日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
〒162-0801東京都新宿区山吹町358-5アカデミーセンター Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 37(2): 96-103 (2021)
doi:10.9794/jspccs.37.96

原著Original

鹿児島市学校心臓検診スクリーニングシステム精度の検討High Accuracy of School-Based Cardiovascular Screening System in Kagoshima City

1鹿児島市学校心臓検診委員会Committee on the School-Based ECG Screening Program of Kagoshima City ◇ Kagoshima, Japan

2鹿児島大学病院小児科Department of Pediatrics, Kagoshima University Graduate School of Medical and Dental Sciences ◇ Kagoshima, Japan

3鹿児島市立病院小児科Department of Pediatrics, Kagoshima City Hospital ◇ Kagoshima, Japan

4鹿児島医療センター小児科National Hospital Organization Kagoshima Medical Center ◇ Kagoshima, Japan

5総合病院鹿児島生協病院小児科Department of Pediatrics, Kagoshima Seikyo Hospital ◇ Kagoshima, Japan

受付日:2020年12月3日Received: December 3, 2020
受理日:2021年1月14日Accepted: January 14, 2021
発行日:2021年8月1日Published: August 1, 2021
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背景:鹿児島市の学校心臓検診(心検)の1次検診は医師6~8名の判読後に集団討議で抽出例を絞り込む集団判読が特徴である.本心検の精度を検討した.

方法: 1989年から30年間の小・中学校心検受診者67,723例を対象とし,2次抽出例の割合(抽出率)と全対象内の心検で診断された有疾患例の割合(心検有病率)と既診断例も含めた全有疾患例の割合(総有病率)を解析した.

結果:年度毎の抽出率は12誘導心電図が導入された1994年以降で,集団判読導入の2001年以前は2.4% [1.9–3.0%](中央値[範囲])で導入後は1.5% [1.2–2.2%]であり,有意に低値だった.しかし,集団判読導入後の心検有病率は1994年から2000年の期間と比較して有意に高率だった(43% [33–50%] vs. 28% [26–35%]).総有病率は0.60% [0.50–0.85%]だった.

結論:当市心検の抽出率は全国(3.0%)より低いが,総有病率は全国(0.9%)に近く十分な精度だった.この精度の維持は,12誘導心電図の導入に加えて集団判読の効果と考えられた.

Background: A school-based cardiovascular (CV) screening in Kagoshima City is characterized by a group discussion system. Pediatric cardiologists discuss whether electrocardiograms (ECGs), screened by a cardiologist, should be referred for the second examination. Here, we examined the accuracy of the screening system in Kagoshima City.

Methods: Subjects comprised 67,723 elementary and junior high school students who underwent the screening between 1989 and 2018. In Kagoshima City, the standard 12-lead ECG recording at the first screening was started in 1994, and the group discussion system was introduced in 2001. We analyzed the rate of the first ECG screening, the rate of patients with CV diseases through the screening, and the rate of patients with CV diseases, including those already diagnosed (total prevalence).

Results: The rate of the first screening after the group discussion system (1.5% [1.2–2.2%] (median [range])) was significantly lower than that before the system (2.4% [1.9–3.0%]). The CV disease rate through the screening between 2001 and 2018 was significantly higher than that between 1994 and 2000 (43% [33–50%] vs. 28% [26–35%]). The total CV disease rate was 0.60% [0.50–0.85%].

Conclusions: The accuracy of the screening system in Kagoshima City was sufficiently high because the total CV disease rate was similar to that of the national average (0.9%), although the first screening rate was lower than that of the national average (3.0%). The group discussion system might support this high accuracy in addition to the use of 12-lead ECGs.

Key words: accuracy; double check; group discussion; school-based screening; primary screening

背景

学校心臓検診(心検)の目的は,心疾患の発見や早期診断を行い,学校心臓突然死を予防することであり1),1973年に学校保健法施行規則の改正により定期健康診断として義務付けられている.1995年から法律下に小学1年生,中学1年生,高校1年生の心検が開始され,2004年以降の社会的なAEDの認知と学校への導入の影響もあり,本邦の1995~1999年と2010~2014年の死亡率を比較すると75%減少している2, 3).このように,心検の果たしてきた役割は大きい.心検は多くの児童・生徒を対象としているが,スクリーニングを行う1次検診,精密検査を行う2次検診以降のシステムは各地域に委ねられており全国統一のプロトコールは存在しない.したがって,精度の一端である1次検診での有所見者抽出率(抽出率)には全国的に大きな差異がある.2013年度の都道府県別の抽出率調査によると,小学生では平均3.0%(1.1~8.3%),中学生では平均3.7%(1.1~10.0%),高校生で平均3.5%(0.7~9.2%)でありそれぞれの抽出率の範囲は大きいのが現状である4).1次検診の目的は,疾患を可能な限りもれなく発見することであり,抽出率は可能な限り高いことが望ましい.しかし,抽出率が費用対効果に大きく関与することにも留意が必要である.鹿児島市の1989~1997年度の報告では,1次検診費用は16.7ドル/人であるのに対し,2次検診費用は156ドル/人と高額であった5).長野県松本市の報告でも,2009~2013年度の心検の1次検診費用は1,575円/人であるのに対し,2次検診費用は10,500円/人と同様に高額であった6).したがって,高い抽出率で2次検診受診者が増加し,2次検診の有病率が低下することは,費用対効果を大きく低下させることになる.1次検診の抽出率が低く,2次検診の有病率が高いという精度の高い1次検診が理想であるが,相反する事項を含み容易ではない.今後の更なる心検の精度向上のための情報として,これらの心検の実状を具体的に検討することは有益であると考えられる.

鹿児島市の心検は1次検診を集団判読会で行っていることが特徴であり,2次検診を鹿児島市医師会病院1施設のみで行っていることから1次検診の精度を評価することが容易である.当市では,2001年度からは自動解析による異常心電図1枚毎の判読を判読医2名が個別に行うシステム(ダブルチェック)と集団討議のシステムに変更している.今回,鹿児島市における心検精度の検証を行い,当市心検の集団判読会システムの有用性について検討を行った.

方法

1989~2018年までの鹿児島市の心検を受診した小学1年生174,499人と中学1年生193,224人の計367,723人(10,832~15,436人/年)を対象とし,ダブルチェックと集団討議の導入前後で,① 1次検診での有所見者数および抽出率,② 2次検診受診者における有病率,③心検有病者数と心検有病率,および総有病率について後方視的に検討した.心検有病者は,2次検診および3次検診で管理が必要な疾患と診断された者と定義し,心検有病率はその心検受診者全体に占める割合と定義した.総有病率は心検有病者と学校生活管理指導表が提出されている例,即ち既に管理・治療されている例を併せた有病者の心検受診者全体に占める割合とした.

当市の心検体制をFig. 1に示す.当市では1次検診においては1993年までは省略4誘導心電図と心音図を用いていた.1994年に12誘導心電図検査に変更し,保護者からの心臓検診調査票による情報収集を行っている.同時に既に管理・治療している例においては生活管理指導表の提出を求めている.1次検診の心電図判読や問診票情報の確認は,各回6~8名の小児循環器医師による集団判読会で行われ,4~6月に7回行われる(各回90分程度).自動解析で異常とスクリーニングされた1枚の心電図は,判読医2名(若手のみの判読とならないように調整を行う)が個別に判読し,どちらかが異常と診断した心電図を絞り込み対象として抽出する.自動解析で異常がないと診断された心電図も判読医1名が判読し絞り込み対象心電図を抽出する.集団討議では,指導的立場の医師1人を中心に判読医3~6人のグループで抽出された心電図をもとに討論・確認を行い,2次検診対象を最終的に決定する.2次検診対象者は指定された日時に受診するように連絡され,2次検診は鹿児島市医師会病院で5月と6月の土曜日午後に6回行われる.各回4~6名の出向した小児循環器医による診察と運動負荷心電図検査(Master’s two step test),胸部エックス線検査,心臓超音波検査を必要に応じて適宜行い,診断および管理不要を含めた生活管理区分を決定する.今後の管理や更なる精査が必要とされた例は小児循環器専門施設へ紹介され,2次検診終了となる.2次検診は保険診療で行われ,家族負担分は鹿児島市教育委員会が鹿児島市医師会に委託した費用から支出されている.

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Fig. 1 School–based cardiovascular screening system in Kagoshima City

ECG, electrocardiogram.

また,研究期間内に心検で診断された致死的疾患や学校突然死についての調査も行った.致死的疾患は2005~2009年の間に本邦の小中学生における突然死の原因と報告されている疾患(肥大型心筋症,QT延長症候群,拡張型心筋症,左室緻密化障害,急性心筋炎,冠動脈先天異常,特発性心室細動,カテコラミン誘発多形性心室頻拍)とした7).当市においては,突然死や心室頻拍等の致死的不整脈などのニアミス例は,多くが小児循環器専門施設で対応される.各事例は心検委員会へ報告されるシステムが確立しており,直近の心検で記録された心電図の確認が行われる.これらの確認された心検時の心電図所見についても検討した.

統計学的分析は,SPSS Statistics for Windows, Version 25.0(SPSS Japan Inc, Tokyo, Japan)を用いて検定した.抽出率・有病率を中央値(範囲)で示した.各データを12誘導心電図導入前の1989~1993年(期間1),12誘導心電図導入後でダブルチェック・集団討議導入前の1994~2000年(期間2),ダブルチェック・集団討議を導入後の2001~2006年(期間3),2007~2012年(期間4),2013~2018年(期間5)に分けて比較した.抽出率,2次検診有病率と心検有病率に関して,各期間の比較はKruskal–Wallis検定を用い,多重検定はBonferroni法を用いた.結果を中央値(範囲)で示した.1次検診スクリーニング契機別割合における2群間の比較はMann–Whitney検定を用いた.いずれもp<0.05を有意差ありとした.

結果

1次検診抽出率(Fig. 2)

1次検診総受診者は,鹿児島市の小児人口の減少に伴い年々減少傾向にあった.各年度の1次検診抽出率は1.8%[1.2–3.0%](中央値[範囲])で,内訳は小学生1.4%[0.9–2.6%],中学生2.2%[1.3–3.4%]であった.小中学生の年度毎抽出率は1994年の12誘導心電図導入後に増加し,1999年には3.0%と高率となり,以降は低下していた.1994年から2000年までと比較して,2001年以降では小学生,中学生ともにそれぞれ有意に抽出率が低下していた(p=0.001,p<0.001).期間毎の比較では,小学生は期間2が1.9%[1.5–2.6%]であったことに対して,期間3が1.2%[0.9–1.7%]と有意に減少し(p=0.014),中学生においても期間2の3.0%[2.3–3.4%]に対して,期間3は2.1%[1.8–2.6%]と有意差を認めなかったが,期間4は1.8%[1.4–2.2%]と有意に減少していた(p=0.03).期間3から期間5の間では,小中学生でそれぞれ有意差はなく,安定して低い抽出率で推移していた.

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Fig. 2 Changes in the total number of initially screened patients and the rate of referred to secondary screening

The number of elementary and junior high school students who underwent the initial screening has decreased every year as the pediatric population decreases. The rate of referred to secondary screening increased after the alteration of the 12-lead electrocardiogram from the four-lead electrocardiogram in 1994 and decreased to 1.2–2.2% after the introduction of the double-check system in 2001 (A). Statistical analysis by Kruskal–Wallis and Bonferroni’s Post-hoc test of referral elementary and junior high school students (B). ECG, electrocardiogram.

1次検診スクリーニングの契機別の割合をみると(Fig. 3),心電図の自動解析異常からスクリーニングされた例の割合は,1994年以降増加し2001年以降は減少していた.調査票異常からスクリーニングされた例の割合も同様の傾向があり,2001年以降は減少していた.自動解析で異常がなく判読医によりスクリーニングされた例の全スクリーニングに占める割合は1994~2000年までは0.04%[0.01–0.12%]であったものが,2001年以降には0.13%[0.04–0.30%]と有意に増加していた(p=0.004).

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Fig. 3 Changes in the proportion of primary screening extractors by screening item

The proportion of elementary and junior high school students screened from the abnormal electrocardiography evaluated by computerized interpretation and abnormal questionnaire forms from the parents has increased after 1994 and decreased after 2001. The proportion of screened patients whose electrocardiogram is deemed abnormal by pediatric cardiologists although computerized interpretation is normal increased since 2001. ECG, electrocardiogram.

2次検診受診者数と有病率(Fig. 4)

2次検診受診者は計6,989人であり,年度毎の受診者数は小学生78人[47–141人],中学生134人[76–237人],小中学生205人[139–354人](1次検診受診者の1.8%[1.2–3.0%])であった.2次検診有病者総数は2,426人であった.年度毎の有病者数は小学生27人[16–54人],中学生55人[31–76人],小中学生84人[57–130人]であり,12誘導心電図導入後の1994年以降,2000年以前には小学生27人[20–37人],中学生63人[53–71人],小中学生91人[80–95人]であったが,ダブルチェックシステムが導入された2001年以降は小学生26人[16–32人],中学生47人[36–66人],小中学生70人[57–97人]と減少していた.一方で,2次検診受診者に占める有病率は,小学生・中学生ともにダブルチェックが導入された2001年以降はそれぞれ有意に増加していた(p=0.001,p<0.001).期間毎の比較では,小学生は期間2が23%[18–37%]であったことに対して,期間3は33%[30–40%]と有意差を認めなかったが,期間4は40%[38–48%]と有意に増加していた(p=0.01).中学生は期間2が30%[28–34%]であったことに対して,期間3は36%[35–37%]と有意差を認めなかったが,期間4は44%[38–47%]と有意に増加していた(p=0.04).

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Fig. 4 Changes in the number of students referred for secondary screening and rate of patients diagnosed with heart disease

The number of elementary and junior high school students referred for secondary screening has decreased since 1999. The rate of patients who were diagnosed with heart disease has decreased in 1994 and increased thereafter (A). Statistical analysis by Kruskal–Wallis and Bonferroni’s Post-hoc test of elementary and junior high school patients (B). ECG, electrocardiogram.

研究期間内に抽出された致死的疾患と疑い例は,心筋症32例,QT延長症候群369例,Brugada症候群12例,完全房室ブロック2例,肺高血圧症4例であった.

心検有病率と総有病率(Fig. 5)

心検有病者数は計2,321人で,年度毎では小学生26人[16–53人],中学生52人[32–74人],小中学生78人[ 55–127人]であった.心検有病率は小学生0.46%[0.31–0.73%],中学生0.82%[0.55–1.16%],小中学生0.60%[0.50–0.85%]であり,期間毎の差も認めなかった.

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Fig. 5 Total rate of patients with heart disease and total rate of patients diagnosed through the screening system

The total rate of elementary and junior high school students with heart disease has increased annually, while the rate of patients diagnosed through the screening system remains stable (A). Statistical analysis by Kruskal–Wallis test of elementary and junior high school patients by screening system (B). ECG, electrocardiogram.

総有病率は小学生2.1%[0.7–3.4%],中学生2.2%[1.0–2.2%],小中学生2.1%[0.9–3.4%]であり年度毎に増加傾向であった.この傾向には既に管理されている例の増加が関連していた.なかでも川崎病で管理中の人数は1989~1997年では各年37~189人だったものが,それ以降は200人以上と増加していた.

考察

鹿児島市の心検の1次検診抽出率はダブルチェックおよび集団討議導入後に有意に低下していたが,2次検診の有病率は有意に上昇し,心検有病率の低下は見られなかった.また,1次検診抽出率は低下したまま安定して維持されていた.

当市の心検における心電図は12誘導心電図を用いているが,現在12誘導心電図を1次検診に用いている自治体は増加しているものの,2012年度では小学校の55.9%,中学校の59.2%であり8),省略4誘導心電図でスクリーニングを行っている自治体も少なくない.12誘導心電図ではV3, V4誘導でT波の変化を確認できる心房中隔欠損症などの先天性心疾患や,QT時間を測定しやすい左側誘導を含む複数の誘導があることからQT延長症候群や他の致死的不整脈も検出されやすい2, 9).QT延長症候群の切れ込みのあるT波(notched T wave)はV3誘導からV5誘導で明確に判断でき,Brugada症候群のST上昇はV2誘導,V3誘導のみに出現することがある10).また,肥大型心筋症のR波増高,ST部分/T波異常はV2誘導,V3誘導で明瞭に見えることがあり,4誘導心電図で検出できずに失神を契機に発見された例も報告されている10, 11).1次検診の目的が致死的疾患のスクリーニングであることを考えると,12誘導心電図を導入するべきである.

このように12誘導心電図では広く抽出することが可能となるが,特に経験の少ない若手判読医において,スクリーニングすべき所見を見逃すことへの不安が,過度にスクリーニングする原因の一つとなり得る.当市では2名の判読医によるダブルチェックを行っており,若手判読医にとっては,自分が見逃した場合も他医師の判読もあると考えることで見逃しへの過度な不安が軽減されていることが考えられる.また,本市ではいったん抽出された心電図を全参加者で集団判読を行うことも特徴である.経験豊富な医師がリーダーとなり,集団討議を行い,過度にスクリーニングされた例を除外している(Fig. 1).したがって,広くスクリーニングを行っても,最終的には集団討議があることから,過度にスクリニーニングしても大きな問題はないと不安をもたずに判読を行うことが可能であり,このことも判読医の負担軽減に寄与している.以上のダブルチェックと集団討議のシステムは判読医の負担軽減となり,若手判読医が心検へ積極的に参加しやすい環境となっていることが考えられる.

鹿児島市の1989~2018年の年度毎の小中学校心検1次検診の抽出率は1.8%[1.2–3.0%]であり,小学校1.4%[0.9–2.6%],中学校2.2%[1.3–3.4%]であった.それぞれが,全国平均の抽出率(2013年度調査全体3.4%,小学校3.0%,中学校3.6%)を下回っていた.更に,ダブルチェックシステム導入後の2002年以降では抽出率は低下し(1.5%[1.2–2.2%]),安定して維持されていた.また,12誘導心電図が導入された1994年以降の2次検診受診者における有病率に着目すると,ダブルチェックを導入した2001年以降は有意に高率であった.このことは1次検診でより効率的に有病者を抽出できていることを示しており,ダブルチェックと集団討議のシステムが精度を高めているものと考えられる.

乳幼児健診体制は研究期間内の30年間で大きく整備されてきており,乳幼児期に診断される心疾患例は増加しているため,当市の総有病率は年度毎に増加傾向であり,2.1%[0.9–3.4%]であった.一方で,当市の年度毎の心検有病率は0.50–0.85%であり全国平均(2013年度調査全体0.98%,小学校0.89%,中学校1.0%)6)よりやや低い程度であった.心検で初めて診断される疾患は年度毎に同程度の割合で存在しているため,心検の果たすスクリーニングの役割は改めて大きいことがわかる.研究期間内には疑い例を含む多くの致死的疾患を抽出できており,学校突然死は1997年の肥大型心筋症1例と2000年の原因不明1例であった.肥大型心筋症例は,学校生活管理指導表で指定した運動強度(C管理)内で軽いジョギングを行っていたところ突然死しており,不整脈が原因と推測された.原因不明例は直近の心検心電図で異常はなかった.当市の心検では突然死の原因となる疾患の抽出ができているが,突然死やニアミスは少ないながら現存しており,心検の今後の課題として検討していく必要がある.

心検の1次検診は対象者が多いことから多くの医師の参画が必要であり,また,専門的知識や経験があることのほうが望ましい.しかし,心検の1次検診担当医の全国における小児科医の割合は小学校で26.8%,中学校で25.8%と低かった6).当市においては小・中学校の心検をすべて小児循環器医が担当しており,各医師が1年間に複数回(2~7回)関わっていることが特徴である.当市の集団心検システムは若手小児循環器医でも参加しやすい環境を醸成しており,そのことが小中学校の心検すべてを小児循環器医で行うことを可能としている.

当市で行っているダブルチェック後の集団討議は参加者へのフィードバックの一つともなっている.自分が抽出した心電図の解釈を確認し,他の抽出された心電図所見の確認を行うことは質の高い経験となる.若手小児循環器医は複数回の参加するなかで多くのフィードバックを受け続けることで1次検診の経験を効率的に積むことが可能である.また,当市の心検においては,自動解析で異常がなかった心電図からの抽出例の2次検診受診者に占める割合が2001年以降に有意に増加していた.この変化は,集団討議において注意して抽出すべき所見について認識・学習したことによるフィードバック効果の一つとも考えられる.以上のように,当市の集団判読会システムは教育的な側面においても有効と考えられ,それが当市の心検の精度向上だけでなく,近年の安定した抽出率の維持にも寄与しているものと考えられた.

本研究の制約

本研究では,データ収集の際に以下の問題点がある.まず,年度によっては抽出の基準を変更することがあり,年度毎で抽出率が変動する可能性がある.ただし,2014年に洞性徐脈で抽出対象となる心拍数の基準が小学生男子55/分以下・小学生女子57/分,中学生47/分以下に引き上げられたこと以外は2001年以降で主な変更はなく,抽出率への大きな影響はなかったものと考えた.

突然死やニアミスの検討にも制限があった.ニアミス例で心臓検診での心電図を含めた検診スクリーニングとして問題があった事例はこれまで確認されていないが,各年度における実数としての記録が残されていなかったことから,本研究期間におけるニアミス例の正確な実数を示すことはできなかった.

結論

鹿児島市では,心検有病率が全国平均と同程度である一方で,有病者が1次検診で効率的に抽出されていることから,スクリーニングシステムが高い精度で維持されている.また,当市における12誘導心電図の集団判読会システムは高い心検精度の維持と若手医師教育に有用である.

利益相反

川村順平,野村裕一,塩川直宏,櫨木大祐,上野健太郎,田中裕治,益田君教,西畠信,吉永正夫は日本小児循環器学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

著者の役割

川村順平,野村裕一は,論文の構想,データの分析,論文の作成に関与した.田中裕治,吉永正夫は突然死や抽出された致死的疾患のデータ収集・分析に関与した.野村裕一,塩川直宏,櫨木大祐,上野健太郎,田中裕治,益田君教,西畠信,吉永正夫は抽出率や有病率のデータ収集に関与した.上野健太郎,吉永正夫はデータの統計学的解析に関与した.塩川直宏,櫨木大祐,上野健太郎,田中裕治はデータの分析に関して批判的校閲に関与した.野村裕一,吉永正夫はデータの監査を行い,研究を総括した.

付記

本論文の要旨は日本小児循環器学会(2019年6月,札幌)において報告した.

引用文献References

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