日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 35(2): 59-60 (2019)
doi:10.9794/jspccs.35.59

巻頭言Preface

次世代小児心臓外科医育成プロジェクトMaking of Pediatric Cardiac Surgeons

富山大学大学院医学薬学研究部外科学(呼吸・循環・総合外科)講座Department of Cardiothoracic Surgery, University of Toyama, Graduate School of Medicine ◇ Toyama, Japan

発行日:2019年5月1日Published: May 1, 2019
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未曾有の少子高齢化が進むわが国において,小児医療の充実と発展の重要性に関しては論を待たない.過去数十年,我が国の小児循環器医療は目覚ましい発展を遂げ,世界のリーダーたるべき地位を確立してきた.しかるに近年の深刻な医師不足に加えて医師の地域偏在,診療科偏在により,地方を中心に小児循環器医療は崩壊の危機に瀕している.特に小児心臓外科医は所謂「絶滅危惧種」と称され,このままでは近い将来先天性心疾患の手術を行う医師が極端に不足し,我が国の小児循環器医療が立ち行かなくなる可能性が高い.小児心臓外科医の育成は急務である.

この度,坂本喜三郎理事長より外科系教育部会長という役職を仰せつかり,次世代小児心臓外科医育成プロジェクトを立ち上げることとなった.

近年,産婦人科と小児科の医師不足が各種の報道等で取り上げられ,社会問題となっているが,それらの科の医師数は不十分ながらも微増している.一方,外科医の数は確実に減少している.しかも年齢分布を見ると40~60歳代の占める割合が多く,20~30歳代の外科医の減少が著しい.2018年1月現在の我が国の心臓血管外科専門医は2,196名で,そのうち小児心臓外科に従事しているものは約130名である.これら小児心臓外科に従事している専門医の都道府県別分布をみると地方においては1~2名の県がほとんどであり,1名もいない県も存在する.既に小児心臓外科の診療体制が維持できなくなりつつある地域も出てきている.

小児心臓外科は激務である.重症心疾患児の手術はしばしば長時間に及び,また非常に繊細な手術手技が要求される.術後も綿密かつ慎重な術後管理を行う必要があるが,わが国では術後管理も外科医が行っているのが現状である.かかる状況にあって深刻な人手不足は即ち深刻な過重労働を生み出すことになる.今回,プロジェクトの一環として小児循環器学会の外科系会員を対象にアンケート調査を行い,176名(26~65歳,平均46.1歳)の方々から回答をいただくことができた.詳細な結果は別に譲るが,週平均勤務時間数は60時間以上85%,80時間以上50%,100時間以上16.5%である.部長,教授,病院長クラスも含めて実に96%が法定勤務時間の上限を超えており,日本中の小児心臓外科医が過労死レベルの労働環境におかれているといっても過言ではない.

一方で小児心臓外科手術には高度な技術が要求されるため,どうしても修練期間は長くなりがちである.しかも必ずしも執刀医として独り立ちできるレベルまで到達するとは限らない.45%の小児心臓外科医が2017年1年間の執刀数20例未満,助手の経験数50例未満と回答している.将来については「非常に不安」18.8%,「不安」29.5%,「なるようにしかならない」22.2%という回答であった.小児心臓外科に従事する若者たちの主たる業務は手術の助手と術後管理,病棟業務という図式が推測される.結局,長い下積みを経て,過重労働に耐え,本当になれるかどうかわからない小児心臓外科医の世界に入るのは大変勇気のいることであろう.「やりがい」だけで若者たちを惹きつけることは不可能である.

さて,どうすれば次世代の小児心臓外科医を育成していけるだろうか? 妙案はない.当然ながら困難かつ地道な努力を積み重ねるしかない.以下に私見を述べさせていただく.

外科医が各々のキャリアを形成していく過程において,目標とする修練内容は自ずからそのステップに応じて変化していくはずである.

1)学生~初期研修医時代

まず,小児心臓外科という領域があり,非常に「やりがい」のある魅力的な仕事であるということを多くの若者たちに知らしめなければならない.学生教育,研修医教育は非常に重要であり,大学病院の果たすべき役割は大きい.「熱い心を持った若者達に感動を与える」ための努力が必要である.学内での教育に力を注ぐことは勿論であるが,海外の一流施設を見るという経験も重要であろう.富山大学には臨床実習の最終段階として海外選択制臨床実習という制度があり,希望者は4~7週間海外の施設で実習を行うことができる.当科でも毎年5~7名の学生たちがフランス,ドイツ,ベトナム,カナダ等の施設で実習を行っているが,既にその中から小児心臓外科医や小児循環器科医を志して修練を開始している若者たちが少なからず存在している.教育は最大の投資である.

2)専攻医時代

外科の研修を開始して数年間はできるだけ多数の症例を幅広く経験する必要がある.「縫う」,「切る」,「結ぶ」,「剥す」,等の基本的な外科手術手技を「体で覚え」なければならない.ICUや病棟での術前術後管理にもどっぷりと浸かって,「患者さんと,そのご家族」から多くのことを学べるひとになって欲しい.学会発表や論文執筆等の学術活動は非常に重要であり,できればこの期間に学位を取得することが望ましいと考える.外科専門医・心臓血管外科専門医の取得は決して難しいことではない.執刀経験も多いに越したことはないが,真摯に「患者さんと向き合う」ことのできる医師でないと最終的にこの世界で生き残ることは難しいと思う.

3)Staff Surgeon時代

専門医取得後に,staff surgeonとして執刀経験を積むことになる.上級医の手術で助手を務めて知識を蓄え,上級医の指導下に執刀経験を積み,次第に自力で手術ができるようになる.留学の経験は貴重である.数多くの症例を「見て」,「考えて」,「経験を自分のものにする」ことによってやがて「Breakthrough」が訪れる.

4)Chief Surgeonとして

もちろん,自立して手術ができるということが大前提ではあるが,chief surgeonとして「自分のチームを作り」,「チームとして結果を出す」ことができて初めて「一軍のレギュラーポジションを獲得」したといえる.

全国の施設が若手医師の確保に全力を注いでいる現在,上記1)と2)即ち専攻医達の研修施設を確保することはそれほど難しいことではない.専門医の取得も,それ自体が目的ではなく,修練の結果として必然的についてくるものである.それに反して上記3)と4)即ちstaff surgeon, chief surgeonのポジションを獲得することは必ずしも容易ではない.「大学医局とその関連病院」という現行の体制から,「オールジャパンで次世代を育てる」というシステムを構築していく必要があるが,前途は多難であろう.

今回のアンケートでは「小児心臓外科を志した理由」についてお答えいただいた.思わず時間を忘れてアンケートに見入ってしまった.この領域に従事する先生方の高い理想と見識に深い感動を覚えるとともに,その恵まれない環境に対して少しずつでも改善していけるものを模索していきたいと思う.最後に地方の大学病院に勤務するひとりの外科医のコメントを紹介して,本稿を締めくくらせていただく.

「一人の小児循環器外科医が育つには,多くの時間と犠牲もあります.続ける責務もあると思っています.私はこの治療にあたるにおいて生活もほかも全てを捧げてきたつもりです.沢山涙も流したし,多くの喜びももらいました.これほどやりがいのある仕事はほかにはないと思っています.後悔は全くありません」

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