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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 39(1): 16-17 (2023)
doi:10.9794/jspccs.39.16

Editorial CommentEditorial Comment

二心室修復術後の蛋白漏出性胃腸症Protein-Losing Enteropathy after Biventricular Repair

神奈川県立こども医療センター 循環器内科Department of Pediatric Cardiology, Kanagawa Children’s Medical Center ◇ Kanagawa, Japan

発行日:2023年2月1日Published: February 1, 2023
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小児循環器領域において蛋白漏出性胃腸症(protein-losing enteropathy: PLE)といえばFontan術後遠隔期の合併症として広く認識されている.しかしながら,PLEは二心室修復術後であっても経験され得る合併症であり,そのなかにはPLEをきっかけに血行動態的に修復すべき病変が発見され,それを修復することで改善が得られる症例もある.心房内血流転換術後患者に合併するPLEは,発症頻度が低い二心室修復術後のPLEのなかでは比較的報告頻度が高い.

二心室循環に合併したPLEの報告は古く1961年に遡る.Davidsonら1)は収縮性心膜炎または心筋梗塞後のうっ血性心不全に合併したPLEを報告している.それまでも収縮性心膜炎に合併する低アルブミン血症/低蛋白血症は数多く報告されていたが,原因は心不全による低栄養,うっ血肝による蛋白質の合成障害,蛋白尿としての喪失,水分貯留による希釈などが考えられていた.PLEによるものと認識されたのはこの報告が第一報でFontan手術が報告2)された1971年の実に10年前のことである.

PLEがFontan術後遠隔期合併症の文脈で語られる場合,中心静脈圧上昇と低心拍出というFontan循環としては不可避な血行動態的特徴が原因とされ,それをベースに炎症などのプラスアルファのストレスが加わった際にPLEは発症すると言われている.しかしながら,それらの要因は二心室修復術後でも起こりうる血行動態であるため,PLEは二心室修復術後であっても当然経験されうる合併症である.Fontan術後合併症としてのPLEの寛解率が低い一方で,二心室循環に合併するPLEには血行動態的に修復すべき構造的病変があり,それらを修復することで改善が得られる症例も少なからずある.心房内血流転換術は手術の性質上Baffle狭窄の合併から中心静脈圧の上昇をきたす可能性があるため,発症機序が想像しやすい.

矢野らの論文3)では心房内血流転換術後に合併したPLEの2症例が提示されている.PLEの発症後,原因の特定から外科的/経カテーテル的介入が行われ,病態の寛解が得られたことがロジカルに記載されており,臨床に携わる読者にとって非常に参考になる情報を提供している.また,下大静脈側のみの狭窄,上大静脈側のみの狭窄という対照的な2症例が提示されたことで,PLEの発症機序に関する考察が論じられている.12例のレビューからは外科的/経カテーテル的介入による寛解率が73%と高いことが示されており,Fontan術後のPLEとの違いが提示されている.

心房内血流転換術後以外にも,様々な先天性心疾患の二心室修復術後にPLEは発症しうる4).原因も多様で,Baffle狭窄のような中心静脈圧を上昇させる直接的原因によるものもあれば,右室流出路狭窄による右室拡張障害,弁逆流による容量負荷など,間接的に中心静脈圧の上昇を引き起こしPLEを発症するケースもある.なかには,外科的/経カテーテル的介入の標的となる病変がないケースもあり,その場合は投薬管理のみが行われることもある.しかし,外科的/経カテーテル的介入ができた症例では寛解率が高い傾向があり,この点は矢野らの論文3)の主張と一致している.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.矢野瑞貴,ほか:心房内血流転換術後の蛋白漏出性胃腸症―2例の経験と文献レビュー―.日小児循環器会誌 2023; 39: 9–15

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