重症川崎病における持続的血液濾過透析併用緩徐血漿交換療法の有効性と安全性について
1 山梨大学医学部小児科学教室 ◇ 〒409-3898 山梨県中央市下河東1110番地
2 山梨大学医学部附属病院新生児集中治療部 ◇ 〒409-3898 山梨県中央市下河東1110番地
3 山梨大学医学部救急集中治療医学教室 ◇ 〒409-3898 山梨県中央市下河東1110番地
背景:当施設で施行した重症川崎病に対する持続的血液濾過透析併用緩徐血漿交換療法(SPE+CHDF)の有用性と安全性について報告する.
方法:当施設でIVIG不応性重症川崎病に対してSPE+CHDFを施行した12例を後方視的に検討する.
結果:SPE+CHDFを12例13コース施行した.SPE+CHDF施行前の心機能検査所見は,ANP値,BNP値,心胸郭比がすべて高値であった.SPE+CHDF施行前と比較した施行1時間後,3時間後の心拍数の変化率,収縮期血圧の変化率は共に有意差はなかった.SPE+CHDFを施行中に,強心剤の使用例や血管内カテーテル感染,人工呼吸器関連肺炎合併例はなかった.全例でSPE+CHDF開始後1~4日(中央値1日)で解熱した.SPE+CHDF施行前に冠動脈病変を認めた7例は,1年以内に全例で退縮した.
結論:重症川崎病には血漿交換療法(PE)が有効である.しかし,重症川崎病は循環動態不良例が多く含まれている.このため,重症川崎病に対して安全にPEを行うためには,SPE+CHDFが有用な方法の一つである.
Key words: Kawasaki disease; plasma exchange; plasmapheresis; hemodiafiltration; safety
© 2015 特定非営利活動法人日本小児循環器学会
川崎病は,乳幼児に好発する全身の中小動脈血管炎で冠動脈病変を合併するため,速やかな炎症の抑制が必要である.川崎病の治療には免疫グロブリン療法(intravenous immunoglobulin: IVIG)が有効であるが,IVIG抵抗性の重症例も存在する1)
.
2012年4月,川崎病はIVIG・ステロイドパルス療法・好中球エラスターゼ阻害薬が無効な場合または適応とならない場合,血漿交換療法(plasma exchange: PE)が保険適用となった.今後,重症川崎病の治療としてPEが全国的に普及していくと考えられる.しかし,PEは侵襲的治療で,循環動態不良例や乳児例へ施行する際には安全管理面の配慮が重要である.
川崎病の急性期合併症は,冠動脈病変以外に急性心筋炎や心原性ショック症例が報告されている2–10)
.川崎病に合併する心原性ショックの頻度は3.3~7.0%7–9)
,急性心筋炎の頻度は無症候性を含めると50%以上で2)
,死亡に至る重症症例も報告されている4,5)
.さらに,川崎病治療は,IVIGをはじめとする静注薬を多量に投与する必要があるため,体液量が過剰となり心不全発症や増悪には注意が必要である1)
.また,急性期に多臓器不全へ陥った重症川崎病症例も報告されている10).このことから,急性期川崎病は循環動態が不安定な病態であると考えられる.一般的なPEは,患者血漿を短時間で交換するため,急激な血圧変化や膠質浸透圧,電解質変化が影響し,循環動態を不安定にさせる可能性がある11–14)
.
当施設では2007年9月以降,IVIG不応性重症川崎病に対してPEによる治療を開始した.重症川崎病は循環動態が不安定であると考えられるため,PEを行う際には,全例で持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration: CHDF)を併用し緩徐にPEを行う持続的血液濾過透析併用緩徐血漿交換療法(slow plasma exchange plus continuous hemodiafiltration: SPE+CHDF)を選択し,PEの治療効果を報告してきた15,16)
.
今回,重症川崎病に対し当施設で施行してきたSPE+CHDFの有効性をまとめ,さらにSPE+CHDFの施行方法と施行する際の安全管理について後方視的に検討し報告する.
重症川崎病に対し当施設で施行したSPE+CHDFの有効性と安全性について検討することを目的とする.
2007年9月から2014年8月までに,山梨川崎病プロトコルを用いて676例に川崎病治療を行った.このうち,IVIG不応性重症川崎病であった全12例(1.8%)に対してSPE+CHDFを山梨大学医学部附属病院で13コース施行した.
12例の内訳は,年齢4ヶ月~5歳7ヶ月(中央値2歳1ヶ月),男女比8 : 4,体重5.9~27 kg(中央値10.9 kg)であった.初回IVIG投与病日は,3~7病日(中央値5病日).SPE+CHDF施行前に行われた治療は,1回のIVIG投与が1例,1回のIVIG投与後にinfliximab(IFX)投与が1例,2回のIVIG投与が2例,2回のIVIG投与後にIFX投与が7例,1回のIVIG投与後に心原性ショックを起こし心肺補助装置(percutaneous cardiopulmonary support: PCPS)を装着した症例が1例であった(Table 1).
Patient | Gender | Age at onset | Body weight (kg) | Start of IVIG (day) | Treatment before PE |
---|---|---|---|---|---|
1 | Female | 4m | 5.9 | 5 | IVIG 2+ASA |
2 | Male | 6m | 6.1 | 5 | IVIG 1+ASA |
3 | Male | 6m | 7.6 | 5 | IVIG 1+IFX+ASA |
4 | Male | 6m | 8.6 | 3 | IVIG 2+ASA |
5 | Male | 7m | 6.8 | 5 | IVIG 2+IFX+ASA |
6 | Male | 1y3m | 10.0 | 7 | IVIG 2+IFX+ASA |
7 | Male | 2y1m | 12.6 | 5 | IVIG 2+IFX+ASA |
8 | Male | 2y5m | 13.4 | 4 | IVIG 2+IFX+ASA |
9 | Female | 3y0m | 12.8 | 6 | IVIG 2+IFX+ASA |
10 | Female | 3y2m | 10.9 | 4 | IVIG 2+IFX+ASA |
11 | Female | 3y4m | 15.6 | 3 | IVIG 2+IFX+ASA |
12 | Male | 5y7m | 27.0 | 6 | IVIG 1+ASA+PCPS |
ASA, aspirin; IFX, infliximab; IVIG, intravenous immunoglobulin; PCPS, percutaneous cardio pulmonary support. |
川崎病の診断は,厚生労働省川崎病研究班作成改訂5版「川崎病診断の手引き」に基づいて行った17)
.山梨川崎病プロトコルを作成し,血漿交換療法の治療適応を決定した.山梨川崎病プロトコルによる治療法は,第5病日からアスピリン内服(30 mg/kg/day)を開始しIVIG 2 g/kgを24時間で投与する.治療終了後24時間の時点で解熱(体温37.5°C以下)またはCRP値の低下(最高値の50%以下)がない場合は,IVIGによる追加治療を行う.さらに治療終了後24時間の時点で解熱またはCRP値の低下がない場合は,infliximab(IFX)投与を行う.IFX投与が適応外症例(1歳未満,活動性感染症合併例)またはIFX不応例を重症川崎病とし,SPE+CHDFを施行した.
SPE+CHDFの治療中止基準は,川崎病診断基準に含まれる主要6症状の改善,冠動脈拡大の抑制とした.
当施設におけるSPE+CFDFの施行方法を示す(Fig. 1).
SPE was performed over 8 h, using 80 mL/kg of fresh frozen plasma (FFP), approximately 1-fold the circulating blood volume. One course: SPE+CHDF was performed daily for 3 consecutive days. Slow plasma exchange in combination with CHDF could reduce the side effects of FFP such as hypernatremia, hypocalcemia, metabolic alkalosis and a sharp decrease in colloid osmotic pressure. CHDF, continuous hemodiafiltration; FFP, fresh frozen plasma; PMMA, polymethyl methacrylate; QB, blood flow late; QD, dialysate rate; QF, filtration rate; SPE, slow plasma exchange.
侵襲的な治療に対する安全面での対策として,1)小児集中治療,小児血液浄化療法の治療経験を有する集中治療室で施行する.2)バスキュラーアクセスカテーテル留置は,気管挿管・鎮静を行い,エコーガイド下で施行する.3)SPE+CHDFを施行中は,鎮静と人工呼吸管理を行い,観血的動脈圧・中心静脈圧モニタリングを行う.4)SPEにおいて,凝固因子の喪失を予防するために新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma: FFP)で置換する.
次に,循環動態変化に対する配慮として,1)SPEは8時間以上かけて緩徐に行う.2)乳児は循環血液量が少ないため,SPEとCHDFの回路内を合成血液(赤血球濃厚液2 U,FFP 2 U,7%炭酸水素ナトリウム水溶液20 mL,ヘパリン2 mL)でプライミングする.3)回路内の合成血液は,SPEとCHDFの回路を直列に接続し濾過透析(QB 30 mL/min,QF 300 mL/h,QD 3000 mL/h,施行時間30分)することで,患者のHt値,K値と一致させる.4)大量FFP輸注に伴うアルカローシス,低アルブミン血症,高Na血症,低Ca血症を改善させるためにCHDFを併用する.
1回あたりの血漿処理量は1循環血液量分とする.大量FFP輸注に伴う低Alb血症を予防するために,FFP置換量は血漿処理量の1.2倍とし,過剰水分量をCHDFで濾過し除水する.SPEで使用するFFPは,5U製剤を用いることで使用するFFP製剤数を減らす.SPE+CHDFは,このような方法で連日3回を目安に行う.
SPE+CHDFの有効性と安全性の評価項目は,臨床所見(体温,心拍数,血圧),血液検査(末梢血,血清アルブミン・ナトリウム・カルシウム・ANP・BNP値,凝固系),心エコー検査(左室駆出分画,左室拡張末期径),心胸郭比とした.治療前後に冠動脈径を計測し,Z score 2.0以上を拡大と定義した.測定項目の値は,平均値±標準偏差で表し,統計学的検討は,Mann–Whitney検定で行い,p<0.05の場合を有意差ありとした.
2005年,川崎病に対するCHDFを併用した血漿交換療法は,山梨大学医学部倫理委員会の承認を得た.当施設では,2007年から重症川崎病に対してSPE+CHDFを施行してきた.その際は,全例でご両親への説明と同意を得て施行した.
SPE+CHDF施行前の心機能検査所見を示す.左室駆出分画は61.5±16.8%,左室拡張末期は対正常値比111±13%であった.しかし,ANP値(正常値<3 pg/mL)は10例中9例(222±173 pg/mL),BNP値(正常値<18 pg/mL)は11例中10例(426±605 pg/mL)で共に高値,心胸郭比(正常値<55%)は12例中8例(56.3±5.6%)で高値であった(Table 2).
Patient | LVEF (%) | LVDd (% of normal) | ANP (pg/mL) | BNP (pg/mL) | CTR (%) |
---|---|---|---|---|---|
1 | 73 | 98 | 34 | 36 | 49 |
2 | 63 | 123 | 349 | 1402 | 62 |
3 | 69 | 92 | 393 | 201 | 49 |
4 | 71 | 93 | 104 | 43 | 51 |
5 | 69 | 128 | 1290 | 159 | 55 |
6 | 70 | 122 | NA | 196 | 50 |
7 | 61 | 117 | NA | NA | 59 |
8 | 65 | 118 | 564 | 775 | 62 |
9 | 66 | 107 | 70 | 14 | 58 |
10 | 60 | 106 | 89 | 72 | 60 |
11 | 60 | 104 | 113 | 62 | 56 |
12 | 10 | 129 | 218 | 1725 | 65 |
Mean±SD | 61.5±16.8 | 111±13 | 222±173 | 426±605 | 56.3±5.6 |
ANP, atrial natriuretic peptide; BNP, brain natriuretic peptide; CTR, cardiothoracic ratio; LVEF, left ventricular ejection fraction, LVDd, left ventricular end-diastolic diameter; NA, not available. |
また,Ht値(正常値33~41%)は全例(27.1±3.5%),Alb値(正常値3.9~5.0 g/dL)は全例(2.2±0.4 g/dl),血清Na値(正常値138~145 mEq/L)は12例中9例(134.4±3.0 mEq/L)で低値であった(Fig. 2).
Alb, albumen; CHDF, continuous hemodiafiltration; Ht, hematocrit; PT, prothrombin time; SPE, slow plasma exchange.
バスキュラーアクセスカテーテルは,内径静脈に9例,大腿静脈に2例留置した.1例は,PCPS回路にPSE+CHDF回路を直接接続した.血漿処理量は86.5±15.1 mL/kg,循環血漿量に対する血漿処理量の比は1.60±0.30,血漿交換療法施行時間は8.0±1.7時間であった.SPEに併用したCHDFの血液浄化量(QD+QF)は,29.1±6.1 mL/kg/hであった(Table 3).
Patient | Vascular access | Volume of plasma removed (mL/kg) | CHDF QD+QF (mL/kg/h) | Operating time of PE (h) | Total volume of plasma removed/patient’s circulating volume | |
---|---|---|---|---|---|---|
Catheter | Puncture site | |||||
1 | 6.5Fr | IJV | 86.4 | 33.9 | 9 | 1.58 |
2 | 6.5Fr | IJV | 60.0 | 41.0 | 6.5 | 1.12 |
3 | 6.5Fr | FV | 82.6 | 37.2 | 10 | 1.37 |
4 | 6.5Fr | FV | 88.2 | 27.6 | 5.5 | 1.53 |
5 | 6.5Fr | IJV | 82.4 | 26.5 | 8 | 1.58 |
6 | 6.5Fr | IJV | 110.0 | 32.0 | 9 | 2.03 |
7 | 6.5Fr | IJV | 77.0 | 22.2 | 6.5 | 1.45 |
8 | 6.5Fr | IJV | 84.0 | 23.9 | 8.5 | 1.60 |
9-1 | 6.5Fr | IJV | 57.0 | 20.3 | 5 | 1.17 |
9-2 | 6.5Fr | IJV | 87.5 | 20.3 | 7.5 | 1.79 |
10 | 8Fr | IJV | 104.0 | 26.6 | 7.5 | 2.15 |
11 | 8Fr | IJV | 97.0 | 28.8 | 9 | 1.93 |
12 | Connected to PCPS | 74.1 | 29.7 | 10 | 1.49 | |
Mean±SD | 86.5±15.1 | 29.1±6.1 | 8.0±1.7 | 1.60±0.30 | ||
CHDF, continuous hemodiafiltration; FV, femoral vein; IJV, internal jugular vein; PCPS: percutaneous cardiopulmorary support; PE, plasma exchange; QD, dialysate rate; QF, filtration rate. |
SPE+CHDF施行前後でのヘマトクリット値,血清電解質,凝固因子の変化を示す(Fig. 2).ヘマトクリット値,血清Na値,血清総Ca値は変化がなかった.また,アルブミン,フィブリノーゲン,プロトロンビン時間は正常化した.
SPE+CHDF施行前後での心拍数の変化を示す.施行前と比較した施行1時間後,3時間後の心拍数変化率は,それぞれ−0.74±9.48%,2.27±10.48%で共に有意差はなかった.また,施行前と比較した施行1時間後,3時間後の収縮期血圧の変化率は,それぞれ−0.93±8.47%,7.80±11.00%で共に有意差はなかった.
ICU入室期間は4~16(中央値4)日間,人工呼吸管理期間は2~13(中央値4)日間,SPE+CHDF終了から人工呼吸離脱までの期間は0~8(中央値1)日間であった.
SPE+CHDFを施行中に,強心剤を使用した症例や血管内カテーテル感染合併例,人工呼吸器関連肺炎合併例はなかった.また,FFP輸注に伴う輸血後感染症発症例はなかった.
SPE+CHDFは,7~13病日(中央値10病日)に施行された.SPE+CHDFを行うことで,治療開始後1~4日(中央値1日)で解熱した.12例中10例で直ちに炎症を沈静化させ冠動脈瘤を形成させずに治療を終了できた.再燃のため追加治療を必要とした2例は施行前に冠動脈病変を認めたが,SPE+CHDFを行うことでいったんは解熱し冠動脈病変の拡大を抑制することができた.さらに,SPE+CHDF施行前に冠動脈病変を認めた7例は,1年以内に全例で冠動脈病変が退縮した(Table 4).
Patient | Start of PE (day) | Duration for PE (days) | Maximum coronary artery size (Z score) | Defervescence from the start of PE (day) | Additional treatment after PE | |
---|---|---|---|---|---|---|
Acute period | Late period | |||||
1 | 12 | 5 | LMT 3.1 mm (4.9), RCA 3.3 mm (7.0) | Regression | 4 | IVIG |
2 | 7 | 3 | LMT 3.0 mm (4.6), RCA 2.6 mm (4.0) | Regression | 1 | IVIG |
3 | 11 | 3 | No dilatation | 1 | IVIG | |
4 | 8 | 3 | LCX 3.3 mm (5.2) | Regression | 1 | IVIG |
5 | 11 | 2 | LMT 2.9 mm (4.1), RCA 3.1 mm (5.0) | Regression | 1 | mPSL, cyclosporin |
6 | 11 | 3 | No dilatation | 1 | IVIG | |
7 | 13 | 2 | CX 2.6 mm (2.7), RCA 4.8 mm (6.6) | Regression | 2 | |
8 | 9 | 3 | No dilatation | 1 | IVIG | |
9-1 | 13 | 2 | LMT 4.0 mm (4.9), RCA 3.9 mm (6.2) | 1 | IFX | |
9-2 | 22 | 3 | LMT 4.1 mm (5.1), RCA 5.0 mm (8.7) | Regression | 2 | mPSL |
10 | 9 | 3 | No dilatation | 3 | IVIG | |
11 | 8 | 3 | No dilatation | 1 | IVIG | |
12 | 9 | 3 | LMT 3.6 mm (2.2) | Regression | 2 | |
IFX, Infliximab; LAD, left anterior descending coronary artery ; IVIG, intravenous immunoglobulin; LCX, Left circumflex coronary artery; LMT, Left main trunk; mPSL, methylprednisolone; RCA, Right coronary artery. |
川崎病に起因した急性心筋炎の症例12は,第6病日に川崎病と診断されIVIG療法が行われた.しかし,心原性ショック(左室駆出分画10%)を発症したため,第7病日にPCPSを装着し,第9病日からSPE+CHDFを連日3回施行した.SPE+CHDFを行うことで,左室収縮率は50%に改善し,第13病日にPCPSから離脱できた.
再燃したため追加治療を必要とした2症例の経過を示す.症例5は,第11病日にSPE+CHDFを連日2回施行することでいったん解熱した.しかし再度発熱,発疹を認め川崎病が再燃したため,第27病日にステロイドパルス療法,第33病日からシクロスポリン投与を行った.症例9は,第11病日にSPE+CHDFを連日2回施行したことでいったん解熱した.しかし川崎病が再燃したためIFX投与を行ったが発熱が続いた.このため,第22病日に再度SPE+CHDFを行い解熱した.しかし再燃したためステロイドパルス療法を行った.
SPE+CHDF前後で測定できた炎症性サイトカイン血中濃度は,IL-6がそれぞれ257±248 pg/mL(n=4, range 12~499 pg/mL),5.0±4.8 pg/mL(n=4, range 1.3~4.6 pg/mL),TNF-αがそれぞれ4.9±2.4 pg/mL(n=4, range 2.3~7.7 pg/mL),5.0±3.5 pg/mL(n=3, range 1.7~8.7 pg/mL),IFN-γがそれぞれ0.24±0.05 pg/mL(n=5, range 0.2~0.3 U/mL),0.36±0.5(n=5, range 0.1~1.3 U/mL)で,治療前後での有意差はなかった.
当施設で施行した重症川崎病に対するSPE+CHDFは,炎症を直ちに沈静化させた.再燃し追加治療を必要とした症例においても,いったんは解熱し冠動脈病変の拡大を抑制することができた.さらに,SPE+CHDF施行前に冠動脈病変を認めた例は,1年以内に全例で冠動脈病変が退縮した.このことから,重症川崎病におけるSPE+CHDFは,炎症の沈静化と冠動脈病変の病状進行を抑制する効果が確認された.さらにSPE+CHDFはIVIGやIFX投与で改善しない重症川崎病の急性期治療として有効な治療手段の一つであると考えられた.今回,SPE+CHDFを連日2回で終了した2症例(症例5,症例9)は,共にいったんは解熱したが再燃し,追加治療を必要とした.このことから,川崎病におけるSPE+CHDFは,2回のPEでは不十分で少なくとも連日3回以上行う必要がある.十分量の血漿を交換することで,確実な治療効果が得られると考えられた.
当施設ではSPE+CHDFを施行する前に心機能評価を行った.心原性ショックを起こした症例以外は左室駆出分画が正常範囲であった.しかし,多くの症例で心胸郭比は高値,血清ANP値・BNP値は高値,Ht値・Alb値・Na値は低値であった.このことから,重症川崎病は,うっ血性心不全の病態が背景にあると考えられた.また,重症例では急性心筋炎や多臓器不全を併発する危険性がある2–10)
.このため,川崎病に対するPEを施行するときは,急激な循環動態の悪化やPEの合併症に対する準備を十分に行うことが大切である.
PEを行う際にバスキュラーアクセスカテーテルを留置する必要がある.小児患者での中心静脈路確保で,特に頭頸部で処置が必要な場合,気管挿管による気道確保と呼吸の調節,麻酔鎮静による体動の制御は,安全に留置するための必要な措置である18)
.次に,川崎病におけるPEは,十分量の血漿を交換する必要があるが,アルブミンで置換した場合,免疫グロブリン・凝固因子の喪失が大きい19)
.一方で,PEをFFPで置換した場合,膠質浸透圧の低下,高Na血症,低Ca血症,アルカローシスを引き起こし,循環動態に影響することが考えられる.このような循環動態が不安定な症例にPEを行う際には,FFPを用いて緩徐に行い,CHDFを併用することでこれらの合併症を減らすことができると報告されている11–14)
.
このような背景から当施設では,川崎病に対するPEを行う場合,全例でSPE+CHDFを選択し前述した方法で施行している.PEにおける血漿処理量と血漿中物質除去率の関係は,指数関数的な関連性を示している.1回の血漿交換で患者血漿量の1.5倍以上交換しても,除去率は大きく増加しない20).このことから当施設では,1回当たりの血漿処理量は循環血漿量の1.5倍量を目安とし,これとほぼ同等量となる1循環血液量分を血漿処理量と設定している.大量FFP輸注は輸血後感染症の危険性ある.このため,SPEで使用するFFPは,5U製剤を用いることで使用するFFP製剤数を減らした.
前述した方法でSPE+CHDFを施行したところ,施行前後で心拍数・収縮期血圧に有意な変動はなかった.SPEはFFPで置換することで,フィブリノーゲンの喪失を防ぎ,凝固機能を改善させた.SEPにCHDFを併用することで,大量FFP輸注で起こる高ナトリウム血症,低カルシウム血症,低アルブミン血症を防止した.血液回路を合成血液で置換したことで,ヘマトクリット値は変化が起きなかった.また,血管内カテーテル関連・人工呼吸器関連感染症,輸血後感染症の発症症例はなかった.人工呼吸管理期間,ICU滞在日数は長期化することがなく安全に施行することができた.当院では乳児拡張型心筋症による重症心不全症例への治療として,同様の方法でSPE+CHDFを安全に行うことができている21,22)
.このことから,当院で行っているSPE+CHDFの施行方法は,循環動態が著しく不安定な乳児重症心不全症例でも,安全で確実に血漿交換を行うことができる方法である.
しかし,今回の検討では重症川崎病に対してSPE単独と比較したSPE+CHDFの有効性は示していない.今後,より簡便で安全な血漿交換療法の施行方法を検討していく課題が残される.
川崎病に対するPEの作用機序は明らかにされていないが,サイトカイン関連疾患であるため,PEは炎症性サイトカイン量を減少させることに関与していると報告されている23,24).
当施設で炎症性サイトカインを測定できた重症川崎病症例の血中濃度は,IL-6,TNF-α,IFN-γが正常値より高い値を示した.一方で,炎症性サイトカインが高値となり血液浄化療法でサイトカイン除去が治療対象となるSeptic shockと比較して重症川崎病の炎症性サイトカインは比較的低値にとどまっている11,25).
近年,PEは,自己抗体,免疫複合体,炎症性サイトカインの除去による液性免疫への効果以外に細胞性免疫への効果が報告されている26,27).また,川崎病の末梢血では,急性期にCD14+単球/マクロファージおよびCD3+Tリンパ球のNF-κBの活性化がみられ,サイトカイン遺伝子を発現させサイトカイン産生に関与すると報告されている28).
このことから,川崎病におけるPEの作用機序は,直接的なサイトカインを除去する機序に加えて,細胞性免疫へ関与し炎症を沈静化させる機序が示唆される.
2013年から従来の治療では効果が得られない重症川崎病に対するPEが保険適応となり,今後広く行われる可能性がある.しかし,重症川崎病は心機能低下例,うっ血性心不全例などの循環動態不良例や多臓器不全例が多く含まれている.また,乳幼児に対するPEは,循環血液量が小さく循環動態を変動させる可能性がある侵襲的な治療法である.このことから,重症川崎病に対するPEは,当院で施行しているSPE+CHDFが有用な方法の一つであると考えられる.さらに,循環動態が不安定な症例や乳児例へPEを行う際には,小児集中治療や小児血液浄化療法の経験がある施設へ集約化させ,集中治療室で気道確保・人工呼吸管理・循環動態のモニタリングを行い,安全性に対して十分配慮して治療を行うことが重要であると考える.
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