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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 39(2): 49-50 (2023)
doi:10.9794/jspccs.39.49

巻頭言Preface

天地人Heaven, Earth, and People

JCHO九州病院心臓血管外科Department of Cardiovascular Surgery, JCHO Kyushu Hospital ◇ Fukuoka, Japan

発行日:2023年8月1日Published: August 1, 2023
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2017年にウィーンで開催されたヨーロッパ胸部外科学会(EACTS)の後に,サンテミリオンとボルドーを訪問したことがあります.そしてつい先日福岡ボルドーワイン祭りに友人と行ってきました.福岡市とフランスのボルドーは1982年から姉妹都市であり,35周年を迎えた2017年からこのイベントは開催されています.3年ぶりの通常開催,気持ち良い気候で野外でのワイン,食事,ライブと大変多くの人で賑わっていました.

フランスワインは,ほかのワイン作りの歴史が浅い,いわゆる新世界のワインと比べると,かなり『特別』な存在であると思います.というのは,フランスではワイン生産者がAOC(Appellation d’Origine Controlee)という厳しいワイン法のもとで,苦しみながらワインを作っているという点があるからです.フランスでは雨が多い年や猛暑の年も,人為的な工夫を施さずに,その年の厳しさを受け入れる形で,ワインを造らなければいけません.雨が多い年に葡萄畑にビニールシートをかけて雨を防ぐことは法的に許されません.資本主義の発想からするとなんとも非効率的なやり方です.かつて,サンテミリオンのある生産者が,収穫前に畑の一部の表面をシートで覆って雨を避け,果実の凝縮度を高めました.生産者にとっては,これは実験的試みにすぎなかったのですが,ワイン法に違反する行為とみなされ,本来のサンテミリオン特級から単なる“テーブルワイン”に格下げしてリリースせざるを得なくなったこともあります.

ワインには天,地,人によって形成されているという考え方を示す“天地人”という言葉があり,この言葉はフランス・ブルゴーニュ地方で活躍する日本人醸造家の仲田晃司さんが手掛けるワイン“ル・デュモン”のエチケットに漢字で大きく“天地人”と記載されていることや,ワインが主役の人気漫画『神の雫』で“天地人”の言葉がたびたび登場することで有名になっています.“天”は天候を意味し,その年の気候が葡萄にとって最適でなければ,高品質なワインは生まれにくいことを指します.“地”は大地,すなわち葡萄畑を意味し,畑の特徴や状態がワインの品質に大きく影響することを指します.“人”は生産者を意味し,きめ細かな仕事・技術力が加わって初めて完成するのが,良いワインということになります.天地人はこれら3つのうち,どれが欠けても質の高いワインはできないとする概念を表しています.かつてのある生産者のように,“天地人”の“天”を無理やりゆがめてはいけないのです.最近ではボルドーでも畑の観察にドローン,土壌センサーなど,人工知能技術いわゆるAIもどんどん入ってきているようですが,“天の声に従い,地のささやきに耳を傾け,これらと格闘しながら人知をつくす”——資本主義とは相いれないこの哲学を最も遵守しているのは,ワイン大国フランスだと思います.

我々のおかれている医療領域でもこの“天地人”というスピリットは通じると思います.当院の心臓外科は長い歴史があり,昭和35年に低体温併用による直視下肺動脈弁交連切開術,昭和36年に人工心肺を用いて22歳女子の心房中隔欠損閉鎖術を行ってきております.数年前に僧帽弁逆流,三尖弁逆流,部分肺静脈還流異常で手術をした73歳の御爺ちゃんのお孫さんは,1988年に当院において1.8キロで総肺静脈環流異常症(Ia)の手術を受けた方でした.お孫さんが先に心臓病が見つかって修復術をしていたわけです.VSDの赤ちゃんのお母さんは1991年にA型単心室でseptationを行った方で,ペースメーカーは入っているものの非常にお元気にしておられました.フォンタン手術の後に当院で無事にお母さんになられた患者さんも3名,4回のご出産になりました.信じ難いことに,もう21年前ですが,VSDで手術をした1歳の患者さんが縦隔炎になり,治療に難渋し,その数年後にVSDパッチが糸とプレジェットも付いたまま左上の胸壁から出てきました.エコーではVSDリークはなく,元のVSD IIの穴は癒着組織で塞がれてしまったのか? 異物であったVSDパッチは自力で排出して縦郭炎を治したのか? と皆で頭を捻ったことがありました.現在も当院には新生児から成人先天性心疾患まで本当に様々な患者さんが来られますが,JCHO九州病院(平成26年より現在の病院名,元々は九州厚生年金病院)という伝統をもった“地”の力で対処していける術を駆使し,そこに最も大事な細かい“人”の力が有効に加わらなければ,良い結果・転帰はもたらされないと思って毎日仕事をしております.

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