先天性心疾患を有する低出生体重児では,内科的管理によって体重増加を得ることは必ずしも容易ではない.とはいえ,低体重児での体外循環は技術,耐術性両面での懸念が大きく,体外循環を用いない姑息術の選択を余儀なくされることも少なくない.低体重児のPABでは繊細な肺体血流比調節が必要とされるが,低体重児におけるこれらの手技や管理指針は未だ標準化されていない.今回われわれは,低体重児におけるPABの際の適切な絞扼径を模索するために,体重2.5 kg以下の新生児および乳児に対する第一期体外循環非使用姑息術としてのPABの効果と転帰とを検証した.
2003年11月から2013年7月の10年間に,初回手術として当科で体外循環を使用せずにPABを行った2.5 kg以下の新生児または乳児11例を対象とした.手術時日齢6~78,体重1.1~2.5 kg(平均1.9 kg,2 kg未満5例),術後観察期間は5~110ヶ月であった.診断,術式,出生週数,出生体重,母体異常や合併奇形有無を含めた症例の内訳をTable 1に示す.全11例中4例が正期産であり,他の7例は在胎32~36週での早産で,全例単胎であった.
Table 1 Patient characteristicsCase No. | Sex | Age (d) | BW (kg) | At birth | Diagnosis | 1st Palliation | | 2nd Stage | 3rd Stage | Complicated disease |
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Gestation | BW (kg) |
---|
1 | F | 22 | 2.4 | 38w0d | 2.1 | C-AVSD | main PAB | (M)† | (2VR) | — | Yes: α |
2 | F | 45 | 2.1 | 36w0d | 1.8 | C-AVSD | main PAB | (M) | 2VR | — | Yes: α |
3 | M | 78 | 2.3 | 36w3d | 1.8 | VSD | main PAB | (L) | 2VR | — | Yes: α |
4 | F | 17 | 1.1 | 35w5d | 1.1 | VSD | main PAB | (M) | 2VR | — | No |
5 | M | 52 | 1.3 | 36w4d | 1.2 | VSD DORV | main PAB | (M) | (2VR) | — | Yes |
6 | M | 13 | 2.5 | 38w2d | 2.5 | CoA, VSD | SFA+main PAB | (L) | 2VR | — | Yes: β |
7 | M | 6 | 1.7 | #36w1d | 1.7 | IAA, VSD | EAAA+main PAB | (L) | 2VR | — | Yes |
8 | M | 6 | 2.2 | 37w4d | 2.2 | Hypo-arch SV | SFA+main PAB | (L) | BDG | (TCPC) | No |
9 | F | 14 | 2.3 | 37w6d | 2.3 | Hypo-arch SV | EAAA+main PAB | (L)* | BDG | TCPC | Yes |
10 | M | 40 | 1.5 | #32w1d | 1.5 | Truncus | bil. PAB | (M) | 2VR | — | No |
11 | M | 14 | 1.6 | 35w5d | 1.5 | AORPA VSD | rt. PAB | (M) | 2VR | — | No |
F: female, M: male. d: days, BW; body weight, #: maternal disorder, †: died, *: ventricular volume overload after 1st palliation. α: 21 trisomy, β: Di George syndrome, CHARGE syndrome. (operation): awaiting operation. Diagnosis AORPA: anomalous origin of right pulmonary artery from the ascending aorta, C-AVSD: complete atrioventricular septal defect, CoA: coarctation of the aorta, DORV: double outlet right ventricle, Hypo-arch: hypoplasia of aortic arch, IAA: interrupted aortic arch, PAIVS: pulmonary atresia with intact ventricular septum, SV: single ventricle, TA: tricuspid atresia, Truncus: truncus arteriosus, VSD: ventricular septal defect. Operative method BDG: bidirectional Glenn shunt, BTS: Blalock-Taussig shunt, EAAA: extended aortic arch anastomosis, PAB: pulmonary artery banding, SFA: subclavian flap angioplasty, TCPC: total cavopulmonary connection, 2VR: biventricular repair, (L): left lateral thoracotomy, (M): median sternotomy. |
姑息術式と疾患の内訳は,主肺動脈絞扼術(main PAB)が5例[完全型房室中隔欠損症(C-AVSD)2例,心室中隔欠損症(VSD)2例,両大血管右室起始症(DORV)1例],main PAB+大動脈弓形成(arch plasty)が4例[大動脈縮窄複合症(CoA)1例,大動脈弓離断症(IAA)1例,単心室(SV)+大動脈弓低形成(hypo-arch)2例]で,このうちIAAとSVの各1例では拡大大動脈形成術(EAAA)を,他の2例では鎖骨下動脈フラップ法(SFA)を行った.両側肺動脈絞扼術(bil. PAB)が1例[総動脈幹症(truncus)],さらに右肺動脈絞扼術(rt. PAB)が1例[右肺動脈大動脈起始症(AORPA)+VSD]であった.全11例中体重2.0 kg未満が5例あり,内訳はmain PABを行ったVSD(1.1 kg)とDORV(1.3 kg),main PAB+EAAAを行ったIAA(1.7 kg),bil. PABを行ったtruncus(1.5 kg),およびrt. PABを行ったAORPA+VSD(1.6 kg)であった.
当施設では,2.5 kg以下の低体重児では可能な限り内科的治療を優先して体重増加を図る方針としている.11例はいずれも内科的には循環や呼吸の維持管理が困難であるか,体重増加が期待できないという理由で手術適応となった.極端な低体重,新生児期の開心術を回避し得る解剖学的条件,あるいは感染や消化器疾患などの併存が体外循環を用いなかった理由である.全例出生後入院を継続した状態での手術であった.ただし,必ずしも2.5 kgを体外循環使用の境界線としたわけではなく,同時期に5例の2.5 kg以下の症例に体外循環を用いた初回手術を行って救命している(Ebstein奇形に対する二心室修復1例,VSD根治1例,総肺静脈還流異常修復3例).AVSDについては4.0 kg以下ではPABを行う方針としている.手術は全身麻酔下に行い,大動脈弓の修復を要する場合は左側方開胸で,その他は全て胸骨正中切開で行った.
1. main PAB
Expanded polytetrafluoroethylene(ePTFE)thin-wall人工血管を約2 mm幅のテープ状に縦に裁断してsino-tubular junction付近に巻いた.Truslerの基準を目安としながら,絞扼後のPp/Psが0.5~0.6となることを主目標に調節した.FiO2 0.21~0.4の条件下で,二心室修復例では動脈血酸素分圧(PaO2)45~55 mmHg(酸素飽和度(SpO2)85~95%),Fontan型修復を目指す症例ではPaO2 35~45 mmHg(SpO2 75~85%)を目標とし,体血圧の2~3割の上昇など循環動態の改善が得られるテープの長さを概ね0.5 mmきざみで模索した.絞扼周径を決定する際にはテープを4-0または5-0非吸収糸で固定し,決定後はテープを6-0非吸収糸で主肺動脈外膜に固定した.Pp/Ps測定においては,体動脈圧(Ps)は上肢または下肢の動脈圧ラインで測定し,肺動脈圧(Pp)は術野で主肺動脈に直接圧ラインを留置して測定した.主肺動脈が細いあるいは短い症例では肺動脈圧測定はせず,Pp/Ps以外の指標に従った.術中超音波検査による絞扼の評価は実施していない.
2. branch PAB
branch PABでもmain PABと同様に2 mm幅に裁断したePTFE人工血管を用い,右肺動脈は上行大動脈と上大静脈との間で,左肺動脈は根部でテープを巻いた.右肺動脈では体重(kg)+7.5 mmを,左肺動脈では体重(kg)+7.0 mmを絞扼周径の目安とし,この付近でテープ長を微調整した.絞扼時の指標はmain PABと同様で,二心室修復症例ではPaO2 45~55 mmHg,SpO2 85~95%,Fontan型修復を目指す症例ではPaO2 35~45 mmHg(SpO2 75~85%)を目標とし,体血圧の2~3割の上昇が得られるように調節した.左肺動脈の径は右肺動脈と比較して0.5 mm程度細いことが多く,これを過度に絞扼すると内腔の途絶や瘢痕狭窄を来す恐れが強くなる.そこではじめに左肺動脈の絞扼を本来の周径と同等か若干強める程度で終え,最終的な肺体血流比の調節は右肺動脈の絞扼によって果たした.将来の剥離時に外膜を温存するために,テープの外膜への固定は行わなかった.
PABにおける最終的な絞扼周径,絞扼直後のPp/Ps,第二期手術までの期間,さらには体重増加の程度を検討した.PAB後の再手術の有無や心不全徴候出現の有無についても検証した.数値結果は平均値,または平均値(最小値~最大値)で記載し,比較検討にはt検定を用い,p<0.05を統計学的有意と解釈した.
全11例中,1例を経過中に失った.症例No. 1,main PABを行ったC-AVSDである.先天性リンパ管形成不全を合併し,術後高度の全身性リンパ浮腫が出現した.カテーテル感染を繰り返しながら徐々に全身状態が悪化し,根治術のチャンスを見いだせないままmain PABの1年後に敗血症で失った.
生存10例中9例が第二期手術に到達し,1例が待機中である.第二期手術を以って二心室修復を完了したのが7例で,第三期手術としてtotal cavopulmonary connection(TCPC)を終えた1例を含めて計8例が最終修復を完了し,1例はTCPC待機中である(Table 1).main PAB+EAAAを行ったSV+hypo-archの1例は肺血流過多による心室容量負荷を来した.内科的治療による心不全管理を継続しながら,第二期両方向性Glenn手術(BDG)を予定より早めに行う方針とし,初回手術の約7ヶ月後,6.4 kgの時点で手術を行った.
1. main PAB
main PABの平均絞扼周径は手術時体重(kg)+18.2(16.6~20.7)mmでTruslerの基準[体重(kg)+20 mm]以下が殆どであった.PAB終了時のPp/Psは平均0.54(0.50~0.60)であった.9例中1例(症例No. 9)で術後心室容量負荷の残存を認めたが,当該症例の絞扼周径はBW(kg)+17.7 mm,絞扼後のPp/Ps 0.55と平均的な値であった.
二心室修復例の平均絞扼周径は体重(kg)+18.3 mm,Fontan型修復例のそれは体重(kg)+17.8 mmであり,2群間に有意差はなかった(p=0.67).第二期手術を終了しているのは二心室修復群で5/7例(71.4%),Fontan型修復群で2/2例(100%)である.第二期手術前に心臓カテーテル検査にて肺動脈圧の評価を行った二心室修復の3例およびFontan型修復の2例を比較したところ,PAB直後の平均Pp/Psは前者0.55,後者0.53であったのに対し,第二期手術前はそれぞれ0.41,0.34であった.統計学的評価には至らないが,Fontan型修復群では二心室修復群に比べ,肺動脈絞扼径,第二期手術前Pp/Psともにやや低値であった.
対象期間内に当施設で行ったmain PABのうち,2.5 kgを超える症例は27例(2.6~4.2 kg)あり,平均絞扼周径は体重(kg)+18.8(15.8~20.9)mmであった.2.5 kg超群もTruslerの基準以下の絞扼周径となっており,手術時体重が小さいほど〔絞扼周径-BW(kg)〕の値も小さくなる傾向にはあったものの,2.5 kg以下の群と比較して有意差は認めなかった(p=0.25).
また,第二期手術までの平均待機期間は二心室修復群5.8ヶ月,Fontan型修復群6.5ヶ月(p=0.52),平均体重増加量は前者2.1 kg,後者3.9 kgであり,有意差はないものの二心室修復群では体重増加が緩徐であった(p=0.23)(Table 2).
Table 2 Outcome of PABCase No. | Age (d) | BW (kg) | Circumference of PAB (mm) | Pp/Ps | 2nd stage (Age (m)/BW (kg)) |
---|
Measured (▲) | Theoretical** | after PAB | before 2nd stage |
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1 | 22 | 2.4 | 19.0 (BW (kg)+16.6) | 18.8 (▲−0.2) | — | — | (2VR) |
2 | 45 | 2.1 | 21.5 (BW+19.4) | 18.6 (▲−2.9) | 0.50 | 0.28 | 2VR (11/6.6) |
3 | 78 | 2.3 | 23.0 (BW+20.7) | 18.7 (▲−4.3) | 0.50 | 0.54 | 2VR (8/3.6) |
4 | 17 | 1.1 | 20.0 (BW+18.9) | 17.7 (▲−2.3) | — | — | 2VR (4/2.8) |
5 | 52 | 1.3 | 18.0 (BW+16.7) | 17.9 (▲−0.1) | — | — | (2VR) |
6 | 13 | 2.5 | 21.0 (BW+18.5) | 18.9 (▲−2.1) | 0.60 | — | 2VR (2/2.5) |
7 | 6 | 1.7 | 19.0 (BW+17.3) | 18.2 (▲−0.8) | 0.60 | 0.42 | 2VR (7/4.8) |
8 | 6 | 2.2 | 20.0 (BW+17.8) | 18.6 (▲−1.4) | 0.50 | 0.26 | BDG (6/5.9) |
9 | 14 | 2.3 | 20.2 (BW+17.7) | 18.7 (▲−1.5) | 0.55 | 0.42* | BDG (7/6.4) |
10 | 40 | 1.5 | R: 9.5 (BW+8.0) L: 10.0 (BW+8.5) | | | | 2VR (6/5.2) |
11 | 14 | 1.6 | R: 9.0 (BW+7.4) | | | | 2VR (5/4.0) |
m: months, Pp/Ps: pulmonary systemic blood pressure ratio. L: left, R: right. *: ventricular volume overload after 1st palliation. **: Circumference of PAB calculated using the formula of Hagen-Poiseuille, BW (kg)×0.84+16.8 (mm). |
2. branch PAB
分枝肺動脈絞扼術(branch PAB)は2例,計3枝に行った.いずれも手術時体重2.0 kg未満であった.絞扼した分枝肺動脈の周径の平均値は体重(kg)+8.0 mmであり,2症例とも適切な体重増加を得て第二期手術に到達した.ただし,症例15はbranch PABの約5ヶ月後(生後5ヶ月)に根治術を行ったものの,右肺動脈絞扼解除部の狭窄に対して再手術を要した.
3. 手術時体重2.0 kg未満の症例
2.0 kg未満の症例はmain PABの3例とbranch PABの2例の計5例(1.1~1.7 kg)である(Table 2).いずれも二心室修復症例で,PAB後良好な体重増加が得られ,うち4例が平均4.2 kg(2.8~5.2 kg)で第二期手術に到達し,残る1例も2.5 kgを超えて待機中である.症例4は1.1 kgでmain PABを行ったVSDで,2.8 kgに成長した4ヶ月後に根治術を行った.術中に異常はなかったが,体外循環離脱後に異所性接合部頻脈を呈した.6時間後に心停止となって体外式心肺補助装置(ECLS)を装着,幸い6日目にECLSから離脱し後遺症なく退院した.
1. main PAB
新生児期のmain PABにおいては,その後の生理的肺血管抵抗の低下を考慮してTruslerの基準よりも強めに絞扼する必要があるとされている1).また,肺動脈弁輪は指数関数的な成長曲線をたどるため,体重3 kg未満の症例ではTruslerの基準は必ずしも適用できないとする意見もある2).あるいは,3.0 kg以上への体重増加を期待するためには肺動脈周径を16~17 mmに絞扼すべきとの見解もある3,4).われわれはTruslerの基準をあくまでも目安としながら,絞扼後のPp/Ps,PaO2や循環動態を指標にし,最適な絞扼を模索してきた.
今回のmain PAB 9例の殆どは,Truslerの基準未満で適切な効果を得ており,低体重児のmain PABにおいてはTruslerの基準よりも短い絞扼が妥当ではないかと思われる.
術後に心室容量負荷が残存した症例が1例あったが,この症例でも体重増加は得られており,PABによる一定の効果はあったものと思われる.容量負荷が目立たなかった他の症例との間に肺動脈絞扼周径や絞扼時のPp/Psの差は認めていない.容量負荷の原因を特定することは困難であり,今後より多くの症例をもとに術後管理方法も含めた経過の検討が必要と思われる.
また,結果的にFontan型修復群では二心室修復症群より平均0.5 mm短い絞扼となり,第二期手術前のPp/Psはより低値であった.ただし,Fontan型修復群では第二期手術までの待機期間が長く,体重も二心室修復群より増えており,このことが第二期手術前のPp/Psの差の要因である可能性は否定できない.
体重1.0~2.0 kgの著しく体格の小さな患児のmain PABにおいては,十分な絞扼効果と成長後の安全な肺血流量確保とを両立するための許容範囲が非常に狭く,繊細な調節が求められる.しかしながらこれらの患者群では主肺動脈自体が狭小で圧測定のための肺動脈穿刺さえためらわれ,また体血圧が低値であるためにPp/Psを絞扼効果の指標とすることも難しい.今回の症例では肺動脈圧は測定せずに体血圧の変化とPaO2の維持を見定めながら絞扼の程度を決定し,幸いにも良好な結果を得たが,今後は絞扼部の客観的評価目的に術中ドップラーの導入も検討すべきと考える.症例4はPAB手術時体重1.1 kgと極めて小さかったが,心疾患以外の合併症,染色体異常は認めず,二心室修復術後に低心拍出状態に陥った原因は明らかではなかった.
われわれはPABの際,ePTFE thin-wall人工血管を2 mm幅のテープ状に縦に裁断して使用している.Truslerは4 mm幅のテープを用いて絞扼周径を体重(kg)+20 mmと定めており5),テープ幅の差による絞扼効果の違いを考慮する必要がある.粘性流体が層流として円管内を流れる場合の流量を示したHagen-Poiseuilleの式を用い6),肺動脈の血流量は一定であると仮定すると,テープの幅を4 mmから2 mmにした際に絞扼部前後での圧較差を等しく保つためには,絞扼部の半径を(2/4)1/4=約0.84倍にする必要がある.すなわち,2 mm幅テープを用いたときに推奨される絞扼周径は,体重(kg)×0.84+16.8 mmとなる.具体的には,体重2.5 kgの例では,4 mm幅ならば22.5 mmでよいが,2 mm幅なら18.9 mmが妥当となる.逆に肺動脈絞扼周径を一定とした場合には,絞扼部前後での圧較差は2 mm幅では4 mm幅の時の0.5倍にとどまる.
今回対象とした症例にあてはめて考えると,2 mm幅テープを用いたときに推奨される絞扼周径は平均18.5 mm,体重(kg)+16.5 mmとなる(Table 2).術後に心室容量負荷を来した症例No. 9を除外して計算すると理論上の絞扼周径は平均18.4 mm,体重(kg)+16.4 mmとなる.実際に絞扼した周径との差は0.1~4.3 mmであった.症例3は体重(kg)+20.7 mmとTruslerの基準以上の絞扼周径となっており,理論値との差が4.3 mmと大きいが,それ以外の7例の理論値と実際の絞扼周径との差の平均は1.4 mmであった.
Hagen-Poiseuilleの式はずり速度により粘度が変わらないニュートン流体においてのみ成立するものであり,血液を含むコロイド溶液や高分子液体などの非ニュートン流体には厳密には応用できない.これは絞扼周径の実測値と理論値との差異を生じている要因とも考えられ,また1 mm未満の厳密な調節を要するPABにおいてはこのままこの理論値を推奨値として用いることは難しい.今回の検討からはこの理論値以上にきつい絞扼とならないようにすることが望まれ,その参考値として用いることはできるかもしれない.
非ニュートン流体において正確なシミュレーションを行うにはさらに緻密な流体力学計算を要するが,テープの幅はもちろん,テープの材質,絞扼部位あるいは肺動脈壁のコンプライアンス等によっても血流は変化するため,それらの点も含めた検討が必要である.
2. branch PAB
branch PABについては明確な基準は確立されていない.Kitahoriらは右肺動脈をBW(kg)+7.5 mmへ,左肺動脈をBW(kg)+7.0 mmへ絞扼することにより良好な結果を得ている7).低体重児であっても肺血流増加型疾患の左右肺動脈径は成熟児と大差ないことが多く,われわれはKitahoriらの基準を参考に微調整している.
branch PAB後は絞扼部の瘢痕化や内膜肥厚を生じやすい.特に低圧の肺循環となるBDGでは絞扼解除後の残存狭窄が血行動態へ及ぼす影響は大きく,しばしば狭窄解除のための再手術やカテーテル治療が必要となる.branch PAB後の病理変化は術後9週の時点で既に生じているとする説がある一方8),3~4ヶ月後でも問題なく第二期手術を行っているとの報告もある9).大規模な調査がなく結論付けることは難しいが,症例11の経験からしても,遅くともbranch PAB後4ヶ月以内には次期修復を行うことが望ましいのではなかろうか.
2.5 kg以下の低体重児のPABではTruslerの基準よりもやや短い絞扼周径とすることで良好な体重増加が得られ,無理なく第二期手術に到達できた.低体重児に対する姑息術の手技は標準化されておらず,今後多施設の経験と工夫が共有され,より精度の高い手技や安全な管理指針が確立されることを期待したい.本報告がそのための一助となれば幸いである.
引用文献References
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