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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 37(4): 340-342 (2021)
doi:10.9794/jspccs.37.340

次世代育成シリーズSeries: Training the Next Generation

両大血管右室起始症におけるVSD拡大と心内ReroutingのコツVSD Enlargement and Intraventricular Rerouting for Double Outlet Right Ventricle

千葉県こども病院 心臓血管外科Department of Cardiovascular Surgery, Chiba Children’s Hospital ◇ Chiba, Japan

発行日:2021年12月1日Published: December 1, 2021
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両大血管右室起始(DORV)の定義には変遷があるが,現在STS databaseでは両大血管が主に(predominantly)右心室から起始する心室大血管関係と定義されている.また登録上,房室関係が正位であって両心室の大きさが正常に近い(二心室修復の対象となる)ものとされている.「predominantly」の基準は「50% rule」である.Databaseという性格上明確な定義だが,実際は「spectrum」と称される多様性に富んだ疾患群であり1),対応する手術術式も多い.

心内Rerouting(Intraventricular rerouting: IVR)は二心室修復術として魅力的であるが,術後の左室流出路/大動脈弁下狭窄が生活のQualityを左右する.

DORVの二心室修復にこだわってきた経験から,VSD拡大とIVRに関してその適応と手術のコツについて述べたい.

要点

1. 拡大の適応

両半月弁ともに僧帽弁との線維性結合をもたないDORVで,VSD=primary interventricular foramen(pIVF)の横径(前後径)が正常大動脈弁輪径以下である場合

2. 拡大方法および心内Reroutingの実際

  1. 経三尖弁的に,uppermost medial papillary muscle(Lancisi)の流出路寄りを前方に切開.横径が正常大動脈弁輪径相当となる,あるいは左室側壁手前まで.
  2. 拡大したVSDから近い半月弁(肺動脈弁であれば動脈/Truncalスィッチを行う)へ向かってIVRを行う.右室–肺動脈心外導管に右室切開が必要であれば右室切開から,必要がなければ経三尖弁,経肺動脈弁で行う.
  3. IVRは基本的にプレジェット付マットレス縫合で行う.拡大を行ったVSD前縁数針はプレジェットを左室側に置き,右室側IVRパッチとで中隔全層を挟み込む.
  4. IVRに使用するパッチは左室流出路弁輪径相当のePTFE人工血管から切り出した(パッチ縫合線内の自己組織部分相当を切り取った)ものを使用.長さは視野を展開しない状態の下縁から左室流出路半月弁輪前縁までの直線距離とする.
  5. IVR縫合糸を結紮するときには,人工血管から切り出したパッチを左室側に凹ませて行い,最後に中央部分に一時的traction sutureを掛け,右室側へ凸の形に整える.

解説

1. 拡大の適応(Fig. 1)

両半月弁ともに僧帽弁との線維性結合をもたない(=両側円錐Bilateral conusを持つ,=200%右室起始の)DORVでは,心室間交通VSD=pIVFであり左室唯一の出口となるため,心内修復を行う際には狭小(正常大動脈弁輪径以下)であれば,拡大が必要である.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 37(4): 340-342 (2021)

Fig. 1 僧帽弁と半月弁の線維性結合があるDORV (A: 正常大血管型,B: 完全大血管転位型)と僧帽弁と両半月弁の線維性結合の無い両側円錐を持つDORV (C)

私が心臓外科を志したころは,DORVは肺動脈弁だけでなく大動脈弁も左室から離れており僧帽弁との線維性結合がないものと教えられ,そこがファロー四徴症との鑑別点であり,当時手術成績が良好であったファロー四徴症と区別して学会で議論されていた2).大動脈弁と僧帽弁の線維性結合があるファロー四徴症で大動脈弁が50%以上右心室に騎乗している場合も,DORVに分類するとDORVの手術成績が良くなるためフェアーでないと言われていた.ところが,TGA型のDORVに関しては事情が違って,False Taussig-Bing anomaly(False T-B)は後方大血管である肺動脈と僧帽弁との線維性結合があるが,TGAではなくDORVに分類されていた.おそらくOriginal T-BとFalse T-Bとの手術成績に大きな差がなかったためと考えられる.そういった社会的事情が背景にある時代と異なり,現在のDORVの定義は明快で,術式に関しても一方の大血管の半月弁が僧帽弁と線維性結合をもち左室に騎乗している場合は,必然的にその下に左室の出口であるVSDがあるため,修復術として左室からその大血管にReroutingすればよく,その大血管が肺動脈の場合や弁/弁下狭窄があれば,動脈/Truncalスィッチ或いはRossを行えばよい.大血管が騎乗しているので通常VSD横径は半月弁径相当あり,術後左室流出路狭窄の原因となることは稀である(騎乗の強いファロー四徴症と同様).ところが両大血管半月弁ともに僧帽弁と線維性結合がなく完全に右室から起始している場合は,VSD=pIVFの位置,大きさ,半月弁の高さ(半月弁下の筋性円錐Subaortic/subpulmonary conusの発達程度)によってIVRの選択枝が多彩で,またDKSやTruncal switchを行っても,VSDが狭小であれば拡大が必要となる.またsecondary interventricular foramenの上縁であるinfundibular septumの切除は左室出口の拡大にはならない.

2. 拡大方法および心内Reroutingの実際.注:VSD= pIVFである(Fig. 2)

  1. 肺動脈血流路を心外導管で再建する場合は右室切開からの視野が良好であるが,VSD拡大する場合剪刀の入る角度が心尖部方向となりやすいこと,VSD越しに僧帽弁の確認が困難であることから,経三尖弁的に行うことをお勧めする.Lancisi頭側のVSD前縁を前方に切開する.切開とともに左室内腔が見えるようになる.VSD前後径が正常大動脈弁輪径を超えるまで切開する.僧帽弁腱索は心室中隔には挿入しないが僧帽弁輪に近づかない(頭側へ向かわない)ように注意する.Lancisiの異常挿入によってその頭側を切開できない場合は,腱索を乳頭筋とともにIVRパッチ上に移植する.この場合は三尖弁antero-septal commissureの形成(部分閉鎖)を必要とする場合があるが,同commissure下は心内導管で塞がれるため,術前三尖弁輪径が狭小でない限り問題とはならない.VSDが径数mmと小さく左室圧上昇のため左室機能が低下している場合は,まず減圧のための拡大+ASD作成+肺血流調節として,段階的拡大とする.VSD縦径は術後右室圧低下によってVSD後下縁が右室側に偏位し広がる(大動脈弁が騎乗する)ので拡大の必要はないと考えている(上縁拡大は心外交通や僧帽弁輪変形を,下縁は房室ブロックを生じる可能性がある).
  2. 拡大したVSDからよりストレートな血流を作成できる半月弁へReroutingを行う.その半月弁が肺動脈弁であれば,動脈/Truncalスイッチを併せて行う.
  3. Reroutingパッチは大きなものとなるので,パッチを落としての連続縫合が可能な部分は限られる.拡大したVSD前縁部分は辺縁が脆弱となり遺残短絡を残しやすいため,比較的大きなプレジェットを左室側に置き右室側のIVRパッチとで中隔をサンドイッチする.右室内にあるinfundibular septumによる術後大動脈弁下狭窄の懸念がある場合は,肥厚部分を切除しLuciani法に準じてIVRパッチを左室流出路側におき右室側のプレジェットと挟み込む.
  4. IVRパッチ(心内導管)のデザインは重要で,狭くならないように膨らませばよいというものではなく,均一口径でストレートな流出路の作成が理想である.従って,左室の出口であるVSDと大動脈弁とを結ぶ均一な円筒を作成する.そのためにはVSD横径が大動脈弁輪径と同等であることが重要で,そこに拡大の目的がある.IVRパッチは大動脈弁輪径相当の人工血管からsuture line内の自己組織部分相当を切除したものとする.長さも重要で,長すぎると大動脈弁輪を押してARを生じたり中間部で折れこみ狭窄を生じたりする.
  5. IVRパッチを縫合線に落とす際にはパッチを左室側に凹ませると縫合部の視野が良くなるが,最後に右室側へ凸の形に整えないと,人工心肺離脱時の低い自己圧では十分に膨らまない可能性がある.
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 37(4): 340-342 (2021)

Fig. 2 VSD拡大(A)とRerouting (B)

おわりに

今回の執筆のお話を頂いたときに,引退を控えて若い先生方に何を残せるのか,内容に迷いました.私の年代は,黎明期が終り小児循環器治療発展期の目撃者であり,救命できなかった患児が救えるようになった一方,「ムンテラ」から「IC」,医療安全体制の確立など,様々な変化を経験しました.その経験は貴重なものであり,偉大な先人たちの教えや自他の失敗から学んだこと,今だから話せることもあります.しかし今の若い先生方はその教訓のエッセンスを常識として学んでおり,面白い昔話ではあっても今後に生かせる話とすることは私には難しいと思い,結果としてこのような狭い分野の話になってしまいました.補助手段の進歩によって外科医の技術が生かせる時代となった今,少しでも若い先生方の参考になれば幸いです.

引用文献References

1) 黒沢博身,今井康晴,高梨吉則:両大血管右室起始症の再考察Transpositionの発生とconotruncal criss-crossの概念を中心として.胸部外科1985; 38: 774–784

2) 川島康生:両大血管右室起始症の定義と分類.日胸部外科会誌1981; 29: 967–971

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