日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 34(2): 53-54 (2018)
doi:10.9794/jspccs.34.53

巻頭言Editorial

現代の若手小児心臓外科のトレーニングと自立Training and Independence of the Modern Young Pediatric Cardiac Surgeons

徳島大学大学院心臓血管外科学分野Department of Cardiovascular Surgery, Institute of Biomedical Sciences, Tokushima University Graduate School ◇ Tokushima, Japan

発行日:2018年3月1日Published: March 1, 2018
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心臓外科は小児心臓外科から発展してきた.読者の一人一人がその光をどこかで,大なり小なり実感してきたことであろう.「一見鐘情」,一目惚れで,その魅力に取り憑かれ,小児心臓外科医の道を歩んできた方も多いのではないか.

小児心臓外科医がまず習得すべき知識,技術は何か?Blalock–Taussig shunt(BTS)はその良し悪しが,最終修復手術後の長期遠隔期の患児のQOLに大きく影響を与える非常に大切な姑息術である.そのBTSがよければ,やがてその子供達が大きくなり,TOF修復術やフォンタン手術への道が見えてくる.当然,その小児心臓外科医は,Jatene手術やNorwood手術もしなくてはならなくなるであろう.つまり,BTSとTOF修復術が上手にできるようになれば小児心臓外科医として自立できるのである.

では,現代の若手小児心臓外科医は如何にキャリア形成すればよいのだろうか.私は日本心臓血管外科学科学会の40歳以下の会員(Under-40: U-40)の運営理事としてこの2年にわたり学術企画やSurgical Skills Trainingに努めてきたが,多様で個性的なU-40のリーダー達から学ぶことが多々あった.彼らは初期臨床研修制度が始まった頃の医学部卒業生であり,どんな人生を送りたいのか,どんな研修が有利なのか,与えられるものと掴み取るものがあることを意識して,主体的に活動している.

私は小児心臓外科医への思いを抱いた頃に国立循環器病センターのレジデントとしてトレーニングした.内藤泰顕先生のTOF修復術では幾多の経験や洞察から醸成された鬼手仏心と,“どのような手術をすればどのような経過を辿るのか”を学んだ.同じようにすれば私にもTOF修復術ができるかもしれないと何度も手術を見にいった.当時は右室切開によるTOF修復術であったが,その視野から見る風景と隣り合わせる危険性について勉強し,やがて,より安全な右房アプローチを展開する礎となった.そして,やがて八木原俊克先生が赴任されたが,左心低形成症候群のNorwood手術を初めて見た時のワクワク,ドキドキした感動と興奮を未だに覚えている.数年後に眼前に対象患者が現れた時には,Jonas RA等のup-to-dateな論文を読み,自分なりの工夫を加えて施行した.

それらの経験からのお薦めは,毎日,夜眠る前に,その日に覚えたこと,気になったこと,疑問に思うことをメモにする,あるいは絵を描こう.考えるsurgeonになるには,自分なりの日記をつけよう.そうするといつのまにか,毎日,毎日,来る日も,来る日も進歩しているのがわかるであろう.指導医から,「この手術をやってみるか?」と言われたら,『はい,お願いします』と即座に応えられるように日頃から準備しておこう.その時こそ,日記を役立てるチャンスである.明日は,このような手順でこうしたいとイメージを作ってから手術に臨もう.もちろん,Starkとde LevalのSurgery for Congenital Heart Defectsを通読しておくとよい.努力して入れば,チャンスはいつかやってくる.それを掴めるように準備しておかねばならない.

次に手術室外でも,回診しているときや廊下を歩いている時にも,持針器をもって生活して,常時ハンドリングの感覚をつけると良い.体で覚えることは楽しい.まず,指導医operatorの左手,右手をコピーして真似よう.

一人一人の空き時間に手軽に行える基本手技練習としては,シミュレーターによる小血管吻合がよいが,近年では,TOFやTGAの3Dモデルも開発されており,学術集会時にはそれを用いた手術手技セミナーも開催されている.これらはまだ生体組織としての質感には不似合いであるので,U-40 Basic Lecture Course(BLC)や各施設で開催されるWET LABには積極的に参加してTechnical-skill Trainingを積み重ねよう.また,高価なシミュレーターでなくても,U-40が独自の視点で開発した基本手技修練の定量的評価である結紮練習「Slip Knot」や金魚すくいのポイを利用した縫合練習「Needle work」も日々の基礎練習には優れている.

昨年末に東大の平田先生に独自の練習法を教えていただいた.左手の鑷子で持ちたいところを持てるように,左手のペンで紙上のドットを塗る,あるいは般若心経をなぞる修練を工夫しているという.Practiceあるのみである.日本心臓血管外科学会の上田理事長もおっしゃっていたが,“10,000時間のPractice”を目標としよう.継続するには本当にいいもの,あるべき姿を知っておくことが後押しの力となる.

日本心臓血管外科学会では北海道支部から九州・沖縄支部に至る全国8支部で座学,前述のDRY LABやブタ心臓を用いた冠動脈吻合や弁置換等のWET LABからなるBLCを開催し,昨年は230名のU-40を対象に指導した.また,同時にU-40の中でも技術力の高い層に対して,高度なlectureの場を提供したいとの意図から,心臓血管外科サマースクール後にテルモ開発のブタ拍動心シミュレーターモデルを使用した冠動脈吻合コンテストの形式でU-40 Advanced Lecture Courseを行い,優勝者を決定する予定である.手術手技修練のモチベーション向上のために,将来的に米国胸部外科学会のTop gun competitionのように処遇できればと考えている.

Practice makes perfect. Impossible is nothing. You can do it. Just do it.

また,英語論文は世界共通の実績尺度であり,あたかもそのauthorshipは通貨のようである.また,“君たち”が手術やトレーニングに明け暮れている時,あるいは休んでいる時にさえ,“君たち”が言いたいことを,分身として世界中に効率的かつ雄弁に語りかけてくれる.希望の就職先や留学先にapplyする時のCVに記載すれば,世界への門戸に繋がる切符を手に入れられるかもしれない.若いうちからデータ収集などの地道な仕事を自分で行い,結果を分析し,考えをまとめて書き始めることも意図してほしい.

「人は,いついかなるチャンスに巡り合うかも知れない.志あるもの,日頃から精進をつみかさね,もって将来に備えてもらいたい.ことの成否はまた別にあるとしても」と,(故)井上權治先生(第二外科先々代教授)に教えていただいた.

最後に,小児心臓外科医は“自分の腕”でもって,「病む患者さんの生きようとする力を支えてあげられるやりがいのある仕事である」が,燃え尽きないために,楽しく,余裕をもって歩むために,週に1度は「机に足をあげてぼうっとする」時間を取る.これからしたいこと,仕事で不思議だと思うこと,疑問点に思いをめぐらしてみる時間をもつことが余裕をもって歩むために重要であることを付け加える.

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