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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(6): 301-308 (2015)
doi:10.9794/jspccs.31.301

ReviewReview

二心室修復における右室流出路の人工導管狭窄に対するステント留置Stenting for Right Ventricular Outflow Tract Conduits in the Biventricular Heart

1昭和大学横浜市北部病院循環器センターCardiovascular Center, Showa University Northern Yokohama Hospital ◇ 〒224-8503 神奈川県横浜市都筑区茅ケ崎中央35番1号Chigasaki-Chuo 35-1, Tsuzuki-ku, Yokohama-shi, Kanagawa 224-8503, Japan

2岡山大学病院小児循環器科Division of Pediatric Cardiology, Okayama University Hospital ◇ 〒700-8558 岡山県岡山市北区鹿田町二丁目5番1号Shikata-cho 2-5-1, Kita-ku, Okayama-shi, Okayama 700-8558, Japan

3埼玉医科大学国際医療センター心臓病センター小児心臓科Department of Pediatric Cardiology, Heart Center, Saitama Medical University International Medical Center ◇ 〒350-1298 埼玉県日高市山根1397番地1Yamane 1397-1, Hidaka-shi, Saitama 350-1298, Japan

4公益財団法人日本心臓血圧研究振興会附属榊原記念病院小児循環器科Department of Pediatric Cardiology, Sakakibara Heart Institute, Japan Research Promotion Society for Cardiovascular Diseases ◇ 〒183-0003 東京都府中市朝日町三丁目16番1号Asahi-cho 3-16-1, Fuchu-shi, Tokyo 183-0003, Japan

5静岡県立こども病院循環器科Department of Cardiology, Shizuoka Children's Hospital ◇ 〒420-8660 静岡県静岡市葵区漆山860番地Urushiyama 860, Aoi-ku, Shizuoka-shi, Shizuoka 420-8660, Japan

受付日:2015年4月11日Received: April 11, 2015
受理日:2015年9月24日Accepted: September 24, 2015
発行日:2015年11月1日Published: November 1, 2015
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二心室修復における右室流出路に対するステント留置には,Fallot四徴症で術前に姑息的に行われる場合と,術後に右室流出路の人工導管狭窄で導管の寿命延長を目的として行われる場合がある.術後の人工導管狭窄に対しては,2000年代以降に北米から多数例の報告があり,導管寿命を延長する効果が報告されているが,肺動脈弁逆流の増悪,冠動脈圧迫,ステント破壊などの問題がある.海外ではカテーテル的肺動脈弁留置術(Transcatheter pulmonary valve implantation; TPVI)は認可を受けたが,TPVIの適応を満たさない小径の導管では従来のステント留置が行われている.右室流出路の人工導管狭窄に対するステント留置の現状と問題点,日本における同手技の今後の役割に関して概説する.

In biventricular physiology, transcatheter right ventricular outflow tract (RVOT) stenting is indicated as an initial palliative alternative to a modified Blalock-Taussig shunt or to delay surgery for obstructed RVOT conduit. RVOT conduits may eventually need replacing because of luminal narrowing, regurgitation, or size mismatch associated with somatic growth. During the 2000s, reports from North America described acutely improved hemodynamics and the ability to postpone surgical replacement for 2.1–3.9 years with endovascular stenting for conduit stenosis. However, common complications of stenting RVOT conduits are free pulmonary regurgitation and frequent stent fracture. In addition, the potential risk of proximal coronary artery compression also limits its use when the anatomy is unfavorable. Recently, transcatheter pulmonary valve implants (TPVI), intended for treating RVOT conduit dysfunction, have become available in Europe and the US. However, size considerations may limit their use to smaller sized RVOT conduits. These uncertainties mean that stenting and surgery will remain necessary therapeutic options for conduit pathology, particularly in Japan where TPVI is unavailable. Given the likelihood of its continued use, we reviewed current trends in stenting for RVOT conduits in Japan and their potential risks and benefits.

Key words: catheter intervention; stent; right ventricle outflow tract conduit; conduit stenosis; pulmonary stenosis

はじめに

二心室修復における右室流出路に対するステント留置には,Fallot四徴症で術前に姑息的に行われる場合と,術後の人工導管狭窄で導管の寿命延長を目的として行われる場合がある.前者の適応はハイリスクの新生児に限定され,わが国ではBTシャントにとってかわるほど一般化していない1–3).術後の人工導管狭窄に対しては,2000年代以降に北米から多数例の報告があり,導管寿命を2.1年から3.9年延長する効果が報告されているが,肺動脈弁逆流の増悪,冠動脈の圧迫,ステント破壊などの問題がある4–7).米国ではすでに経カテーテル的肺動脈弁留置術(Transcatheter pulmonary valve implantation; TPVI)がFDAの認可を受け,従来のステント留置はTPVIの適応を満たさない症例に限定されつつある4).日本ではいまだTPVIの認可の目処は立っておらず,狭窄が主体の症例を対象として再手術を回避する手段はバルーン血管形成術またはステント留置に限定されるが,人工導管狭窄に対するステント留置の国内データは把握されていない.日本Pediatric Interventional Cardiology学会(JPIC)で2009年に行った「先天性大血管疾患に対するステント治療長期予後の後方視的調査(JPIC stent survey)」では肺動脈に対して199例のステント留置が行われているが,留置部位が「導管」と記載されているものは6例のみであった8).また,1998年から毎年行われているJPICのアンケート調査では二心室修復の右室流出路導管は左心低形成症候群の姑息術と一括して取り扱われており,二心室修復における人工導管狭窄に限定されたデータは存在しない.

先天性心疾患に対するステントの使用の現状

近年,ステントは先天性心疾患における狭窄病変の治療に対して一般的に使用されるようになっている.JPIC stent surveyでは,先天性心疾患に対するステント留置は肺動脈で最も多く使用されており,次いで大動脈縮窄,下大静脈の順である8).先天性心疾患における狭窄病変に対してはバルーン拡張型ステントが用いられるが,日本において使用可能なバルーン拡張型ステントは,Palmaz(extra large, large, medium),Genesis(medium),Express Vascular(LD, SD),Omnilink Elite,その他冠動脈用のステントなどがあり,右室流出路や肺動脈分岐部ではLarge sizeのステントが使用されることが多い.しかし,これらのステントは末梢血管や胆管にしか薬事承認されておらず,先天性心疾患に対しての使用は全てoff-labelであり,種類も限定的であるという問題点が存在する.右室流出路に人工導管を用いた二心室修復では,導管寿命が狭窄,逆流,患者の成長によって規定される.海外の主にホモグラフトの導管に関する報告によると,右室流出路導管は10年で約半数が交換を要しており6,7,9),交換の理由は狭窄が最多である.手術による導管の交換は胸骨正中切開を要し,線維化や癒着の問題からリスクが大きく,カテーテル治療の役割は大きい.バルーンによる拡大の効果は限定的であり狭窄解除にステント留置を要する場合が多いが10),TPVIが可能となった現在では適応は限られ,TPVIが好ましくない体格が小さい患者や小さいサイズの導管に対して行われている傾向がある.

海外のステント留置の現状

Table 1に2005年以降に報告された文献のまとめを示す4–7).ステント留置時の年齢,体格,手術からの期間は表に示す通りであるが,流出路導管には主にホモグラフトが使用されており,expanded polytetrafluoroethylene(ePTFE)を多用する日本の現状とはやや異なる可能性がある.急性効果は良好で平均14~25 mmHgの右室圧軽減が得られており,各報告におけるステント留置後の右室圧の平均値は49~65 mmHgに抑えられている.留置後の再介入回避率は,1年で66~84%,3~5年で28~47%であり,導管寿命を平均で2.1~3.5年延期する効果を認めている.有害事象に関してはステント破損,バルーン破裂の頻度が多い.また,後述するような冠動脈走行異常を伴う症例での冠動脈圧迫や,高度石灰化を伴うホモグラフト導管における導管の破裂も問題として挙げられ,適応を限定する要素となる.使用されたステントは,Palmaz(extra large, large),Genesis,CP stentなどであり,圧較差の軽減は,ステント内狭窄の解除や変形した弁を血管壁に圧着することで得られるほか,楕円径の断面が正円となることも寄与する7).前述の通りTPVIに対する優位性としては,TPVIが適応とならない小口径の導管に対して施行できることが挙げられる.Michelleらは4),TPVIが適応となりにくい小径の導管(<12 mm)が使用された症例に限定して,右室流出路導管に対するステント留置の成績を検討しているが,ほかの報告とほぼ同様の成績を示しており,小さな口径の導管に対しても有用性が認められる.

Table 1 Reports on stenting for RVOT conduits
No. of patientsNo. of prodeduresAge at op median (range) (years)Age at stenting median (range) (years)Weight at stenting median (range) (kg)Interval from op median (range) (years)Type of conduitConduit diameter (mm)RVp Mean±SD (mmHg)Freedom from reoperationExtended conduit life span (years)Complications
beforeafterProcedural deathUn-planned surgeryStent migrationStent fractureBalloon ruptureAneurysm
Carr, et al. (2013)1061230.04
(0.02–5.30)
1.4
(0.3–13.2)
9.2
(3.3–49.0)
NDhomograft<1285±1865±2066%/1 year 28%/3 yearsND02220 (19%)00
Aggarwal, et al. (2007)3138ND12.0
(1.5–25.0)
39.0
(7.9–89.0)
NDhomograft/Dacron7–2771±1955±1367%/1 year 50%/2 years 33%/3 years3.50022 (6%)41
Peng, et al. (2006)2212421.7
(3.0–41.0)
6.7
(0.3–48.0)
ND3.7
(0.1–26.0)
homograft/others5.5–26.090±2165±19ND2.702256/189 (30%)740
Sugiyama, et al. (2005)6870ND6.0
(0–16.0)
21.0
(5.2–86.0)
3.4
(0.3–13.0)
homograft/othersND63±1549±1184%/1 year 75%/2 years 47%/5 years2.10232 (3%)60
RVOT, right ventricular outflow tract; op, operetion; RVp, right ventricular pressure; SD, standard deviation.

ステント留置による肺動脈弁逆流の増悪は避けられない問題であり,急性期には影響がないが,遠隔期には運動耐容能,右心不全,不整脈の増悪因子となりうるため,今後の検討が必要である.しかし,肺動脈弁逆流が増悪したとしても,狭窄解除による導管寿命の延長が得られる点で,TPVIが適応とならない体格の小さい患者では有用性がある4,11).Askovichら11)は末梢の肺動脈狭窄がある症例では,右室流出路導管に対してステント留置を行った後の再介入もしくは導管摘出までの期間が短いことを報告しており,その機序は末梢狭窄により肺動脈弁逆流が増悪するためであると考察している.早期再介入のリスクは,低年齢,高い右室圧,高い体血圧のほか,ホモグラフト,Genesisステント,導管径<10 mm,であった4,6).また,石灰化を伴う場合には,効果が乏しく,ステント治療には向かない可能性があり,predilationによるコンプライアンスの確認が重要である6)

日本のステント留置の現状

JPIC stent survey8)

JPIC stent surveyは,JPIC学会で2009年に行った先天性大血管疾患に対するステント治療長期予後の後方視的調査である8).これは,1998年以降JPICが毎年施行している「JPICのアンケート調査」(後述)と別途に行われたアンケート調査で,ステントに関する治療手技や治療成績に関してより詳細な内容を調査したものである.調査期間は1995年5月から2009年2月までで,一部「JPICのアンケート調査」と重複する.調査期間中に肺動脈に対するステント留置は199例253病変に施行されていた.そのうち,二心室血行動態の患者への留置は右室流出路を含む170例224病変であった.これら170例のサブ解析を施行した結果,年齢中央値は10(0~56)歳でFallot四徴症が最も多く,次いで心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖,完全大血管転位などであった(Table 2).病変の特徴,使用したステントはTable 2の通りであり,LargeサイズのPalmazが最も多く使用されており,次いでmediumサイズのPalmaz,largeサイズのGenesisが使用されていた.最狭窄部径,圧較差の急性効果は良好であり,48ヶ月後の予後に関しても良好であった(Fig. 1).肺動脈狭窄に関しては,再介入回避率は24ヶ月で90%であり,数年間でプラトーとなっており,中期予後も良好であった(Fig. 2).

Table 2 ‌Characteristics of patient, lesion and stent type
No. of patients170
No. of lesions224
Sex (male/female)96/47
Age10 (0–56)
DiagnosisTOF74
PA/VSD37
TGA17
DORV9
Truncus9
Other24
Characteristics of the lesionsMLD (mm)4.9 (1.0–16.9)
RVD (mm)10 (2.2–22.6)
% stenosis52.6 (2.5–84.9)
PG (mmHg)28.5 (0–108)
Stent typePalmaz medium41
Palmaz large195
Palmaz extra-large9
Genesis midium9
Genesis large13
Other10
TOF, tetralogy of Fallot; PA/VSD, pulmonary atresia with ventricular septal defect; TGA, transposition of the great arteries; DORV, double outlet right ventricle; Truncus, truncus arteriosus; MLD, minimum lumen diameter; RVD, reference vessel diameter; % stenosis, percent stenosis; PG, pressure gradient.
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Fig. 1 Fate of the minimum lumen diameter and the pressure gradient

The minimum lumen diameter (a) and the pressure gradient (b) were significantly improved after stenting. There was no significant exacerbation of the stenosis throughout the follow-up period up to 48 months after stenting.

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Fig. 2 Freedom from re-intervention

Freedom from re-intervention was gradually decreased to about 90% at 24 months. Then it almost plateaued beyond several years.

しかし,これらの症例は大半が肺動脈へのステント留置であり,留置部位が「導管」と記載されているものは6例7手技のみであった.6例の診断は,完全大血管転位が3例,Fallot四徴症が3例で,年齢は中央値14(4~16)歳であった.使用されたステントは全例がPalmaz large(P3008が5本,P1808が2本)であった.急性効果に関しては,拡大率,圧較差の減少ともに有用な結果であった(Fig. 3).経過観察期間は0から72ヶ月(中央値12ヶ月)であり,期間中に再介入を要した症例は1例(ステント追加)であった.有害事象に関しては,2例でステントの位置移動,3例でステント破壊を認めた.

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Fig. 3 Stenting for RVOT conduit in the JPIC stent survey

Percent stenosis (a) and pressure gradient (b) before and after stenting (n=7). The % stenosis and the pressure gradient decreased immediately after stenting.

日本における右室流出路導管に対するステント留置術の動向(「JPICのアンケート調査」より)

Fig. 4は毎年行われている「JPICのアンケート調査」をもとに作成した右室流出路導管,肺動脈に対するステント留置術の症例数の年次推移である.このアンケートでは,治療対象として「右室流出路導管」という項目は2007年から設けられており,年間数例報告されているのみである.2006年以前は「右室流出路導管」という項目自体がアンケートに存在しておらず,実際には施行されていてもアンケート結果に反映されていない可能性がある.さらに,2007年以降のアンケート結果においても「右室流出路導管」の内訳として「二心室修復の症例」と「左心低形成症候群のNorwood-Sano手術後」が区別して記載がされておらず両者が混在している可能性がある.そのため,「二心室修復の症例」における右室流出路導管に対するステント留置の頻度は不明であり,実際は左心低形成症候群のNorwood-Sano手術後の患者が多く含まれていると考えられる.そこで,今回我々は現状を確認する目的で上記の「JPICのアンケート調査」とは別に,2011~2013年の3年間にJPIC幹事所属施設に限定して改めてアンケートを行った(前述のJPIC stent surveyの調査期間は1995年5月から2009年2月で調査期間は重複なし).その結果,二心室血行動態の患者における右室流出路導管に対するステント留置術は1例も行われておらず,同手技は現在日本ではほとんど行われていない治療手技であることが確認された.

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Fig. 4 Trend of stenting for branch pulmonary stenosis and RVOT conduit from the annual report of the JPIC

Stenting for RVOT conduit emerged from 2007, and was performed only several cases a year. Furthermore, most of such cases were stenting for RV-PA shunt following Norwood-Sano operation for hypoplastic left heart syndrome.

ステント留置の合併症とその対策

冠動脈圧迫

右室流出路の人工導管に対するステント留置に伴い,冠動脈の圧迫が生じることが報告されている12,13).ステント留置に伴い冠動脈圧迫を生じると重篤な心筋虚血を招くため,事前に右室流出路と肺動脈の解剖学的な評価を行うことが重要である.近年,TPVIの増加に伴いこの合併症への関心が高まっている.右室流出路導管を拡大した際の潜在的な冠動脈圧迫のリスクは,TPVIの候補患者を対象とした研究で評価がなされており14,15),これらはステント留置の際のリスク評価にも参考になる.Morrayらは404例のTPVI候補患者に対してTPVI施行前に右室流出路のバルーン拡大と冠動脈造影を同時に施行して潜在的な冠動脈圧迫のリスクを評価した.冠動脈圧迫が生じたのは21/404(5%)例で,冠動脈圧迫を生じた21例中17例(81%)に冠動脈異常を認めたと報告されている14).Fraisseらは同様に6/100例(6%)で圧迫のリスクを認めており,冠動脈走行異常を危険因子としている15).冠動脈圧迫のリスクを伴うのはFallot四徴症,完全大血管転位術後の症例が多く,冠動脈が前上方に移植されているRoss手術後の患者も同様にハイリスクとされる14,15).事前にMRI,CTによる解剖学的な評価を行うことは有用であるが,それらの画像診断で冠動脈圧迫を予測できるのは約半数に限られるとの報告も存在する15).冠動脈と右室流出路の間に距離があるように見えても石灰化や癒着など両者間に介在する組織のために圧迫を生じることがありえるためであり,バルーン拡大試験は必須と考えられる.また,バルーン拡大試験に際してはバルーンの径,長さを適切に設定し,non-compliantバルーンを使用するなどの工夫が必要であり,stiff wire使用時にはその復元力で病変部が冠動脈から遠ざかることを考慮に入れることも重要である.

症例提示(Fig. 5

総動脈幹症,Rastelli術後.右冠動脈が左冠尖の高い位置から起始し,右室流出路に近接して走行している.この症例は右室流出路へのステントが必要と判断されていたが,冠動脈圧迫のリスクが高いと判断された.本症例では導管と冠動脈が明らかに近接していたため選択的な冠動脈造影は行っていない.しかし,ステント留置後に導管の位置が変化することが多いため,平時に近接していないと見える場合でも,導管のバルーン拡張と選択的な冠動脈造影を同時に行うことが重要である.

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Fig. 5 Potential risk of coronary compression following conduit repair for truncus arteriosus

a) Volume rendering image of computed tomography; b), c) Multiplanar reformations image of computed tomography; d) simultaneous angiography of aorta and RVOT conduit. The right coronary artery originates from high left sinus of Valsalva runs just beneath the RVOT conduit. This patient may be at high risk of coronary compression associated with RVOT stenting (black arrow shows right coronary artery just beneath the RVOT conduit).

ステント破損(Table 1

ステント破損は遠隔期に生じうるもう一つの問題点であり頻度は3~30%と報告により異なる4–6,16).Carrらの報告では20/106例(19%)でステント破損を認めており,ステント破損が生じない率を2年で87%,3年で57%と試算している4).一方,Pengらは221例(242手技)の右室流出路の人工導管狭窄の患者に対してステント留置を行い,心カテあるいは手術で確認した189手技中の56例(30%)でステント破損を認めており非常に高率であるが,これらの頻度の違いは評価に使用した検査法にもよるものと思われる6).この報告ではステント破損は高率に生じるものの血行動態の悪化や導管寿命の短縮にはつながらないとしているが,ステント破損を生じた56例中23例(41%)でステント追加を要している.断片の塞栓は3/20例(15%)~14/56例(25%)の頻度で生じ,同じく再手術やステント追加留置の原因となる4,6).ステント破損は導管が前方に近接する胸骨と後方の拍動する大動脈や心室に挟まれることにより生じる4,6,17).胸骨との隙間が狭いことやステントが胸骨と接した部分に留置されることがリスクとなり6,16,17),Pengらは50/56例(89%)で胸骨に接する位置に留置され後方からの圧迫を生じていたとしている.血管用ステントのradial strengthの限界であり,実際にGenesisステントは再介入のリスクである6)

前述のJPIC stent surveyでは3例でステントの破損を認めている.1例目は胸骨と大動脈に挟まれたことによる圧迫で生じており,2例目はバルーンの破裂に伴う破損であった.3例目は「金属疲労」が原因と記載されており,詳細は不明だが1例目と同様の機序が推察される.

症例提示(Fig. 6

14歳女児,完全大血管転位,心室中隔欠損.Lecompte術後の肺動脈弁上狭窄に対してP1808を使用した症例.圧較差は消失したが,7ヶ月後にステントの長軸方向の断裂を認めた.ステントと胸骨が近接している場合にはリスクになるが,本症例の場合には,拡大した大動脈による後方からの圧迫もステント破損の原因となっていたと推察される16).本症例は人工導管狭窄に対するステント留置ではないが,同様の機序で発生したステント破損と考えられる.

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Fig. 6 Fracture of the stent in MPA

a) Anteroposterior projection of pulmonary angiogram after stent implantation (P1808); b) Lateral projection; c) Anteroposterior view of the fractured stent 7 months after implantation; d) Lateral view; e), f) Computed tomography at the same time (black and white arrow shows fractured stent).

まとめ

日本では未だTPVIが使用できない現状であり,近年日本で行われている右室流出路の人工導管に対するステント留置は,ほぼ全例が左心低形成症候群のNorwood-Sano手術後の患者に対してである.右室流出路導管に対するステント留置術はTPVIが適応とならない小径の導管に対しても導管寿命の延長効果が期待でき,限られた患者に対しては有用な可能性がある.冠動脈圧迫,ステント破損などの合併症には注意が必要であり,事前に十分な評価が必要である.

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