Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 39(1): 39-45 (2023)
doi:10.9794/jspccs.39.39

症例報告Case Report

小児ECMO中のヘパリンコントロールに対しTEG® 6sが有用であった1症例TEG® 6s Could Be Useful for Heparin Control in Pediatric Extracorporeal Membrane Oxygenation: A Case Report

1北海道立子ども総合医療・療育センター臨床工学科Department of Clinical Engineering, Hokkaido Medical Center for Child Health and Rehabilitation ◇ Hokkaido, Japan

2北海道立子ども総合医療・療育センター小児集中治療科Pediatric Intensive Care Unit, Hokkaido Medical Center for Child Health and Rehabilitation ◇ Hokkaido, Japan

3札幌医科大学麻酔科学講座Department of Anesthesology, Sapporo Medical University of Medicine ◇ Hokkaido, Japan

4北海道立子ども総合医療・療育センター小児循環器科Pediatric Cardiology, Hokkaido Medical Center for Child Health and Rehabilitation ◇ Hokkaido, Japan

5北海道立子ども総合医療・療育センター小児心臓血管外科Pediatric Cardiovascular Surgery, Hokkaido Medical Center for Child Health and Rehabilitation ◇ Hokkaido, Japan

受付日:2022年10月24日Received: October 24, 2022
受理日:2023年2月27日Accepted: February 27, 2023
発行日:2023年2月1日Published: February 1, 2023
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小児領域におけるV-A体外式膜型人工肺 (veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation: V-A ECMO) では,一般的に活性化凝固時間(activated clotting time: ACT)を指標とし180から200秒に維持するようヘパリン投与量を決定している.しかし臨床的にはACTをもとにしたヘパリンコントロールは困難であり,脳出血など致命的な出血性合併症を起こしうる.成人ECMO中のヘパリンコントロールに関しては,血液粘弾性検査装置:TEG® 6sが有用と報告があるが,小児に関する知見はない.今回,TEG® 6sを使用して小児ECMO中のヘパリンコントロールを行った報告をする.症例は大動脈弁上狭窄症,冠動脈狭窄症術前の6カ月の女児で,体重は6.6 kgだった.心不全コントロールが困難であったためV-A ECMOを導入した.V-A ECMO施行中,ACTは130~150秒と低値を示しヘパリンの増量を要求した.一方でTEG® 6sはCK R–CKH R値が測定上限を超え,ヘパリン残存量過多を示し減量を要求した.TEG® 6sの値をもとにヘパリン量を減量したが,出血・血栓性合併症を認めることなく計10日間のV-A ECMOが可能であった.TEG® 6sを用いて小児ECMO下の良好なヘパリンコントロールを得ることができたと考えられた.

Heparin doses are typically maintained at 180–200 s as activated clotting time (ACT) to assess anticoagulant therapy for venous arterial extracorporeal membrane oxygenation (V-A ECMO) in children. However, it is challenging to control the proper heparin dose during V-A ECMO with ACT clinically, which could result in fatal hemorrhagic complications such as cerebral hemorrhage. Although Viscoelastic hemostatic assay (VHA) device: TEG® 6s (Haemonetics Corp., Boston, USA) could be employed to determine the proper heparin dose during adult ECMO, there is no report about whether TEG® 6s could be effective for control of heparin therapy during ECMO in children. In our report, we discussed the clinical use of TEG® 6s for control of heparin therapy during ECMO in children. A 6-month-old female infant with a weight of 6.6 kg was scheduled to undergo an operation for supravalvular and coronary artery stenosis. Because heart failure worsened rapidly, V-A ECMO was needed for circulatory support. We observed that ACT and TEG® 6s revealed conflicting findings of heparin dose during ECMO. On the second hospital day, ACT was 130–150 s, which requested an increase in heparin. However, TEG® 6s demonstrated that the CK R-CKH R value was above the upper limit of measurement, which showed excessive heparin dose. We decided that heparin dose was reduced on the basis of TEG® 6s values. Eventually, V-A ECMO could have been used for 10 days without thrombotic, including intra-circuit thrombus and bleeding complications. Our report revealed the possibility that TEG® 6s might be better device to decide the proper heparin dose during ECMO in children than the ACT.

Key words: viscoelastic hemostatic assays (VHAs); pediatric extracorporeal membrane oxygenation; activated clotting time (ACT); anticoagulation

背景

小児領域におけるV-A体外式膜型人工肺(veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation: V-A ECMO)では,一般的に活性化凝固時間(activated clotting time: ACT)を指標とし180から200秒に保つようヘパリン投与量を決定している1).しかし臨床的にはACTを基にしたヘパリンコントロールは困難であり,過量投与から脳出血などの致命的な出血性合併症を起こしうる2, 3).V-A ECMOに起因した死亡の主な原因は出血性合併症および回路血栓症と報告されており4, 5),良好なヘパリンコントロールを得ることがECMO管理において重要である.ECMO管理中の出血性合併症と回路内血栓を制御するため,血液粘弾性検査が有用であると報告があり6),代表的な機器の最新機種としてThrombelastograph6s(TEG® 6s: Haemonetics Corp., Boston, USA)がある.TEG® 6sを使用して小児ECMOのヘパリンコントロールをした報告は知られていない.そこで今回,TEG® 6sを使用して計10日間の小児V-A ECMO中のヘパリンコントロールを行った経過を報告する.

症例

症例は生後6か月の女児で,体重は6.6 kgであった.大動脈弁上狭窄症,冠動脈狭窄と診断され,定期外来受診時に心不全増悪を認めたため集中治療室へ入室した.第2病日,心不全コントロールが悪化しV-A ECMOを導入した(Table 1).

Table 1 ECMOシステムの構成
送血部位・送血管右総頚動脈 PCKN-A-10YPS 10Fr(泉工医科工業,東京,日本)
脱血路・脱血管右総頚静脈 BioMedicus NextGen 10Fr(Medtronic plc, Dublin, Ireland)
駆動装置メラ遠心血液ポンプシステムHCS-CFP(泉工医科工業,東京,日本)
人工肺Nipro BIOCUBE C 2000P(ニプロ,大阪,日本)
遠心ポンプHCF-MP23H(泉工医科工業,東京,日本)
ACT測定器ヘモクロンシグニチャーエリート(International Technidyne Corporation, Piscataway, US)
充填液重炭酸リンゲル液(ビカーボン)
置換液カリウム吸着除去用血液フィルター (KPF-4)で処理した濃厚赤血球 140 mL 
新鮮凍結血漿 40 mL 
20%アルブミン製剤 20 mL 
グルコン酸カルシウム水和物注射液(カルチコール) 5 mL

ECMO管理中の凝固管理はACT測定装置ヘモクロンシグニチャートエリート(International Technidyne Corporation, Piscataway, US)を用いてACT測定を1日4回,TEG® 6sを用いた血液粘弾性検査と血液凝固検査(フィブリノゲン,血小板,APTT, PT-INR)を毎日定時に行った(Table 2).なお,今回のECMO管理中の凝固管理ではACTの値でヘパリン投与量の変更を行っていない.血液粘弾性検査は,ヘパリン残存性を評価しうるCK R–CKH R(施設基準:5~15分),血小板の血餅強度を示すCRT MA(基準値:52~70 mm)とフィブリノゲンの血餅強度を示すCFF MA(基準値:15~32 mm)を測定した(Fig. 1).なお,我々がこれまで蓄積したTEG® 6sの経験から純然たるヘパリンの効果を評価するためCK R–CKH R値が5~15分の間で管理することとしている.

Table 2 経過中の一般凝固検査値,輸血量と出血量
病日目1234567891011
ECMO流量(mL/min)400400450450450500500500400300300
フィブリノゲン(mg/dL)275278231250281357236362390430396
血小板(103/µL)470522277204147221145125181160176
APTT(sec)39.544.539.144.538.742.745.437.635.133.533.2
PT-INR1.081.071.071.071.061.021.071.11.051.031.06
ATIII(%)77※1
FFP投与量(mL/day)153217326354840※2147240233240258131
RBC投与量(mL/day)1489634229705※25312011812012083
PC投与量(mL/day)0000135※212410818116817454
CHD除水量(mL/day)531412981927956731594
出血量(mL/day)0000310※2503065409530
※1 ATIIIの測定は1病日目のみ測定した.※2人工心肺(CPB)中の投与量を含む.
APTT,活性化部分トロンボプラスチン時間;ATIII,アンチトロンビンIII;CHDF,持続緩徐式血液濾過透析;FFP,凍結新鮮血漿;PC,血小板濃厚液;PT–INR,プロトロンビン時間–国際標準化比;RBC,赤血球濃厚液.
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Fig. 1 ヘパリン投与量とACT, TEG® 6sの測定値の推移

血液粘弾性検査は,ヘパリン残存性を評価しうるCK R–CKH R(基準値:なし),フィブリノゲンの血餅強度を示すCRT MA(基準値:52~70 mm)と血小板の血餅強度を示すCFF MA(基準値:15~32 mm)を測定した.第2病日と第9病日では,ACTとCK R–CKH-Rが示すヘパリンの量に乖離があり,CK-R–CKH-Rの値を元にヘパリンを減量した.ACT, activated clotting time; CFF, TEG functional fibrinogen; CHDF, 持続緩徐式血液濾過透;CK, カオリンTEG; CKH, ヘパリナーゼ含有カオリンTEG; CPB, cardiopulmonary bypass; CRT, rapid TEG; MA, maximum amplitude; R, reaction time; V-A ECMO, veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation.

ECMO導入時からヘパリン15 U/kg/hrの持続投与を開始した.第2病日,ACTは139秒であったのに対しCK R–CKH R値がflat line(Fig. 2, 3)と呼ばれる測定上限を超えた測定不能状態となった.CRT MAは58.9 mm,CFF MAは9.2 mmとフィブリノゲンの血餅強度がやや低値であった.ヘパリン投与量が非常に多いと判断しヘパリン投与量を10 U/kg/hrへ減量し新鮮凍結血漿(Fresh Frozen Plasma: FFP)を投与した.第4病日,ACTが153秒であったのに対し,CK R–CKH R値が4.7分と低値となった.CRT MAは54.7 mm,CFF MAは18.4 mmと基準値内であった.回路内血栓形成を懸念してヘパリン投与量を18 U/kg/hrへ増量した.

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Fig. 2 第2病日に測定したTEG® 6sの結果

ACTは139秒に対しCK R–CKH R値がflat lineと呼ばれる測定上限を超えた測定不能状態となった.また,CRT MAからフィブリノゲンの血餅強度がやや低値であった.ヘパリン投与量が非常に多いと判断しヘパリン投与量を10 U/kg/hrへ減量し新鮮凍結血漿を投与した.ACT, activated clotting time; Angle, α Angle; A10,クロット粘稠度の10分値;CFF, TEG functional fibrinogen; CK, カオリンTEG; CKH, ヘパリナーゼ含有カオリンTEG; CRT, rapid TEG; K, coagulation time; LY30, percentage of lysis 30 minutes after MA was finalized; MA, maximum amplitude; R, reaction time.

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Fig. 3 ヘパリンの効果を評価するTEG® 6sの代表的な三波形

A: ヘパリンの作用を有さない波形,B: ヘパリンの適度な効果を示す波形,C: ヘパリンの過剰な効果(flat line).CK, カオリンTEG; CKH, ヘパリナーゼ含有カオリン.

第5病日,手術室で大動脈弁上狭窄解除術と冠動脈拡大術を行うため人工心肺(Cardiopulmonary bypass: CPB)へ変更して手術を行った.CPB離脱と同時に新たに用意したV-A ECMO回路へ変更し,V-A ECMO補助下で集中治療室へと帰室した.帰室後は除水目的に持続緩徐式血液濾過透析を導入した.第6病日,ACTが131秒であったのに対しCK R–CKH R値10.8分であった.CRT MAは48.2 mm, CFF MAは12.7 mmとフィブリノゲンと血小板の血餅強度がやや低値であった.手術部位からの外科的出血を認めたため出血を懸念してヘパリン投与量を15 U/kg/hrへ減量しFFPと濃厚血小板(Platelet Concentrate: PC)を投与した.第8病日,ACTが174秒であったのに対しCK R–CKH R値が14.4分と上昇した.CRT MAは55.4 mm, CFF MAは10.2 mmとフィブリノゲンの血餅強度がやや低下していた.ヘパリンの残存量が高いと判断しヘパリン投与量を12 U/kg/hrへ減量しFFPを投与した.第9病日,ACTが149秒と前日より低下したのに対しCK R–CKH R値が43.1分と大幅なヘパリン残存性を示した.CRT MAは61.2 mm, CFF MAは19.6 mmとフィブリノゲンと血小板の血餅強度は基準値内であった.ヘパリンの残存量が高いと判断しヘパリン投与量を7 U/kg/hrへ減量した.第11病日,ECMOを離脱してヘパリン投与を終了した.

血液粘弾性検査を用いてヘパリン量と凝固因子及び血小板の血餅強度を評価することによって,出血性合併症と回路内血栓を生じることなく,4日間と6日間(計10日間)にわたってV-A ECMOを管理することができた.

考察

本症例では,小児ECMO管理中に測定されたACTとTEG® 6sでの血液粘弾性検査から求められるヘパリン投与量が異なった.ACTが様々な因子によって影響を受けるのに対し,TEG® 6sはヘパリナーゼの有無による内因性の血餅強度を測定比較できるためヘパリンの効果を直接評価することができるからだと推測される.ゆえに,ACTよりTEG® 6sを用いた血液粘弾性検査の方が小児ECMO管理中のヘパリンコントロールの面で有用と考えられた.小児ECMOにおけるヘパリンモニターとしてTEG® 6sを使用した報告はほかにない.

小児V-A ECMOの出血性合併症と回路内血栓を防ぐ管理に関する対策が検討されてきたが7),現在もその管理は非常に困難である8).小児ECMOの出血合併症を検討した報告では,出血合併症率は49%,うち心臓手術を行った患児の出血合併症率は57%であったと報告され出血合併症率は依然として高い9).当センターではACTやAPTTの結果からヘパリン投与量,フィブリノゲン数とINRからFFP投与量を,血小板数からPC投与量を決定し管理していたが,脳出血などの出血性合併症や回路内血栓による頻回なECMOシステムの交換などで救命できない症例を経験してきた.ACTを指標とした凝固管理では,180~220秒で管理するようヘパリン投与量を調整した場合,その多くの症例でヘパリン投与量の増量を余儀なくされ,出血性合併症で救命できないという問題点が指摘されている3).実際に血栓が形成されるかどうかにおいては,cell based model10)に基づいて考えることが多い.APTT, ACT,フィブリノゲンのモニタリングというConventionalな検査方法はin vitroでの測定系に伴う検査結果であり,測定器の種類による誤差や11)生体における血栓形成機能を反映していないため凝固機能の反映には限界があると指摘されている12).また,新生児期の生理的な凝固因子低下,APTTやPTなどの凝固時間の延長が認められることは広く知られているが,これらがECMO管理と相まってより凝固管理を複雑化するという問題点がある13).さらに小児ECMOは回路の充填液量が循環血液量を上回るため希釈型凝固障害を発症することが想定され,ATIIIの定期的な測定が重要との報告もあり14),ACTのみを指標とした凝固能の推定は困難である15)

本症例では,第2病日にACTが139秒であるのに対し,TEG® 6sによる血液粘弾性検査で過剰なヘパリン残存量を示唆するflat lineを形成した.従来のACTを指標にヘパリンコントロールを行っていた場合,出血性合併症を引き起こしていた可能性も考えられる.TEG® 6sのCK R–CKH Rは「ヘパリンの効果」を直接示すと考えられ,その原理は従来のカオリン試薬で血液全体の凝固機能(CK R)を評価し,同時にヘパリナーゼ含有カオリン試薬でヘパリンの影響を除外(CKH R)し比較することでヘパリンの効果を測定できるためである(Table 3).成人領域ではTEG® 6sを用いた血液粘弾性検査が有用であった報告が存在し,APTTをコントロールの1.5~2倍程度に延長させていても46%で血液粘弾性検査のflat lineを認めたという報告がある3).この報告と本症例から類推すると,ACT測定と血液凝固検査はECMO管理中の凝固管理に不適切な可能性があり,血液粘弾性検査が有用である可能性があると考えられる.当センターでは,CK R値が16~24分6)の間でかつ,我々がこれまで蓄積した2021年から2022年の計9例の経験から純然たるヘパリンの効果を評価するためCK R–CKH R値が5~15分の間で管理することとしている.CK R–CKH R値を基にしたヘパリン量の決定する管理によって出血性合併症や回路内血栓を生じることなくヘパリンコントロールできる可能性があると考えた.

Table 3 TEG® 6sの検査試薬と評価項目
検査項目検査試薬評価内容
カオリンTEG (CK)カオリン内因系の凝固能(血餅強度)を評価
Rapid TEG (CRT)組織因子+カオリンCFFと比較することで血小板とフィブリンの血餅強度を評価
ヘパリナーゼ含有カオリン(CKH)カオリン+ヘパリナーゼヘパリンの影響を除外して評価(CKと比較してヘパリンの影響度を判断)
Functional Fibrinogen (CFF)組織因子+GPIIb/IIIa阻害薬血小板の凝固を阻害し,フィブリノゲンだけの血餅強度を評価

また,TEG® 6sは従来の血液粘弾性検査装置と比較してピペッティング作業が不要となったことで,全体の測定時間が短縮され約10分で凝固機能を把握することが可能となり,より迅速かつ精密に測定が行える15, 16).そして,1つのカートリッジで4つの検査を同時に行えることから,ヘパリン・フィブリノゲン・血小板の機能を同時に評価するわかることで出血と血液凝固のバランスをとりやすいといえる2, 15, 17).これらの有効性を有するTEG® 6sは,A10(測定10分時予測値)に加え今後,新たにA5(測定5分時予測値)といった予測機能が追加される予定である.この機能が追加されることで,わずか5分で凝固機能の全体像を把握することが可能となる.A5の実装は,急性期の迅速かつ適切な凝固機能の把握に寄与できると想像される.A5の実装に対し我々は小児領域の観点からTEG® 6sのさらなる有効性の向上を期待し,同時に検証するといった展望がある.

血液粘弾性検査の課題として,成人を対象とした血液粘弾性検査と死亡率改善の関係は明らかでない18).また,CPBを用いた心臓血管手術を行う患者に対し,術前,術中,術後のそれぞれ1回ずつしか算定できないという課題もある.本症例では血液粘弾性検査を毎日実施したため,算定外の6回は当センターの経済的負担が生じたという問題があった.

結語

TEG® 6sを用いた血液粘弾性検査で,小児ECMO下の良好なヘパリンコントロールを得ることが可能であった.TEG® 6sは小児ECMO下でACTに変わるヘパリンモニターとして利用できる可能性があり,今後さらなるデータの集積と研究を行う必要がある.

利益相反

本論文について開示すべき利益相反(COI)はない.

著者の役割

小笠原裕樹は,論文の構想,データ収集や分析,論文の執筆を行った.酒井渉は,論文の構想に関与し,論文執筆の直接指導を行った.茶木友浩は,論文執筆の指導,批判的校閲に関与した.萬徳円,赤井寿徳はデータ収集に関与した.名和智裕,市坂有基,浅井英嗣,夷岡徳彦,大場淳一,山蔭道明は批判的校閲に関与した.すべての著者が論文の最終承認および研究結果の発表決定に関わった.

引用文献References

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