日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 34(1): 1-2 (2018)
doi:10.9794/jspccs.34.1

巻頭言Editorial

循環器診療における心電図の有用性をもう一度認識しようLet’s Recognize again the Usefulness of Electrocardiography in Cardiovascular Medicine

筑波大学医学医療系小児科Department of Child Health, Faculty of Medicine, University of Tsukuba ◇ Ibaraki, Japan

発行日:2018年1月1日Published: January 1, 2018
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日本小児循環器学会・日本循環器学会合同の学校心臓検診ガイドライン(班長:住友直方先生),日本循環器学会の遺伝性不整脈診療ガイドライン(班長:青沼和隆先生)や,小児心電図研究委員会(委員長:長嶋正實先生,吉永正夫先生,他9名)による学童標準12誘導心電図の基準値作成作業に参加させていただき,一部とは言え,貢献できたことは私にとって大変貴重な経験となりました.振り返れば小児科医になってからこれまで,日々の診療や学校検診において多くの心電図に接してきましたが,今でも通常の心電図から新たに勉強させられることが少なくありません.

研修医のころ教えられたのは,心疾患の患者さんを前にしたら,まずは聴診,身体所見の評価を行い,次に胸部エックス線と心電図を行って予想される心疾患と血行動態を自分なり考え,それから心エコーや心カテをしなさい,ということでした.まだ解像度の良い断層心エコーやカラードプラはない時期で,一方ではプロスタグランジン製剤が臨床で使用できるようになった時期でした.強いチアノーゼがあり,心雑音がなかった新生児に初めてプロスタグランジンを使用し,短時間のうちに聞こえ始めた連続性雑音,心電図で左軸偏位と右房負荷所見を呈した三尖弁閉鎖症(Ia)は今でもはっきり覚えています.今,同様の症例が入院したら,聴診をせずに心エコーを施行する小児科医が少なからずいると思います.近年の心エコーは格段に進化したため,短時間で詳細な心構造と血行動態を評価でき,的確な治療を開始できます.重症患者の救命のために心エコー検査が優先されることは間違いとは思いません.学校心臓検診においても,心電図で心房中隔欠損や左室肥大・右室肥大が疑われたときに,最終的に心エコーで判定されていることも事実です.しかし,不整脈診断はもとより,心電図でしか得られない情報は多く,ガイドラインと標準値が発行されたこの時期はその重要性を再認識するのに良い機会と思います.

不整脈以外で心電図の有用性を示す症例は数多く経験されます.たとえば,肥大型心筋症とアスリートに見られる左室肥大の鑑別において,前者では単なるQRS電位の増高だけでなく,異常Q波,左房負荷所見,左軸偏位,ST-T変化が高率に見られることは知られています.また,私が経験した重症な肥大型心筋症では,拡張相へ移行していくときに初めに見られた所見は心エコーによる心筋厚の変化でなく,RV5-6のわずかな減高でした.その後,急速に心収縮能が低下しました.最近,心エコー上の心筋厚が同じでも,R減高と心臓MRIのガドリニウム遅延造影(線維化)の程度が相関するというレポートも出ています.ファブリー病の心筋肥大に対する酵素補充療法の効果も心筋厚の画像診断よりも心電図のQRS電位変化が先に現れるという研究成果も出ています.心室中隔欠損症の術後に右室二腔症が進行した自験例の多くは,RV1の増高が右室流出路狭窄の進行をよく反映していました.術後遠隔期に心室細動で突然死した学童では下側壁誘導に日内変動の大きなJ波が見られていました.振り返ると今でいう早期再分極症候群でした.

再分極過程を表すT波の評価は心電図診断のなかでも難しい領域ですが,学校検診で抽出すべき先天性QT延長症候群はこのT波の異常から診断されます.QT延長は言うまでもありませんが,QT時間が境界値でもT波形態に特徴があることが知られています.1995年にMossらがLQT1~3型それぞれに特徴的なT波形態を報告したことはあまりにも有名ですが,それは視覚的な定性診断であってもT波には極めて重要な情報が含まれることを示していました.当時のサンプリング周波数500 Hzに比べると,近年は2000 Hz以上のデジタルデータの収集も可能で,多変量解析の適用も可能となりました.Morphological Combination Score(MCS)というT波形態解析法が一部商業ベースで利用できるようになり,LQT1とLQT2の鑑別における有用性などが報告されています.私たちのグループでも,独立成分分析や主成分分析など,MCSよりもさらに有用な方法の臨床応用について現在検討を行っています.

学校検診は学童の心事故や心臓突然死をゼロにすることを目的としています.もう一度,標準12誘導心電図の重要性を認識し,今回発表された学校心臓検診ガイドラインや学童心電図の標準値を,その目的に向かって有効に活用していきたいものです.また,多くの有用な情報が含まれている身近な心電図データを利用して,臨床研究を推進していきたいものです.

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