遠隔期成績からみた完全房室中隔欠損症に対する術式選択の検討
1 大阪市立総合医療センター小児医療センター小児心臓血管外科 ◇ 〒534-0021 大阪府大阪市都島区都島本通2丁目13番22号
2 大阪市立総合医療センター小児医療センター小児循環器内科 ◇ 〒534-0021 大阪府大阪市都島区都島本通2丁目13番22号
3 大阪市立総合医療センター小児医療センター小児不整脈科 ◇ 〒534-0021 大阪府大阪市都島区都島本通2丁目13番22号
目的:完全型房室中隔欠損(cAVSD)に対する各術式の術後遠隔期成績ならびに術式選択について検討すること.
対象と方法:対象は,2000年1月から2012年12月の間に,当院で2心室修復術を施行したcAVSD 29例(21 trisomy 24例).房室弁形態はRastelli type A 20例,type C 9例で,two-patch法を17例(T群),simplified single-patch法を12例(S群)に施行.各群における術前ならびに術中の患者因子ならびに術後心エコー検査による左側房室弁逆流(lt AVVR)を比較し評価した.
結果:S群はT群に比し,心室中隔欠損(VSD)の深さ(8.2±2.0 vs. 5.6±2.3 mm, p=0.001)は浅かった.術後10年でのlt AVVRに対する再手術回避率はT群76%,S群68%で有意差なし(p=0.931).T群の再手術症例は,lt AVVRに対する弁形成術1例,弁置換術3例で,S群は,lt AVVRに対する弁形成術1例,弁置換術1例,左室流出路(LVOT)膜様狭窄解除術1例であった.またT群2例で術中simplified single-patch法からtwo-patch法へ移行し,1例はRastelli type AでVSDは7 mmと深く,simplified single-patch法施行後に共通前後尖が落ち込み,1例はtype CでVSDが前上方進展しており,simplified single-patch法施行後LVOTOを認めた.
結論:cAVSDに対する術後遠隔期成績は両術式とも差はなく,術式選択に関しては,弁尖形態,VSDの深さのみならずその進展方向も考慮すべきと考えられた.
Key words: complete atrioventricular septal defect; simplified single-patch method; two-patch method
© 2015 特定非営利活動法人日本小児循環器学会
完全型房室中隔欠損症(cAVSD)の手術成績は,乳児期中期までの早期手術介入,術式の改良および術後管理の進歩により向上している.cAVSDに対する標準術式としてtwo patch法が採用され,術後遠隔期再手術回避率も87~93%と報告されている1,2)
.近年,Nicholsonら3)の報告した房室弁を切開せず,心室中隔欠損を直接閉鎖するsimplified single patch法は,手術の簡素化ができ,two patch法と遜色ない手術成績で,術後7.3年の再手術回避率も97%と報告4)されている.当院では,VSDが比較的浅く,術後共通前後尖の変形が少ないと考えられる症例に対しsimplified single patch法を選択してきた5)
が,どちらの術式を選択するかは施設間でも差があり,個々の症例に応じて術式選択を行っているのが現状である.
今回,当院で経験したcAVSDに対する両術式間での遠隔期成績を比較するとともに,術式選択について後方視的に検討した.
対象は,2000年1月から2012年12月までに,当院で2心室修復術を施行したファロー四徴症合併を除くcAVSD 29例で,21 trisomy症例は21例(83%)であった.29例中,two patch法を施行した17例をT群,simplified single patch法を施行した12例をS群とし,房室弁形態はRastelli type A 20例(うちT群10例),type C 9例(うちT群7例)であった.また,先行手術として,肺動脈絞扼術を2例(ともにT群),T群1例に肺動脈絞扼術+拡大大動脈弓再建術を施行し,残る26例は一期的に二心室修復術を施行した.
方法は,2群間での手術時年齢,体重,術前心臓カテーテル検査での平均肺動脈圧,肺血管抵抗値,手術時人工心肺時間,心停止時間,ならびに術中計測によるVSDの深さ(VSD depth)を比較した.また術後心臓超音波検査による左側房室弁逆流(lt AVVR)の推移を観察し,各群での再手術回避率を算出した.さらに,各群における再手術症例ならびに術中術式変更を要した症例から手術術式の妥当性につき検討した.
心臓超音波検査は,十分な経験のある複数の小児循環器内科医により施行し,lt AVVRの程度はカラードップラーシグナルの左房内での到達距離およびシグナル面積により総合的に評価し,なし(0度),極少(1度),軽度(2度),中等度(3度),重度(4度)の5段階で評価した.連続変数は,平均±標準偏差で示し,2群の比較による統計学的検討はpaired t検定を用い,p値が0.05未満で統計学的有意差ありとした.また,再手術回避率の算出はKaplan–Meier法を用いた.
T群1例を術後肺炎で失ったが,観察期間1カ月から12.6年(6.5±3.5年)で遠隔期死亡ならびに術後完全房室ブロックを認めた症例はなかった.また,両群間の各因子を比較すると,S群において人工心肺時間,大動脈遮断時間に有意差は認めなかったものの,VSD depthが小さかった(Table 1).
T group (17 cases) | S group (12 cases) | p | |
---|---|---|---|
Age at operation (month) | 7.3±5.1 | 6.5±5.1 | 0.706 |
Body weight at operation (kg) | 5.2±1.5 | 5.4±1.6 | 0.747 |
Preoperative mPAP (mmHg) | 48±11 | 49±13 | 0.953 |
Preoperative PAR (U·m2) | 6.8±3.1 | 6.4±2.7 | 0.697 |
Bypass time (min) | 101±37 | 99±22 | 0.66 |
Aortic cross clamp time (min) | 61±18 | 57±25 | 0.54 |
VSD depth (mm) | 8.2±2.0 | 5.6±2.3 | 0.001 |
Values are expressed as mean±S.D.; mPAP=mean pulmonary arterial pressure; PAR=pulmonary arterial resistance. |
両群の術後心エコー検査におけるlt AVVRの経時的推移を調べると,T群において(Fig. 1),破線で示す4症例で術後lt AVVRに対する再手術を必要とした.症例1は左側mural leafletが大きく2尖に分かれており,cleft sutureを施行後縫合部が離開し,再度cleft縫合ならびにkay法による弁輪縫縮を行い,術後7年でlt AVVR 2度で経過している.症例2はcleft縫合部が離開しlt AVVRを認めたが,弁輪径が小さく,再縫合による左側房室弁狭窄が懸念されたため,人工弁置換術を施行した.症例3は,術後3日目に感染性心内膜炎により人工弁置換術を施行,症例4は症例1と同様にmural leafletが大きく,2尖に分かれた形態で,cleft sutureを施行せず手術を終了したが,弁逆流が増強し,cleft sutureを施行したが逆流が制御できず人工弁置換術を施行した.
LAVVR=left atrioventricular valve regurgitation; op=operation.
またS群においても(Fig. 2),破線で示す3症例で再手術を必要とした.症例1は,mural leafletが大きく2尖に分かれており,初回手術ではcleft sutureを施行せず,術後弁逆流が増強し,cleft sutureを施行するも弁逆流が制御できず人工弁置換術を施行した.症例2は,術後感染性心内膜炎に罹患,弁穿孔を認め,心膜パッチにて形成術を施行し術後2年で弁逆流は2度で経過している.症例3は,術後進行する左室流出路線維性病変による左室流出路狭窄(LVOTO)の進行,左側房室弁逆流進行を認め,LVOTO解除術に加えcleft suture施行し,術後2年で弁逆流は2度で経過している.両群の左側房室弁逆流に対する再手術回避率は,術後10年でT群76%,S群68%であり両群間で有意差を認めなかった(Fig. 3).
LAVVR=left atrioventricular valve regurgitation; op=operation.
T群2例で,術中modified single patch法からtwo patch法へ変更した.1例目(症例2)は,Rastelli type AでVSD depthが7 mmであり,modified single patch法施行後に共通前後尖の落ち込みが大きくなり,lt AVVRを認めたため,two-patch法へ変更した.
2例目は,術中所見でRastelli type Cに加え,VSDが前上方進展していることが確認され,simplified single patch法を施行するもLVOTOを認めたため,two patch法へ変更することでLVOTOを解除できた.
c-AVSDは病型,VSDおよび一次孔閉鎖方法,房室弁形成方法,および房室伝導障害回避法により様々な術式が考案され,多くの施設ではtwo patch法を施行し,良好な遠隔期成績が報告されている1,2)
.近年,NicholsonらあるいはNunnらは,簡便な方法として共通前後尖をVSD頂上部に直接縫着し,一次孔欠損をパッチするsimplified single patch法を報告し3,4)
,本邦でも普及している.
我々はVSDの深さが比較的浅く,術後の弁尖の変形が少ないと考えられる症例にsimplified single patch法を施行し,two patch法との比較検討を行った.今回の検討からは,術中に術式変更した症例もあり,人工心肺時間,大動脈遮断時間に関しては両方法では有意差は認めなかったものの,左側房室弁逆流に対する再手術回避率も2群間で差はなく,two patch法と同様に良好な手術成績が期待できる術式と考えられた.
しかし,両群において術後遠隔期の左側房室弁逆流に対する再手術症例が散見された.1つの要因としては,共通前後尖のみならず左側mural leafletならびに弁下構造物の形態も関与していると考えられる.左側房室弁逆流による再手術を必要とした7例中3例で,左側mural leafletが大きく2尖に分かれている形態であった.Van Mieropあるいは宇野らが,単一乳頭筋で左側mural leafletの小さい形態の場合は,cleftの完全閉鎖は術後の左側房室弁狭窄の原因となると報告している6,7)
が,これらの症例では,乳頭筋に異常はなかったものの,左側mural leafletが非常に大きく2尖に分かれており,各弁尖が肥厚し可動性が低下している形態であった.そのため,初回手術時のcleft縫合後の左側房室弁弁輪径は,正常僧帽弁弁輪径の80~90%であったが,mural leafletの形態異常もあり術後左側房室弁の狭窄が懸念され,cleftの部分閉鎖を余儀なくされた結果と考えられた.また,中等度以上の左側房室弁逆流の残存により,cleft縫合部の離解,弁輪拡大ならびに弁尖肥厚が進行すると報告され8),左側mural leafletが比較的大きい症例であっても形態異常がある症例では,早い段階でPoirierら9)のleaflet augmentation techniqueなどの弁形成術や人工弁置換術を計画する必要がある.
今回の検討では,T群の中で術中simplified single patch法からtwo patch法へ術式変更した症例を経験した.Nicholsonら3)は,連続47例全例でsimplified single patch法が可能であり,術後有意な遺残短絡ならびにLVOTOは認めなかったと報告し,またNunnら4)も,VSD depthが5 mm以上ある症例が67%を占める連続128症例にsimplified single-patch法を施行し,2.4%に左側房室弁逆流に対する再手術を必要としたが,術後LVOTOはなかったと報告している.しかし,Backerら8)は,VSD depthが10 mm以上あるRastelli type C症例ならびにTOF合併症例では施行しないと報告しており,両術式選択に関してはまだ議論の余地がある.両術式を選択する上で当院における症例を検討すると,Rastelli type A症例で,VSD depth 7 mm以下の症例がmodified single patch法のよい適応となるのかもしれない(Fig. 4).しかし,症例数が少ないことならびにRastelli type AでVSD depthが7 mmの1例で,simplified single patch法施行後に共通前後尖が落ち込み,左側mural leafletとのcoaptation zoneが浅くなったためtwo-patch法へ移行した症例も経験したため,今後さらなる検討を要する.
さらに,Rastelli type CのVSDが前上方進展している症例で,simplified single patch法施行後LVOTOを呈した症例を経験した.このcAVSDにおけるVSDの前上方進展は,約52%の症例で認めるとも報告され10),Rastelli type Aでは,術前から共通前後尖がVSD辺縁に付着しているためsimplified single patch法術後LVOTOを呈することは少ないと考えられるが,術前共通前後尖がfree floatingしているRastelli type Cにおいては,simplified single patch法施行後,前上方進展しているVSD辺縁に共通前後尖が落とし込まれることで,LVOTOを呈することが示唆された(Fig. 5A and B).つまり,VSDが比較的深い症例ならびに,Rastelli type CでVSDが前上方進展している症例では,simplified single-patch法よりtwo-patch法を選択する方がよいと考えられた.
Ao=aorta, LV=left ventricle, LA=left atrium, LVOT=left ventricular outflow tract, LVOTO=left ventricular outflow tract obstruction.
最後に,AVSDは解剖学的に左室流出路が長く,心内修復術式にかかわらず,大動脈弁下に存在するanterolateral muscle band(muscle of Moulaert)が発達している症例,あるいは左室流出路の膜性狭窄ならびに自験例であるS群の症例3で認めたような線維筋性狭窄などの突出物,腱索の左室流出路挿入などがあり11)
,遠隔期でのLVOTOを呈する可能性があるため,長期的なfollow upが必要である.
cAVSDに対する両術式の遠隔期成績に差はなく,個々の症例の房室弁構造ならびに心内形態に応じた術式選択が必要と考えられた.
本論文の要旨は,第49回日本小児循環器学会総会・学術集会(2013年7月・東京)にて発表した.
1) Baker CL, Mavroudis C, Alboliras ET, et al: Repair of complete atrioventricular canal defect: Results with the two-patch technique. Ann Thorac Surg 1995; 62: 530–537
2) Alexi-Meskishvili V, Ishino K, Hetzer R, et al: Correction of complete atrioventricular septal defects with the double-patch technique and cleft closure. Ann Thorac Surg 1996; 62: 519–524, discussion, 524–525
3) Nicholson IA, Nunn GR, Sholler GF, et al: Simplified single patch technique for the repair of atrioventricular septal defect. J Thorac Cardiovasc Surg 1999; 118: 642–646
4) Nunn GR: Atrioventricular canal: Modified single patch technique. Semin Thorac Cardiovasc Surg Pediatr Card Surg Annu 2007; 10: 28–31
5) 小澤秀登,西垣恭一,川平洋一,ほか:完全型房室中隔欠損に対する心室中隔直接閉鎖法の中期遠隔期成績.日小循誌 2009; 25: 34–38
6) Van Mierop LHS: Pathology and pathogenesis of endocardial cushion defects. Surgical implication, in Davila JD (ed): Second Henry Hospital International Symposium on Cardiac Surgery. New York, Appleton-Century-Crofts, 1977, p 206
7) 宇野吉雅,森田紀代造,橋本和弘,ほか:Single papillary muscle形態を呈した完全房室中隔欠損症の一例.日小循誌 2012; 28: 315–319
8) Backer CL, Stewart RD, Bailliard F, et al: Complete atrioventricular canal: Comparison of modified single-patch technique with two-patch technique. Ann Thorac Surg 2007; 84: 2038–2046, discussion, 2038–2046
9) Poirier NC, Williams WG, Van Arsdell GS, et al: A novel repair for patients with atrioventricular valve regurgitation. Eur J Cardiothorac Surg 2000; 18: 54–61
10) Adachi I, Ho SY, McCarthy KP, et al: Ventricular scoop in atrioventricular septal defect: Relevance to simplified single-patch method. Ann Thorac Surg 2009; 87: 198–203
11) Piccoli GP, Ho SY, Wilkinson JL, et al: Left-sided obstructive lesions in atrioventricular septal defects: An anatomic study. J Thorac Cardiovasc Surg 1982; 83: 453–460
This page was created on 2015-06-09T17:16:48.112+09:00
This page was last modified on 2015-08-13T16:23:03.837+09:00
このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。