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特定非営利活動法人日本小児循環器学会
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(6): 309-312 (2015)
doi:10.9794/jspccs.31.309

原著

純型肺動脈閉鎖における冠動脈異常の合併と予後に関する検討

1神戸市立医療センター中央市民病院小児科 ◇ 〒650-0047 兵庫県神戸市中央区港島南町二丁目1番1号

2兵庫県立こども病院循環器内科 ◇ 〒654-0081 兵庫県神戸市須磨区高倉台一丁目1番1号

3兵庫県立こども病院心臓血管外科 ◇ 〒654-0081 兵庫県神戸市須磨区高倉台一丁目1番1号

4王子会神戸循環器クリニック ◇ 〒650-0017 兵庫県神戸市中央区楠町六丁目11番5号

受付日:2015年5月1日
受理日:2015年8月31日
発行日:2015年11月1日
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背景:純型肺動脈閉鎖(PA/IVS)では様々な程度のsinusoidal communication(SC)が認められる.今回我々はPA/IVS症例でのSCの程度に注目しその変化や予後との関連を明らかにすることを試みた.

方法:1995年から2014年までのPA/IVS連続56症例を後方視的に検討した.新生児期およびフォローアップ時のカテーテル検査所見からSCをgrade分類し,SC gradeとcoronary event発生,運動負荷心電図のST変化,心機能,BNP値,右室圧,右室拡張末期容積との関係,またSCの時間的経過に伴う変化について調べた.

結果:Grade 0, 1, 2, 3, 4の症例はそれぞれ30,5,11,10,0例存在し,grade 3の2例にcoronary eventによる死亡を認めた.両方向性Glenn手術以降の死亡症例は認めなかった.SCありの症例でcoronary event発生(p=0.025),心電図変化(p=0.0025)が有意に多く見られた.一方,SC gradeと心機能,BNP値,右室圧は関連を認めなかった.自然退縮傾向を認めた症例が3例,狭窄が進行し閉塞した症例は認めなかった.

結論:PA/IVSにおいて冠動脈途絶を認めるgrade 3または4の症例は冠動脈イベントが増加し,死亡率も高くなると予想される.そのため新生児期に可能な限り正確な評価を行い,特に両方向性Glenn手術までは急変のリスクを念頭におき血圧を低下させない管理が必要である.

Key words: pulmonary atresia with intact ventricular septum; coronary abnormalities; sinusoidal communication; right ventricle dependent coronary circulation; sudden death

はじめに

純型肺動脈閉鎖(以下PA/IVS)は30~75%に類洞交通(sinusoidal communication,以下SC)を伴う1–5)

.冠動脈と右室に交通があり,その近位側あるいは遠位側の冠動脈に狭窄があるもの,あるいは冠動脈の途絶が認められるものを右室依存性冠循環(right ventricle dependent coronary circulation,以下RVDCC)と呼び,右室減圧は禁忌とされ予後が悪いことが報告されている.また交通量の多いfistulaが存在する場合も右室減圧時に血流がstealされる可能性があり右室減圧をするべきではないとされている1–5).SCのなかには縮小あるいは消退する例もあり,SCの有無やその程度は児の治療方針や予後に大きく関わってくる.しかしSCの時間経過に伴う変化や予後に関する報告は少ない.今回我々はCalderらの提案したSCのgradeに着目し3),その変化や予後との関連を明らかにすることを試みた.

対象および方法

当院において1995~2014年の20年間に入院したPA/IVS連続56症例を後方視的に検討した.全症例とも初回治療介入前に心エコー検査,およびカテーテル検査が施行され,右室形態の正確な評価とSCの有無,RVDCCの有無について検討がなされていた.兵庫県立こども病院では初回手術術式選択の指標として右室発達係数(以下RVDI)=右室拡張末期容積(%N)·三尖弁輪径(%N)·右室流出路径(mm)·10−5/体表面積(m2)を用い,RVDI>0.7では弁切開のみ,0.35≦RVDI≦0.7は弁切開とβ-blocker併用,RVDI<0.35では弁切開とBlalock-Taussig shunt,右室流出路筋性閉鎖あるいはRVDCCが疑われる症例ではBlalock-Taussig shuntを基本とし6)

,右室形態や三尖弁形態,SCの程度を鑑みて個々の症例での手術選択を行っている.

肺動脈弁形成は2007年までは外科手術,2007年以降はカテーテル治療および外科手術にて行っている.今回,新生児期および最終フォローアップ時のangiogram所見から各々の症例についてSCをgrade分類し,診療録をもとにSCのgradeとcoronary event発生,運動負荷心電図のST変化,左室機能,BNP(brain natriuretic peptide)値,右室圧(RVp),右室拡張末期容積(RVEDV)との関係について調べた.coronary eventとしては,冠動脈虚血が原因と考えられた死亡例,RVDCC領域の虚血によって心電図上のST変化および繰り返す胸痛を認めた症例,RVDCC領域の虚血から急性心不全に陥った症例を対象とした.SCのgrade分類はCalderらの文献を参考とし3)

,以下のとおりとした(grade 0:fistulaなし,grade 1:右室造影で大動脈は造影されない,grade 2:右室造影で大動脈が造影される,grade 3:主冠動脈の途絶が一つ,grade 4:主冠動脈の途絶が二つ).統計学的検定ではマン・ホイットニ検定,フィッシャー正確検定,一元配置分散分析を用いた.またangiogram所見からSCの時間的変化を追った.

結果

1. 全体について

56症例中,男性28症例/女性28症例,SCあり26症例/SCなし30症例であった.SCのgradeはgrade 0:30症例,grade 1:5症例,grade 2:11症例,grade 3:10症例,grade 4:0症例であった.主冠動脈の途絶を1本以上認めるgrade 3以上の症例は全体の17%であった.

2. SCのgradeと時間経過に伴う変化について

自然退縮傾向を認めたのは3/26症例のみ(grade 2が1症例,grade 3が2症例)であり,退縮に伴う狭窄病変の進行は見られなかった.明らかな変化を認めなかった症例が12/26症例と全体の46%を占めた.虚血症状は認めないものの交通量の多いfistulaを有する症例に対し,5例は手術時に外科的結紮にて,1例はコイル塞栓術にて閉鎖を行っていた(Table 1

).

Table 1 Change of SC according to its grade
Grade 0 (30)Grade 1 (5)Grade 2 (11)Grade 3 (10)Grade 4 (0)
Regression0120
Surgical intervention0420
No change4530
Death00120

3. SCのgradeと転帰について

coronary eventによる死亡例は2症例あり,共にgrade 3でBTS前の症例であった.1症例は日齢4にBASを施行し,その数時間後に急変し蘇生に反応せず死亡している.別の1例は日齢15にBASを施行,日齢37に処置時の啼泣をきっかけに心肺停止となり,緊急でECMOを装着したが,心機能が回復せずに死亡した.両方向性Glenn手術以降の死亡例は見られなかった.SCありの症例で有意にcoronary event発生が多く(p=0.025),また運動負荷心電図にてST変化が多く(p=0.0025)見られた.心機能,BNP値,RVpには差を認めなかった.RVEDVはSCありの症例で有意に小さく(p=0.01),26例中17例がFontan手術となっていた(Table 2

).

Table 2 Comparisons between patients with and without sinusoid
With sinusoidWithout sinusoidp score
Coronary event4/260/300.025
ST change during exercise test8/20 (unknown 5)0/18 (unknown 12)0.0025
FS0.32±0.05 (0.25–0.40)0.32±0.04 (0.2–0.41)0.36
BNP27.5±41.8 (3–107)30.0±18.4 (4–68)0.34
RV pressure88.5±33.3 (67–173)111.0±35.7 (45–161)0.54
RVEDV (%ofN)27±24.2 (19–93)56±31.1 (15–145)0.01
OutcomeTCPC 17, Glenn 5,
biventricle 1,
death 3
TCPC 3, Glenn 7,
biventricle 20,
death 0
ECG: exercise electrocardiography, FS: fractional shortning, BNP: brain natriuretic peptide, RVEDV: right ventricle end diastolic volume

SCのgradeによる比較検討では,coronary event,運動負荷心電図でのST変化,心機能,BNP値,RVp,RVEDVともgrade別での有意差は認めなかった.coronary eventおよび運動負荷心電図でのST変化はgeade 2およびgrade 3の症例で見られていた(Table 3

).

Table 3 Comparisons between SC grades
Grade 1Grade 2Grade 3p score
Coronary event0/51/113/100.57
ST change during exercise test0/1 (unknown 4)5/10 (unknown 1)3/6 (unknown 2)0.72
FS0.28±0.04 (0.25–0.32)0.33±0.04 (0.25–0.36)0.36±0.05 (0.32–0.40)0.37
BNP86.5±7.7 (81–92)16.0±47.0 (8–107)20.0±24.0 (3–37)0.05
RV pressure90.5±6.3 (86–95)86.0±12.4 (67–95)121.5±72.8 (70–173)0.38
RVEDV (%ofN)25±7.0 (20–30)27±6.8 (25–40)56±52.3 (19–93)0.52
OutcomeTCPC 3, Glenn 2,
biventricle 0,
death 0
TCPC 7, Glenn 2,
biventricle 1,
death 1
TCPC 7, Glenn 1,
biventricle 0,
death 2
ECG: exercise electrocardiography, FS: fractional shortning, BNP: brain natriuretic peptide, RVEDV: right ventricle end diastolic volume

考察

PA/IVSは病態に多様性がある疾患である.新生児期には三尖弁の大きさや形態,右室の大きさと機能に加え,SCの有無やその程度,RVDCCかどうかが児の治療方針決定にあたり重要な要素となってくる.

PA/IVSでのSC合併率は32%から75%程度と報告に幅があるが,RVDCCやシャント量の多いSCを認めた場合,急変のリスクを常に念頭に置き,家族へリスクの説明を行う必要がある.

SCの時間経過に伴う変化についてGuleserianらはRVDCCを伴うPA/IVS 23例中,RVDCCがnon-RVDCCへ変化した症例は0/23例,fistulaの退縮を認めた症例5/23例(サイズの縮小が3例,数の減少が2例),8/23例で変化がなかったと報告している1)

.また,CheungらはRVDCCを伴うPA/IVS 3症例中2例は変化なく1症例はSCが縮小し,狭窄が進行した症例はなかったと報告している2).今回の我々の検討では明らかに狭窄が進行した症例は認めなかったが,Guleserianらは2例で狭窄が進行したと報告しており,長期にわたる慎重なフォローアップは必要と考える.

SCのgradeとPA/IVSの予後に関しては,Calderらは116人のPA/IVS症例(RVDCC 47例)の検討で,SCを伴っているだけでは死亡率を高めないが,冠動脈途絶を伴う症例(p=0.05)と,左室心筋の右室依存性冠循環の割合が高い症例(p=0.0009)で有意に死亡率が高かったと述べている3)

またCheungらもRVDCCありの症例では5/9例が死亡しておりRVDCCなし0/6例に比べ予後が悪かったと報告している2)

.死亡時期としては,全例Blalock-Taussig短絡術後(以下BTS)から3ヵ月以内とする報告1)や,全例6ヵ月以内(ほとんどが初回退院前)とする報告2),遠隔期死亡以外では経皮的心房中隔裂開術(以下BAS)時2/8例,BTS前後3/8例であったとする報告4)等,ほとんどがBTS前後までの乳児期早期に死亡している.PA/IVSは左室のみで体循環·肺循環を担う血行動態であり,RVDCCを伴う症例では冠血流のsteelや一時的な血圧低下によって容易に心筋虚血が生じうる.心電図上ST変化を認めることも多く,心筋は日々虚血にさらされる危険がある.特にBTS前の症例では観血的処置前にはできるだけ鎮静を図り,貧血は積極的に是正することが望ましいと考える.また,BAS施行時やBTS施行時には血圧が低下してしまうことで心筋虚血から循環不全に陥り,迅速に対応が行われないと死亡に至ることもある.最重症例の救命は困難と考えるが,CVPを高く保つなど,血圧を低下させない管理を心がけること,また早期に両方向性Glenn術を施行することで予後の改善が得られる可能性がある.

結語

PA/IVSにおけるSCのgradeは予後に大きく関係するため,可能な限り新生児期に正確なgrade評価を行うことは重要である.特にGlenn手術まではgrade 3以上の重症例において,カテーテル検査,手術,啼泣時といった右室圧の変化をきたしうる状況での急変のリスクを念頭においた,血圧を低下させない管理が必要である.自然退縮や狭窄の進行が見られる症例は少ないが,遠隔期に虚血所見を認める症例も存在し,長期にわたる慎重なフォローアップが必要と考える.

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