Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36(2): 150-151 (2020)
doi:10.9794/jspccs.36.150

Editorial CommentEditorial Comment

適応外使用の効果とリスクRisk and Benefit Associated with Off-Label Device Use

国立循環器病研究センター小児循環器内科Department of Pediatric Cardiology, National Cerebral and Cardiovascular Center ◇ Osaka, Japan

発行日:2020年6月1日Published: June 1, 2020
HTMLPDFEPUB3

血管内ステント留置術はカテーテルインターベンショナリストにとって非常に魅力的な治療である.バルーンカテーテルを用いた血管拡張術に比べて,効率よく高い開存性を実現できる一方で1),有害事象はバルーン拡張術と比べて頻度が高く,重篤となりうる.先天性心疾患においてステント留置術の対象は多岐に渡るが,本邦においてはすべてが保険適用外であり,一般的な治療ではない.そのようななかで手技を習熟し,技術を維持するだけの症例がある施設はほとんどない(はずである).したがって,いわゆる“不慣れな”ステント留置術に臨む際は適応を慎重に考え,準備を十分に整え,そして患者や家族に丁寧な説明をすることが望まれる.今回の報告2)から一インターベンショナリストとして次の症例に生かせる点について考えてみた.

まず適応について,単心室に合併した総肺静脈還流異常症,還流静脈狭窄(DVO)における新生児早期の開心術は人工心肺により条件の悪い肺をさらに障害し,患者の予後を悪化させうる3, 4).この狭窄を経皮的にステントによって拡張し,肺うっ血を改善させる戦略は低侵襲的に酸素化の改善が得られるため,臨床的に有効と考えられる5).しかしこのような症例は生後チアノーゼが強く,直ちに治療が必要になることが多い.新生児かつ緊急のカテーテルは有害事象のリスクが高いため6),是非胎児心エコーによる診断から治療を具体的に計画して臨みたい.

次に手技について,ステント留置は①血管形態の把握と正確な計測,適切なデバイスの選択,②ステントデリバリー,③バルーン拡張とステント留置,④バルーン抜去の4つの段階に分けられる7).バルーンエントラップメントは④で起きる合併症で,ステントにバルーンの一部がひっかかり抜けなくなる現象のことを指し,無理に引っ張ることによりステントがずれたり,血管損傷を生じて緊急手術を要したりと重篤になりうる.原因は病変が硬くウェストが残りやすいこと,セミオープンセルであったことと著者らは推察しているが2),当院の経験を踏まえて何か改善策はないか検討してみた.当院ではDVO症例に対し全例6 mmのクローズドステントが使われていたが,上心臓型において軽度の抜去困難は6例中1例のみで起こっており,2例で拡張中にバルーンが破裂していた.自験例ではreference径<+1 mmでセミオープンセルステント4~5 mmを使用し,有害事象は認めていない.今回の原因としてステント留置時のバルーンがダンベル状に丸いことや最初から最大圧をかけていることから,高度な狭窄病変に対してステントバルーンがオーバーサイズであった可能性がある.また造影剤が濃いとバルーンがきれいに折り畳まれないこともあるため,少し希釈するのもいいかもしれない.最後にワイヤ,シース,バルーンを全て引き抜くのではなく,後のトラブルに対応するためにもワイヤはできる限り血管内に残し,アクセスを再確立するのがよいと考えられる.

冒頭にも述べたが先天性心疾患におけるステント留置は全て適応外使用であり,合併症が起きた場合,医師,患者ともに保障がないことを忘れてはいけない.つまり患者は医薬品副作用被害救済制度が適応されず,医者は添付文書に従っていないとして医療訴訟で責任を問われかねない.にもかかわらず,小児循環器におけるステント留置に伴う有害事象は14.4%と他の手技に比べて高い6).したがってステント留置術に際しては,きちんと病院の倫理委員会を通し,術者となる医師は賠償保険に加入し,リスクについて患者や家族に十分な説明を行った上で同意を得るべきである.

近年,日本先天性心疾患インターベンションレジストリを用いた小児用医療機器の開発推進に向けた研究や日米共同治験を目標とした活動(HBD for children)が始まっており,様々なステント留置術の適応取得に向けた手続きが今後加速することが期待される.そのためにも各々がきちんと適応を考え,周到な準備をした上で,可能な限り安全にこの治療を行い,治験に準じた形でデータを積み重ねていく必要がある.ステント留置術を一般的な治療として患者に安全に提供できるようにするために,今回のような症例から多くを学びレベルアップできればと思う.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.杉谷雄一郎,ほか:総肺静脈還流異常を合併した垂直静脈狭窄に対するステント留置中のバルーンエントラップメント.日小児循環器会誌 2020 ; 36: 143–149

引用文献References

1) Mullins CE: Cardiac Catheterization in Congenital Heart Disease: Pediatric and Adult. Wiley-Blackwell, 2006

2) 杉谷雄一郎,宗内 淳,岩屋悠生,ほか:総肺静脈還流異常を合併した垂直静脈狭窄に対するステント留置中のバルーンエントラップメント.日小児循環器会誌2020; 36: 143–149

3) Hoashi T, Kagisaki K, Oda T, et al: Long-term results of treatments for functional single ventricle associated with extracardiac type total anomalous pulmonary venous connection. Eur J Cardiothorac Surg 2013; 43: 965–970

4) Khan MS, Bryant R 3rd, Kim SH, et al: Contemporary outcomes of surgical repair of total anomalous pulmonary venous connection in patients with heterotaxy syndrome. Ann Thorac Surg 2015; 99: 2134–2140

5) Kitano M, Yazaki S, Kagisaki K, et al: Primary palliative stenting against obstructive mixed-type total anomalous pulmonary venous connection associated with right atrial isomerism. J Interv Cardiol 2009; 22: 404–409

6) 金 成海,松井彦郎,犬塚 亮,ほか:2018年における先天性心疾患,川崎病および頻拍性不整脈に対するカテーテルインターベンション・アブレーション全国集計—日本先天性心疾患インターベンション学会レジストリー (JCIC-Registry)(旧日本Pediatric Interventional Cardiology学会データベース(JPIC-DB))からの年次報告—.J JCIC 2020, in press

7) Hijazi ZM, Feldman T, Cheatham J, et al: Complications During Percutaneous Interventions for Congenital and Structural Heart Disease. 1st ed, CRC Press, 2013, p 376

This page was created on 2020-05-19T15:08:26.167+09:00
This page was last modified on 2020-06-18T16:00:18.000+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。