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特定非営利活動法人日本小児循環器学会
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(5): 278-281 (2015)
doi:10.9794/jspccs.31.278

症例報告

大動脈弓離断症術後に重度の左肺動脈狭窄を合併したcrossed pulmonary arteriesの2例

1自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児科 ◇ 〒329-0498 栃木県下野市薬師寺3311番地1

2自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児・先天性心臓血管外科 ◇ 〒329-0498 栃木県下野市薬師寺3311番地1

受付日:2015年3月26日
受理日:2015年7月15日
発行日:2015年9月1日
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Crossed pulmonary arteries(CPAs)は,左肺動脈が右肺動脈の右上方より起始する稀な肺動脈奇形である.CPAs自体は通常無症状で,合併する心奇形の周術期にも問題となることは少ない.今回,大動脈弓離断症術後に重度の左肺動脈狭窄を合併した22q11.2欠失症候群の2例を経験した.左肺動脈狭窄に対し経皮的バルーン拡大術を行ったが,すぐにrecoilするため効果は乏しく,外科的に肺動脈形成術を施行した.CPAsの左肺動脈は起始部が大動脈弓に近く,形成後の大動脈弓による圧迫や,肺動脈周囲の形態変化に伴う捻れにより,狭窄を生じやすいと考えられた.CPAsを合併した大動脈弓離断症では,術後合併症として左肺動脈狭窄を念頭に置く必要がある.

Key words: crossed pulmonary arteries; 22q.11.2 deletion; left branch pulmonary stenosis; balloon angioplasty; three-dimensional computed tomography

はじめに

Crossed pulmonary arteries(CPAs)は,左肺動脈が右肺動脈の右上方より起始する肺動脈奇形で,総動脈幹症,大動脈弓離断症,Fallot四徴症,心室中隔欠損症,心房中隔欠損症などに合併する.また,22q11.2欠失症候群,18 trisomy,partial monosomy Xq,partial 1q,Noonan症候群,Costello症候群,Frank-ter Haar症候群,Holt-Oram症候群,VACTERL症候群など,多彩な染色体や遺伝子異常を基礎に持つことも多い.CPAs単独では通常無症状で,周術期を含め問題になることはあまりない1)

.術後合併症の報告は,肺動脈絞扼術後の右肺動脈狭窄のみである2).今回,CPAsを合併した大動脈弓離断症の術後に重度左肺動脈狭窄を生じ,経皮的バルーン拡大術が無効であった2例を経験した.

症例

1. 症例1

日齢2の男児.在胎37週2日,体重2,569 gで出生した.呼吸障害のため前医NICUに入院したが,大動脈弓離断症が疑われ当院に紹介された.心臓超音波検査で大動脈弓離断症B型,膜性部心室中隔欠損と左右肺動脈の分枝異常を認め,造影CT検査でCPAsと診断した(Fig. 1A

).また,顔貌異常(眼裂狭小,眼間隔離,小顎,鼻根部の扁平)を認め,FISH法で22q11.2欠失症候群と診断した.日齢5に拡大大動脈弓再建術と心室中隔欠損パッチ閉鎖術を行ったが,術後の心臓超音波検査と造影CT検査で,重度の左肺動脈狭窄を認めた(Fig. 1B).術後22日及び4ヶ月時に経皮的バルーン拡大術を行ったが,waistは消失するもののすぐにrecoilするため無効と判断した.1歳時に外科的左肺動脈形成術を行った(Fig. 1C).肺動脈形成前後での肺血流シンチで,左肺血流は10.5%から49.4%に著明に改善した.

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Fig. 1 Case 1: Three dimensional computed tomography (3D CT; superior view)

A: Preoperative 3D CT revealed crossed pulmonary arteries in which the ostium of the left pulmonary artery originated superiorly and to the right of the right pulmonary artery. B: Left pulmonary artery stenosis (arrow) as seen on postoperative 3D CT. C: The expanded left pulmonary artery as seen on 3D CT after pulmonary arterioplasty. LPA: left pulmonary artery, RPA: right pulmonary artery, MPA: main pulmonary artery, AAO: ascending aorta, DAO: descending aorta.

2. 症例2

日齢6の女児.在胎39週1日,体重2,742 gで出生した.日齢6に哺乳不良のため前医受診し,大動脈弓離断症が疑われ当院に搬送された.心臓超音波検査でB型の大動脈弓離断症,膜性部心室中隔欠損と,左右肺動脈の分枝異常を認め,造影CT検査でCPAsと診断した(Fig. 2A

).また,顔貌異常(眼裂狭小,眼間隔離,小顎,鼻根部の扁平)があり,FISH法で22q11.2欠失症候群と診断した.日齢12に拡大大動脈弓再建術と心室中隔欠損パッチ閉鎖術を行ったが,術後の心臓超音波検査で左肺動脈狭窄を認めた.造影CT検査上も左肺動脈狭窄は重度で(Fig. 2B),左肺動脈血流維持のため術後28日に左modified Blalock-Taussig shunt術を行った.術後3ヶ月時に左肺動脈狭窄に対して経皮的バルーン拡大術を行ったが,症例1と同様recoilするため無効と判断し,1歳時に外科的左肺動脈形成術を行った(Fig. 2C).

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Fig. 2 Case 2: Three dimensional computed tomography (3D CT; A: Posterior view, B: Superior view)

A: Preoperative 3D CT revealed crossed pulmonary arteries. B: Left pulmonary artery stenosis (arrow) as seen on postoperative 3D CT. C: The expanded left pulmonary artery as seen on 3D CT after pulmonary arterioplasty.

考察

CPAsは,左肺動脈が右肺動脈の右上方より起始する肺動脈奇形で,Jueらにより1966年に報告された.その発生学的機序は,肺動脈幹の反時計方向への異常な捻れが推測されているが,いまだ明らかでない3)

.また,臨床経過における注意点も,肺動脈絞扼術後の右肺動脈狭窄が報告されているのみであるが2),今回の2症例の経過からは,以下の2点が臨床的に明らかになった.CPAsを合併した大動脈弓離断症は,術後に重度の左肺動脈狭窄を合併する可能性があることと,この狭窄に対して経皮的バルーン拡大術は無効であることである.

CPAsは肺動脈幹が短いため,肺動脈絞扼術後に右肺動脈狭窄を合併しやすいと報告されているが2)

,自験例のように左肺動脈狭窄を合併した報告はない.また,拡大大動脈弓再建術は下行大動脈を前上方に偏位させるため,左肺動脈への圧迫に注意を要するが,再手術の原因としては,左室流出路狭窄の進行と大動脈再縮窄が多い4).自験例で左肺動脈狭窄を合併した原因として,CPAsは左肺動脈が右肺動脈の右上方より起始する形態上,左肺動脈起始部が大動脈弓に近く,形成後の大動脈弓による圧迫や肺動脈周囲の形態変化に伴う捻れが生じた可能性がある.

左肺動脈狭窄に対する経皮的バルーン拡大術は2症例ともに無効であった.血管の捻れや外部からの圧迫による狭窄の場合,経皮的バルーン拡大術を行ってもすぐにrecoilしてしまい効果は乏しいとされる.2症例とも同様にrecoilしており,術後左肺動脈狭窄の機序として,形成後の大動脈弓による圧迫や,形態変化による捻れを支持する所見と考えられた.経皮的バルーン拡大術が無効の場合はステント留置も考慮するが5)

,体格が小さいため2症例とも外科的左肺動脈形成術を選択した.

ところで,肺血管の成長は2歳までが重要であり6)

,それまでに肺動脈形成術を行うことが望ましい.肺動脈バルーン拡大術は無効であるため,症例2のように,左modified Blalock-Taussig shunt術により肺血流を維持し,体重増加を待って左肺動脈形成術を行う方法も有効である.さらに,術後の左肺動脈狭窄を防ぐため,手術時に,あらかじめ左肺動脈を転位したり,大動脈弓と肺動脈との間のスペースを確保するようにsubclavian flapを用いた大動脈弓形成(Fig. 3)を行うなどの工夫も必要と考えられた.CPAsは稀な肺動脈奇形で報告も少ないため,引き続き症例を蓄積していくことが重要である.

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Fig. 3 Reconstruction of the aortic arch with the left subclavian artery

LSCA: left subclavian artery, DA: ductus arteriosus.

結語

CPAsを合併した大動脈弓離断症は,術後に重度の左肺動脈狭窄を合併する可能性がある.この狭窄に対して経皮的バルーン拡大術は無効であり,早期の手術介入が必要と考えられた.

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