日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
〒162-0801東京都新宿区山吹町358-5アカデミーセンター Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 35(S2): S2.1-S2.7 (2019)
doi:10.9794/jspccs.35.S2_1

ガイドラインGuideline

先天性心疾患児におけるパリビズマブの使用に関するコンセンサスガイドライン(2019年改訂版)Consensus Guidelines for the Use of Palivizumab in Infants and Young Children with Congenital Heart Disease (JSPCCS 2019)

1慶應義塾大学

2岩手医科大学

3東京都立小児総合医療センター

4国立成育医療研究センター

5東京医科大学

6杏林大学

7北海道済生会西小樽病院みどりの里

8国際医療福祉大学

9埼玉医科大学国際医療センター

発行日:2019年6月25日Published: June 25, 2019
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はじめに

RSウイルス(respiratory syncytial virus)は,乳幼児の気道感染症の主要原因ウイルスであり,重篤な下気道感染症は,この年齢層において入院治療を要する最も頻度の高い疾患の一つである1, 2).特に,早期産,慢性肺疾患3, 4),先天性心疾患等のリスクファクターを持つ乳幼児では重症化しやすい.なかでも先天性心疾患を有する乳幼児では,RSウイルスに感染すると重症化するだけでなく,外科的治療の適切な機会の延期や中止を余儀なくされることがある.また,術後に肺障害が残存し,長期の呼吸障害を来すことがある5–12).したがって,先天性心疾患を有する乳幼児では,RSウイルス感染を予防ないし軽減することが,管理上重要なポイントとなる.

本邦においては,早期産や慢性肺疾患を有する乳幼児に対しては,抗RSウイルスモノクローナル抗体であるパリビズマブの使用が2002年 4 月に正式に認可されており,その使用に関するガイドラインも作成された13).一方,先天性心疾患を有する乳幼児に対しては,欧米では2003年のRSウイルス感染の流行シーズンより「先天性心疾患児に対するRSウイルス感染による重症化の抑制」を目的として,パリビズマブ投与による感染重症化予防が承認され実施されていた14, 15).そこで,日本においても先天性心疾患児を対象とした臨床試験が実施され,海外と同様の成績が得られた.

このような状況を鑑み,欧米における成績16)と日本における調査結果17, 18)を考慮して,日本小児循環器学会は,先天性心疾患を有する乳幼児に対してRSウイルス感染による感染予防と重症化抑制の手段として,小児循環器の診療に関わる医師,新生児科医,小児科医がパリビズマブを適正に使用できることを目的に,先天性心疾患児に対するパリビズマブ使用のガイドラインを,2005年に作成した19)

本邦でも先天性心疾患児に対するパリビズマブの使用が,2005年10月に正式に認可され,以後,2005年に作成されたガイドラインによる先天性心疾患児のRSウイルス感染重症化予防が効率的に実践されてきた.ガイドライン作成後10年以上経過し,これまでの経験や調査結果をふまえて20),最近の動向に合致した内容に改訂する.本2019年改訂版ガイドライン作成の手順と使用上の留意点については,巻末の記載を参照されたい.

適応

先天性心疾患を有するRSウイルス感染ハイリスク児を以下に定義し,RSウイルス感染の重症化抑制を目的にパリビズマブの投与を推奨する.

1)投与対象患者

投与対象患者はFig. 1のとおりである.

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Fig. 1 投与対象患者

2)除外患者

RSウイルス感染流行初期において,生後24カ月齢以下の先天性心疾患を有する乳幼児であっても,以下の状態の場合は適応に含まれない(Fig. 2).軽症・低リスク患者への過剰な投与により,患者および家族に過度の負担を強いることは厳に避けるべきである.

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Fig. 2 除外患者

用量と投与計画

1)パリビズマブの初回投与月と投与期間

パリビズマブの有効性を高めるためには,RSウイルス流行開始時までに血清抗体価を予防に必要なレベルまで高めておく必要がある.RSウイルス感染症の流行は気象条件等により年度ごとに変動し,地域ごとに異なる24).投与計画を立てるために,各都道府県における直近数年間の感染症発生動向調査に基づくRSウイルス感染症の流行状況,定点あたりの患者報告数(注:RSウイルス感染症は 2003 年の感染症法改正により5類感染症として定点報告疾患とされている)などから,流行開始時期を推測する方法が報告されている25–27).これらを参考にして,都道府県ごとに各年度の投与開始月を統一することが望ましい.流行終了時期についても各都道府県および年ごとで流行が終息していくパターンが一定ではないので,その決定に明確な基準は設けにくい.流行開始時期同様,各都道府県における直近数年間の発生動向調査等を参考に流行が終焉する月を推定する.パリビズマブの反復投与により血清抗体価に十分な上昇がみられ,投与後1か月まで有効量を維持することを考慮する.なお,製造販売後調査の結果報告では,投与回数が1~9回に分布しているが,投与回数に関連する有害事象の報告は認めなかった28, 29)

RSウイルスの流行は変動するため,各都道府県内で周産期医療やその他パリビズマブ投与に関わる小児科医等が中心となって審議し,投与開始月と投与期間・回数などの検討を行うことが望ましい.なお,社会保険診療報酬支払基金,国民健康保険連合会の審査員等との情報共有が有益である30).

NICU・GCU から退院する児にパリビズマブを投与する場合には,投与後の薬剤の血中濃度の上昇に必要な時間を考慮して,退院3日前までに投与する.また,初回投与後は,薬剤の有効血中濃度の維持期間が2回目以降の投与に比べて短いので,NICU 退院後の投与は,初回の投与からの間隔を短くすることが推奨される.

2)体外循環による手術を行った場合の投与

体外循環による手術を行った場合,血清中パリビズマブ濃度が有意に低下することが報告されている14, 16)Fig. 3).

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Fig. 3 体外循環による手術を行った場合の投与

3)投与量と投与スケジュール

投与量と投与スケジュールは,Fig. 4のとおりである.

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Fig. 4 投与量と投与スケジュール

4)筋肉内投与時の注意事項

  • ① 筋肉内投与のみとし,静脈内投与は避けること.
  • ② 他の薬剤との混合注射をしないこと.
  • ③ 筋肉内,好ましくは大腿前外側部に注射する.臀筋への投与は坐骨神経を損傷する危険性があるため,避けること.
  • ④ 神経走行部位を避けるように注意して注射すること.
  • ⑤ 同一部位への反復投与は行わないこと.
  • ⑥ 注射針を刺入したとき,激痛を訴えたり,血液の逆流をみた場合は,直ちに針を抜き,部位を変えて注射すること.

なお,日本小児科学会が「小児に対するワクチンの筋肉内接種法について(改訂版)」により標準的な筋肉内投与方法を示しているので参照されたい31).

適用上の注意

1)投与上の注意事項32)

  • ① 本剤投与中に患者が RSウイルスに感染した場合においても,再感染による重篤な下気道疾患の発症を抑制するためにRSウイルスの流行期間中は本剤を継続投与することが推奨される.
  • ② 血小板減少症あるいはその他の凝固障害等により出血傾向のある患者は出血により重篤な状態を招くおそれがあるので,止血を確認できるまで投与部位を押さえるなど慎重に投与すること.
  • ③ 過去に抗生物質等の筋肉注射により,筋拘縮症が発現したとの事例が報告されているので,投与に際して十分に注意すること.
  • ④ 中等度から重度の急性感染症又は発熱性疾患がある場合,および循環器系もしくは呼吸器系の状態が不安定な場合,本剤投与による有益性が危険性を上回ると医師が判断した場合を除き,原則として投与を延期すること.一般に軽度の上気道感染症等の軽度の発熱性疾患は本剤の投与延期の理由とならない.
  • ⑤ 既に発症した RSウイルス感染症に対する本剤の治療効果は確立されていない.

2)副作用

重大な副作用として以下の 2 項目があり注意を要する32)

  • ① アナフィラキシーショックがあらわれることがある(頻度不明).観察を十分行い,チアノーゼ,冷汗,血圧低下,呼吸困難,喘鳴,頻脈等が現れた場合には投与を中止し,エピネフリン(1  : 1000)の投与など適切な処置を行うこと.
  • ② 血小板減少が現れることがあるので,観察を十分に行い,異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと(頻度不明).

3)既存の疾患ないし他の薬剤などとの関連

  • ① 以下の状態にある乳幼児に対するパリビズマブの投与については,現在までにパリビズマブに関連する有害事象は報告されていない.
    1. 食物アレルギーを有する乳幼児
    2. 免疫グロブリン製剤を投与された乳幼児(川崎病など)
    3. 開心術後の乳幼児
    4. 前シーズンにパリビズマブの投与を受けた乳幼児
    5. RSウイルス感染症の既往歴を有する乳幼児
  • ② 国内外における臨床試験時において,他の薬物療法に影響して副作用が認められたとの報告はない.
  • ③ 海外臨床試験において不活化ワクチンおよび生ワクチンと併用されているが,有害事象の増加は認められていない.国内でも有害事象の増加は認められていない33).また,RSウイルスに特異的に作用するため,ワクチン接種による免疫応答を妨げないものと考えられる.したがって,予防接種のスケジュールを変更する必要はない.

基本的な感染予防対策の重要性

パリビズマブを投与した場合でも,基本的な感染予防対策を実施することが重要である.特に,ハイリスク児の管理においては保護者の協力が不可欠であることから,保護者に対する教育が重要となる.その際,RSウイルス感染のみならず,呼吸器感染症全般を予防するための基本的事項について指導する.また,パリビズマブの効果を維持するため,投与間隔を遵守するように十分な指導がなされることが望ましい.RSウイルス感染予防のための基本事項を示す1, 2)

  • 1) 感染源:RSウイルス感染症を発症した乳幼児および市中でRSウイルス流行期間に感染した家族,医療従事者等
  • 2) 侵入経路:主に鼻粘膜,眼瞼結膜
  • 3) 伝播様式:接触感染(罹患者の分泌物に触れた手を介する),飛沫感染(唾液などの比較的大きな飛沫粒子を介する:飛散距離は1 m未満)
  • 4) 予防策:標準予防策および接触感染・飛沫感染予防策.人混みに近づかない.両親・同胞の感冒症状に注意する.

医療施設におけるRSウイルス感染対策

RSウイルスは医療施設内で伝播し,ハイリスク児に重篤な症状を引き起こすことがある.そのため,医療施設に入院中のハイリスク児への RSウイルス感染を予防するために,RSウイルス感染児は個室に隔離するなどの対策を行う.RSウイルス感染のアウトブレイクが確認された場合には,施設や病棟で適切な感染対策を感染制御チームとともに実施する34, 35)Fig. 5).

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Fig. 5 医療施設におけるRSウイルス感染対策

本ガイドライン作成の手順ならびに使用上の留意点

本ガイドラインの作成の手順としては,システマティックレビューを実施できる科学的根拠は現状では十分に存在していないとの判断で,関連各学会と協議の上で,最新のエビデンスと現在の医療状況を反映したコンセンサスに基づく「コンセンサスガイドライン」としてまとめた.

ただし,本改訂版ガイドラインには,これまでの国内外の公表論文に基づいて執筆者が判断し,最終的には班員および外部評価員の評価により決定した推奨クラスとエビデンスレベルを新たに記載した.記載法は,従来のガイドラインを踏襲した海外のガイドラインと同様の記載(Figs. 6, 7)に加え,日本医療機能評価機構が運営する医療情報サービス事業Minds(マインズ)の『Minds診療ガイドライン作成の手引き2007』36)による推奨グレードとエビデンスレベル(Figs. 8, 9)を併記した表とした(推奨クラス・エビデンスレベルとMinds推奨グレード・Mindsエビデンス分類).欧米のガイドラインのエビデンスレベルの表記では,無作為介入臨床試験の結果は登録研究よりエビデンスレベルが高いという考えを基本としているのに対し,Mindsのエビデンス分類は,エビデンスのもととなった試験や研究の種類を示したものであり,これらの表記内容に違いがあることに留意されたい.

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Fig. 6 推奨クラス分類

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Fig. 7 エビデンスレベル

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Fig. 8 MINDS推奨グレード

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Fig. 9 MINDSエビデンス分類

診療ガイドラインの推奨は強制されるべきものではなく,診療行為の選択肢を示すひとつの参考資料であって,患者と医療者は協働して最良の診療を選択する裁量が認められるべきである37).このため,本コンセンサスガイドラインでは,保険適応外の病態に関しても記載している.

推奨グレードは,エビデンスのレベル・数と結論のばらつき,臨床的有効性の大きさ,臨床上の適用性,害やコストに関するエビデンスなどから総合的に判断される.

引用文献References

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19) 日本小児循環器学会ガイドライン作成検討委員会(委員長:中澤 誠,委員:佐地 勉,市田蕗子,小山耕太郎,外部評価委員:楠田 聡,評価委員:原田研介):先天性心疾患児におけるパリビズマブの使用に関するガイドライン.日小児循環器会誌2005; 21: 60–62

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23) Lanari M, Prinelli F, Adorni F, et al: Study Group of Italian Society of Neonatology on Risk Factors for RSV Hospitalization: Risk factors for bronchiolitis hospitalization during the first year of life in a multicenter Italian birth cohort. Ital J Pediatr 2015; 41: 40

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31) 公益社団法人日本小児科学会:「小児に対するワクチンの筋肉内接種法について(改訂版)」.日本小児科学会.https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20160708_kinnnikunaisesshu.pdf(2019年2月3日閲覧)

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