日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36(1): 55-56 (2020)
doi:10.9794/jspccs.36.55

Editorial CommentEditorial Comment

小野論文に対するEditorial CommentEditorial Comment on Paper by Ono et al

東邦大学医療センター大森病院心臓血管外科Department of Cardiovascular Surgery, Toho University Omori Medical Center ◇ Tokyo, Japan

発行日:2020年3月1日Published: March 1, 2020
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大動脈弁閉鎖不全症に対する外科治療の適応については,成人を対象としたガイドラインが日本循環器学会・ACC/AHA・ESC/EACTS各々により作成され,その確立されたアルゴリズムに従い,決定される.近年は,症候性のみならず無症候性症例に対しても,積極的な外科治療介入が行われる傾向にあるが,そもそも,この疾患に対する長期間の有効性が証明された薬物療法は存在しない.2005年に行われた無作為試験では,CaブロッカーやACE阻害薬も手術時期を遅らせる可能性はないこと,心機能や左室重量にもプラセボと有意差を持たないことが明らかにされた1).そのため診療に求められているのは,適切な経過観察と手術時期の決定であり,薬物治療ではない.

小児期における大動脈弁閉鎖不全症も血行動態は同様であるが,症候化しにくいことや成長・発達に対する考慮が必要なことから,手術時期の判断を躊躇する傾向がある.その一方,左室機能回復の観点から,成人同様に適切なタイミングを支持する報告も散見される2, 3).このギャップを解消するため,小野らは,左室予備能の観点から至的な手術時期について検討している4).しかしこの問題の解釈には,現行の手術に対する正確な理解が前提となる.

小児期大動脈弁閉鎖不全症に対する手術の選択肢として,①弁形成術,②Ross手術,③弁置換術,が挙げられる.弁形成術は,様々な手技(commissurotomy, leaflet shaving/plication, leaflet augmentation, etc)を用いて自己組織で修復するため,第1選択となることが多いが,脆弱な弁尖組織や複雑な病変に対しては議論の余地がある.Ponceletらは,対象の大半が1歳以上であるものの,長期生存率・弁関連再手術回避率の観点から,良好な成績を報告している5).Ross手術は,適応判断や右心系合併症の懸念はあるものの,弁尖への直接介入を回避するため,弁形成術に不向きな症例にも対応し得る.高橋らは,新生児期および乳児期に発症する大動脈弁疾患(狭窄病変も含む)に対するRoss手術13例の経験を報告し,良好な生命予後・新大動脈弁機能の観点から,治療戦略のオプションとなりうるとしている6).弁置換術は,手術の再現性に関して利点があるものの,サイズによる適応制限があり,術後も成長に伴うPPM(Prosthesis-Patient Mismatch),抗凝固療法に関する問題も懸念される.近年,グルタールアルテハイド固定された自己心膜を用いた大動脈弁再建術(Aortic Valve Neo-Cuspidization)の成人領域における良好な成績から7),小児を対象とした報告も散見され8),今後の治療選択のオプションになりうることが期待されている.

小野らの論文は,小児期の無症候性大動脈弁閉鎖不全に対する至的な外科治療のタイミングについて左室予備能の観点から検討した貴重な論文である.術前心臓超音波検査において,左室収縮末期径係数(End-Systolic Dimension Index: ESDI)31 mm/m2以上,左室拡張末期径係数(End-Diastolic Dimension Index: EDDI)51 mm/m2以上が,左室機能回復の点から有用な指標になりうると述べている.既存の報告の多くは,欧米のデータを基準としているのに対し,これらは本邦での診療に適した指標であると考えられる.このような有用かつ共有可能な指標を用いて,適切な時期に治療介入を計画し,年齢や弁形態に応じた適切な手技で,患児のQOL向上につとめることが望まれる.

診療体制を取り巻く環境は急激に変化し,医療の標準化・働き方改革・若手育成への対応を求められ,情報の共有化がその鍵になると言われる.正確な理解・評価が大前提ではあるが,このような共有可能な指標は,経験の有無・内科と外科・専門施設と地域施設,といった垣根をなくすツールとしても有用である.本報告はそういった視点からも非常に有益であると考えられる.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.小野頼母,ほか:小児期大動脈弁閉鎖不全症に対する至的介入時期の検討—左室サイズから評価した左室予備能—.日小児循環器会誌2020; 36: 46–54

引用文献References

1) Evangelista A, Tornos P, Sambola A, et al: Log-term vasodilator therapy in patients with severe aortic regurgitation. N Engl J Med 2005; 353: 1342–1249

2) Cox DA, Walton K, Bartz PJ, et al: Predicting left ventricular recovery after replacement of a regurgitant aortic valve in pediatric and young adult patients: Is it ever too late? Pediatr Cardiol 2013; 34: 684–699

3) Buddhe S, Du W, Walters HL 3rd, et al: Predictors of left ventricular remodeling after aortic valve replacement in pediatric patients with isolated aortic regurgitation. Congenit Heart Dis 2013; 3: 167–173

4) 小野頼母,新居正基,田邊雄大,ほか:小児期大動脈弁閉鎖不全症に対する至的介入時期の検討—左室サイズから評価した左室予備能—.日小児循環器会誌2020; 36: 46–54

5) Poncelet AJ, El Khoury G, De Kerchove L, et al: Aortic valve repair in the paediatric population: Insights from a 38-year single-centre experience. Eur J Cardiothorac Surg 2016; 51: 43–49

6) 高橋幸宏,和田直樹,加部東直弘,ほか:新生児および乳児期のRoss手術—手術成績とAutograft機能—.日心外会誌2019; 48: 305–312

7) Ozaki S, Kawase I, Yamashita H, et al: A total of 404 cases of aortic valve reconstruction with glutaraldehyde-treated autologous pericardium. J Thorac Cardiovasc Surg 2014; 147: 301–306

8) Hosseinpour AR, Gonzalez-Calle A, Adsuar-Gomez A, et al: A simple method of aortic valve reconstruction with fixed pericardium in children. Interact Cardiovasc Thorac Surg 2013; 16: 695–697

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