乳児期後期Rastelli型手術における16 mm自作3弁付きePTFE導管の中期遠隔成績
1 岩手医科大学附属病院循環器医療センター心臓血管外科 ◇ 〒020-8505 岩手県盛岡市内丸19番1号
2 岩手医科大学附属病院循環器医療センター小児循環器科 ◇ 〒020-8505 岩手県盛岡市内丸19番1号
背景:新生児乳児期のRastelli型手術では将来の導管交換は必至である.
目的:当院では姑息術を経て乳児期後期に16 mm自作3弁付きexpanded polytetrafluoroethylene(ePTFE)導管を使用したRastelli型手術を施行している.その中期遠隔成績を検討した.
方法:対象は2007~2013年までに上記手術を施行した9例.年齢17.3ヶ月,体重8.9 kg,診断DORV,PS4例,PA,VSD,MAPCA4例,PA,VSD1例.
結果:急性期遠隔期死亡なし.術後平均経過観察期間45ヶ月で導管バルーン拡張術2例(術後47,51ヶ月).うち1例は導管交換術施行(初回手術後78ヶ月,バルーン拡張後27ヶ月).導管交換例を除いた,最新のエコー所見は導管内圧較差0~20 mmHg:4例,21~40 mmHg:4例,41 mmHg以上:0例,導管内逆流は微量:4例,軽度:2例,中等度:2例.
結論:乳児期後期Rastelli型手術における16 mm自作3弁付きePTFE導管の中期遠隔成績は許容できるものであった.導管狭窄に対するバルーン拡張術は導管交換を遅延できる可能性が示唆された.
Key words: expanded polytetrafluoroethylene conduit; Rastelli-type procedure; right ventricular outflow reconstruction; conduit replacement
© 2015 特定非営利活動法人日本小児循環器学会
Rastelli型手術においては遠隔期の導管狭窄や肺動脈弁閉鎖不全による右室機能低下を回避することが重要である.特に新生児や乳幼児ではその体格から右室流出路再建法,再建材料は制約が多く,また患児の成長や導管の変性に伴う将来の導管交換は避けられない.当院では可及的に導管交換を遅らせることを期待し,Rastelli型手術適応疾患において,初回手術は体肺動脈短絡手術を施行し2期的に乳児期後期に16 mm自作3弁付きePTFE導管を用いた心内修復術を施行する方針としている.その中期遠隔成績を検討した.
2007年9月から2013年12月までに16 mm自作3弁付きePTFE導管を使用しRastelli型心内修復術を施行した9例を対象とした.年齢17.3ヶ月(10~22ヶ月),体重8.9 kg(6.8~11 kg),性別男/女3/6.診断はDORV,PS 4例(全例大血管malposition),PA,VSD,MAPCA 4例,PA,VSD 1例.心外病変:22q11.2欠失症候群2例,第1第2鰓弓症候群1例.全例で先行手術があり,その内訳はBTシャント変法5例,unifocalization+BTシャント変法4例であった.術後の導管機能(導管狭窄,肺動脈弁閉鎖不全),右心室機能,導管交換術,カテーテル治療介入などについて診療録をもとに後方視的に調査,検討した.
自作3弁付きePTFE導管は麻酔導入中あるいは手術中に作成した.ePTFE人工血管を裏返し,0.1 mm ePTFE膜を扇型にトリミングし,CV-7連続縫合で人工血管内腔へ縫着した.人工血管の裏返しを戻したのち,各交連部をCV-7,U字縫合で形成し各弁尖が閉鎖位をとりやすいように工夫した(Fig. 1).手術は胸骨正中切開,常温,二本脱血,上行大動脈送血の人工心肺下に,心内手技は心停止下に,右室流出路導管縫着は原則,心拍動下に施行した.導管–肺動脈吻合は弁尖部分の胸骨圧迫による変形を避けるため弁尖部分を上行大動脈左側でなるべく肺動脈側へ留置した.また,比較的大きなグラフトを吻合部狭窄をきたさないよう吻合するため,左右肺動脈は肺門部近くまで十分に剥離し,より大きな吻合長を得て,遠位側を上行大動脈の背側に回り込むようにやや斜めにトリミングしCV-6連続縫合で縫着した.導管–右室吻合は,導管の圧迫による末梢肺動脈狭窄をきたさないよう長さを決定し,導管–右室の縫合部は,吻合部狭窄を避けるべく,なるべく心筋を伸展しつつ導管断端がフード状となるようにトリミングしCV-5連続縫合で吻合した.弁尖の位置については,交連が小弯側6時方向となるよう留置した.術後は弁可動性保持のためアスピリンの内服を継続した.
a: The fan-shaped trileaflet is trimmed from a 0.1 mm ePTFE membrane. b: The trileaflet is approximated to the ePTFE conduit, which is inside out, using a CV-7 continuous suture. c: Each commissure is approximated using a CV-7 U-shaped stitch for better coaptation.
合併手技としてPA,VSDの5症例にはVSD閉鎖,DORVの4症例にはVSD拡大とintraventricular re-routingが施行された.MAPCA4症例のうち2例には末梢肺動脈形成が施行された.平均人工心肺時間183分,大動脈遮断時間91分であった.急性期,遠隔期ともに死亡はなかった.遠隔期再介入は術後平均経過観察期間45ヶ月(18~79ヶ月)で導管狭窄に対するバルーン拡張術を2例(術後47,51ヶ月)に施行した.うち1例がバルーン拡張後27ヶ月(心内修復後78ヶ月)で導管交換術(22 mm自作3弁付きePTFE)を要した.この導管交換症例は部分肺静脈還流異常遺残修復術が併施された.また,経皮的末梢肺動脈形成術を2例(いずれもMAPCA症例,術後19,25ヶ月)に施行した.
心臓カテーテル検査(Table 1)が8例に術後平均27ヶ月,平均月齢46ヶ月(30~71ヶ月),平均体重13.7 kg(10.8~19.8 kg)で施行された.右室収縮期圧41 mmHg(28~58 mmHg),導管収縮期圧(弁尖より右側)37 mmHg(27~46 mmHg),肺動脈収縮期圧25 mmHg(19~37 mmHg)であった.右室導管圧較差4 mmHg,導管肺動脈圧較差12 mmHgであり,圧較差は主に弁尖部分で生じていた.右室拡張末期容積120% of normal(102~137%),右室駆出率60%(51~68%)であり右室機能は保たれていた.また,右室肺動脈圧較差を比較するとDORV群24 mmHg,PAVSD群7 mmHgとDORV群で圧較差が高い傾向が認められた(Table 2).導管交換例を除いたエコー上の最新の導管前後での圧較差は0~20 mmHg:4例,21~40 mmHg:4例,41 mmHg以上:0例であった(Fig. 2).また,導管内逆流は微量:4例,軽度:2例,中等度:2例であった.
RVP (mmHg) | 41 (28~58) |
Proximal conduit (mmHg) | 37 (27~46) |
Systolic PAP (mmHg) | 25 (18~37) |
RVP/LVP ratio | 0.51 (0.30~0.77) |
PG of RV-conduit (mmHg) | 4 (0~12) |
PG of conduit-PA (mmHg) | 12 (1~25) |
RVEDVI (mL/m2) | 120 (102~137) |
RVEF (%) | 60 (51~68) |
RVP: right ventricular pressure, PAP: pulmonary artery pressure, LVP: left ventricular pressure, PG: pressure gradient, EDVI: end diastolic volume index, EF: ejection fraction. |
DORV | PA/VSD | |
---|---|---|
PG of RVP-PAP (mmHg) | 24 (9~37) | 7 (1~11) |
DORV: double-outlet right ventricle, PA/VSD: pulmonary atresia/ventricular septal defect, MAPCA: major aortopulmonary collateral artery. |
バルーン拡張術2例の経過:①DORV(L-malposition)症例.術後47ヶ月で導管圧較差43 mmHg,逆流中等度でバルーン拡張術が施行され圧較差23 mmHgまで改善した.拡張術後17ヶ月経過し圧較差28 mmHg,逆流中等度で経過観察中である.
②DORV(D-malposition)症例.心内修復時にPAPVCを放置していた.術後51ヶ月で導管圧較差57 mmHg,逆流微量でバルーン拡張術が施行され圧較差22 mmHgまで改善,逆流は微量で不変であった.しかし,12ヶ月後に圧較差49 mmHgと増大し27ヶ月後(7歳時)に導管交換術(22 mm自作3弁付きePTFE)と未修復であった部分肺静脈還流異常修復術が施行された.摘出導管の肉眼所見では小弯側の交連部を中心とした2弁が繊維組織に覆われ閉鎖位で固定していた(Fig. 3).
右室流出路再建に用いられる導管の選択には一定の見解はない.しかし,本邦においてMiyazaki,Yamagishiら1),Takahashiら2),Andoら3)の報告にあるように3弁付きePTFE導管はその優れた耐久性,機能性から,現在もっとも期待される右室流出路再建用導管である.一方で導管サイズが小さいほど導管不全,導管交換率が高まるとする報告4,5)
が多く,新生児や乳児期早期のRastelli型手術の是非については,特に本邦においては一定の見解に至っていない.一方で欧米では,早期チアノーゼの解除,右室圧負荷解除の見地から,積極的に新生児期,乳児期早期のRastelli型手術が施行されている.導管材料としてヒト肺動脈弁,ヒト大動脈弁,ウシ頸静脈弁,ヒト大腿静脈弁などが使用されているが,免疫反応や石灰化による導管変性,患児の成長によるミスマッチなどにより必ずしも満足できる結果ではない6,7)
.本邦では上記導管材料は入手困難であり,新生児乳児期早期Rastelli型手術を行う際には,10 mm前後の小口径ePTFEグラフトもしくは,1弁付きパッチによる再建に制約され,小口径グラフトの成績,1弁付きパッチの遠隔期逆流などが問題となる.またMAPCA症例では,新生児期Unifocalization手術の難易度,Unifocalization完成後の肺血管床の完成度を考慮し,またDORV症例(remote VSDや大血管位置異常合併例)では遠隔期の左室流出路狭窄を考慮し,乳児期後期以降の心内修復術が望まれる.そのような理由から当院ではRastelli型心内修復術適応疾患群に対し,初回手術は体肺動脈短絡術を含めた姑息術を施行し,体格が最低でも径16 mmの導管が使用できる月齢12ヶ月,体重7~8 kg前後の乳児期後期まで成長を待ってRastelli型心内修復術を施行する段階的アプローチの方針としている.将来,導管交換が必要となった場合は5~6歳以降に20~22 mm以上の導管へサイズアップすることによりその後の再介入のリスクを相当下げられるものと考えている.
Fig. 2の通り心エコー上の導管狭窄圧較差の推移を見ると,術後24ヶ月頃までは比較的急峻に較差の増大が認められ,以降は術後60ヶ月頃まで圧較差30~40 mmHg前後でなだらかに増大する傾向が認められる.また,術後平均27ヶ月の心カテの結果(Table 1)では導管内圧較差は主に弁尖部分で生じており,胸骨圧迫や右室流出路狭窄による肺動脈弁下狭窄が主因ではないと思われる.導管交換となった1例のePTFE摘出標本は弁尖の硬化性変化が小弯側交連を中心として認められ,2弁尖が閉鎖位で固定され狭窄の原因となっていた.Yoshidaら8)は流体力学モデルを用いて,右室流出路小弯側の流速低下を指摘し,これが同部位の弁尖開放不良,可動性低下の原因と推察している.われわれも同様の考えのもと,弁尖位置を交連が6時方向小弯側となるようePTFEグラフトを留置しているが,同部位を中心とした閉鎖位での固定,可動性低下はこれらの推論を裏付けるものと思われた.本症例はPAPVC遺残を合併し,肺血流が増大していた点,また大血管位置異常を伴ったDORVで右室から肺動脈までの導管長の延長や導管の屈曲が導管内の乱流や不均一な弁尖への血流ストレスを与えた点がさらに,弁尖の新生内膜増生,硬化性変化,可動性低下を助長したのではないかと推測している.Table 2はDORV症例4例とPAVSD症例4例の心臓カテーテル時の右室肺動脈圧較差であるがDORV症例に圧較差が高い傾向が認められた.DORV群の経過観察期間が長く単純に比較はできないが,導管不全のリスクとしてnon anatomical position7)も報告されており,DORV/PSやTGA/PS例におけるRastelli型手術の限界とも考えられる.Yamagishiら1)のbulging sinus付きePTFEグラフトは拡張期vortex flowが弁尖可動性維持に寄与するといわれており,non-anatomical positionへの移植が,よりその有効性をはっきりさせるものとなるのではないかと期待される.別のアプローチとしてaortic translocation法9)やdouble root translocation法10)などの選択肢もあるが,その手術侵襲の大きさや遠隔期,冠動脈機能,大動脈弁機能などの評価を待って考慮されるべきと考えられる.
Rastelli導管狭窄に対するバルーン拡張術については,効果的とする報告が多い4,11)
.自験例でも2例中1例は再狭窄なく安定しており,導管交換となった1例も約2年導管交換術を遅らせることができた.たとえ効果が一時的でもバルーン拡大術は導管交換術の時期を遅らせ,より大きい導管交換を可能とし,遠隔予後を改善させる重要なオプションと考えられる.
乳児期後期Rastelli型手術における16 mm自作3弁付きePTFE導管は5~6年の経過中,圧較差増大は緩徐であり,右室機能も良好に保持され中期遠隔成績は許容できるものであった.導管狭窄に対してはバルーン拡張術を施行することにより導管逆流を増悪させることなく導管交換を遅延できる可能性が示唆された.
本論文の要旨は第50回日本小児循環器学会総会・学術集会(2014年7月・岡山)にて発表した.
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