日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36(1): 81-83 (2020)
doi:10.9794/jspccs.36.81

Editorial CommentEditorial Comment

全冠動脈孔閉鎖を合併した純型肺動脈閉鎖に対する新たな治療戦略A Novel Surgical Approach for Aortocoronary Atresia Associated with Pulmonary Atresia with Intact Ventricular Septum

静岡県立こども病院循環器科Department of Cardiology, Shizuoka Children’s Hospital ◇ Shizuoka, Japan

発行日:2020年3月1日Published: March 1, 2020
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純型肺動脈閉鎖の約30~70%に先天性冠動脈異常である右室冠動脈類洞交通(以下:類洞交通)が合併することはよく知られている1).心室筋はその発生初期においては,心内膜側の類洞の血液から心筋細胞への酸素供給が行われるが,心室壁の肥厚と緻密化の進行に伴って心筋壁内に冠動脈の原基が形成され,最終的には心外膜側の冠動脈から伸展する血管網が酸素供給の主体となる.純型肺動脈閉鎖においては,右室が高圧となるために,類洞が消退せずに冠動脈と交通した状態で残存すると考えられており,これらを類洞交通と呼ぶ.Freedmanらは高圧右室の血液の出口として類洞交通が形成されると推察しており,右室低形成の程度が強い重症例ほど類洞交通を合併するリスクも高くなる2).著明な類洞交通が存在する純型肺動脈閉鎖では,冠動脈の形態異常も合併しやすく,冠動脈の狭窄,低形成,または離断などを合併しうる.これは高圧の右室から加速した血液が類洞交通を介して冠動脈内に吹き込むことで,冠動脈血管の拡張や蛇行,または血管内膜の肥厚による狭窄,更には閉塞が起こることなどが機序として考えられている.類洞交通と冠動脈の交通部よりも中枢側に著明な狭窄や離断を合併した冠動脈は,その末梢側の心筋への血液供給は類洞交通に依存することになり,このような状態は右室依存型冠灌流(right ventricle dependent coronary circulation: RVDCC)と呼ばれ,純型肺動脈閉鎖の3~34%に合併する1, 3).RVDCCが存在する場合には,右室の減圧は心筋虚血を引き起こすことから,単心室の治療方針がとられることになる.しかし,単心室の治療方針へ進んだとしても重度のRVDCCはBlalock–Taussig(BT)シャントなどの周術期に血圧の変動に伴って心筋虚血や梗塞などを容易に惹起し,心機能障害や僧帽弁閉鎖不全などの合併症を招くことがあり,最悪の場合には死亡に至るケースもある.RVDCC合併例の死亡率は高いものでは18.8%と報告されており,そのイベントのほとんどはBTシャントの周術期,もしくは術後1か月以内で起こっている1).また,Fontan手術に到達した症例においても類洞交通を伴う冠動脈は,経時的に拡大や狭窄の進行が起こりうることから,生涯にわたり注意深い経過観察が必要となる.吉井論文で示された全冠動脈孔閉鎖(aortocoronary atresia: ACA)はRVDCCの最重症型であり,冠動脈と大動脈の交通が形成されておらず,すべての冠循環が右室からの類洞交通に依存する4).純型肺動脈閉鎖に合併したACAは1972年にLenoxらが世界で最初に報告しており,本邦からはUedaらが1983年に報告している5, 6).Boston小児病院からの報告では,RVDCCを合併した純型肺動脈閉鎖32名のなかでACAの合併は3例であり,この3例はいずれも乳児期に死亡している.また,これまでにACAを合併した純型肺動脈閉鎖のまとまった報告はないが,いずれの症例報告においても乳児期早期に死亡している5–7).これらのことから,純型肺動脈閉鎖に重症のRVDCCを合併した症例,特にACAを合併した症例は手術介入を行っても救命困難であり,プライマリー心移植の適応であると考えられてきた8, 9)

吉井らはACAを合併した純型肺動脈閉鎖に対して,BTシャント術の際に上行大動脈-右心室短絡術(ascending aorta-to-right ventricle shunt; Ao-RV shunt)を追加する新たな治療戦略を報告した4).純型肺動脈閉鎖に対するAo-RV シャントは1993年にFreemanらが最初の報告を行っており,次いでLaksらが5例の報告を行っている10, 11).しかし,FreemanやLaksの報告はいずれも両方向性Glenn手術時かFontan手術の際にAo-RV シャントが施行されており,ACAの合併例に対して初回手術であるBTシャント手術の際に計画的にAo-RV シャントを同時に行ったのは吉井らの報告が初めてである4).RVDCCを合併した純型肺動脈閉鎖においては,BTシャントの周術期が最も虚血のイベントが起こりやすいのは前述した通りであるが,BT-シャントとAo-RV シャントを同時に施行することで,術後早期から酸素飽和度の高い大動脈の血液を右室経由で冠循環に送り込むことができ,また,supersystemicとなっている高圧右室を体血圧のレベルまで下げることができる.また,大動脈の拡張期圧の力でコンプライアンスの低い右室へ血液が流れ込むことで,右室が高い拡張期圧を維持し,拡張期にも右室から冠動脈へ血液を送ることができる.正常冠循環のように心筋が弛緩している拡張期に効率的に心筋へ酸素を届けることができるメリットは非常に大きい.本法を施行することで右室の酸素需要を減じると同時に,心筋への酸素供給を改善できることは,BTシャント術後に左室への容量負荷が増える血行動態の変化を乗りきるだけの余裕を心臓に与えることが期待される.ただ,本法の問題点は,重度の三尖弁閉鎖不全がある症例や大きな冠動静脈瘻がある症例ではサーキュラーシャントの血行動態となり,Ao-RV シャントの短絡量が増加するが,その割に冠循環へ血液を効率よく流すことができないという状態が生じうる.また,右室のサイズやコンプライアンスの程度でAo-RV シャントの短絡量が変化しうることから,どのサイズのシャントをつけることが適切かを見極めるのが困難であると考えられる.また,シャント内の血流はBTシャントのような連続性短絡血流ではなく,比較的低流速のto-and-froの血流であることから,本症例のように血栓形成による閉塞を来しやすい可能性もある.さらには,この治療方針をとった場合の長期的な予後が不明である.しかし,これまで心移植でしか救命できないとされていたACAを合併した純型肺動脈閉鎖に対して,新たな治療戦略を示すことができたという点でこの論文は大きな意味を持つ.また,Ao-RV シャント術における心エコーでの評価ポイントを示した点でもこの論文の功績は大きい.論文中のFig. 7に示されるように,Ao-RV シャントの開存が良好な場合は拡張期早期にシャントから右室へ急速に血液が流入することから,右室の拡張期圧が急速に上昇し,シャント血流は拡張末期にかけて急速に減速する鋸歯状パターンを呈する.そして,上昇した右室の拡張期圧を反映して拡張期にも右室から類洞内へ血流が流れるようになる.一方,Ao-RV シャントが狭窄してくると右室拡張期圧の急速な上昇が消失し,シャント血流の拡張末期鋸歯状減衰が認められなくなるとともに,拡張期の右室から類洞への血流も消失する.シャント血管の血流をカラードプラで観察するだけでは流量を正確に評価することは困難なことが多くあり,このようなパスルドプラでの観察ポイントを示した点もこの論文の功績が大なるところと考えられる.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.吉井公浩,ほか:全冠動脈孔閉鎖を伴う純型肺動脈閉鎖症に対するAo-RVシャントの新たな治療戦略—Ao-RVシャントの有用性を類洞交通血流の変化で評価—.日小児循環器会誌2020; 36: 72–78

引用文献References

1) Guleserian KJ, Armsby LB, Thiagarajan RR, et al: Natural history of pulmonary atresia with intact ventricular septum and right-ventricle-dependent coronary circulation managed by the single-ventricle approach. Ann Thorac Surg 2006; 81: 2250–2257, discussion, 2258

2) Freedom RM, Harrington DP: Contributions of intramyocardial sinusoids in pulmonary atresia and intact ventricular septum to a right-side circular shunt. Br Heart J 1974; 36: 591–602

3) Giglia TM, Mandell VS, Connor AR, et al: Diagnosis and management of right ventricle dependent coronary circulation in pulmonary atresia with intact ventricular septum. Circulation 1992; 86: 1516–1528

4) 吉井公浩,佐藤 純,加藤温子,ほか:全冠動脈孔閉鎖を伴う純型肺動脈閉鎖症に対するAo-RV シャントの新たな治療戦略—Ao-RV シャントの有用性を類洞交通血流の変化で評価—.日小児循環器会誌2020; 36: 72-78

5) Lenox CC, Briner J: Absent proximal coronary arteries associated with pulmonic atresia. Am J Cardiol 1972; 30: 666–669

6) Ueda K, Saitoh A, Nakano H: Absence of proximal coronary arteries associated with pulmonary artresia. Am Heart J 1983; 106: 596–598

7) Lajos P, Love J, Salim MA, et al: Total right ventricular dependent coronary circulation in pulmonary atresia with intact ventricular septum. Ann Thorac Surg 2004; 77: 1087–1088

8) Canter CE, Shaddy RE, Bernstein D, et al: American Heart Association Council on Cardiovascular Disease in the Young; American Heart Association Council on Clinical Cardiology; American Heart Association Council on Cardiovascular Nursing; American Heart Association Council on Cardiovascular Surgery and Anesthesia; Quality of Care and Outcomes Research Interdisciplinary Working Group: Indications for heart transplantation in pediatric heart disease: a scientific statement from the American Heart Association Council on Cardiovascular Disease in the Young; the Councils on Clinical Cardiology, Cardiovascular Nursing, and Cardiovascular Surgery and Anesthesia; and the Quality of Care and Outcomes Research Interdisciplinary Working Group. Circulation 2007; 115: 658–676

9) Rychik J, Levy H, Gaynor JW, et al: Outcome after operations for pulmonary atresia with intact ventricular septum. J Thorac Cardiovasc Surg 1998; 116: 923–931

10) Freeman JE, DeLeon SY, Lai S, et al: Right ventricle-toaortal contuid in pulmonary atresia with intace ventricular septum and coronary sinusoids. Ann Thorac Surg 1993; 56: 1393–1395

11) Laks H, Gates RN, Grant PW, et al: Aortic to right ventricular shunt for poulmonary atresia and intact ventricular septum. Ann Thorac Surg 1995; 59: 342–347

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