右室–肺動脈間の弁付き導管について:その歴史と将来
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Rastelliが1969年にTGA/VSD/PSに対して右室–肺動脈間にaortic homograftを用いて行われた1例の成功例を報告した1).これ以後,心室内血流転換に加えて弁付き導管を用いる術式をRastelli手術と呼ぶようになった.
TOF/PAもしくはその類似疾患に対して心外導管(RV-PA conduit)を用いた手術は厳密にはRastelli手術ではなくRastelli型手術と呼ぶべきであろうが,最近では用語の使用が曖昧になってきている.
比較的入手が容易なことから欧米では第一選択としてhomograftが使われてきたが2,3),採取,滅菌,保存が煩わしいこと,耐久性に問題があり小児例では早期の石灰化が起こることなどから,代替になる物が求められてきた.次に異種弁を人工血管につけたものが商品化されたが,異種弁の石灰化,導管内の内膜増生が早期に起こるなどの欠点が明らかになり今では使われなくなった4).
欧米では1989年ごろより静脈弁付きの牛頸静脈を処理したものを右室–肺動脈間に用いた報告が見られるようになった5).EUで1999年,2003年は米国でもContegra®として商品化され,遅れて我が国では2012年に承認され,限定された施設による臨床使用が始まる予定である.これにより小口径の弁付きグラフトが入手化になり,依然石灰化の問題は残るものの2歳以下の症例ではhomograftに比して有意に再手術介入が遅れるとされている6).
我が国では当初よりhomograftの入手が困難であり欧米以上に適切な素材を追求する必要があった.岸本らは1985年より,豚心膜をハンドメイドで3弁付きロールにしたVPR(valved pericardial roll)を使用した7)
.早期成績は向上し,遠隔成績も比較的良好であった8)
.しかし遠隔期での弁の石灰化が継時的に進行し,再手術は避けられない.
このような石灰化の原因は,異種弁,同種弁を問わず抗原性があるためであるとし,その観点から生体由来でないePTFEパッチで弁をハンドメイドで作成したものが用いられるようになった9,10)
.小泉らの本論文もこの流れに沿ったものである.
このePTFE弁付きグラフトは筆者らが述べるように現在もっとも期待される導管ではあるが,抗原性はないものの一定の割合で石灰化が見られる.筆者も述べているようにグラフトの小彎側の流速低下による血栓形成からの石灰化が疑わしい.Miyazakiらはbulging sinus付きePTFE3弁付きグラフトを自作し,広く国内に供給し,2001年から2010年までにconduitとして325例に使用し追跡した.その結果10年での再手術回避率は95.4%,肺動脈逆流が軽度以下のものが95.0%と素晴らしい成績であった10).この導管の特徴であるbulging sinusが拡張期のvortex flowを生み,弁尖可動性維持,すなわち石灰化予防に寄与している可能性がある.
本論文は症例数が9例と少なく追跡期間も45ヶ月と短いが,優れた中期遠隔期成績である.筆者らの導管はbulging sinusがないため,今後の長期遠隔成績をMiyazakiらの導管と比較して是非報告していただきたい.
抗原性を排除することが最も重要であるとの観点から以下の2種類の研究が注目される.
これは,異種移植の抗原性排除のため,抗原性のない細胞外マトリックスを保ったまますべての細胞,核酸を除去する.その後宿主細胞がマトリックス上に生着する11).
3-DプリンターでValsalva sinusのある弁付きグラフトの鋳型を作り,皮下に埋め込み,2ヶ月後に取り出すと自己の結合組織や繊維芽細胞が鋳型を包み込み自己組織のみの弁付きグラフトができる.その弁機能については動物実験かつ短期の成績であるが良好であり今後が期待される12).
注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.
1) Rastelli GC, Wallace RB, Ongley PA: Complete repair of transposition of the great arteries with pulmonary stenosis. A review and report of a case corrected by using new technique. Circulation 1969; 39: 83–95
2) Ross DN, Somervill J: Correction of pulmonary atresia with homograft aortic valve. Lancet 1966; 2: 1446–1447
3) Fuller DN, Marchand P, Zion MM, et al: Homograft replacement of the pulmonary valve. Thorax 1966; 21: 337–342
4) Bowman FO, Hancock WD, Maim JR: A valve containing Dacron prosthesis. Arch Surg 1974; 107: 724–728
5) Bove T, Damanet H, Wauthy P, et al: Early results of valved bovine jugular vein conduit versus bicuspid homograft for right ventricular outflow tract reconstruction. Ann Thorac Surg 2002; 74: 536–541
6) Poynter JA, Ebhtesady P, McCrindle BW, et al: Association of pulmonary conduit type and size with durability in infants and young children. Ann Thorac Surg 2013; 96: 1965–1702
7) 岸本英文,八木原俊克,西垣恭一,ほか:Valved pericardial roll(VPR)を用いたexternal conduit手術.日胸外会誌 1989; 37: 658–663
8) 中谷 充,八木原俊克,西垣恭一,ほか:VPRの遠隔期における弁機能の検討.日心外会誌 1990; 19: 1305–1307
9) Miyazaki T, Yamagishi M, Maeda Y, et al: Expanded polytetrafluoroethylene conduit and patches with bulging sinuses and fan-shaped valves in right ventricular outflow tract reconstruction: Multicenter study in Japan. J Thorac Cardiovasc Surg 2011; 142: 1122–1129
10) Ando M, Takahashi Y: Ten-year experience with handmade trileaflet polytetrafluoroethylene valved conduit used for pulmonary reconstruction. J Thorac Cardiovasc Surg 2009; 137: 124–131
11) Burch PT, Kaza AK, Lambert LM, et al: Clinical performance of decellularized cryopreserved valve allografts compared with standard allografts in the right ventricular outflow tract. Ann Thorac Surg 2010; 90: 1301–1306
12) Nakayama Y, Takewa Y, Sumikura H, et al: In-body tissue-engineered aortic valve (Biovalve VII) architecture based on 3D printer molding. J Biomed Mater Res Part B 2015; 103B: 1–11
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