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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36(3): 249-251 (2020)
doi:10.9794/jspccs.36.249

Editorial CommentEditorial Comment

重度体心室右室機能不全を認める修正大血管転位に対する治療戦略Treatment Strategy for Severe Systemic Right Ventricular Failure in Patients with Congenitally Corrected Transposition of the Great Arteries

大阪市立総合医療センター小児医療センター,小児心臓血管外科Departments of Pediatric Cardiovascular Surgery, Osaka City General Hospital ◇ Osaka, Japan

発行日:2020年10月1日Published: October 1, 2020
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修正大血管転位に対する機能的修復後の三尖弁閉鎖不全を伴う重度体心室右室機能不全の予後は極めて悪い.心臓移植のみが根本的な治療法となるが,心臓移植は適応あるいは機会を得ることが難しいことが多く,また移植適応となった場合においても待機期間中の治療が非常に重要である(bridge to transplantation)1)

修正大血管転位における体心室右室の機能不全の原因として,

  1. 解剖学的右室が体心室として機能することによる右室の高い収縮期圧が,右室自由壁の肥厚,心室中隔の左室側への凸,右室の拡大に伴う心室内の壁応力の増加,trabecular領域,乳頭筋,三尖弁および大動脈弁の機能障害をもたらすことによるもの.
  2. 三尖弁閉鎖不全の増悪によるもの.右室肥大およびその後の拡大により右室の形態をより球形に近づけ,三尖弁輪は拡大し,乳頭筋の位置のずれを生じ三尖弁閉鎖不全が増悪する.症例においてはEbstein奇形様に三尖弁の弁尖の肥厚や,短縮した腱索を認め,中隔尖の心尖部への偏位を認めるものもある.また,西島ら2)も引用しているように,ある程度の解剖学的左室圧が右室の形態を保つために必要であることから3),左室肺動脈–肺動脈心外導管の入れ替えによる左室圧の低下は体心室右室の形態に影響を及ぼし,三尖弁閉鎖不全の増悪の因子となり得る.
  3. 肺心室左室ペーシングによるもの.修正大血管転位において,完全房室ブロックは出生時10–15%で認め,成人期には30%に達すると報告されている.房室結節の前方偏位,刺激伝導系が通常よりも長い経路を通り心室へつながることなどが年齢を重ねるに従い不整脈や房室ブロックの頻度が増加することにつながるとされる.また心内病変に対する治療は房室ブロックの原因となりやすいと報告されている.完全房室ブロックに対してはペースメーカーの植え込みが行われる.しかしながら,肺心室左室ペーシングの確率の高い合併症として,体心室右室の同期不全はよく知られており,体心室右室の機能障害を来すことが報告されている4, 5)

以上のように,様々な複合的な原因により体心室右室の機能障害を来すことが考えられている.それぞれに対応する治療法としては,①に関しては,解剖学的修復が考慮され,肺動脈絞扼術による解剖学的左室の鍛錬が考えられるが,幼少期に肺動脈絞扼術が行われた症例では,体心室右室の機能も改善し,解剖学的修復が可能となることが報告されているが,幼少期以降の肺動脈絞扼術の効果は満足できるものではない6).②に関しては,三尖弁形成は三尖弁閉鎖不全が増悪しているものの体心室右心室機能が維持されている患者においては良い適応となるが,体心室右室に対する三尖弁修復は,再発率が高い.また,内臓逆位の症例では技術的にも非常に難しい手技である.一方で,三尖弁置換術は三尖弁機能という意味においては良い治療法と考えられるが,三尖弁置換のみの治療では術後の体心室右室の機能不全の増悪を認めることが多く予後は悪いとされている.特に体心室右室の駆出率が40%以下の症例は術後遠隔期の体心室右室機能不全,死亡率,心臓移植を要する因子であると報告されている.③に関しては,初回介入時から両心室ペーシングが行われている患者においては,体心室右室の機能障害を認めないことが報告されており,また,肺心室左室ペーシングから両心室ペーシングにアップグレードすると,体心室右室機能の改善を認めることが報告されている.両心室ペーシングは体心室右室の患者の体心室機能障害において有用な治療法であり,方法としては,経静脈アプローチによる方法,心外膜リードによる方法,あるいは両者を組み合わせて行う方法などが報告されている.一方,修正大血管転位の20%程度の患者において冠静脈洞の位置異常を含む冠静脈の還流異常を認め,従来の心室同期療法が困難なことがあるとされているが,HIS束ペーシングの有用性の報告がされており7),今後の展開が期待される.

Asagaiら8)は,体心室右室機能不全,異形成を伴う三尖弁の重度機能障害,完全房室ブロックを認める修正大血管転位に対して,緊急的に肺心室左室ペーシングにて徐脈の改善を行い,心室間非同期を認めたために,すぐに経静脈アプローチにて両心室ペーシングを導入.スペックルトラッキング法を用いて右室のストレインを解析することで体心室右室の同期不全を評価し両心室ペーシング後に同期不全の改善を確認し,全身状態の改善をまって三尖弁置換術を施行した症例を報告している.このように種々の治療を組み合わせることが,体心室右室機能不全に対する治療法であるが,いずれにせよ,より早い時期での治療介入を行うことが肝要である.

西島ら2)の報告は,修正大血管転位(S,L,L),肺動脈閉鎖,心室中隔欠損術後,完全房室ブロックに対する肺心室左室ペーシングを用いたDDDペーシング後の三尖弁閉鎖不全,大動脈弁閉鎖不全を伴う重度体心室右室機能不全の症例に対し,三尖弁置換術,大動脈弁置換術と同時にDDDペーシングをアップグレードし両心室ペーシングを行うことで,心機能の改善を認めたものである.

術前の体心室右室の駆出率は31.8%と重度の機能不全を認めており,弁置換術のみでの耐術は困難であったとも考えられ,両心室ペーシングが体心室右室機能不全に対して有用であることを示した貴重な報告である.術後一年におけるNYHAおよびBNPの値からも術後の経過は非常に良いと考えられるが,両心室ペーシングの長期予後は未だ不明であり,注意深い経過観察が必要である.

一方,大動脈弁置換に際して機械弁と生体弁のどちらを選択するのかに関しては議論の余地があると考える.西島ら2)は手術の回数を減らす目的として機械弁を選択したと説明している.しかし肺心室左室–肺動脈心外導管は将来必ず再手術が必要となること,またbridge to transplantationとしての治療戦略を考える場合,補助人工心臓装着の際は大動脈弁位には生体弁が選択され,その後の人工弁機能不全に対してはカテーテルによるvalve-in valveも考えられることから,今回の治療において生体弁を選択することも考慮するべきであると考える9, 10)

まとめ

修正大血管転位に対する機能的修復術後の重度体心室機能不全において,特に完全房室ブロックに対して肺心室左室ペーシング後の体心室右室の同期不全を認める場合は両心室ペーシングへのアップグレードを常に考慮すべきであり,完全房室ブロックなどにより心室ペーシングが必要な場合は最初の導入時より両心室ペーシングを考慮するべきであると考える.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.西島卓矢,ほか:修正大血管転位症術後遠隔期に二弁置換術と同時に心室再同期療法を導入し有効であった一例.日小児循環器会誌2020; 36: 241–246

引用文献References

1) Filippov AA, Del Nido PJ, Vasilyev NV: Management of systemic right ventricular failure in patients with congenitally corrected transposition of the great arteries. Circulation 2016; 134: 1293–1302

2) 西島卓矢,帯刀英樹,坂本一郎,ほか:修正大血管転位症術後遠隔期に二弁置換術と同時に心室再同期療法を導入し有効であった一例.日小児循環器会誌2020; 36: 241–246

3) Koh M, Yagihara T, Uemura H, et al: Functional biventricular repair using left ventricle-pulmonary artery conduit in patients with discordant atrioventricular connections and pulmonary outflow tract obstruction-does conduit obstruction maintain tricuspid valve function? Eur J Cardiothorac Surg 2004; 26: 767–772

4) Yeo WT, Jarman JW, Li W, et al: Adverse impact of chronic subpulmonary left ventricular pacing on systemic right ventricular function in patients with congenitally corrected transposition of the great arteries. Int J Cardiol 2014; 171: 184–191

5) Kasar T, Ayyildiz P, Tunca Sahin G, et al: Rhythm disturbances and treatment strategies in children with congenitally corrected transposition of the great arteries. Congenit Heart Dis 2018; 13: 450–457

6) Winlaw DS, McGuirk SP, Balmer C, et al: Intention-to-treat analysis of pulmonary artery banding in conditions with a morphological right ventricle in the systemic circulation with a view to anatomic biventricular repair. Circulation 2005; 111: 405–411

7) Moore JP, Gallotti R, Shannon KM, et al: Permanent conduction system pacing for congenitally corrected transposition of the great arteries. Heart Rhythm 2020; 17: 991–997

8) Asagai S, Takeuchi D, Sugiyama H, et al: Successful staged tricuspid valve replacement following cardiac resynchronization therapy in a congenitally corrected transposition of the great arteries. Clin Case Rep 2019; 7: 1484–1488

9) Feldman CM, Silver MA, Sobieski MA, et al: Management of aortic insufficiency with continuous flow left ventricular assist devices: bioprosthetic valve replacement. J Heart Lung Transplant 2006; 25: 1410–1412

10) Ozturk P, Engin C, Ayik F, et al: Valvular procedures during ventricular assist device implantation. Transplant Proc 2012; 44: 1732–1734

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