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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 35(4): 277-278 (2019)
doi:10.9794/jspccs.35.277

Editorial CommentEditorial Comment

18トリソミーへの心臓手術Cardiac Surgery in Patients with Trisomy 18

愛媛大学大学院医学系研究科心臓血管呼吸器外科Department of Cardiovascular and Thoracic Surgery, Ehime University Graduate School of Medicine ◇ Ehime, Japan

発行日:2019年11月1日Published: November 1, 2019
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今回柘植論文では,心臓手術により将来自宅で家族と過ごす時間を持てる可能性が期待できる18トリソミーに姑息術のみ行う方針とし,その約7年間におけるまとまった結果報告がされている1).また周産期母子医療センターを併設した小児循環器基幹病院でもある筆者らの施設では多くの18トリソミーの治療経験を持ち,同観察期間中に心臓手術が行われなかった症例群と比較検討が今回行われている点で大変興味深い1)

18トリソミーの出生頻度は,出生児3,500~8,500人に1人の割合であり,その85%以上に先天性心疾患を合併する4).またその合併は致命的であり,多くの症例は1年以内に死亡,それ以上生存する症例は少ないと考えられてきた2, 3).その多くの死因は中枢性無呼吸,多臓器不全に関連し,さらに未熟児死亡例に関しては,心疾患に起因することが多くはない5).そして多くの心外奇形および神経学的発達遅延が見られることから出生後治療に対する総合的な判断を必要とする場合が多い6, 7)

近年新生児呼吸管理,周術期管理とその成績の向上に伴い18トリソミーへの心臓手術を含む外科治療選択肢が積極的に考慮されるようになってきている8).本学会遺伝疫学委員会多施設(2005~2008年)研究により,80%以上の症例に初回姑息術が行われ,その生存率61%,根治術生存率40%が報告されており9),現在も多くの小児循環器関連施設にて初回姑息術が選択されている.一方,北米では,18トリソミーへの初回手術として肺動脈絞扼術(18.5%),BTシャント(1.9%),動脈管結紮(7.4%),心室中隔欠損孔閉鎖術(33.3%),肺動脈弁・右室流出路狭窄解除術(9.6%),ファロー四徴症修復術(5.2%),心房中隔欠損孔閉鎖術(5.5%)が選択されており,本邦に比べ,初回心内修復術選択が少なくないことがSTS database大型研究(18トリソミー(n=270)への心臓手術)より報告されている.しかしながらその平均手術死亡率は一般先天性心臓手術死亡率(5%以下)の3倍以上に相当する15.6%であり,なかには一般と比較して5倍近くにも相当する疾患(術式)がありその手術死亡率は現在においても低くはない10)

そして近年本邦からも18トリソミーと診断された106例中(2005~2018年)68例(64.1%)に心臓手術を行い,追跡調査(65例)を行った結果,肺動脈絞扼術だけを行った症例群(n=50)の9年生存率が約20%であることに対して肺動脈絞扼術を経て心内修復術まで到達した症例群(n=15)のそれが約60%であることを報告,今後の心内修復術によるさらなる成績向上の可能性について言及している11).このように将来,本邦でも心内修復症例の増加が予想される.しかしながら,多くの他疾患(房室中隔欠損症,総動脈幹症,左心低形成症候群など)で,姑息術を先行させた主要術式戦略が本邦では多く選択されているように12),本疾患群に対しても姑息術をまず先行させ,その後心内修復術を検討実施する段階的治療が多く選択されていくものと思われる.一方その正確な現状を知ることは難しく,実際北米70%近くの小児循環器施設にて13,18トリソミーに対する心臓手術経験があるとされているが,Pediatric Health Information System Databaseからは,13,18トリソミー全1,668症例中7%に対して心臓手術が行われていたことを報告している10, 13).このように多くの循環器関連施設からの報告は,柘植論文でも述べられている通り既に心臓手術治療の可能性を前提とされた症例が多く含まれている可能性があり正確な全体像と少し異なることを理解する必要がある.

さて,18トリソミーへの心臓手術の死亡危険因子として術前の人工呼吸器管理(p<0.0001)が指摘されているが,その一方成績向上因子として術前の胃瘻造設(p=0.027),先行させた心臓手術(p=0.024)も挙げられている10).このように各種準備手術による栄養・循環動態の改善が次の治療成績向上につながっていくことがわかってきた.今回柘植らが報告している心臓手術対象例には未熟児,早産児も含まれており,まず姑息術にて呼吸循環状態の改善を目指してから在宅管理につなげられたことは適切であったと思われる.

このように18トリソミーへの外科手術が多く行われるようになってきていることは間違いなさそうではある.しかしながら,18トリソミーに対する心臓手術治療選択は,画一的なものでなく個々の症例に応じた対応を求められる場合が多く,臨床現場ではその対応に苦慮することも多い.そして治療方針に関して,一般的に主治医の判断に委ねられる場合が少なくないが,柘植らは,在宅管理につながる場合に限った姑息術を検討するという明確な施設基準を持って対応している.その方針を継続して治療を行い情報が蓄積され続けてきたことは大変重要なことである.そして今回この一定の基準に基づいて行われた18トリソミーに対する心臓手術治療により在宅管理率の向上つまり家族との時間が増えたことが本研究により明確にされており評価されるべき点である.また今後蓄積された経験をもとにさらなる展開につなげていかれることを期待したい.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.柘植智史,ほか:先天性心疾患を有する18トリソミー児に対する姑息術が在宅移行へ与える効果.日小児循環器会誌2019; 35: 271–276

引用文献References

1) 柘植智史,面家健太郎,山本哲也,ほか:心疾患を有する18トリソミー児に対する姑息術が在宅移行へ与える効果.日小児循環器会誌2019; 35: 271–276

2) Witters G, Van Robays J, Willekes C, et al: Trisomy 13, 18, 21, Triploidy and Turner syndrome: The 5T’s. Look at the hands. Facts Views Vis ObGyn 2011; 3: 15–21

3) Janvier A, Farlow B, Barrington K: Cardiac surgery for children with trisomies 13 and 18: Where are we now? Semin Perinatol 2016; 40: 254–260

4) Carey JC: Trisomy 18 and Trisomy 13 Syndromes. Manag Genet Syndr Third Ed., 2010

5) Embleton ND, Wyllie JP, Wright MJ, et al: Natural history of trisomy 18. Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed 1996; 75: F38–F41

6) Baty BJ, Blackburn BL, Carey JC: Natural history of trisomy 18 and trisomy 13: I. Growth, physical assessment, medical histories, survival, and recurrence risk. Am J Med Genet 1994; 49: 175–188

7) Baty BJ, Jorde LB, Blackburn BL, et al: Natural history of trisomy 18 and trisomy 13: II. Psychomotor development. Am J Med Genet 1994; 49: 189–194

8) Meyer RE, Liu G, Gilboa SM, et al: National Birth Defects Prevention Network: Survival of children with trisomy 13 and trisomy 18: A multi-state population-based study. Am J Med Genet A 2016; 170: 825–837

9) Maeda J, Yamagishi H, Furutani Y, et al: The impact of cardiac surgery in patients with trisomy 18 and trisomy 13 in Japan. Am J Med Genet A 2011; 155: 2641–2646

10) Cooper DS, Riggs KW, Zafar F, et al: Cardiac surgery in patients with trisomy 13 and 18: An analysis of the society of thoracic surgeons congenital heart surgery database. J Am Heart Assoc 2019; 8: e012349

11) Kobayashi Y, Okamura K, Suzuki T, et al: Association between body weight and timing of intracardiac repair in infants with trisomy 18. 33rd Eur Assoc Cardio-Toracic Surg Annu Meet Abstr 2019. http://eacts2019.process.y-congress.com/ScientificProcess/data/22/122/488/9b909710-8b07-42b2-939d-64c1b9116b0a/Uploads/000374.pdf http://eacts2019.process.y-congress.com/scientificProcess/Schedule/index.html?setLng=en#

12) Shimizu H, Endo S, Natsugoe S, et al: Thoracic and Cardiovascular Surgery in Japan in 2016. vol. 67. Springer Singapore, 2019

13) Kosiv KA, Gossett JM, Bai S, et al: Congenital heart surgery on in-hospital mortality in trisomy 13 and 18. Pediatrics 2017; 140: e20170772

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