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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 37(3): 165-172 (2021)
doi:10.9794/jspccs.37.165

ReviewReview

無症状でWPW型心電図を示す小児患者をどう診るか?A Pragmatic Approach to the Asymptomatic Patient with a WPW Pattern ECG: Based on the Latest Evidence

大阪市立総合医療センター小児不整脈科Department of Pediatric Electrophysiology, Osaka City General Hospital ◇ Osaka, Japan

発行日:2021年11月1日Published: November 1, 2021
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無症状でWPW型心電図を示す小児のスクリーニングでは,第一に器質的心疾患の有無の確認や,不整脈原性のない束枝副伝導路の鑑別が重要である.房室副伝導路が存在した場合,発症しうる可能性が最も高い不整脈は房室リエントリー性頻拍である.ごくまれに,心房細動などを合併した際に速い心室応答とそれに続く心室細動や心臓突然死が起こる.また心室非同期による心不全発症がみられる症例がある.致死性不整脈イベントに対するリスク評価は,非侵襲的な方法では困難である.本邦では通常,侵襲的電気生理学的検査はカテーテルアブレーションと同時に行われる.アブレーション治療の急性効果・再発・合併症の発生率は,副伝導路部位に関連している.合併症のリスクは体格の小さな小児で高い.これらの患者の診療方針は,潜在する心血管リスクと,侵襲的電気生理学的検査やアブレーション治療の効果や合併症リスクとのバランスを考慮して決定する必要がある.

Children with a Wolff–Parkinson–White electrocardiography pattern are usually asymptomatic. In these patients, the initial evaluations of organic cardiac disease and differentiation from fasciculoventricular pathways are important. If atrioventricular accessory pathways exist, the patient can develop atrioventricular reentrant tachycardia, rarely preexcited atrial fibrillation with rapid ventricular responses, sudden cardiac death, and heart failure caused by ventricular dyssynchrony. Risk stratification of fatal arrhythmic events by using noninvasive tests is thought to be difficult. The incidence of complications after catheter ablation is higher in smaller children. The acute effect, recurrence, and complication rates of catheter ablation are related to the location of the accessory pathway. Management is determined by the balance between the potential cardiovascular risks of accessory pathways and the possible complications of electrophysiological study and catheter ablation.

Key words: asymptomatic; atrioventricular accessory pathway; WPW pattern ECG; catheter ablation; fasciculoventricular pathway

はじめに

日本では学校保健安全法に基づいた学校心臓検診が人口ベースで行われており,スクリーニング検査で抽出された無症状のWPW型心電図に遭遇する機会は多い.一方,小児における発作性上室頻拍の原因で最も多いのは,房室副伝導路(atrioventricular accessory pathway: AVAP)を介した房室リエントリー性頻拍であるが1),その根治療法であるカテーテルアブレーションは,本邦においても普及しつつある.WPW型心電図を示す症状のない小児の診療方針を決定する際には,疾病そのもののリスクと,電気生理学的検査の潜在的合併症リスクならびにカテーテルアブレーション治療の効果と合併症のリスクについて,バランスを考え総合的に判断する必要がある.現時点におけるこのような患者の管理方針について総括する.

WPW症候群とWPW型心電図

1930年Wolff, Parkinson, Whiteの共著によりAmerican Heart Journalに“Bundle branch block with short P-R interval in healthy young people prone to paroxysmal tachycardia”が発表された.安静時心電図でPR短縮を伴う脚ブロック様波形を示し,発作性の上室頻拍を発症した,それまで健康だった若年患者11名の臨床的知見に基づいた論文であり,これがWPW症候群の初めての報告となった2).PR時間短縮に加えてQRSの立ち上がりに伴いデルタ波を認めるものを,WPW型心電図(WPW pattern ECG)と呼ぶ3)

WPW型心電図の鑑別診断

WPW型心電図は,正常の刺激伝導路以外の経路による心室早期興奮が存在することを示す.QRS波形は房室結節経由の心室興奮と,副伝導路経由の心室興奮の融合波形となる.WPW型心電図を形成する原因で最も多いのはAVAPだが,鑑別診断として重要なものに,右前中隔のAVAPに類似した心電図波形を示す束枝心室副伝導路(fasciculoventricular pathway: FVP)がある(Fig. 1).FVPはまれな副伝導路とされているが,頻度は過少評価されている可能性がある.FVPは,His束または脚と心室をつなぐ副伝導路であり,不整脈原性を有さないため,治療や経過観察は不要である.AVAPとの鑑別には非侵襲的・侵襲的検査による診断方法がある.

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Fig. 1 Schema of the accessory pathways forming WPW pattern ECG

AVAP, atrioventricular accessory pathway; AVN, atrioventricular node; FVP, fasciculoventricular pathway; His, Bundle of His; LBB, left bundle branch; RBB, right bundle branch; SN, sinus node.

2019年O’Learyらは侵襲的電気生理学的検査を受けた小児FVP患者の心電図学的特徴について報告した4).FVPは,(1)AH時間正常,(2)HV時間の固定した短縮(<35 ms),(3)心房期外刺激でHV間隔の延長を伴わずAH間隔が延長するか早期興奮パターンの変化を伴わずに延長する,以上全てを満たし,付加的所見として接合部調律時にデルタ波が残存するか,adenosine投与時に房室ブロックを示すものと定義した.平均年齢12.8歳のFVP患者24名と,マッチさせた対照群の前中隔AVAP患者48名を比較したところ,AVAPはFVPに比べて,四肢誘導で最も大きなデルタ波のQRS開始から40 ms時点の電位高(delta wave amplitude: DWA)が大きく(4.8±2.0 mm vs 1.9±1.3 mm;p<0.001),PR時間が短く(94.6±12.5 ms vs 106.8±13.2 ms;p<0.001),QRS時間が長かった(133.6±19.0 ms vs 118.7±24.7 ms;p=0.006).多変量解析では,DWAのみが予測因子となり,DWA>5 mmでAVAPの特異度96%,DWA<2 mmでFVPの特異度96%であった.この結果から彼らは,無症状のWPW型心電図を示す患者でDWA2–5 mmの場合にadenosine負荷試験による鑑別診断を提案している.

本邦ではadenosineの代わりに同様の房室結節伝導抑制作用があるadenosine triphosphate(ATP)が使用できる.約0.3~0.4 mg/kgを急速静注して心電図波形変化を評価する.FVPではQRS波形が変化せずにPR間隔が延長するか,完全房室ブロックとなる(Fig. 2).AVAPでは副伝導路経由の心室興奮が優勢となるため,PR間隔は不変で幅広のQRS波に変化する(full-excitation).副伝導路の局在診断も容易となる(Fig. 35)

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Fig. 2 Fasciculoventricular pathway

At baseline, PR interval, QRS duration and delta wave amplitude (DWA) in lead I were 70 ms, 80 ms and 1 mm, respectively. After administration of adenosine triphosphate (ATP), atrioventricular block appeared without change of QRS morphology.

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Fig. 3 Left atrioventricular accessory pathway

At baseline, PR interval, QRS duration and delta wave amplitude (DWA) in lead I were 80 ms, 100 ms and 2 mm, respectively. After administration of adenosine triphosphate (ATP), PR interval was not prolonged and QRS morphology changed to full-excitation.

活動性気管支喘息などでATP投与が禁忌の場合は,ホルター心電図検査が有用な場合がある.検査中に心房期外収縮が出現したときの波形変化を,洞調律時と比較する.心房期外収縮により房室結節は減衰伝導が起こるがAVAPでは起こらない.すなわち心房期外収縮時にAVAPではPR間隔は変化せず,副伝導路経由の心室興奮が優勢となり幅広のQRS波に変化する.FVPの場合はPR時間が延長し,QRS波形は変化しない.

WPW型心電図に合併する器質的心疾患

AVAPの原因は,房室線維輪周辺の発生異常と考えられている6).WPW型心電図を示す患者の多くは器質的心疾患を合併していないが,初回スクリーニング時に心エコー検査で合併心疾患の有無を確認することは重要である.左側副伝導路に比べて,右側副伝導路における心疾患合併率が高い7).先天性心疾患ではEbstein病と修正大血管転位,後天性心疾患では心筋症が重要である.

Ebstein病のAVAPは三尖弁の発生異常と関連し,合併率は10~20%と高く,複数副伝導路の頻度が~50%と高い.修正大血管転位のAVAP合併率は2~5%で体心室三尖弁輪に副伝導路が存在することが多い8)

心筋症合併例のうち,肥大型心筋症の表現型を伴うものにPRKAG2異常およびLAMP2異常がある.前者はAMP-activated protein kinase γ2 subunitをコードする遺伝子の異常により,常染色体優性遺伝で心臓に比較的限局した糖蓄積病を発症する.FVPの合併も報告されている.心房細動や心房粗動などの他の上室頻拍,房室ブロックや突然死の合併もみられる9, 10).後者はlysosomal associated membrane potein-2をコードする遺伝子の異常により,X連鎖性優性遺伝の自己貪食空胞性ミオパチーDanon病を発症する.心筋肥大に加え骨格筋異常と精神発達遅滞を伴う11).AradらはPRKAG2心筋症32名・LAMP2心筋症7名と,対照群としてサルコメア構成蛋白遺伝子異常による肥大型心筋症40名について,早期心室興奮の合併率を調査したところ,PRKAG2異常は28%,LAMP2異常は86%,サルコメア構成蛋白遺伝子異常は0%だった12).心筋症を合併するほかの基礎疾患として,ミトコンドリア病がある.神経筋異常や代謝異常に随伴して各種心筋症を発症するが,心病変孤発例や心病変が診断の契機になる例もあるため注意が必要である.MELAS(mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis, stroke-like episodes)とMERRF(myoclonic epilepsy with ragged red fibers)にWPW型心電図の合併が多い13).その他の心筋疾患としては,結節性硬化症に伴う心臓横紋筋腫があり,その9~13%にWPW型心電図を伴うという報告がある14)

房室副伝導路に関連した不整脈と心室非同期

AVAPにより生じうる不整脈を下記にしるす.

  1. 正方向性房室リエントリー性頻拍: Narrow QRS and regular tachycardia,順伝導は房室結節,逆伝導は副伝導路,最も多い
  2. 逆方向性房室リエントリー性頻拍: Wide QRS and regular tachycardia,順伝導は副伝導路,逆伝導は房室結節
  3. 副伝導路–副伝導路房室リエントリー性頻拍(副伝導路が複数存在する場合):Wide QRS and regular tachycardia,順伝導逆伝導ともに副伝導路
  4. 心房細動や心房粗動を合併した際の速い心室応答:Wide QRS and irregular/regular tachycardia,順伝導は副伝導路

ごくまれに,器質的心疾患を伴わないがAVAP(右側および中隔副伝導路が多い)による心室収縮の非同期が原因と考えられる心機能低下を発症する場合がある15)

房室副伝導路の自然歴とリスク評価

小児や成人を対象とした大規模な一般集団でのWPW型心電図の有病率は0.1~0.3%と予測されており16, 17),本邦の学校心臓検診においても0.1%前後である18).偶然診断されたWPW型心電図を有する患者は,20歳未満で約65%,30歳以上で40%は症状がないと推定されている19).正方向性房室リエントリー性頻拍の発症には,AVAPの逆行性伝導特性が必要条件である.AVAPによるWPW型心電図を示し,かつ無症状の患者に対して当科で行ったアブレーション治療時の電気生理学的検査の結果は,40/55名(73%)にAVAP逆行性伝導を認め,約7割に検査時点では潜在的な房室リエントリー性頻拍のリスクがあったと考えられた20)

最も問題となるのは,AVAPに関連した初発症状が失神や突然死の場合である.順伝導があるAVAPに心房細動や心房粗動が合併した場合の速い心室応答と,それに続く心室細動の誘発が原因といわれる21).心室細動や突然死の発生率は極めてまれと考えられている.1,869患者がふくまれた20研究のメタアナリシス研究により,これらのリスクは0.13%/年と推定されている22).病歴だけからリスクを推定することは難しい.致死性不整脈イベントの発症に関与する“AVAPの伝導しやすさ”は,後に示す電気生理学的検査項目により評価される.

2012年にPediatric and congenital electrophysiology society(PACES)とHeart rhythm society(HRS)のパートナーシップで初めて,無症状でWPW型心電図を示す若年患者の管理についてのエキスパートコンセンサスが発表され,非侵襲的・侵襲的検査によるリスク層別化とアブレーション治療適応が示された.ここでは,間欠性にデルタ波を認める,あるいは運動負荷試験で突然デルタ波が消失する患者は,AVAPの有効不応期が長く,致死性不整脈イベントのリスクは低いとされている.それ以外の患者については,経食道的または経静脈的ペーシングによる侵襲的電気生理学的検査を行い,副伝導路の電気生理学的特性と発作性上室頻拍の誘発性によってアブレーション適応を決定するとした.誘発された心房細動時または心房連続ペーシング時の最も短いデルタ波を伴うRR間隔(shortest preexcited RR interval: SPERRI)≦250 msを致死性不整脈イベントのハイリスクAVAPとした(Fig. 423)

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Fig. 4 Rapid ventricular response of atrial fibrillation induced by mechanical stimulation of catheter at high right atrium (HRA)

Shortest preexcited RR interval (SPERRI) during atrial fibrillation was 365 ms.

その後,2018年Etheridgeらは臨床的に致死性不整脈イベント(突然死,ニアミス突然死,臨床的な心房細動時のSPERRI≦250 msまたは血行動態の悪化)を認めた21歳以下の患者について他施設共同コホート研究を行った.症例96名の平均年齢は14歳で,イベント発症までに症状があったのは65%だった.致死性不整脈イベントのなかった患者816名を対照群とした.電気生理学的検査の3項目APERP,心房細動誘発時のSPERRI,心房ペーシング時のSPERRIを各群で比較すると,いずれの項目も致死性不整脈イベント群が対照群に比して有意に短かったが(各271±50 ms vs 309±55 ms;p<0.0005, 247±61 ms vs 315±77 ms;p<0.0005, 279±89 ms vs 315±74 ms;p=0.001),致死性不整脈イベント群のうちこれらの1つ以上が250 ms以下だったのは62%にすぎなかった.多変量解析では,男性,Ebstein病,3項目のいずれかが250 ms以下,複数AVAP,プログラム刺激で心房細動が誘発されることがリスク因子となった.この報告は,無症状であっても,あるいは電気生理学的検査項目がハイリスク基準を満たさなくても,致死性不整脈イベントが起こる可能性があることを示した24)

また,2020年Escuderoらは21歳以下の侵襲的電気生理学的検査を行ったWPW症候群患者について,多施設共同大規模コホート研究の結果を発表した.対象患者1,589人のうち15%が間欠性,85%が持続性にデルタ波を認めていた.ベースラインの,APERP,ペーシング時のSPERRI,心房細動誘発時のSPERRIを2群間で比較したところ,APERPとペーシング時のSPERRIは間欠性群の方が持続性群より長かったが(344±76 ms vs 312±61 ms;p<0.001, 394±123 ms vs 317±682 ms;p<0.001),心房細動誘発時のSPERRIは差がなかった(331±71 ms vs 316±73 ms;p=5.15).APERP,ペーシング時のSPERRI,心房細動誘発時のSPERRIのいずれかが250 ms以下となるものをハイリスクAVAPと定義すると,間欠性群は持続性群に比べ,ハイリスクAVAPの頻度が少なかった(13% vs 23%; p=.001).しかしながら,心停止または臨床的に心房細動時の速い心室応答の既往がある61人の患者のうち,6人(10%)は間欠性群に含まれていた.間欠性にデルタ波を認める患者はハイリスクAVAPの頻度は少ないが,致死性不整脈のリスクは排除できないことが明らかとなった25)

AVAPそのものによる心室非同期を伴った可逆性の左室拡大と心機能不全はまれである.薬理的またはアブレーションによるAVAPの伝導遮断によってこれらは改善する.発症のリスク因子については,右側自由壁や中隔の順伝導を伴うAVAPがあげられるが,同じ部位でも発症するものとしないものがいる一方,他部位のAVAPでも発症がみられるため,病態については未解明な部分も残る26, 27)

房室副伝導路に対するカテーテルアブレーション治療の効果とリスク

小児の高周波カテーテルアブレーション治療の多施設レジストリーは北米を中心に1991年から開始され,2000年からは前向き登録が始まり,0~16歳の患者を対象とした高周波カテーテルアブレーション治療の短期長期効果や合併症発生率について,2004年にProspective Assessment after Pediatric Cardiac Ablation(PAPCA)studyとして報告された.41施設からAVAP患者374名が前向き登録され,治療標的となった394AVAPに対する急性効果は部位ごとに,左側自由壁98%,左側中隔96%,右側自由壁91%,右側中隔91%に得られていた.すべての合併症は4.0%で死亡例はなかった.房室ブロックは3/393(0.8%)で後中隔AVAPに限定されていた(なお,この領域に使用される冷凍凝固アブレーションカテーテルは,研究期間の後に上市されているため,本レジストリーには含まれていない)28).1年後再発率は副伝導路部位に関連しており,右側AVAPが左側AVAPよりも高かった(右側中隔25%,右側自由壁16%,左側自由壁9.3%,左側中隔4.8%)29)

当科では2006~2018年の期間に,小児を中心として412のAVAPに対して高周波・冷凍凝固カテーテルアブレーションを行った.急性効果は全体で98%,左側(n=217)99%,右側(n=127)98%,中隔(n=85)95%に得られた.再発率は全体で11.9%,左側7.5%,右側16%,中隔17%だった.最近の3年では,全体で急性効果は99%,再発率6.9%と改善がみられており,経験の蓄積と治療機器の進歩によるものと考えられる.死亡はなく,重大な合併症として冠動脈狭窄が1例みられた(体重13 kg,左側AVAP)18)

小児AVAPアブレーション治療の死亡や重大な合併症は稀である.リスク因子は,基礎心疾患の存在,小さい患者,通電回数が多いこと,左心系の手技を伴う場合と報告されている.その他マイナーな合併症(大腿動静脈瘻,偽性動脈瘤,出血など)は小児では1~3%程度と考えられている27, 30)

無症状でWPW型心電図を示す小児患者の診療の実際

2016年に発表されたPACES/HRS expert consensus statement on the use of catheter ablation in children and patients with congenital heart diseaseにおける,WPW型心電図を示す患者のアブレーション治療適応を下記に示す27)

  • Class 1
    1. 心停止の蘇生後
    2. 心停止のハイリスク因子があり,失神を認める場合
    3. Ebstein病に代表される先天性心疾患に合併したハイリスク因子を有する大きな患者
  • Class 2a
    1. 心室非同期による心機能低下がある大きな患者,または薬物治療が無効か副作用で継続困難な小さな患者
    2. 無症状だが,心停止のハイリスク因子がある大きな患者
    3. 失神があるが,心停止のハイリスク因子がない大きな患者
    4. 無症状だが,個人的またはプロフェッショナルなスポーツへの参加のため心電図正常化が求められている大きな患者
  • Class 2b
    1. 無症状で心停止のハイリスク因子がないが,患者や家族の希望がある大きな患者
  • Class 3
    1. 束枝心室副伝導路
    2. 無症状の小さな患者

大きな患者とは概ね体重15 kg以上,小さな患者とは15 kg未満を指す.心停止のハイリスク因子は心房細動時または心房ペーシング時のSPERRI≦250 msまたは,複数伝導路存在と定義されているが,本邦では致死性不整脈のリスク評価のみを目的とした侵襲的電気生理学的検査を行うことは一般的ではない.

小児アブレーション治療施設である当科での診療方針をフローチャートに示す (Fig. 5).初診患者には心エコーを行い器質的心疾患や心室非同期の有無を確認する.心電図所見がV1誘導でrSかQSパターンで,かつデルタ波高が小さい場合は,ATP負荷試験またはホルター心電図検査によりFVPを除外する.

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Fig. 5 Flowchart for management of patients with WPW pattern ECG

AVAP, atrioventricular accessory pathway; FVP, fasciculoventricular pathway.

AVAPと確定した大きな患者の場合は,自然予後として心室細動や突然死のリスクは極めてまれであるが,発作性上室頻拍を発症するリスクは高くこれはQOLに影響すると,患者家族に説明する.治療法の選択肢を提示する際,体表心電図から推定されるAVAPの局在部位ごとのアブレーション治療の成功率・再発率・リスクも加味して説明する.そのうえで希望があれば,侵襲的電気生理学的検査と同時に高周波カテーテルアブレーション(房室結節近傍のAVAPであれば冷凍凝固カテーテルアブレーション:適応外使用)を行う.初回治療後にデルタ波が再発し,依然無症状である場合は,電気生理学的検査の結果も加味して再治療の要否を判断している.

謝辞Acknowledgments

執筆の機会をいただいた小児心電学会代表幹事堀米仁志先生,日本小児循環器学会雑誌編集長須田憲治先生,そしてこれまでご指導いただいた,大阪大学小児科,国立循環器病研究センター,田附興風会北野病院,日本赤十字社和歌山医療センター,大阪市立総合医療センターの先輩・同輩・後輩の先生方,チーム診療を支えるコメディカルの皆様に心から感謝いたします.

利益相反

本稿について,開示すべき利益相反はない.

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