日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
〒162-0801東京都新宿区山吹町358-5アカデミーセンター Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 35(3): 188-194 (2019)
doi:10.9794/jspccs.35.188

症例報告Case Report

室房伝導を伴う胎児期心室頻拍症から生後高度房室ブロックとなった1例Advanced Atrioventricular Block after Postnatal Cardioversion for Fetal Ventricular Tachycardia: A Case Report

1独立行政法人地域医療機能推進機構九州病院小児科Department of Cardiology, Japan Community Healthcare Organization Kyushu Hospital ◇ Fukuoka, Japan

2独立行政法人地域医療機能推進機構九州病院産婦人科Department of Gynecology and Obstetrics, Japan Community Healthcare Organization Kyushu Hospital ◇ Fukuoka, Japan

受付日:2018年9月21日Received: September 21, 2018
受理日:2019年4月3日Accepted: April 3, 2019
発行日:2019年9月1日Published: September 1, 2019
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胎児期発症心室頻拍の新生児例において,生後,電気的除細動による心室頻拍停止後に一過性高度房室ブロックとなった1例を経験したので報告する.在胎39週3日の胎児心エコー図検査で心拍数180回/分の房室解離のない胎児頻拍症を指摘され当院産科へ紹介となり,そのまま娩出となった.出生体重は3,130 gであった.12誘導心電図では左軸偏位・幅広いQRS波を伴うshort RP′頻拍であり,アデノシン三リン酸急速静注により房室解離が見られたので心室頻拍症と診断した.電気的除細動により心室頻拍は停止したが,脚枝ブロックを伴う高度房室ブロック(P波138回/分,QRS波75回/分)となった.血圧32/15 mmHgであったがドパミン投与により血圧は回復した.心エコー図検査では左室拡張末期径16.8 mm,左室駆出率30%であった.生後15時間後より2度房室ブロックを経て,生後2日には正常洞調律へ復し,生後48日に退院した.経過中および退院後のホルター心電図検査でも心室頻拍・房室ブロックの再発は認めなかった.胎児期には心室頻拍による逆行性室房伝導を認めていたにもかかわらず,心室頻拍停止後にHis–Purkinje伝導系の高頻度駆動抑制(overdrive suppression)現象のため高度房室ブロックとなった希な経過であった.

We present a neonatal girl who developed complete atrioventricular block after postnatal cardioversion for fetal ventricular tachyarrhythmia. A pregnant women was referred at 39 gestational weeks due to fetal tachyarrhythmia of 180 bpm and without atrioventricular (AV) dissociation. Subsequently, a baby girl was delivered weighing 3,130 g. Electrocardiography revealed wide QRS tachycardia with left axis deviation, and the esophageal leads revealed a short RP′ duration without AV dissociation. However, AV dissociation was overt after injecting adenosine triphosphate, which suggested ventricular tachycardia. Cardioversion stopped the ventricular tachycardia but led to atrioventricular block with fascicular block (P rate 138 bpm, QRS rate 75 bpm), and the resulting hypotension (32/15 mmHg) was improved by dopamine administration. Echocardiography revealed a left ventricular end-diastolic diameter of 16.8 mm and an ejection fraction of 30%. Serial electrocardiography revealed a second-degree atrioventricular block at 15 hours after birth that reverted to sinus rhythm at day 2 after birth. She was discharged on day 48 after birth. Holter electrocardiographic monitoring did not shown recurrence of either the ventricular tachycardia or the atrioventricular block. The present case was unique because advanced atrioventricular block due to overdrive suppression in the His–Purkinje conduction system followed ventricular tachycardia with ventriculoarterial conduction.

Key words: fetal arrhythmia; ventricular tachycardia; atrioventricular block; ventriculatrial conduction

緒言

胎児頻拍症は上室性頻拍,特に副伝導路を介した房室回帰性頻拍や心房粗動等,が多く,心室頻拍は極めて稀である1, 2).胎児頻拍症の診断は胎児心エコー図検査や胎児心磁図等によって行われる2–5).胎児心エコー図検査では胎児四腔像から得られるMモード法またはドプラー法により心房・心室収縮を同定することで房室解離の有無を診断し,基本的には房室解離がなければ上室性頻拍症,房室解離があれば心室頻拍症と診断する.今回,胎児心エコー図検査で房室解離を伴わない頻拍症であったが,生後,アデノシン三リン酸(ATP)投与により房室解離が顕在化したため心室頻拍症と診断し,なおかつ電気的除細動後に高度房室ブロックとなった非常に稀な経過を呈した1例を経験したので報告する.

症例

母体38歳(経妊0回,経産0回)が妊娠39週3日に胎動減少を主訴に管理中産科を受診した.その前日に定期妊婦健診を受けていたが胎児心拍は異常なく,それまでの経過でも胎児異常は指摘されなかった.胎児心拍モニタリングで胎児頻拍症を疑われ(心拍数180回/分)当院産科へ紹介となった.胎児心エコー図検査では,四腔像から得られたMモード法による心房・心室収縮評価では房室解離を認めなかったため,上室性頻拍症を疑った(Fig. 1).胎児心胸比0.39であり,心血管構造に異常はなかった.臍帯血逆行性血流は認めなかったものの,軽度腹水と皮下浮腫を認めた.児の成熟は十分得られていると判断し児娩出の方針とし,同日に緊急帝王切開(メピバカイン塩酸塩による脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔)により出生した.出生体重3,130 g, Apgarスコア1分1点で自発呼吸に乏しく,直ちに人工呼吸管理としてNICU入室となった.心拍数189回/分,血圧30/12 mmHg,酸素飽和度100%(吸入酸素分圧80%)だった.心音は軽度減弱し,肝3 cmと腫大しており,軽度の皮下浮腫と末梢チアノーゼを認めた.静脈血ガス分析ではpH 7.074, pCO2 77.4 mmHg, HCO3 22.6 mmol/L, Base excess −8.4 mmol/L,乳酸120 mg/dL(基準値4.5–14.4 mg/dL)であった.胸部X線では心胸比48%,肺野にうっ血は認めなかった.12誘導心電図検査では心拍数189回/分,幅の広いQRS波が認められ,QRS軸は左軸偏位(−87度),右脚ブロック型であった.食道誘導心電図によりP波を記録したところ,QRS波とP波は1 : 1伝導であり房室解離はなかった(Fig. 2).左軸偏位を伴う幅の広いQRS波は心室頻拍症を疑う所見であったものの房室解離を伴わないことから,更に診断を深めるためにATP急速静注を行ったところ房室解離所見が見られた(Fig. 3).経胸壁心エコー図検査では心血管構造異常はなく,左室拡張末期径16.8 mm,左室駆出率30%であった.以上から室房伝導(1 : 1)を伴った心室頻拍症と診断した.なお,児の刺激伝導系へ影響する薬剤の母体や児への使用はなかった.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 35(3): 188-194 (2019)

Fig. 1 Fetal echocardiography showed atrioventricular dissociation on a M-mode image (below)

Arrows and arrow heads showed ventricular and atrial contractions, respectively.

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Fig. 2 A 12-lead electrocardiogram at birth showed wide QRS tachycardia with the heart rate of 189 beats per minute and left deviation of QRS axis

A electrocardiogram on the esophageal lead (below: E lead) revealed 1 : 1 atrioventricular conduction, which indicated a possibility of supraventricular tachycardia.

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Fig. 3 A 12-lead electrocardiogram just after the intravenous administration of ATP showed atrioventricular dissociation on the esophageal lead (E lead)

Arrow heads indicated P waves.

生後30分で,電気的除細動(2J)により心室頻拍は停止したが,直後に左軸偏位,左脚ブロック型のQRS波形を伴う高度房室ブロック(P波138回/分,QRS波78回/分)となった(Fig. 4).血圧32/15 mmHg,酸素飽和度98%(室内気)であり,静脈血ガス分析ではpH 7.522, pCO2 26.5 mmol/L, HCO3 2.17 mmol/L, Base excess −0.3 mmol/L,乳酸103 mg/dLであった.ドパミン投与を開始し,心拍数108回/分,血圧61/37 mmHgと回復したため,緊急経皮的・経静脈的ペーシングの準備を行いつつ経過観察した.血液検査所見では総蛋白3.5 g/dL(基準値6.6–8.1 g/dL),アルブミン2.2 g/dL(基準値4.1–5.1 g/dL),AST 1720 IU/dL(基準値13–30 IU/dL),ALT 201 IU/dL(基準値7–23 IU/dL),LDH 6483 IU/dL(基準値124–222 IU/dL),クレアチンキナーゼ585 IU/dL(基準値41–153 IU/dL),尿素窒素11 mg/dL(基準値8–20 mg/dL),クレアチニン0.70 mg/dL(基準値0.46–0.79 mg/dL),白血球数25.2×109/L,ヘモグロビン18.2 g/dL,血小板数152×109/Lであった.生後15時間より,2度房室ブロックとなって時々房室伝導が認められるようになり,循環状態も安定してきた.左軸偏位,右脚ブロック型QRS波形から二脚枝ブロックと考えられた.生後2日目までには完全に正常洞調律へ復し,心拍数117回/分,血圧54/30 mmHgであり,排尿も良好であった.心エコー図検査では左室拡張末期径19.0 mm,左室駆出率45%であった.胸骨傍短軸像で右室肥大1度であり,動脈管開存による左右短絡血流速度から得られた推定圧較差は10 mmHgであったので軽度肺高血圧合併と診断した.その他心内構造異常や有意な房室弁異常はなく,正常起始冠動脈であった.生後4日目には抜管し,生後12日目にドパミンは中止した.生後2週目,12誘導心電図は正常洞調律でPR時間延長,QRS幅延長,QT時間延長もなく,ホルター心電図検査でも心室頻拍あるいは房室ブロックいずれも認めなかった(Fig. 5).生後36日目の心エコー図検査では左室拡張末期径21 mm,左室駆出率52%と心収縮は回復し,動脈管は閉鎖していた.血清クレアチンキナーゼ値の推移をみると,生後1日目は電気的除細動の影響もあり1,207 IU/dLであったが,生後2日目には484 IU/dLと低下し,生後1週間目には基準値へ回復していた.血液中ウイルス分離ではウイルス検出はなく,抗SS-A/SS-B抗体も陰性,タンデムマススクリーニング検査も陰性であった.生後38日目,投薬なしで退院,外来経過観察とした.現在,生後1歳となったが,成長発達は良好であり,心室頻拍や房室ブロックいずれも再発はなく心機能も良好である.

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Fig. 4 A 12-lead electrocardiogram after energy application of cardioversion showed complete atrioventricular block

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Fig. 5 12-lead electrocardiograms at 15 hours, 2 weeks and 2 months after birth were shown

The baseline rhythm was recovered to the normal sinus rhythms until 15 hours after birth.

考察

胎児期発症の室房伝導(1 : 1)を伴う心室性頻拍に対して,生後,電気的除細動による心室頻拍停止後に左脚ブロックQRS波形を伴う一過性高度房室ブロックとなり,経時的に右脚ブロックから洞調律への回復を観察できた1例を経験した.

胎児期から新生児期において,心房・心室収縮比が1 : 1で対応する頻拍は,副伝導路に関連した房室回帰性頻拍が最も多く,房室結節回帰性頻拍,永続性接合部回帰頻拍,異所性心房頻拍も考慮される.逆行性伝導が1 : 1で対応する心室頻拍や房室接合部頻拍は非常に稀である1, 2, 6, 7).Fouronは胎児頻拍症30例の室房時間に基づく診断法を報告している.短い室房時間(室房時間<房室時間)の場合は房室回帰性頻拍に代表されるリエントリー性頻拍または異所性心房頻拍,長い室房時間(室房時間>房室時間)の場合は洞性頻脈あるいは永続性接合部回帰頻拍,室房時間=房室時間の場合は異所性心房頻拍であったと報告し,30例中1例のみ心室頻拍であった7).本例の胎児心エコー図検査では室房時間<房室時間であったことから房室回帰性頻拍が最も考えられ,本例のような1 : 1室房伝導の心室頻拍は既報なく極めて希少と考える7)

胎児期/新生児期発症心室頻拍は,先天性QT延長症候群に代表されるイオンチャネル病や,心筋炎,心筋症,心筋虚血等の心筋疾患,また代謝疾患等の基礎疾患のもとに発症することが多く,特発性心室頻拍は非常に稀である1, 6).冠動脈疾患,心筋炎,代謝疾患等は後日実施した追加検査で否定され,本症例では,出生直後12誘導心電図において左軸偏位・右脚ブロック型心室頻拍であったことから,His–Purkinje伝導系を介した束枝回帰頻拍(fascicular reentry tachycardia),いわゆるベラパミル感受性心室頻拍の可能性も考慮された.新生児期発症ベラパミル感受性頻拍症もこれまで数例の報告しかない8, 9).ベラパミル感受性心室頻拍としてもQRS幅が広いことから,背景には心筋虚血や伝導障害があっとことも推察された.また本症例では頻拍レートが180~190/分であり,胎児期心室頻拍では頻拍レート200/分未満であっても急性循環不全を生じることがあるため,注意深い観察が必要であり,胎動低下や胎児水腫の徴候が見られた際には躊躇なく娩出を考慮する必要があると考えられた.

一方,本症例では胎児期より心室頻拍中の室房伝導は非常に良好であったものの,心室頻拍停止後に高度房室ブロックとなる特異な経過をたどった.房室伝導能が必ずしも室房伝導能とは関連しないという報告から,房室伝導に何らかの異常があったと推測される10).本症例で観察された現象はHis–Purkinje伝導系の高頻度駆動抑制(overdrive suppression)現象で説明される.Takahashiらは犬の動物実験において,冠動脈前中隔枝を閉塞させた状態で心房と心室にそれぞれ高頻度刺激を加えた場合に,心室高頻度では刺激終止後に房室ブロックが生じ,かつその現象は刺激頻度・時間依存性であった一方,心房高頻度刺激では房室ブロックは生じなかったと報告した11).心室高頻度刺激中は室房伝導が認められたことから,心筋虚血を背景としてHis束遠位からPurkinje系にかけての高頻度駆動抑制現象であると考察している.また洞調律時に左脚ブロック型を呈する症例に右室流出路高頻度刺激後His束遠位側のブロックを生じた症例も散見され,いずれもHis–Purkinje伝導系のfatigue phenomenonすなわち高頻度駆動抑制としている12, 13).本症例では,心室頻拍により冠潅流低下を生じていたことに加え,1 : 1室房伝導によりHis–Purkinje伝導系の高頻度駆動抑制現象が生じ,心室頻拍停止後に一過性高度房室ブロックが生じたと考えられた.また心室頻拍停止後のQRS波形の変化に注目すると,左軸偏位・左脚ブロック型の幅の広いQRS波形であり,15時間後には左軸偏位・右脚ブロック型のQRS波形へ,2週間後には右軸偏位となり,2か月後には正常軸へ変化していることから,それぞれ3脚枝ブロック,2脚枝ブロック,右脚ブロックへと変化し,最終的に洞調律へ復した際は正常なHis–Purkinje伝導へ回復したものと推察され,このことも前述の推察を示唆する.房室伝導障害を生じる疾患にはミトコンドリア心筋症や筋緊張性筋ジストロフィー等が知られているが,本症例では臨床経過から否定的であった14, 15).高頻度駆動抑制現象の病態は未だ不明な点も多いが,洞結節における高頻度駆動抑制は周知の現象であり,高頻度刺激によるアセチルコリンの放出,カリウムの細胞外への放出,ナトリウムポンプの不活性化,細胞膜のカルシウム交換の変化等が影響していると考えられている16).前述のTakahashiらの動物実験ではHis–Purkinje伝導系高頻度駆動抑制現象はイソプロテレノールで促進され,ベラパミルで抑制される傾向があったことから,カルシウムイオンがこの現象に影響を及ぼしていることが推測された11)

結語

胎児期発症の室房伝導を伴う心室頻拍症において,生後洞調律へ回復後に一過性高度房室ブロックとなった症例を経験した.心室頻拍による冠潅流低下を背景としたHis–Purkinje伝導系高頻度駆動抑制現象が示唆された.胎児頻拍症の診断に際しては,胎児心室頻拍の可能性も考慮し注意深い観察が必要である.

利益相反

著者全員において開示すべき利益相反はありません.

著者の貢献度

白水優光は初稿を作成し,宗内淳は論文全体の構成や修正に加担しました.杉谷雄一郎と岡田清吾は実質的診療にあたりデータの収集を行いました.川口直樹と飯田千晶は生理学的検査のデータ収集を行いました.渡邉まみ江は最終稿の確認をしました.川上剛史は胎児期データの収集を行いました.

付記

第22回日本小児心電図学会学術集会において発表した内容で,日本小児循環器学会より投稿推薦をいただきました.

引用文献References

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