日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
〒162-0801東京都新宿区山吹町358-5アカデミーセンター Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 34(1): 30-38 (2018)
doi:10.9794/jspccs.34.30

原著Original

日本人小児肺動脈性肺高血圧症患者に対するepoprostenol新規持続静注製剤の治験結果:有効性,安全性及び忍容性の検討Results of a Clinical Trial to Determine the Efficacy, Safety, and Tolerability of Intravenous Drip Infusion Therapy of a New Epoprostenol Formulation in Japanese Children with Pulmonary Arterial Hypertension

1東邦大学医学部心血管病研究先端統合講座Advanced and Integrated Cardiovascular Research Course in the Young and Adolescence, Toho University ◇ Tokyo, Japan

2国立循環器病研究センター小児循環器科Department of Pediatrics, National Cerebral and Cardiovascular Center ◇ Osaka, Japan

3東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科小児・周産期地域医療学講座(小児)Department of Pediatrics, Perinatal and Maternal Medicine, Tokyo Medical and Dental University, Graduate School ◇ Tokyo, Japan

4慶應義塾大学医学部小児科Department of Pediatrics, Keio University School of Medicine ◇ Tokyo, Japan

5アクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社研究開発本部Research and Development, Actelion Pharmaceuticals Japan Ltd. ◇ Tokyo, Japan

2017年5月22日逝去.Deceased 22 May 2017.

受付日:2017年6月7日Received: June 7, 2017
受理日:2018年1月12日Accepted: January 12, 2018
発行日:2018年1月1日Published: January 1, 2018
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背景:小児肺動脈性肺高血圧症(PAH)患者に対するepoprostenolの新規持続静注製剤の有効性,安全性及び忍容性を検討する目的で治験を実施した.

方法:本治験は,epoprostenol投与歴のない15歳未満の日本人小児PAH患者を対象とした前向き,多施設共同,非盲検,単群試験である.主要評価項目はベースライン値から12週後の肺血管抵抗係数(PVRI)の変化,副次評価項目は12週後の他の心肺血行動態指標及び48週間のWHO機能分類(WHO-FC),NT-pro BNP値等の変化とした.52週間の安全性も評価した.

結果:8歳,10歳,14歳の特発性PAHの男児3名が52週間,epoprostenol投与を受けた.開始時の投与速度は0.5~1.0 ng/kg/分であり,その後漸増し,投与52週時点の投与速度は24~41 ng/kg/分であった.PVRI変化量はそれぞれ−3.24, −2.59,及び−2.43 Wood U·m2であった.WHO-FCは,1名がFC IIIからFC IIへ改善し,2名はベースライン及び48週時のいずれもFC IIであった.投与中止,中断,減量に至る有害事象症例はなかった.

結論:日本人小児PAH患者3例に対するepoprostenol新規製剤持続静注療法により,全例にPVRIの低下とWHO-FCの改善または維持が認められた.投与中止例・中断例はなく,安全性と忍容性が示された.

Key words: pulmonary arterial hypertension; epoprostenol; children; efficacy; safety

背景

肺動脈性肺高血圧症(PAH)は肺血管壁の広範なリモデリングにより動脈の血管拡張障害及び内腔の閉塞を生じる血管障害である1).肺血管抵抗(PVR)が増大することにより肺動脈圧(PAP)が上昇し,肺循環血流が低下し,息切れや身体能力の低下及び右心不全が生じる.最終的には両心不全を生じて死に至る進行性の疾患である2).国内外の治療ガイドラインでは,異なる3つの作用機序に基づく薬剤1)プロスタサイクリン(PGI2)とその誘導体及びPGI2受容体(IP)作動薬,2)エンドセリン受容体拮抗薬(ERA),3)ホスホジエステラーゼ5(PDE 5)阻害薬及び可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬が推奨されている3–6)

PGI2系薬剤であるepoprostenol(EPO)は,重症度の高いPAH患者の治療薬として強く推奨されている3–6).本邦では,従来のEPO製剤であるフローラン®(EPO-GM)はすでに15年間以上使用されている.一方,エポプロステノール静注用0.5 mg/1.5 mg「ACT」(EPO-AS)はEPO-GMの後発医薬品である.これらの製剤は添加剤の組成が異なっており,EPO-GMはglycineとmannitolを含むのに対し,EPO-ASはarginineとsucroseを含んでいる7).これまでに成人PAH患者を対象とした臨床試験で,EPO-GMから同一用量のEPO-ASに切替えた際,切替え直後及び12週後の血行動態に臨床的に問題となる変化を認めなかったことが報告されている8, 9)

小児PAH患者に対する薬物治療は,成人患者での有効性及び安全性等を参考に用量を調節して行われているのが実態である.本邦で小児適応のある薬剤はbosentanの小児用分散錠(2015年承認)のみであり,多くのPAH治療薬は成人患者のみに対して適応を有している.実際にはEPO-GM市販後使用成績調査(PMS)の投与患者680名中に15歳未満の小児221名の使用経験がある10).この調査でEPO治療は小児PAH患者に対して成人の報告と同様にNYHA機能分類及び生存率を改善したことが報告されている11).成人PAH患者に対して本邦で薬事承認されているEPOの用法用量は,2 ng/kg/分でEPOを開始し,15分以上の間隔をおいて1~2 ng/kg/分ずつ漸増し,最適投与速度を決定することとされている12).しかし前述のEPO-GMのPMSでは,小児PAH患者のうち約8割の開始速度は2 ng/kg/分以下であった11).さらにAmerican Heart Association and American Thoracic Societyによる小児患者のガイドラインでも,1~2 ng/kg/分から投与を開始することが推奨されている5).我々は,国内外のガイドライン3, 13),文献報告11, 14, 15),国内の専門医療機関での使用実態を踏まえて,小児患者の安全性を考慮した細やかな用量調節が可能となるような用法・用量の検討が必要であると考えた.本邦ではこれまでに小児患者を対象としたEPOの前向きな多施設共同試験は実施されておらず,世界的にもEPO持続静注療法の小児患者に対する適応を有する国はない16).そこで今回我々は,日本人小児PAH患者に対するEPO-ASの用法・用量,有効性及び安全性を検討するため,前向き治験を実施した.

方法

方法と対象

本治験(JapicCTI-142721及びJapicCTI-142722)は前向き,非対照の多施設共同第III相臨床試験である.本治験はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)及びその他の関連する規制要件を遵守して実施した.本治験への参加前に被験者及びその代諾者である父母,祖父母等に対して治験の方法及び目的を十分に説明し,自由意思による同意を文書で得た.なお,本治験は,各実施医療機関の治験審査委員会で承認を得て実施された.評価期間は12週間の有効性評価期間と12週以降の継続投与期間で構成されていた.本治験の対象は,特発性PAH(IPAH),遺伝性PAH(HPAH)または先天性心疾患に関連するPAH(ただし修復手術後最低6か月間にわたって持続または再発を繰り返す患者またはEisenmenger症候群の患者)と診断された15歳未満の日本人患者とした.目標患者数は,評価可能な肺血管抵抗係数(PVRI)が得られた3名以上とした.PAHの診断は,治験薬の投与開始前30日以内に実施した右心カテーテルによる血行動態で行い,安静時平均肺動脈圧(mPAP)が25 mmHg以上,肺動脈楔入圧(PAWP)または左室拡張末期圧が15 mmHg以下でPVRIが3 Wood U·m2以上を満たすこととした.その他の選択基準は,WHO機能分類(WHO-FC)II~IV,室温下での安静時の動脈血酸素飽和度(SpO2)が88%以上(ただしEisenmenger症候群の場合は70%以上)とした.本剤を含むEPO持続静脈内投与の経験がある患者,緊急手術が必要な患者,右心不全の急性増悪期の患者,肺静脈閉塞症またはその疑いのある患者,全肺血管抵抗が40 Wood U以上の患者,慢性出血性疾患を有する患者,左心に関連する症状または既往がある患者は対象外とした.

ベースライン値の右心カテーテル検査7日前から治験期間を通じて,他のPGI2製剤及びその誘導体,可溶性グアニル酸シクラーゼ阻害薬であるriociguat及びERAのmacitentanの使用を禁止した.Dobutamineを含むcatecholamine等の強心薬の静脈内投与は治験薬投与期間中は併用を禁止した.有効性評価期間では,ERAであるbosentan, ambrisentan及びPDE5阻害薬は,ベースライン値の右心カテーテル検査前90日以上前から開始し,検査30日以上前から用量が一定している場合は併用可能とした.継続投与期間では新たな薬剤の追加投与が可能であったが,両期間を通してこれらの薬剤は可能な限り一定用量で使用することとした.また,カルシウム拮抗薬,アンギオテンシン変換酵素阻害薬,利尿薬,抗凝固薬及び血小板凝集抑制薬,血栓溶解薬はベースライン値の右心カテーテル検査30日以上前から使用している場合は,有効性評価期間中は可能な限り一定用量で用いる場合に限り併用可能とした.

EPO-ASは専用溶解用液(日本薬局方生理食塩液)に溶解して3,000 ng/mL以上の濃度に調製し,携帯型ポンプを用いて中心静脈カテーテルを介して投与した.投与開始から少なくとも1週間は入院して患者の状態をモニタリングすることとし,入院中はシリンジポンプの使用も可とした.開始時の投与速度を0.5~2.0 ng/kg/分とし,患者の症状,血圧,心拍数,血行動態等を十分観察しながら,原則1~4週の間隔で0.5~2.0 ng/kg/分ずつ適用量に増量した.頭痛,嘔気,軽微なものを除く潮紅等の症状が認められた場合はその後の増量を中止した.それらの症状が消失しない場合には原則として0.5~2.0 ng/kg/分ずつ減量することとした.投与12週後以降の最適維持投与速度の目安は20~40 ng/kg/分とした.

評価項目

主要評価項目はベースライン値から投与12週後のPVRIの変化とした.右心カテーテル検査で投与前後の安静時の心肺血行動態を評価した.心拍出量は熱希釈法またはFick法の何れかを用いて測定した.各患者ではベースライン値と投与後の評価で同一の測定法を用いた.PVRIは,(mPAP-PAWP)/心係数(CI)で求めた.副次的評価項目として,PVRI以外の心肺血行動態,すなわちCI, mPAP及び平均右房圧(mRAP),全身血管抵抗係数(SVRI),PVR/SVR(全身血管抵抗)比,混合静脈血酸素飽和度(SvO2)を投与12週後に評価した.その他に,血中ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-pro BNP),WHO-FC及び臨床全般印象度17)を12週間ごとに投与48週後まで評価した.臨床全般印象度とは,担当医及び代諾者がそれぞれ独立して患者の総合的な臨床状態を,著明に改善,改善,不変,悪化,著明に悪化の5段階で評価する尺度であった.安全性及び忍容性はEPO-AS投与開始後に認められた有害事象(薬剤との関連にかかわらず)のほか,臨床検査値,血圧,脈拍数,心電図,身長・体重のベースライン値から投与52週間の変化をもとに確認した.

統計学的手法

目標患者数は,試験期間に集積可能な患者数として決定された.統計学的仮説検定は設定せず,各評価項目の変化を臨床的に評価した.ただし補足的解析として,臨床的な検討事項を深く理解するため,カテゴリカル値は計数及び%頻度,連続値は平均値と95%信頼限界(CL),標準偏差で要約した.解析はすべてSAS Ver. 9.3(SAS Inc., Cary, NC, USA)により行った.

結果

対象

2015年1~3月に日本国内3施設(国立循環器病研究センター,東京医科歯科大学医学部附属病院,慶應義塾大学病院)からIPAHの男児3名が登録され,EPO-ASが投与された.3例全例が12週間の有効性評価期間を完了した.その後も全員がEPO-ASの投与を継続し,52週間以上の投与を受けた.登録された患者の人口統計学的特性及びベースライン値の疾患特性をTable 1に示した.EPO-AS投与開始時年齢は8歳(Patient 2),10歳(Patient 3),14歳(Patient 1)であった.全員が他のPAH治療薬を併用していた.Patient 2はベースライン値測定時にambrisentanを使用していたが,治療強化のため投与232日目からsildenafil citrateの投与を開始した.

Table 1 Patients’ demographics and baseline characteristics
Patient No.SexAge [Years]Weight [kg]WHO-FCPAH treatment at baselinePAH etiologyTime from diagnosis* [years]
1Male1449.5IIBOS, TADIPAH1.72
2Male825.8IIIAMBIPAH2.17
3Male1027.1IIBOS, TADIPAH3.44
Mean±SD10.7±3.134.13±13.322.44±0.89
PAH, pulmonary arterial hypertension; IPAH, idiopathic pulmonary arterial hypertension; BOS, bosentan; AMB, ambrisentan; TAD, tadarafil; SD, standard deviation. *time to initiation of the study drug

EPO-ASの投与速度

EPO-AS開始時の投与速度(範囲)は0.5~1.0 ng/kg/分であった.投与12週時までの1回あたりの増量幅は0.3~1.4 ng/kg/分で,投与4週時の投与速度は6.0~15.4 ng/kg/分,投与12週時は12.9~22.4 ng/kg/分であった.開始時の溶解液の濃度は,3,000~5,000 ng/mLであった.投与24週後の投与速度は16.0~34.5 ng/kg/分,投与48及び52週後は24.0~41.2 ng/kg/分であった(Fig. 1, Table 2).52週間にEPO-ASの減量,中断または中止する患者はなかった.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 34(1): 30-38 (2018)

Fig. 1 Dose escalation from baseline to Week 52 in each subject

Table 2 Dose escalation of EPO-AS
Patient 1Patient 2Patient 3
Dose [ng/kg/min]
Starting0.510.970.56
Week 415.388.406.01
Week 1222.4414.8312.91
Week 2434.4523.2016.01
Week 4841.2024.0124.02
Week 5241.2024.0126.08

有効性

PVRIのベースライン値から投与12週後の変化量(投与12週後—ベースライン値)はそれぞれ-2.43(Patient 1),-3.24(Patient 2)及び-2.59(Patient 3)Wood U·m2,平均値は−2.752 Wood U·m2(95% CL: -3.820, -1.685)であり,全患者でPVRIの低下が認められた(Table 3, Fig. 2).また,PVRI以外の血行動態パラメータの変化量は,mPAPがそれぞれ+2(Patient 1),−8(Patient 2),+2(Patient 3)mmHg,平均値−1.3 mmHg(95% CL:-15.7, 13.0)と変化し,CIはそれぞれ+0.4(Patient 1),+0.2(Patient 2),+1.5(Patient 3)L/min/m2,平均値が+0.69 L/min/m2(95% CL:−0.98, 2.35)と増加した.

Table 3 Pulmonary hemodynamic variables
BaselineWeek 12Change from baseline
PVRI [Wood U·m2]Patient 111.699.26−2.43
Patient 220.8817.64−3.24
Patient 38.205.61−2.59
Mean±SD (95%CL)13.591±6.552 [0.000, 29.866]10.839±6.167 [0.000, 26.159]−2.752±0.430 [−3.820, −1.685]
mPAP [mmHg]Patient 14345+2
Patient 28880−8
Patient 33638+2
Mean±SD (95%CL)55.7±28.2 [0.0, 125.8]54. 3±22.5 [0.0, 110.2]−1.3±5.8 [−15.7, 13.0]
mRAP [mmHg]Patient 1810+2
Patient 2440
Patient 347+3
Mean±SD (95%CL)5.3±2.3 [0.0, 11.1]7.0±3.0 [0.0, 14.5]1.7±1.5 [−2.1, 5.5]
Cardiac index [L/min/m2]Patient 12.83.2+0.4
Patient 23.84.0+0.2
Patient 33.55.0+1.5
Mean±SD (95%CL)3.40±0.52 [2.11, 4.69]4.08±0.88 [1.91, 6.26]0.69±0.67 [−0.98, 2.35]
PVR/ SVRPatient 10.490.46−0.03
Patient 21.081.03−0.05
Patient 30.530.68+0.15
Mean±SD (95%CL)0.698±0.333 [0.000, 1.524]0.724±0.286 [0.014, 1.435]0.027±0.113 [−0.253, 0.306]
SVRI [Wood U·m2]Patient 124.1020.07−4.03
Patient 219.3217.14−2.18
Patient 315.558.22−7.33
Mean±SD (95%CL)19.653±4.285 [9.008, 30.298]15.143±6.173 [0.000, 30.478]−4.509±2.612 [−10.997, 1.979]
SvO2 [%]Patient 179.582.0+2.5
Patient 271.571.0−0.5
Patient 375.576.4+0.9
Mean±SD (95%CL)75.50±4.00 [65.56, 85.44]76.47±5.50 [62.80, 90.13]0.97±1.50 [−2.76, 4.70]
PVRI, pulmonary vascular resistance index; mPAP, mean pulmonary arterial pressure; mRAP, mean right atrial pressure; SVR, systemic vascular resistance; SVRI, systemic vascular resistance index; SvO2, mixed venous oxgen saturation; SD, standard deviation; CL, confidence limits
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 34(1): 30-38 (2018)

Fig. 2 Individual change in hemodynamic variables

PVRI, pulmonary vascular resistance index; mPAP, mean pulmonary arterial pressure; SVR, systemic vascular resistance; SVRI, systemic vascular resistance index

NT-pro BNPは,ベースライン値から投与12週後の変化量がそれぞれ+4(Patient 1),−42(Patient 2),-16(Patient 3)pg/mL,24週後は-58(Patient 1),-68(Patient 2),-6(Patient 3)pg/mL,48週後は+19(Patient 1),-98(Patient 2),+18(Patient 3)pg/mLであった(Table 4).Patient 2ではNT-pro BNPが14日目に917 pg/mLまで増加したが,30日目にはほぼベースライン値まで低下した(安全性の項を参照).

Table 4 Changes from baseline in NT-pro BNP
BaselineWeek 12Week 24Week 36Week 48
NT-pro BNP [pg/mL]Patient 189933151108
Patient 218814612012790
Patient 33923332257
Mean±SD [95%CL]105.3±75.8 [0.0, 293.7]87.3±61.7 [0.0, 240.6]61.3±50.8 [0.0, 187.6]66.7±54.2 [0.0, 201.4]85.0±25.9 [20.7, 149.3]
SD, standard deviation; CL, confidence limits

投与開始時のWHO-FCは3名中,FC IIIが1名,FC IIが2名であった.投与24週後まではWHO-FCがベースライン値から悪化した患者はなかった.ベースライン時にWHO-FC IIIであったPatient 2は,投与4週後にFC IIに改善し,投与48週後までFC IIを維持した.ベースライン時にWHO-FC IIであったPatient 3は投与36週後にFC IIIへ一時的に悪化したが,投与48週後にFC IIへ改善した.Patient 1は,48週間不変であった.

3名の臨床全般印象度は投与24週後までは改善もしくは不変と評価され.ベースライン値と比べて悪化した患者はなかった.投与36週後に1名(Patient 3)が代諾者及び担当医の評価のいずれでも悪化を示したが,投与48週後時点ではベースライン値から不変と評価された.この悪化は,重篤な有害事象である肺炎の影響によるものであった.他の2名は48週間にわたって改善もしくは不変と評価された.

安全性

治験薬投与52週間で,3名に合計50件の有害事象が認められた.このうち3名全員に共通して発現した事象はなく,鼻咽頭炎,下痢,血小板数の減少,接触性皮膚炎,そう痒症及び頭痛が2名ずつに認められた(Table 5).その他の事象は1名ずつに認められた.12週間と52週間とで事象の傾向に違いはなかった.52週間でEPO-ASの中止,中断,減量に至る事象の発現はなかった.また,甲状腺機能異常やカテーテル関連合併症,症状を伴った血圧低下は認められなかった.投与開始日当日に事象は発現しなかったが,開始から7日以内に頭痛,下痢,血小板数の減少が1件ずつ認められた.重篤な有害事象は52週間で1名(Patient 3)に2件,胃腸炎と肺炎が認められた.投与70日目に腹痛,嘔吐を伴う中等度の胃腸炎が発現し,入院を要した.EPO-AS投与を継続し投与74日目に事象は回復した.投与257日目に発熱や乾性咳嗽を伴う中等度の肺炎が発現し,入院を要した.EPO-AS投与を継続し,投与266日目に軽快のため退院し,投与282日目に回復と判断された.担当医師は両事象ともEPO-ASとの関連はないと判断した.

Table 5 Frequent adverse events through 52 weeks
N=3
n (%)
12 weeks52 weeks
Total patients with at least one adverse event3 (100.0%)3 (100.0%)
Total number of adverse events2650
Dermatitis contact2 (66.7%)2 (66.7%)
Headache2 (66.7%)2 (66.7%)
Nasopharyngitis2 (66.7%)2 (66.7%)
Pruritus2 (66.7%)2 (66.7%)
Diarrhea1 (33.3%)2 (66.7%)
Platelet count decreased1 (33.3%)2 (66.7%)
Adverse events observed in two or more patients during 52 weeks

血小板数の減少が2名(Patient 1及び3)に3件認められた.しかし治療を要する程度の減少は認められなかった.血小板数は,Patient 1がベースライン値15.0×104/µLから発現中の最低値8.9×104/µLへ,Patient 3はベースライン値17.6×104/µLから最低値11.8×104/µL及び9.6×104/µLと減少した.Patient 2ではNT-pro BNPが917 pg/mLまで一過性に増加した.カテーテル検査に伴う増加と考えられたことからEPO-ASとの関連はないと判断された.甲状腺刺激ホルモン(TSH),遊離型T3,遊離型T4は臨床的に有意な変動はなかった.拡張期血圧は52週間に最大でベースライン値から25 mmHg低下,収縮期血圧は最大で17 mmHg低下し,全体的にベースライン値からの低下が認められたが,症状を伴った血圧低下は認められなかった.心電図についても臨床的に有意な変動は認められなかった.

考察

小児PAH患者に対するEPO-GM投与の有効性が成人患者と比べて遜色がないことは,すでに国内外の報告で示されている11, 14, 15).EPO-GMは小児患者の生存率や肺血行動態を有意に改善し,3年生存率が84%との報告14)や10年生存率は61%に達している18)との海外報告がある.国内単一施設からの報告では,EPO-GM開始後5年目以降9年目までの生存率が62%を維持していた19).しかし,小児患者に対するこれらの結果は後ろ向きであり,小児患者のみを対象として心肺血行動態指標を評価した臨床試験の報告はなかった.そこで本治験では,日本人小児PAH患者を対象として,承認されているEPO-ASの開始用量である2 ng/kg/分よりも低用量の0.5~1 ng/kg/分で持続静注を開始した際の有効性及び安全性を前向きに検討した.検討の結果,主要評価項目である投与12週後のPVRIは全患者で低下し,PVRI以外の心肺血行動態指標,WHO-FC及びNT-pro BNPもベースライン値を維持または改善したことが確認された.心肺血行動態指標やWHO-FC, NT-pro BNPは,PAH患者の予後予測因子と考えられており4),小児PAH患者に対してもEPO-ASが疾患進行の抑制や臨床症状の安定化に寄与すると考えられた.

本治験では,投与12週間でPVRIは低下,mPAPは不変または低下,CIは上昇した.しかしEPO投与後の肺血行動態指標を評価した海外からの報告20)と比べるとベースライン値からの改善度が小さかった.この原因として,投与開始時の患者の重症度が本治験のほうが軽度であったことに加え,PAH治療薬の併用状況や評価期間が影響していると考えられた.また小児患者の血行動態は成人と比べるとPVR/SVR比が高いという特徴があり21),小児患者の病状経過の重要な指標である.しかし本治験では1名(Patient 3)でPVR/SVR比がやや増加し,残りの2名ではほぼ変化がなかった.当該患者ではSVRIの低下が大きかったことが影響していると考えられた.EPO-GM投与後の肺血行動態指標を評価した国内報告15)でも,PVR/SVR比は投与12か月後時点で大きな低下はなかった.PGI2に対する受容体は全身に存在しており22),全身血管への拡張作用を示すことを踏まえるとこの結果は妥当であるが,個々の患者の全身の状態に留意しながら,投与速度を慎重に増加することが必要であると考える.

安全性では,約1年間のEPO-AS投与中に中止,中断,減量を要するような事象の発現はなく,検討した用量の範囲での忍容性は良好であった.成人を含む登録患者680名のうち221名が小児患者であったEPO-GMのPMS10)では,副作用として頭痛,潮紅,下痢,顎痛,関節痛,血圧低下が3%以上の患者から報告されており,本治験での状況は発現頻度や傾向が概ね類似していた.

本治験では3名が開始12週間の時点で10 ng/kg/分を上回る維持用量で投与された.さらに6か月後及び1年後の投与量は,日本人小児患者でのEPO-GM投与成績の後ろ向きな報告15)及びEPO-GMのPMS 11)の投与量と比べてやや高かった.しかし継続投与を妨げるような事象の発現はなく,小児患者での忍容性は良好であると考えられた.EPO-GMのPMS10)に登録された成人患者418名のうち,開始速度が1 ng/kg/分を超えた患者249名では投与開始日の副作用の発現割合が11%であったのに比べて,1 ng/kg/分以下で開始した患者169名では発現割合が4%と低かった.これらをふまえると,小児患者に対してはより低用量から投与を開始し,慎重に用量を調整することが,治療を長期的に継続するために必要であると考えられる.また,本治験では血圧が生理的範囲内ではあるものの低下する傾向を示していたことから,成人と同様に小児患者でも患者の状態を十分観察しながら慎重に用量を調節する必要がある.

試験の限界

本治験に制限をもたらす要因は,第一に被験者数が3例と少人数であり,治験で得られたデータのばらつきの影響を受けやすく,得られた結論の一般化可能性に留意する必要がある.第二の要素は試験デザインである.クロスオーバー試験のような同一条件での対照データがなく厳密な個体内比較ではないこと,非盲検試験であったため,WHO-FCや臨床全般印象度などの主観的評価では,評価にバイアスがかかる可能性は否定できない.しかしPVRIやその他の血行動態指標,NT-pro BNPは客観的な指標であり,非盲検の影響は受けないと考えられる.第三に本治験は統計学的な検証を目的として計画された治験ではなく,統計解析の結果は臨床評価の補足的意味を超えない.EPO-ASの有効性及び安全性を臨床的に評価・検証する治験であった.

結論

日本人小児PAH患者に対するepoprostenol新規製剤持続静注療法について,本邦における少数の患者に投与した結果であるが,PVRIの低下とWHO-FCの改善または維持が認められ,また,投与中止例・中断例がなかったことより安全性と忍容性が示された.

謝辞Acknowledgments

治験分担医師や治験コーディネーターなどの本治験に協力して下さった皆さまに謝意を表します.

治験責任医師等一覧(所属は実施当時):小野安生(地方独立行政法人 静岡県立病院機構 静岡県立こども病院),小垣滋豊(大阪大学医学部附属病院),土井庄三郎(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科小児・周産期地域医療学講座(小児)),中山智孝(東邦大学医療センター大森病院),山岸敬幸,福島裕之(慶應義塾大学医学部小児科),山田 修,津田悦子,岩朝 徹(国立循環器病研究センター小児循環器科)

資金源

本治験はアクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社がスポンサーとして資金を提供し実施した.メディカルライティングは,アクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社から協力を得た.

利益相反

日本小児循環器学会の定める利益相反に関する開示事項に則り開示します.八田基稔と横山由斉はアクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社の社員であり報酬を得ている.佐地 勉及び土井庄三郎はアクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社から講演料の支払いを受けた.佐地 勉の所属する心血管病研究先端統合講座はアクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社の提供する寄附講座である.

著者の貢献度

本論文作成には著者全員が関与した.

佐地 勉は治験デザイン検討,プロトコル作成,データ解釈,研究結果発表決定に関与した.治験の実施には山田 修,土井庄三郎,山岸敬幸が関与した.アクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社の横山由斉及び八田基稔は,治験デザイン検討,プロトコル作成,モニタリング,監査,データ収集,データ解析及び解釈,研究結果発表決定に関与した.

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