを考慮すると,今後の臨床経過や予後に大きく影響すると考えられる.

本症例では新規ENG遺伝子変異が同定されたが,新たな変異が見つかった場合,その変異が疾患の原因となるかどうかを見極めることが重要である.本症例は若年で鼻粘膜の毛細血管拡張病変を認めたこと,PAVFを合併したこと,肝動静脈瘻の合併を認めなかったこと,若年性腸管ポリープを疑う症状や所見がなかったことは,END遺伝子異常の表現型として合致していた.また同様の遺伝子変異を持つ母については,小児期から頻回の鼻出血を認めており,若年で鼻粘膜の毛細血管拡張病変を認めていた可能性がある.そしてPAVFを合併し,その他の内臓病変を認めなかった.それらは児と同様であり,END遺伝子異常の表現型として合致していた.以上から,本変異がHHT発症の原因遺伝子変異である可能性が示唆された.

本症例の遺伝子変異はイントロン2の3′側最末端塩基GをCに置換する一塩基置換であった.この変異は児の母にも同定されたが健常人において本変異は同定されておらず,単なる一塩基多型ではないと考えられる.

イントロンは,RNAのスプライシングと呼ばれている過程でRNAから除去される.DNAからタンパク質への情報の流れを保証するRNAを作るためには,RNAのスプライシングは注意深く行われなければならない.イントロンとエクソンの境界部の配列は高度に保存されており,ジヌクレオチド配列AGが,イントロンの3′末端とエクソンが連結する位置に必ず存在する11)

.本症例はジヌクレオチド配列AGの内のGの変異である.イントロンの変異でジヌクレオチド配列より5′側の変異の場合は,スプライシングにおいて影響がないことが多い.しかし本症例のようにジヌクレオチド配列が変異すると正確なスプライシングは必ず妨害される11).以上から,本変異によりスプライシングが妨害されており,本変異がHHT発症の原因遺伝子変異である可能性がさらに裏づけられた.

HHTは常染色体優性遺伝性疾患であり,複数の臓器にわたる多彩な症状を呈すること,生涯にわたって合併症の心配があること,家族内発症の可能性があること,などが想定される.リスクのある家系員に対しては,原因遺伝子が判明している場合には,遺伝学的検査の提供が可能になる.遺伝子変異が認められれば,早期診断と治療により,重篤な症状を予防できると考えられる.

結語

PAVFを伴うHHTの新規ENG遺伝子変異例に対し,カテーテルによるコイル塞栓術にて症状の改善が得られた.この遺伝子変異と疾患の発症及び表現型との関連性については,今後の症例の蓄積による検討が必要である.

付記

この論文の電子版にて動画を配信している.

引用文献

1) Porteous ME, Burn J, Proctor SJ, et al: Hereditary haemorrhagic telangiectasia: A clinical analysis. J Med Genet 1992; 29: 527–530

2) The University of Utah Department of Pathology, ARUP Laboratories: HHT Mutation Database. http://www.hhtmutation.org

3) 塩谷隆信:遺伝性出血性末梢血管拡張症(HHT)の診療マニュアル.初版,東京,中外医学社,2011

4) Abdalla SA, Letarte M: Hereditary haemorrhagic telangiectasia: Current views on genetics and mechanisms of disease. J Med Genet 2006; 43: 97–110

5) Gallione CJ, Repetto GM, Legius E, et al: A combined syndrome of juvenile polyposis and hereditary haemorrhagic telangiectasia associated with mutations in MADH4 (SMAD4). Lancet 2004; 363: 852–859

6) Letteboer TG, Mager HJ, Snijder RJ, et al: Genotype–phenotype relationship for localization and age distribution of telangiectases in hereditary hemorrhagic telangiectasia. Am J Med Genet 2008; 146A: 2733–2739

7) Letteboer TG, Mager JJ, Snijder RJ, et al: Genotype-phenotype relationship in hereditary haemorrhagic telangiectasia. J Med Genet 2006; 43: 371–377

8) Govani FS, Shovlin CL: Hereditary haemorrhagic telangiectasia: A clinical and scientific review. Eur J Hum Genet 2009; 17: 860–871

9) Swanson KL, Prakash UB, Stanson AW: Pulmonary arteriovenous fistulas: Mayo Clinic experience, 1982–1997. Mayo Clin Proc 1999; 74: 671–680

10) Meek ME, Meek JC, Beheshti MV: Management of pulmonary arteriovenous malformations. Semin Intervent Radiol 2011; 28: 24–31

11) Rawn JD: ローン生化学.第1版,東京,医学書院,1911, pp 781–820

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