日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 33(6): 438-440 (2017)
doi:10.9794/jspccs.33.438

Editorial CommentEditorial Comment

遺伝子型と表現型に基づいた先天性QT延長症候群の診療Phenotype and Genotype Guided Clinical Management of Pediatric Congenital Long QT Syndrome in the Recent Era

大阪市立総合医療センター小児不整脈科Pediatric Electrophysiology, Osaka City General Hospital ◇ Osaka, Japan

発行日:2017年11月1日Published: November 1, 2017
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先天性QT延長症候群(LQTS)

LQTSは心電図上のQT時間延長とtorsades de pointesと呼ばれる心室不整脈を特徴とする疾患である.古典的には常染色体優性のRomano–Ward症候群(1963年)と,両側感音性難聴を伴い,より重症な不整脈を示す常染色体劣性のJervell and Lange–Nielsen症候群(1957年)に分類されていた.1995年に心筋細胞カリウムチャネルをコードするKCNH2がLQT2原因遺伝子として報告された以降,現在までに心筋活動電位を形成するイオンチャネルや細胞膜蛋白をコードする15遺伝子が,LQTS発症に関与すると判明しており,遺伝学的にheterogeneousな症候群である1)

患者の過半数を占めるLQT1-3については,型特異的な心電図異常・心事故の誘因・自然経過・薬物有効性の違いが明らかであり,型別の生活指導や治療が行われている.不整脈の誘因は,LQT1では運動特に水泳,LQT2では突然の大きな音や妊娠出産,LQT3では安静時であることがよく知られている.症状が好発する年齢・性別も重要である.LQT1は10歳代までの男児,LQT2では思春期以降とくに産後女性は心事故に注意する必要がある.β遮断薬はLQT1に著効,LQT2は有効,LQT3女性には有効である2, 3).近年は型別にとどまらず,遺伝子変異部位や変異タイプ,変異による機能異常による臨床病態の違いも解析されるようになってきた.例えばLQT1では,チャネル蛋白膜貫通領域やポア領域やCループの変異がハイリスクと考えられている1)

LQTSは単一遺伝子疾患で多くは常染色体優性のメンデル遺伝形式をとるはずであるが,浸透率は必ずしも100%ではない.他の単一遺伝子疾患同様,その発症においては修飾因子や環境因子の影響を強くうけることが判明してきた.病原遺伝子キャリアでも,生涯無症状のものから生後すぐ突然死に至るものまで様々であり,遺伝型と表現型の関係は以前に考えられていたよりもはるかに複雑であることが,臨床医を悩ませる一因となっている.

先天性QT延長症候群のリスク層別化

本邦では,学校心臓検診という独自の集団ベース心電図スクリーニングが行われている.「QT延長」の頻度は1,000人あたり小学生0.10,中学生0.24,高校生0.28とも報告されており4),抽出されたこれらをリスク層別化してどのように対処していくかは極めて重要な問題である.

2003年にPrioriらは,LQT1-3遺伝子変異が同定されたLQTS 647例を対象とし,40歳までに発生した心事故(失神・心停止・心臓突然死)と性別,補正QT時間(QTc)の関連を検討し,「遺伝子型と性別による先天性QT延長症候群のリスク層別化」を報告した5).2013年GiudicessiらはPrioriらの報告を更に深化させ「遺伝子型と表現型に基づくリスク層別化」としてレビューしている1).そこではPrioriらの報告を一部改変して40歳までに心事故が発生するリスクを,Extremely High Risk(≧80%),High Risk(≧50%),Intermediate Risk(30–49%),Low Risk(<30%)に層別化している.Extremely High Risk群に分類されるのは,遺伝子型ではTimothy症候群(LQT8:CACNA1C変異により重度QT延長に自閉症や合指症を合併する)やJervell and Lange–Nielsen症候群(KCNQ1またはKCNE1変異のホモ接合体)などであり,臨床症状では18歳までに10回以上の心症状を認めるものである.この群の治療としては,交感神経節切除や植込型除細動器などの,侵襲的治療介入が突然死予防に必要である.High Risk群に分類されるのは,遺伝子型にかかわらずQTc≧550 msのもの,QTc≧500 msのLQT1・2,LQT3男性,遺伝子型ではcompound mutation(1つの遺伝子に2つ以上の変異をもつヘテロ接合体)やdigenic mutation(2遺伝子に変異を認めるもの),臨床症状では18歳までに2回以上10回未満の心症状を認めるものである.この群では薬物治療,交感神経節切除,植込型除細動器を組み合わせて治療を行う.Intermediate Risk群に分類されるのは,遺伝子型にかかわらずQTc 500–549 msのもの,QTc<500 msのLQT2・3女性とLQT3男性,QTc≧500 msのLQT3女性,18歳までの心症状が1回のものである.この群ではβ遮断薬など何らかの治療介入を必要とすることが多い.Low Risk群に分類されるのは型にかかわらずQTc<500 msのもの,QTc<500 msのLQT1, LQT2男性,18歳まで無症状の患者であり,この群の治療は必要があれば個別に行われる.

先天性QT延長症候群の遺伝子検査の実際

LQTSの遺伝子検査適応については,2011年にHeart Rhythm Society(米国)/European Heart Rhythm Associationが合同で発表したExpert Consensus Statementで次のように記載されている.ClassI適応は(1)病歴,家族歴,心電図所見(安静時心電図および運動/薬物負荷による誘発)によりLQTSが強く疑われる患者,(2)電解質異常などの二次的要因がなく,一連の安静時12誘導心電図でQTc>480 ms(思春期前)または>500 ms(成人)の無症候性患者,(3)LQTS遺伝子変異が同定された発端者の家族における変異部位のスクリーニング,ClassIIb適応は,一連の安静時12誘導心電図でQTc>460 ms(思春期前)または>480 ms(成人)の無症候患者である6)

遺伝子検査の方法としては2005年頃からは次世代シークエンサーを用いた解析が行われるようになり,ゲノム解読技術が飛躍的に進歩した一方,病原性不明のバリアントが同定される率も高くなり,その解釈においては慎重な対応が求められる.2011年American College of Medical Genetics and Genomics/Association for Molecular Pathologyは共同で,同定されたバリアントの解釈についての基準と指針を発表している7).LQTSについては,2017年にはMayo Clinicのグループが,同定されたLQT1-3遺伝子のバリアント解釈について報告している.病原性バリアントの一般的な判断根拠としては,Major Criteriaとして(1)複数世代で疾患とバリアントの共分離が見られること,(2)健常者コントロールや一般人口のエクソーム/ゲノムに見られないか極めてまれな発現頻度であること,(3)Radical mutation(ナンセンス変異・フレームシフト変異・挿入欠失変異),(4)アミノ酸変異の部位(例として,KCNQ1, KCNH2, SCN5Aの膜貫通領域やポア領域),Minor Criteriaとして(1)in vitroで電気生理学的変化をきたすこと,(2)複数の蛋白機能予測ツールにおいて病原性と判断されることを挙げ,さらに独自の型別病原性診断アルゴリズムを提唱している1).LQTSの診療にあたる臨床医は,遺伝子検査の報告書を読み解き,その臨床的意義についてよく理解する必要性がある.

本邦では先天性QT延長症候群の遺伝子診断は2008年4月1日付で保険診療として承認された(2017年12月現在,遺伝学的検査3880点,遺伝カウンセリング500点).各遺伝子のうちLQT1-3型が過半数を占めるため,通常はこれら3つの原因遺伝子KCNQ1, KCNH2, SCN5Aをサンガー法でスクリーニングする.一部では網羅的遺伝子検査を施行している機関もある.遺伝子診断にあたっては日本医学会の「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」(2011年)8)に基づき,遺伝カウンセリングと連携して診療を行うのが理想であるが,実際は小児循環器科の一般診療の中で行われていることが多いと考えられる.小児循環器領域全般にあてはまることであるが,我が国においては小児循環器疾患/遺伝性不整脈疾患専門の臨床遺伝専門医および認定遺伝カウンセラーの育成も,今後の課題であると考えられる.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである. 古川卓朗,ほか:無症候の両親にそれぞれSCN5AおよびKCNQ1の変異を認め,異なる遺伝伝達および表現型を示したQT延長症候群の三姉妹例.日小児循環器会誌2017; 33: 431–437

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