門脈肺高血圧症(POPH: Portopulomonary hypertension)
POPHは2013年のニース分類2)の中で門脈圧亢進症に伴うものとして位置づけられているが,これは肝実質疾患が先行している症例を主に指しており,CPSVSによるPAHを含めるのが妥当かは厳密に言うと定かではない.しかし,過去の論文でこの文言は既に使われており3),同じ概念とする方が一般的には考えやすい.なぜならば,両者においてPAHの発症機序は類似していると考えられるからである.本来肝で代謝されるはずの血管収縮物質や微少血栓が肺血管へ直接到達することによる血管平滑筋の収縮や血管内腔の塞栓,そして,シャントに伴う肺血流増加による肺血管へのshear stressが原因と推測されている1).CPSVSに合併したPAHの肺血管病理像は内膜増殖,平滑筋肥厚,血栓形成であり,肝疾患を有するPOPHと酷似している2,3).成人領域におけるPOPHの研究では,PAHの発症や重症度は肝疾患の重症度に関連がなく,シャント血管の太さや4),強力な血管収縮物質であるET-1の血中濃度5)と関連があると言われている.このことからもシャント血管の存在がPAHの発症に寄与していると考えられる.今後,CPSVSによるPAHが肺高血圧症分類の中に明記されるか注目したいところである.
肝肺症候群(HPS: Hepatopulmonary syndrome)とPOPHの合併
肺内シャントを有する場合,CPSVSでもHPSという病名が使われているが,基本的には肝疾患を有するものを意味している.しかし,POPHと同様に過去の論文に既出であり,発症機序も類似していると推測されるため今回はこの病名を用いることとする.HPSは末梢肺血管拡張と肺動脈瘻(肺内シャント)を主病変とし,換気血流不均衡によるチアノーゼを引き起こす.従って,心内短絡のないCPSVS患者にチアノーゼが出現した場合は肺動静脈瘻の存在を念頭に置かなければならない.ET-1がET-1B受容体に結合することでNO産生を促し,その結果肺血管が拡張すると考えられている.また,VEGFの産生増加による血管新生促進が肺動静脈瘻出現の一因と推測されている6).
肝疾患を伴うものを含め,HPSにPOPHを合併した報告が散見される.Phamらのreview of literatureでは7例がHPSとPOPHを発症しており,そのうち5例はHPSが先行し,1例はPOPHが先行,1例はHPSとPOPHが同時に診断されている7).HPSとPOPHという相反する病態が移行もしくは同時に存在する機序についてはまだ明らかになってはいないが,Zopeyらは,門脈圧上昇によってbacterial translocationが起こり,各種の血管作動物質を放出し,エンドセリン系を活性化させると考察している8).ET-1がETA受容体に結合すれば血管収縮へ,ETB受容体に結合すれば血管拡張へと進むのではないかと考えられる.
1. シャント血管に対する治療
1)適応
シャント血管を塞栓もしくは結紮してよいかどうかを判断するために門脈圧を正確に計測する必要がある.カテーテルをシャント血管内へ進め,充分に大きなバルーンでシャント血管を閉塞させて門脈圧を測定する.閉塞下門脈圧が32 mmHgより低ければ一期的に,高ければ二期的に治療を行うとする報告があるが9,10),当科では28 mmHgを基準としている.
2)時期
POPHやHPSの発症機序から考えると,どの症例もいずれはこれらを合併する可能性が高い.よって,病状が進む前に診断した段階で塞栓もしくは結紮を考慮すべきと考える.肝内シャントの場合は2歳までに自然閉鎖する可能性があるため,治療せずに待機した方がよいという報告もある9,10).ただし,シャント血管が大きい場合には,上記の合併症が急速に進行する可能性を踏まえ,2歳未満であっても診断した段階で塞栓もしくは結紮を一度考慮すべきである.
3)方法
コイル塞栓いくつかの報告がみられるが,当科でもこれまでに9例にコイル塞栓を行い,全ての症例において治療可能であった.下大静脈からシャント血管へアプローチする.血流方向を考慮し,なるべくならばくびれのある部分にコイルを留置するのが望ましい.私見としては,ほとんどの症例において手技的にはコイル塞栓が可能と考えている.ただし,径の大きな血管となると多くのコイルを用いなければならず,手技に時間を要しコストもかかる.
バルーン閉塞下逆行性経静脈塞栓(B-RTO)エタノールを用いた血管内塞栓であり,成人領域ではしばしば行われている方法である.塞栓力は強く,1本の単純な血管であればくびれがなくとも塞栓が可能である.当科でも2例の経験があり,どちらも充分な塞栓が得られた11).ただし,施行後に翌朝までの絶対安静を要するため,小児では長時間かつ充分な鎮静剤の投与を必要とする.
外科的結紮術肝内シャントの場合は肝切除をせざるを得ないため,基本的には肝外シャントが適応となる.開腹もしくは腹腔鏡による方法があり,結紮の際に脾臓や腸のうっ血などの状況を肉眼的に確認できる.しかし,確実に血管を処理できる一方で侵襲が大きい.
4)治療選択
カテーテル検査による閉塞下門脈圧が明らかに基準を下回っている場合には,カテーテル治療を勧めたい.一方,基準近くの場合には,外科的に確実に閉塞させた状況で再度門脈圧を測定することが望ましい.また,上述のような明らかに門脈圧が基準を上回っていて,二段階で治療していく場合には,微妙な調節が必要なため段階的な外科的結紮が適応となる.
5)補足
シャント血管は単純でないことが多く複雑多岐にわたるため,いずれの治療を選択するにしても,施行前に造影CTや血管造影を行って血管の走行を正確に把握しておく必要がある.そうでなければ,無駄に時間を要するだけである.
2. POPHに対する治療
1)肺血管拡張剤
POPHはエンドセリン系が活性化しているという背景から,エンドセリン受容体拮抗薬の有用性が予測される.ただし,CPSVS患者は肝機能が軽度ではあるが上昇していることが多く,ボセンタン投与の場合は肝酵素のより密なチェックが必要不可欠である.よって,肝障害が少ないとされているアンブリセンタンを選択する方が安全であろう.ホスホジエステラーゼ阻害薬は強力な血管拡張剤であるが,脾静脈拡張を起こし門脈圧を上昇させる可能性があることと,成人領域ではシルデナフィル投与後にHPSが悪化したという報告もあるため12),慎重な投与が必要となる.過去の報告でCPSVSのPOPHに対してボセンタン,シルデナフィルを用いた報告が散見されるが10),当科ではPOPH合併例に対しては,上記の理由でアンブリセンタン(0.05~0.2 mg/kg分1)を第一選択とすることとしている.もちろん,シャント血管の塞栓もしくは結紮が最も重要な治療であるため,それと組み合わせた治療戦略を練るべきである.
2)治療後の経過
シャント血管の塞栓・結紮もしくは肝移植によってHPSは多くの症例で,チアノーゼが消失すると言われているが,POPHについては肺動脈圧や肺血管抵抗が正常化することは難しい10).自験例でも,シャント血管の治療をすることでPAHの進行は防ぐことができるが,正常化までは至っておらず,肺血管拡張剤投与を要している.肺血管病変が進行し,不可逆的になる前に治療を行うべきであり,早期診断・治療の重要性がうかがえる.
門脈欠損と肝移植
CPSVSの中に門脈欠損もしくは門脈低形成を伴う症例が存在する.当科でも6例の欠損,7例の低形成を経験した.肝内門脈の有無については造影CTで判断されていることが多いため,永田論文のように肝生検で肝内門脈を確認することも一つの方法であろう.カテーテル検査でシャント血管を逆行性にやや圧力をかけて造影するのも大変有用な確認方法である.少しでも門脈が造影されれば,門脈圧の基準に従って治療を進めていけばよいと考える.実際に自験例では3例の造影CTでは門脈欠損と診断されていた症例に,逆行性造影で門脈の存在を確認後,カテーテルでシャント血管に対してコイル塞栓術を行い,施行後門脈血流が出現,増加している.つまり,門脈欠損には肝移植しかないとされていたが,症例を選択することで肝移植を回避することができるのではないかと考える.
遺伝的背景
CPSVSの原因遺伝子に関する報告はほぼない.唯一,マウスにおいてaryl hydrocarbon receptorと静脈管の関連を述べた研究があるのみである13).今回の永田論文のようにNoonan症候群に合併した報告は興味深い.自験例で約半数が心疾患を合併しており,heterotaxyとの関連も言われていることから,血管形成において何らかの遺伝子異常が背景にあると思われる.今後の研究に期待したい.
注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.
永田佳敬,ほか:門脈体循環シャントによる肺高血圧症及び肺内シャントを合併したNoonan症候群の1例.日小児循環器会誌2015; 31: 212–219