遺伝性出血性毛細血管拡張症に伴う肺動静脈瘻の多様性と症例報告の重要性
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遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)に伴う肺動静脈瘻(PAVM),とくにびまん性PAVMの治療は誠に悩ましい.まさに“controversial”な要素が大きく,ガイドラインでスマートな治療アルゴリズムを提示できる類のものではない.本間論文は,診療現場における葛藤と英断の過程の克明な記録であり,同様な悩みをもつ読者の共感を得るであろう.
一般に,PAVMに対する治療の第一選択はコイルあるいはvascular plugによる塞栓術とされている.肺の一部分に比較的太いPAVMが存在する場合,塞栓術により低酸素血症と奇異性塞栓症のリスクの軽減が確かに期待できる.しかしながら,塞栓術を行った経験をもつ読者のなかには,時間とともに塞栓を行った部位以外の肺にPAVMが発達し,いわゆる〈いたちごっこ〉の状態に苦慮された方もおられるのではないだろうか.
さらに,びまん性PAVMの場合は,優先して塞栓術を行うべき部位を特定することが難しく,流入動脈が明瞭でないために,どの程度手前の血管まで塞栓すべきかの判断に迷うことになる.肺でのガス交換に寄与している肺動脈の血流を遮断することは避けたいし,肺血管床を減少させると将来肺高血圧症を生じる懸念があるが,あまり遠慮をしているとPAVMに対する塞栓の効果自体が十分得られないという葛藤を生じるのである.
この難問に対して,著者らは一つの「正解」を示した.PAVMが多い肺の部位を特定し,かつ流入動脈よりも近位の血管を,正常肺動脈も含めて塞栓することにより,少なくとも短期的にはよい結果を得たのである.
HHTに伴うびまん性PAVMに対して,塞栓術以外の治療が選択された例も少数ではあるが報告されている.そのなかには肺移植を受けた症例が含まれる.肺移植という治療法には長所とともに短所があり,治療そのものに伴うリスクも小さくないことから第一選択とはなりえないが,低酸素血症と奇異性塞栓症のリスクを確実になくすことができる唯一の治療法ともいえる.私どもが経験した症例では,肺移植により脳の動静脈瘻も改善が認められ,治療によるメリットの方が大きかったと感じている.
本間論文に呈示されているような症例に対して,読者の皆さんならどのように対応をされるのか,ぜひ一緒に悩んでいただきたい.そして,1例報告でよいので論文にまとめていただき,皆さんひとりひとりの経験を皆で共有したい.著者らにも,この症例の5年後,10年後の状況を公表し,今回の戦略が引き続き「正解」であるのかを示してもらいたい.
本間論文は,evidenceが,ひとりひとりの,ひとつひとつのexperienceの丹念な積み重ねのうえに初めて成り立つことを,改めて私たちに認識させてくれる.
【参考文献(本間論文に引用されているものを除く)】
注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.
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