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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(4): 221-228 (2022)
doi:10.9794/jspccs.38.221

ReviewReview

成人先天性心疾患の心不全に対する薬の使い方のコツDrug Therapy in Adult Congenital Heart Disease with Heart Failure

九州大学循環器内科Department of Cardiovascular Medicine, Kyushu University Hospital ◇ Fukuoka, Japan

発行日:2022年12月1日Published: December 1, 2022
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先天性心疾患患者の多くが成人に達する時代になり,先天性心疾患の半分以上は成人である.成人に達した先天性心疾患患者の死因として,不整脈と併せて問題になってくるのが心不全である.そのため心不全治療をすることで先天性心疾患の予後をさらに改善させることができると思われる.心不全治療で,外科的治療・カテーテルインターベンションと並んで重要なのが,薬物療法である.近年新規心不全治療薬が出現し,心不全薬物治療が変わりつつある.今後も新しい心不全治療薬が出現してくると思われるが,今の時点で古典的な心不全治療薬から新規心不全治療薬まで,その使い方を学び直すことは極めて重要と思われる.本稿が今後の皆様の日常診療に少しでも役に立てば幸いである.

Currently, most patients with congenital heart disease (CHD) reach adulthood, and heart failure (HF) is one of the leading causes of death for adult patients with CHD. Therefore, an appropriate treatment strategy for HF is essential for improving their prognosis. Medical therapy for HF is as crucial as surgical or catheter-related therapy. Recently, novel agents for treating HF have emerged that have dramatically changed the strategy for HF therapy. Thus, updating knowledge of these therapeutic agents, both standard and novel, is vital. Hopefully, this article will be helpful in daily practice.

Key words: adult congenital heart disease; heart failure; heart failure with preserved ejection fraction; heart failure with reduced ejection fraction; medical therapy

はじめに

先天性心疾患に対する外科的・内科的治療の進歩に伴って,先天性心疾患を持って生まれた児の90%以上が成人に達する時代になって久しい.本邦では21世紀に入る前に,小児の患者よりも成人の患者が多くなっており,成人先天性心疾患(adult congenital heart disease: ACHD)患者はすで50万人近くが国内にいると思われる1).なかでも中等度以上の重症度のACHDについては,弁逆流や弁狭窄による慢性的な圧負荷・容量負荷,あるいは低酸素や虚血よる心筋障害のため,心室の収縮能障害・拡張能障害が成人期になってから問題になることが少なくない.

成人に達した先天性心疾患,ACHD患者においては,心不全は死因の20%を占めるという報告2)もあり,ACHD患者に対する心不全治療は極めて重要である.心不全に至らないように適切な時期に外科的治療・カテーテル治療など非薬物療法を行うことは言うまでもないが,近年心不全薬物療法の進歩は目覚ましく,薬物療法の知識をupdateしておくことは,ACHD診療をしていく上で必要不可欠である.もちろん,構造異常がある症例では構造異常の修復が最も重要であるが,ACHDの中には修復できない症例や修復前のリスク低減としての薬物療法を行う症例もある.また,減塩や安静など生活習慣の是正,在宅酸素や心臓リハビリテーションなど非薬物療法も合わせて行っていくことも忘れてはならない.

ACHDに限定した薬物療法のエビデンス,特に生命予後改善効果が示されたエビデンスは皆無なので,成人の心不全のエビデンスを応用していく必要がある.本稿では,ガイドラインにおける心不全の定義から薬物療法を行っていくうえで避けては通れない左室駆出率による心不全の分類を説明したうえで,心不全治療薬のACHD診療に役立つ使い方のコツも解説していきたい.

心不全の定義

「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」3)には心不全の定義として,「なんらかの心臓機能障害,すなわち,心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果,呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し,それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」と記載されている.これではわかりにくいため,一般向けの定義として「心不全とは,心臓が悪いために,息切れやむくみが起こり,だんだん悪くなり,生命を縮める病気です」とも記載されている.

では,ACHDはどうかというと,幼少期に治療を受けた症例も成人期まで未治療の症例も器質的な異常を有していることが多い.幸いまだ若い患者が多いため,ポンプ機能の代償機転が破綻していないことが多いが,今後顕性の心不全を発症してくる予備軍であると考えられる.これからACHD患者が高齢化していくことを考えると,成人の心不全と同様に「心不全パンデミック」が押し寄せることは想像に難くない.

左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)と左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)

さて,増加を続ける成人の心不全の分類は,最近では左室駆出率による分類が一般的になってきた.これは薬物療法による生命予後改善効果が,左室駆出率によって異なることがわかってきたためである.つまり歴史的には左室駆出率の低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction: HFrEF)の予後が悪いと考えられてきたが,実際は左室駆出率の保たれた心不全(heart failure with preserved ejection fraction: HFpEF)も同様に予後が悪いことが明らかになり,またACE阻害薬・β遮断薬などの古典的心不全治療薬によって生命予後が改善したのはHFrEFだけであることが明らかになった4).このような経過で,現在では左室駆出率による分類が一般的になってきた.その分類をTable 1に示す.

Table 1 成人の心不全の分類
定義左室駆出率説明
LVEFの低下した心不全 
(heart failure with reduced ejection fraction: HFrEF)
40%未満収縮不全が主体.現在の多くの研究では標準的心不全治療下でのLVEF低下例がHFrEFとして組み入れられている.
LVEFの保たれた心不全 
(heart failure with preserved ejection fraction: HFpEF)
50%以上拡張不全が主体.診断は心不全と同様の症状をきたす他の疾患の除外が必要である.有効な治療法が十分には確立されていない.
LVEFが軽度低下した心不全 
(heart failure with mid-range ejection fraction: HFmrEF)
40%以上50%未満境界型心不全.臨床的特徴や予後は研究が不十分であり,治療選択は個々の病態に応じて判断する.
LVEF=left ventricular ejection fraction(左室駆出率)

もちろんHFrEFだけをとっても,成人の心不全では拡張型心筋症や虚血性心筋症といった左室心筋障害が主たる病態で,ACHDでは必ずしも心筋障害が病態の主座とは限らず,その背景の病態が異なる可能性はある.しかし,薬物療法の点から分類をするのであれば,ACHDの心不全においても,同様に駆出率でわけた分類をすることが理にかなっていると思われる.

ただし,ACHDでは体心室右室という特殊な病態があるため,左室駆出率ではなく「体心室駆出率」という言葉を使用した方が正確と思われる.体心室右室の場合の駆出率のカットオフを左室と同じでよいかなどの解決されていない問題があるのも事実である.体心室右室の場合であっても,左室と同様に駆出率40%未満をHFrEFと考えるのがわかりやすいと著者は考える.その理由に科学的な根拠はないが,例えば修正大血管転位症の体心室右室に合併する三尖弁閉鎖不全症に対する三尖弁置換術のタイミングとして駆出率40%以上で行うと長期予後が良いと報告されており5),40%をカットオフ値とすると覚えやすい.

以上述べてきたように,心不全薬物療法のコツは,HFrEFなのか,HFpEFなのかをしっかりと理解した上で薬物療法を行うことに尽きる.これはコツというより基本であるが,基本が最も重要であるということをご理解いただければ幸いである.

以下の代表的な経口心不全治療薬について各論を述べていきたい.なお,新規心不全治療薬の最近の臨床試験の結果をTable 2にまとめておく.

Table 2 Clinical trials of new medical therapy for heart failure
DrugTrialNumber of patientsAge (median)NYHATargetDuration (months)Primary endpointReference
Sacubitril/ValsartanPARADIGM-HF8,44264II–IVHFrEF27Cardiovascular death or hospitalization for heart failure13
IvabrandineSHIFT6,50560II–IVHFrEF42Cardiovascular death or hospitalization for heart failure22
DapagliflozinDAPA-HF4,74466II–IVHFrEF18Cardiovascular death or hospitalization for heart failure25
EmpagliflozinEMPEROR-Reduced3,73067II–IVHFrEF16Cardiovascular death or hospitalization for heart failure26
EmpagliflozinEMPEROR-Preserved5,98872II–IVHFpEF26Cardiovascular death or hospitalization for heart failure27
VericiguatVICTORIA5,05067II–IVHFrEF11Cardiovascular death or hospitalization for heart failure29
HFpEF, heart failure with preserved ejection fraction; HFrEF, heart failure with reduced ejection fraction

1. アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬

HFrEFにおける慢性心不全の病態に,レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系の活性化は交感神経系の活性化とともに大きな役割を果たすと考えられてきた.ACE阻害薬はACEを阻害し,アンギオテンシンIIの産生を抑制し,アンギオテンシンIIによる血管収縮・心筋繊維化を抑制するとともに,ブラジキニンの分解を抑制し,血管拡張やナトリウム利尿を惹起することで,心筋のリモデリングを抑制する6)

ACE阻害薬は,成人の症候性HFrEFを対象にしたCONSENSUS試験7),SOLVD試験8)など複数の大規模臨床試験で,HFrEFの心不全患者の生命予後改善効果が示されている.また,無症候性のHFrEFに対しても,生命予後改善効果が示されている9).そのため,ガイドラインではすべてのHFrEF症例に対して用いられるべき薬剤とされている.容量依存性に効果があることという報告もあり10),薬剤の忍容性がある場合はtarget doseまでは増量を試みるのがよいと著者は考える.

なお,体心室右室である完全大血管転位症に対する心房位血流転換術(マスタード手術・セニング手術)後・修正大血管転位症を対象としたACE阻害薬の効果を検討する臨床試験は過去に行われているが,メタ解析でも有効性は示せなかった11).しかし体心室右室の症例での臨床試験は,対象患者数が少ない,観察期間が短い,体心室駆出率の計測が正確ではないなどの問題があって,有効性が示されていない可能性がある.そのため,HFrEFと判断される体心室右室に対しては積極的なACE阻害薬の使用を行ってもよいと著者は考える.

2. アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)

アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)はアンギオテンシンII受容体を直接阻害することで血管収縮や心筋繊維化を抑制するが,ACE阻害薬と異なりブラジキニンの代謝経路は抑制しない.このためACE阻害薬で時折問題になる咳嗽の副作用が少ない.

大規模臨床試験ではACE阻害薬同様,成人のHFrEFにおいて心不全患者の生命予後改善効果が示されている12).しかしACE阻害薬と比較した場合,ACE阻害薬を超える効果は示されていないのも事実である.そのため,ガイドラインでもACE阻害薬に忍容性がない場合にその使用が薦められている.また,ACE阻害薬とARBの併用については,付加的な有用性は確認されていない.

ACE阻害薬よりも副作用が少ないため使用しやすいというのは事実であるが,HFrEFにおいてはあくまでACE阻害薬の代わりであるということを肝に銘じておく必要がある.

3. アンギオテンシン受容体/ネプリライシン阻害薬(ARNI)

アンギオテンシン受容体/ネプリライシン阻害薬(ARNI)はARBであるバルサルタンとネプリライシン阻害薬のプロドラックであるサクビトリルを1 : 1で結合させた化合物である.ネプリライシンはナトリウム利尿ペプチドの分解酵素であり,ネプリライシンを阻害することでナトリウム利尿ペプチドを増加させることがHFrEFにおける心不全の病態改善に繋がると考えられている.

PARADIGM-HF試験13)ではHFrEFに対する標準治療薬であるACE阻害薬を上回る生命予後改善効果が示された.そのため,ACE阻害薬,β遮断薬,MRAによる標準的心不全薬物治療でなお症状を有するHFrEF患者において,ACE阻害薬からARNIへの変更は強く推奨されるようになった.ACHDではファロー四徴症術後の左室収縮能障害を有する症例や体心室右室症例で,ACE阻害薬を投与されている症例が,今後ARNIへの変更が推奨されると考えられる.

副作用については,ACE阻害薬やARBと比較して症候性低血圧・血管浮腫は多かったが,腎機能障害や高カリウム血症の頻度は低かったと報告されている.ACHD患者においては血圧が低い症例も多く,ARNIへの切り替えが容易でない症例も経験する.ACE阻害薬からの切り替えの場合,ARNI開始前36時間にACE阻害薬を中止することが薦められているが,ACHD症例では,より血圧に注意して切り替えを行っていくのが望ましいと考えられる.

なお,体心室右室では,ACE阻害薬からの切り替えでBNPが低下したという報告14)はあるが,ACE阻害薬などと同様に生命予後を改善したという報告はない.

現在のガイドラインでのARNIの適応はTable 3に示す15)

Table 3 アンギオテンシン受容体/ネプリライシン阻害薬(ARNI)の適応15)
推奨クラスエビデンスレベル
ACE阻害薬(またはARB),β遮断薬,MRAがすでに投与されているHFrEFにおいて,症状を有する(または効果が不十分)場合,ACE阻害薬(またはARB)からの切り替えを行うIA
ACE阻害薬(またはARB)未使用の入院中のHFrEFへの投与を考慮するIIaB
利尿薬が投与されているNYHA心機能分類II以上のHFmrEFにおいて,ACE阻害薬(またはARB)からの切り替えを考慮するIIaB
HFpEFに対する投与を考慮してもよいIIbB
ACE=アンギオテンシン変換酵素,ARB=アンギオテンシン受容体拮抗薬,HFmrEF=左室駆出率が軽度低下した心不全,HFrEF=左室駆出率の低下した心不全,MRA=ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬,NYHA=ニューヨーク心臓協会

4. ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)

スピロノラクトンに代表されるミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は,以前は「カリウム保持性降圧利尿薬」「抗アルドステロン薬」とも呼ばれていた.アルドステロン受容体を阻害し,ナトリウム排泄を促進する一方カリウム排泄を減少させる作用がある.そのため,ループ利尿薬の使用に伴う低カリウム血症を予防する目的で使用されることも多かったが,いくつかの臨床試験で生命予後改善効果が示された.RALES試験16)ではACE阻害薬内服中のHFrEFを対象にスピロノラクトンを追加投与することで生命予後改善を示した.また,EMPHASIS-HF試験17)では,症候性の成人のHFrEFを対象にACE阻害薬やβ遮断薬を投与されている患者においても,エプレレノンの追加投与で生命予後改善効果が示された.

MRAはその生命予後改善効果から,β遮断薬・SGLT2阻害薬・ARNIと並んでHFrEFの4つのキードラックの一つとして「Fantastic four」と呼ばれるようになった18)

他の薬剤と比較すると降圧効果は強くはないが,ACE阻害薬あるいはARBとの併用により,血清カリウム値の上昇に伴う死亡・入院が増加する危険性もあり17),腎不全合併例では注意が必要である.例えば,エプレレノンではクレアチニンクリアランス30 mL/分以上50 mL/分未満の中等度の腎機能障害では「高血圧症」の適応では禁忌であるが,「心不全」の適応では慎重投与となっている.また,最大容量も25 mg/日と通常の50 mg/日より低く設定されている.

ACHDにおいては,HFrEFであればループ利尿薬が投与されていない症例においても,MRA単独での使用を積極的に考慮すべきと著者は考える.

5. β遮断薬

β遮断薬はアドレナリンのβ受容体の遮断薬であり,陰性変力作用・陰性変時作用を有し,狭心症・頻脈性不整脈の治療薬としても使用されてきた.加えて,成人のHFrEFにおいて症候性,無症候性いずれにおいても死亡率の低下が示された19, 20).ACE阻害薬同様β遮断薬も高用量がよいとされているが,一方で安静時心拍数75拍/分未満が至適な投与量であるという報告もある21).なお,β遮断薬の投与に際しては,NYHA心機能分類III度以上の心不全患者は原則として,入院の上少量より段階的に増量していくことが望ましい.

ACHDにおいては,原疾患・術式により徐脈性不整脈の合併が見られるため,投薬の際には注意が必要である.例えば房室中隔欠損症,修正大血管転位症,多脾症候群では完全房室ブロックの合併が多いことが知られており,完全大血管転位症に対する心房位血流転換術(マスタード手術・セニング手術)後には洞不全症候群が合併しやすいことが知られている.これらの疾患ではβ遮断薬の投与で徐脈性不整脈が顕在化する可能性もあり,導入・増量においては注意が必要である.また,これらの疾患でβ遮断薬投与を考える際には,心臓再同期療法(cardiac resynchronization therapy: CRT)をどうするのかということも同時に考える必要がある.

6. Ifチャネル阻害薬(イバブラジン)

Ifチャネル阻害薬であるイバブラジンは,心臓の洞結節に発現するhyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gated(HCN)-4チャネルの阻害薬であり,心臓ペースメーカー電流の過分極活性化陽イオン電流を抑制して活動電位の拡張期脱分極相における立ち上がり時間を遅延させ心拍数を減少させる,洞調律の患者が投与の対象になる.SHIFT試験22)ではACE阻害薬・β遮断薬・MRAを投与されたHFrEFで安静時心拍数が75拍/分以上の患者を対象に,心拍数を低下させることで予後改善効果が証明された.β遮断薬と異なり,陰性変力作用がないことが特徴であり,β遮断薬に不耐容あるいは禁忌である患者においても予後改善効果が示されている.ただし,ガイドラインにおいてはHFrEFに対する基本薬ではなく併用薬として位置付けられおり,まずは基本薬をしっかり投与することが重要である.心不全治療としてのACHDにおける応用は,まだ報告がない.

現在のガイドラインでのIfチャネル阻害薬の適応はTable 4に示す15)

Table 4 Ifチャネル阻害薬の適応15)
推奨クラスエビデンスレベル
最適な薬物療法(最大量あるいは最大忍容量のβ遮断薬,ACE阻害薬[またはARB]およびMRA)にもかかわらず,症候性で洞調律かつ心拍数≧75拍/分のHFrEF(LVEF≦35%)患者において,心不全入院および心血管死のリスク低減に考慮するIIaB
ACE阻害薬(またはARB)およびMRAを投与されているものの,洞調律で安静時心拍数≧75拍/分の症候性HFrEF(LVEF≦35%)患者であるがβ遮断薬に不耐容あるいは禁忌である患者において,心不全入院および心血管死のリスク低減に考慮するIIaV
最適な薬物療法(最大量あるいは最大忍容量のβ遮断薬,ACE阻害薬[またはARB]およびMRA)が導入されているにもかかわらず症候性で,収縮能の低下した(LVEF≦40%)慢性心不全患者に対し,心不全悪化および心血管死の低減を考慮してダパグリフロジンまたはエンパグリフロジンを投与するIA
ACE=アンギオテンシン変換酵素,ARB=アンギオテンシン受容体拮抗薬,HFrEF=左室駆出率の低下した心不全,MRA=ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬

7. ジギタリス

代表的なジギタリス製剤であるジゴキシンは洞調律心不全患者の心不全増悪による予後は改善せず,不整脈に関連した死亡をむしろ増加させる傾向にあったとDIG試験で報告されている23).DIG試験のサブスタディーではジゴキシンの血中濃度に比例して死亡率が増加することが明らかにされており,洞調律患者に投与する場合は血中濃度0.8 ng/mL以下に維持するように薦められている.ジギタリスは腎排泄の薬剤で半減期が36時間と長く,血中濃度の治療域が極めて狭いことにも注意が必要である.

さらに,心房細動合併のHFrEFについては,最近の臨床試験の結果から心拍数調節を目的とした長期にわたる経口ジゴキシンの投与は不整脈関連死など予後が悪化することが明らかとなり24),ガイドラインでも投与すべきではないとされている.

ACHDでは,洞調律でありながら幼少期より投与されている症例があり,そのような症例において投与を中止すべきか否かは答えが出ていない.

8. SGLT2阻害薬

糖尿病治療薬として開発されたSGLT2阻害薬は,腎機能や貧血の改善効果が示されたユニークな薬剤である.その薬理学的作用は多岐に渡り,利尿効果,交感神経過剰興奮の低減,心筋エネルギー代謝効率の改善,エリスロポエチン分泌亢進,慢性炎症の低減,酸化ストレス低減など,さまざまな効果が報告されている15).なかでも腎保護効果による心腎連関へのベネフィットは大きいと考えられている.

大規模臨床試験では糖尿病の有無とは独立してHFrEFの心不全に対して,心不全悪化及び心血管死イベントを抑制することが報告された25, 26).そのため,今後HFrEFの標準的な治療薬になってくることは間違いない.前述の「Fantastic four」の一角を占める極めて重要な薬剤であり,SGLT2阻害薬の中で心不全の保険適応を有するのはダパグリフロジンとエンパグリフロジンの2剤のみである.投与量はいずれの薬剤も10 mg/日を1日1回投与のみという点は,用量依存性に効果が高まるほかの薬剤と大きく異なる点である.

なお,エンパグリフロジンについてはEMPEROR-Preserved試験27)で,HFpEFに対して心血管死と心不全入院の複合エンドポイントを改善させる効果が示された.今までHFpEFに対しては症状改善のための利尿薬と併存疾患に対する治療しか心不全治療になかったので,HFpEF症例に対しては大きな福音である.ただ,どのような症例に有用であるかは完全には解明されていないが,駆出率が正常よりも低い症例の方が有効であるという報告はある28)

HFrEFのみならずHFpEFに対しても有効性が示されており,非常に期待される薬剤であるが,その作用機序含め未解決の問題も多い.ACHDにおいては,有効性があるかどうかはもちろん,どのような症例で有効であるか,今後検討していく必要があると思われるが,遺残症・続発症・合併症があるACHD症例ではSGLT2阻害薬の投与がされることになるかもしれない.

現在のガイドラインにおけるSGLT2阻害薬の適応を以下に示す15).EMPEROR-Preserved試験の結果が反映される前の知見に基づいているためHFrEFに対してのみがガイドライン上の適応とされている.

9. ベルイシグアト

新規の心不全治療薬であるベルイシグアト,は可溶性グアニル酸シクラーゼ(Soluble guanylate cyclase: sGC)を活性化させるsGC刺激薬である.VICTORIA試験で,ACE阻害薬あるいはARB,β遮断薬,MRAを投与されているLVEF45%以下の患者を対象に,心血管死と心不全入院の複合エンドポイントを改善させる効果が示された29).ただし,ベルイシグアトの有意な効果が認められたのは,NT-proBNP 5314 pg/mL以下の患者であったことから重症心不全に至る前に治療を開始することが望ましいと考えられている.

ACHDにおける使用はまだ報告されていないので,具体的な使用については今後の報告を待ちたい.

10. 利尿薬

利尿薬は心不全に伴う肺うっ血・体うっ血をとるためには必須の薬剤である.ただ,どの利尿薬も長期投与による生命予後改善効果は示されていない.

a. ループ利尿薬

ループ利尿薬は,ヘンレ係蹄上行脚のナトリウム/カリウム/クロール共輸送体を阻害し,ナトリウムとカリウムの再吸収を抑制することで,利尿効果が得られる.心不全急性増悪期のうっ血解除目的で古くから使用されてきた薬剤であるが,フロセミド投与量が多いほど予後が悪いという後ろ向きの観察研究もある30).ループ利尿薬は低カリウム血症を惹起することにより,致死性心室性不整脈や交感神経を活性化させるというマイナスの効果が影響している可能性が考えられる.

ACHDでは右心不全が多く,なかにはタンパク漏出性胃腸症を発症する症例も少なくない.経口での投与では十分な薬剤の吸収が得られない可能性があり,その場合には静脈内投与・持続静脈内投与ができるということはループ利尿薬のメリットである.

経口のループ利尿薬としては,古くからあるフロセミドが使用されることが多いが,トラセミド・アゾセミドのほうが緩徐な利尿作用があり,QOLを考慮するとACHD患者には使用しやすい.

b. サイアザイド系利尿薬

遠位尿細管でのナトリウム/クロール共輸送体を阻害し,ナトリウムの再吸収を抑制することで利尿効果を発揮する.ループ利尿薬を慢性投与すると,利尿効果が減弱してくるので,その場合には作用部位の異なるサイアザイド系利尿薬が使用される.腎機能障害・低ナトリウム血症・低カリウム血症を合併しやすいので,少量からの投与が望ましい.

c. トルバプタン

トルバプタンはバソプレシンV2受容体拮抗薬であり,集合管にあるバソプレシンV2受容体を遮断することにより,純粋な水利尿作用を有する.血管内容量は維持しつつ,血管外うっ血を改善させるため,血圧低下などの血行動態への影響が少ないのが特徴である.特に,ループ利尿薬などの使用で低ナトリウム血症を合併する場合には特に有用であるが,脱水になるほどの強力な利尿が得られることもあるため,少量(3.75 mg/日あるいは7.5 mg/日)から投与を開始することが安全である.なお,トルバプタンの開始に際しては,入院下での開始が添付文書上推奨されている.

また,肝硬変に伴う腹水に対しても,ループ利尿薬・MRAとの併用条件下では有効性が示されている31)

Fontan術後症例について

Fontan循環は肺循環に心室を有さない極めて特殊な循環である.単心室機能が良いことがFontan手術を行う前提条件の一つであり,Fontan循環におけるHFrEFは必ずしも多くはない.ただし,周術期の心筋障害や房室弁逆流による長期の容量負荷のため,成人期にHFrEFとなる症例は存在する.そのような症例に対しては通常のHFrEF同様に心不全治療薬を使用することは理にかなっているが,エビデンスはない.

一方,Fontan術後症例については,Ohuchiらが心拍出量が多い症例の予後が悪いという報告をしており32),通常の心不全とは全く異なった考え方で心不全治療を行う必要がある.そもそもFontan循環の特徴は低心拍出と高い静脈圧であり,心拍出量が多くなるのは逆説的である.心拍出量増加の原因は明確にはなっていないが,うっ血肝に伴い体血管抵抗が低下するためと考えられている.

Miikeらは,このような症例に対して,血管収縮物質であるノルアドレナリンやミドドリンを使用することで心不全のコントロールができたことも報告している33).Fontan術後症例に対する心臓移植が現実的でない本邦においては,心拍出量が増加したFontan術後症例に対して血管収縮物質による治療を考慮する必要が増えてくるかもしれない.

おわりに

近年の心不全薬物治療の進歩は著しく,今まで生命予後を改善させる薬物療法のなかったHFpEFに対してもSGLT2阻害薬が予後を改善させることが明らかになってきた.今後はACHDに合併する心不全に対してもエビデンスが集まり,心不全薬物療法の標準化がなされることを期待したい.

利益相反

本稿について申告すべき利益相反はありません.

引用文献References

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15) 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン,2021年JCS/JHFSガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療.https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf

16) Pitt B, Zannad F, Remme WJ, et al: Randomized Aldactone Evaluation Study Investigators: The effect of spironolactone on morbidity and mortality in patients with severe heart failure. Randomized Aldactone Evaluation Study Investigators. N Engl J Med 1999; 341: 709–717

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20) Dargie HJ: Effect of carvedilol on outcome after myocardial infarction in patients with left-ventricular dysfunction: The CAPRICORN randomised trial. Lancet 2001; 357: 1385–1390

21) Böhm M, Swedberg K, Komajda M, et al: SHIFT Investigators: Heart rate as a risk factor in chronic heart failure (SHIFT): The association between heart rate and outcomes in a randomised placebo-controlled trial. Lancet 2010; 376: 886–894

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24) Rathore SS, Curtis JP, Wang Y, et al: Association of serum digoxin concentration and outcomes in patients with heart failure. JAMA 2003; 289: 871–878

25) McMurray JJV, Solomon SD, Inzucchi SE, et al: DAPA-HF Trial Committees and Investigators: Dapagliflozin in patients with heart failure and reduced ejection fraction. N Engl J Med 2019; 381: 1995–2008

26) Packer M, Anker SD, Butler J, et al: EMPEROR-Reduced Trial Investigators: Cardiovascular and renal outcomes with empagliflozin in heart failure. N Engl J Med 2020; 383: 1413–1424

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28) Solomon SD, Vaduganathan ML, Claggett B, et al: Sacubitril/valsartan across the spectrum of ejection fraction in heart failure. Circulation 2020; 141: 352–361

29) Armstrong PW, Pieske B, Anstrom KJ, et al: VICTORIA Study Group: Vericiguat in patients with heart failure and reduced ejection fraction. N Engl J Med 2020; 382: 1883–1893

30) Hasselblad V, Gattis Stough W, Shah MR, et al: Relation between dose of loop diuretics and outcomes in a heart failure population: results of the ESCAPE trial. Eur J Heart Fail 2007; 9: 1064–1069

31) Sakaida I, Kawazoe S, Kajimura K, et al: ASCITES-DOUBLEBLIND Study Group: Tolvaptan for improvement of hepatic edema: A phase 3, multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Hepatol Res 2014; 44: 73–82

32) Ohuchi H, Miyazaki A, Negishi J, et al: Hemodynamic determinants of mortality after fontan operation. Am Heart J 2017; 189: 9–18

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