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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(2): 78-86 (2016)
doi:10.9794/jspccs.32.78

ReviewReview

2D Speckle tracking法を始めようLet’s Start Speckle Tracking Echocardiography

埼玉医科大学総合医療センター小児循環器科Pediatric Cardiology, Saitama Medical Center Saitama Medical University ◇ Saitama, Japan

発行日:2016年3月1日Published: March 1, 2016
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Speckle tracking法は,B-modeエコー画像上の小斑点(speckle)を追跡する手法である.組織ドプラの角度依存性の弱点を克服し,心筋局所の機能だけでなく,壁運動の協調・同期不全・虚血や,心室全体としての機能(グローバル・ストレイン)を評価できる.本法の測定値にはメーカーによる差異があること,臨床でどのように検査結果を活かしたらよいかの明瞭なガイドがないこと,など課題が多いが,局所と全体,同期を簡単に同時評価できる優れた方法である.本機能を搭載した最近のエコー機器を用いれば,基本断面を正確に描出できる検者であれば容易に使用を開始できる.解析結果は,心電図を付けて明瞭なB-modeを記録すること,どの指標を測定するか選択すること,関心領域を指定すること,以上3点で簡単に得られる.しかし本法は比較的新しく,一見難解な印象があり,小児循環器医のなかでも必ずしも使用は拡大していない.本稿では2D Speckle tracking法の使用開始にあたり必要なポイントと基礎知識を概説する.

Speckle tracking echocardiography tracks the motion of a small area within the cardiac muscle. It is a useful clinical tool to simultaneously assess the local and global functions, as well as the cardiac synchrony or dyssynchrony. It has overcome the issue of angle dependency, a limitation of tissue Doppler imaging. When using a modern echo machine with this function, echocardiographers capable of acquiring clear images of the apical 4-chamber and short axis views can easily begin using speckle tracking echocardiography. The following three steps are required to obtain analysis results : 1) clear recordings of a B-mode motion video with electrocardiography; 2) selection of the type of analysis; and 3) specifying the region of the interest. However, not many pediatric cardiologists perform speckle tracking echocardiography, partly because it is percieved as complicated. This review will summarize the important basic knowledge and limitations needed to start using Speckle tracking echocardiography.

Key words: strain; strain rate; dyssynchrony; global; GLS

緒言

Speckle tracking法1)は,B-modeエコー画像上の小斑点(speckle)を追跡し,心筋局所の機能だけでなく,壁運動の協調・同期不全・虚血や,心室全体としての機能(グローバル・ストレイン)も同時に評価できる比較的新しい心エコーの評価法である.組織ドプラ法では,エコービームに直交する方向の解析はできなかったが,Speckle tracking法は組織ドプラ法の角度依存性を克服し,あらゆる方向の移動を追跡できる.本機能を搭載した最近のエコー機器を用いれば,基本断面を正確に描出できる検者であれば容易にSpeckle tracking法を使用を開始できる.

しかし本法は,一見難しそうに見えること,具体的な評価法や検査結果を臨床にどう活かすかがわかりにくいことなどから,小児循環器医のなかでも使用開始するまでの敷居が高く,必ずしも広く使用されていない.2015年の小児循環器学会教育セミナー参加者に,これまでSpeckle tracking法を自ら実施評価したことのある方に挙手いただいたところ,約1/3程度にすぎなかった.しかし,基本断面を正確に描出できる検者であれば,Speckle tracking法の実際の施行は非常に簡単である.小児のSpeckle tracking法の詳細は優れた総説1–3)があるのでご参照いただき,本稿はこれまでSpeckle tracking法を自ら施行した経験のない方を対象に,本法を目的を持って使用開始するために必要なポイントと基礎知識をまとめたい.

ストレイン

ストレインとは,ひずみである.ある2点間の距離がどれだけ変化したかの割合(%)である.50 mmが40 mmになれば,−20%となる.Speckle tracking法は,心筋のストレインを定量できる.Fig. 1は,ゴルフ・ボールを打ったときの模式図である4).この現象では,水平方向には長さが短くなりストレインは負だが,垂直方向には長さが増すのでストレインは正である.このように立体をどの方向から見るかによりストレインの正負,値は異なる.心エコーで見る3方向は,Fig. 25)に示すように,短軸(radial),円周(circumferential),長軸(longitudinal)の3方向である.それでは,なぜ異なる方向から見るとよいだろうか?

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Fig. 1 A schematic presentation of the shape of a golf ball

(a) The golf ball stationary. (b) The change of the shape upon hitting. Shortening occurs horizontally (negative strain) but lengthening is evident in the perpendicular direction (positive strain).

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Fig. 2 The relationship between muscle fiber directions and strain. Blue, yellow, and red arrows indicate radial, circumferential, and longitudinal directions, respectively. Reprinted with permission from Seo et al.5) (modified).

左室心筋は3層構造であることが知られ5),心内膜側,心外膜側,その間の心筋中層の3層からなり,3層で心筋線維の走行の方向が異なる(Fig. 2).図のように,心筋線維は,心内膜下であれば長軸方向が,中層では円周方向が主である.すべての方向で低下していれば全周性の障害を疑うが,長軸方向のみの低下であれば心内膜下の,円周方向のみの低下であれば中層に特化した障害を疑う6)

Speckle tracking法は,B-modeエコー画像上の小斑点,つまり心筋の中に見える白いつぶつぶ(speckle)を追跡し,2点間のひずみ=ストレインを計測する.QRSの始点=拡張末期=収縮開始から,短軸方向には厚みを増すのでストレインは正,円周方向と長軸方向には反対にストレインは負の値をとる.まぎらわしいが,絶対値が大きいほど,良好にひずめている,すなわちよく収縮できていると解釈する.ストレインの時間変化(微分)がストレイン・レートである.

指標

Table 1に,米国心エコー図学会の2D Speckle tracking法ガイドライン(GL)のパラメータ一覧を示す7).GLに挙げられているだけで14個と指標が多い.意気消沈しやすいが,よく見ると,方向が短軸・円柱・長軸の3方向,計測がストレイン,ストレイン・レート,移動距離(displacement),速度(velocity)の4種,その組み合わせでほとんどである.ほかに円周方向の心臓の立体的な挙動であるねじれ・ほどけの角度成分評価としてrotation,rotation rateが加わる.本稿は簡単なのに敷居の高いSpeckle tracking法の導入促進を目的とするため,最も基本的な評価項目であるストレインを中心として概説する.

Table 1 Recommended names, abbreviations, and units for 2D speckle tracking-derived parameters7)
ParameterUnit
Longitudinal velocitycm/s
Longitudinal displacementmm
Longitudinal strain rate1/s
Longitudinal strain
Radial velocitycm/s
Radial displacementmm
Radial strain rate1/s
Radial strain
Circumferential velocitycm/s
Rotation rate°/s
Circumferential displacementmm
Rotation°
Circumferential strain rate1/s
Circumferential strain

計測の実際

Speckle tracking法が搭載された心エコー機器で,以下の三つを行うだけで,簡単にSpeckle tracking法の結果が得られる.①心電図をつけてきれいなB-mode動画を記録する,②何を測るかを選択する,③関心領域(ROI)を指定する.メーカーごとに差異が多少あっても,原則は同様である.

  • ① 短軸方向・円周方向は,傍胸骨短軸断面を,長軸方向は心尖部断面を基本として,心周期全体の対象心筋を画角におさめて動画記録する.
  • ② 短軸・円周・長軸の3方向のうち,いずれの方向の,何(ストレイン,ストレイン・レート,その他)を測るのかを選択する
  • ③ 心筋の関心領域(ROI)を決めるため,心内膜・心外膜を決める

例として,TOSHIBA Aplio 400®での操作例を挙げる.細部は機種・メーカーにより操作に相違があるが,やることの本質には相違はない.②③のプロセスの実際を提示することで,非常に簡単にSpeckle tracking法の解析ができることをお示ししたい.

B-modeで短軸動画を心電図を付けて撮像しておく.その画面を選択して2DT(2D tracking)ボタンを押すと,測定画面が聞かれるので断面を選択する.短軸,どのレベルの短軸かを選択する.次に短軸(radial),あるいは円周方向(circumferential)のストレインを選択する.心内膜を9時から半時計方向にトレースするように指示がでるので,心内膜をクリックして指定していき,最後にダブルクリックすると心内膜面が決まる.次に心外膜面を指定するように指示が出るので,それに沿って9時から半時計方向にクリックして指定していき,最後にダブルクリックして心外膜面を確定する.心内膜面・心外膜面がひとまず決まったら,スタートボタンを押すと解析結果と,心筋に対していかにトレースしたかが表示される(Fig. 3).ここで重要なのは,動画を表示してROIが心周期にわたってきちんと心筋を捉えているかをよく観察し,適切でなければROIを補正することである.(この段階で補正できるので,最初のROI指定はおおらかに行ってよい.)1回ROIを決めておけば,同じROIで,短軸方向から円周方向(あるいはその逆)の切り替え・結果表示,ストレイン・レートへの切り替え・結果表示は一瞬で完了する.

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Fig. 3 Examples of strain curves

(a) Radial strain and (b) circumferential strain in the patient following an arterial switch operation for transposition of the great arteries.

同様に長軸方向は,心尖部四腔断面,二腔断面,三腔断面を動画で撮像しておく.その画面を選択し,2DT(2D tracking)ボタンを押すと,まず画面選択を聞かれるので,心尖部四腔断面等を選択する.次に測定するものとして,長軸方向のストレインを選択する.ROI指定の画面の指示に沿って,僧房弁付着部の左側と右側の2点をまずクリックして指定し,次に心尖部を指定する.この心内膜側の3点だけで,心筋全体のおよそのトレースがなされる(Fig. 4(a))ので,そのまま,あるいはROIの微調整を行ってからスタートを押す.ROIが不適切であれば微調整を繰り返す.これで長軸方向のストレインの解析結果が表示される(Fig. 4(b)).動画上でROIが心周期にわたってきちんと心筋を捉えているかの確認と,必要に応じた微調整を行う.同じROIでストレイン・レートへの切り替え・結果表示が一瞬で可能である.

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Fig. 4 Examples of longitudinal strain curves

(a) Trace of the myocardium in the apical 4-chamber view; (b) local and (c) global longitudinal strains (GLS) in the patient after an arterial switch operation for transposition of the great arteries.

ここまでで得られた結果は,心筋の各部位毎の複数の時間–ストレイン曲線である.全体の平均的なストレインがグローバル・ストレインで,とくに長軸方向のグローバル・ストレインをglobal longitudinal strain(GLS)といい,心室全体の収縮性指標として最近報告が増加している8–11).GLSを表示するには,画面左上からFormatを選択し,左中のGlobalからonまたはonlyを選択するとGLSのカーブが得られる(Fig. 4(c))ので,そのピークの値を記録すればよい.文字での説明は長くなるが,実際は動画がきれいにとれていれば,1~2分程度の所要時間で,簡便に解析できる.その上で,肉眼でtrackingしていない部位があれば,その部位のストレイン曲線は計算から除外する.

心室全体の機能:グローバル・ストレインと駆出率

GLSは心室全体の収縮性の指標として優れ,駆出率と優劣が比較検討されるまでの位置付けになってきた8–11).ストレインの日本人の基準値は,GE,TOSHIBA,Phillipsを用いて詳細に報告されている12)Fig. 5).心不全を対象とした検討で,GLSと駆出率を比較検討すると,Fig. 6のような緩やかな相関関係があるものの,同じ駆出率に対しGLSが大きく異なり得る13)ことも読み取れる.

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Fig. 5 Effect of vendors on the relationship between age and global longitudinal strain (GLS). The absolute values of GLS exhibited an age-related decrease in two vendors but not in one vendor. Reprinted with permission from Takigiku et al.12)

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Fig. 6 The relationship between the ejection fraction (EF) and global longitudinal strain (GLS). Reprinted with permission from Benyounes et al.13)

いずれも,どれだけ縮めたかの指標である駆出率とGLSのばらつきは,どのように解釈したらよいだろうか.一つは駆出率の再現性の問題(test-retest variablility)が挙げられる11).断層像の取り方や心内膜面をいかにとらえるかは,駆出率にもGLSにも影響を与えるが,これらが結果に与える影響が,駆出率でより大きい可能性が挙げられる.しかし,それが大きな要因とは考えにくい.もう一つは,biplane Simpsonで得られた駆出率は立体全体の挙動を見たものであるが,GLSは長軸方向に特化した観察である.心筋機能障害が心内膜面から,したがって長軸方向から障害される9)ことは多く,短軸方向で代償される場合には,駆出率は保たれるがGLSは低下する.したがって病初期の検出には駆出率よりもGLSの検出感度が高いことがあり得る.GLSが長軸方向に特化した指標である点は,駆出率とGLSの相違を解釈する上で重要と思われる.

それではGLSと駆出率などの従来指標で,いずれが予後を良好に予測するだろうか.成人慢性心不全患者(駆出率31±10%)における,心血管死,心移植(または補助人工心臓植え込み),心不全再入院をエンドポイントとした前向き研究でGLS不良例ではイベント発生率が高く(Fig. 7),心不全患者の予後予測は,GLSが,駆出率,ストレイン・レート,組織ドプラより優れていた8, 9).その後もGLSは,予後予測において駆出率に勝る状況が報告されてきている10, 11)ことから,今後駆出率とともに,レポートすべき収縮性の基本項目になっていくかもしれない.

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Fig. 7 Kaplan–Meier survival curves for adverse outcomes (e.g., death, cardiac assistance or transplant, or recurrent heart failure) in adult chronic heart failure patients with a reduced ejection fraction. Patients with reduced global longitudinal strain (GLS) had a worse outcome. Reprinted with permission from Nahum et al.9) (modified)

しかし,簡便にGLSが得られるとしても,駆出率は今後も大切な指標である.駆出率は一回拍出量の拡張末期容積に対する比,膨らんだ心臓のどれだけ縮めたか,拍出できたかの割合である14).駆出率は心室大血管統合関係やエネルギー効率と密接に関与し,シンプルで大切で代表的な,心室全体を捉える,よりグローバル指標だからである.TOSHIBAの場合,ストレインを求めるためのROI指定の結果として,駆出率と拡張末期および収縮末期容積もストレイン解析の画面に表示されて便利である.ほかでもそのような両者を同時に得る表示を期待したい.

GLSをはじめとしたSpeckle tracking法を用いたグローバルな心機能について述べてきたが,元来Speckle tracking法は,心室全体でなく,心室局所を評価できることを長所として発展してきた.次項では心筋局所の評価について概説する.

局所の壁運動と同期不全の評価

虚血や炎症などによる心筋障害は心筋に一律に生じるとは限らず,これまで肉眼的に正常収縮(normokinesis),低収縮(hypokinesis),無収縮(akinesis),奇異性収縮(dyskinesis)が分類,報告されてきた(循環器超音波検査の適応と判読ガイドライン(2010年改訂版)日本循環器学会).Speckle tracking法は,こうした壁運動異常を定量的・客観的に評価できる.ここではSpeckle tracking法を用いた同期不全の診断・評価と,心室再同期療法(CRT)でどこに電極を置いたらよいかの考え方について記述する.

同期不全の所見としては,Septal flashとpost systolic shortening(PSS)といった壁運動異常パターンの有無と,各部位の収縮時相のずれの定量評価2, 15)が重要である.

Septal flash(Fig. 84)は心室内圧が十分に上昇していない等容収縮期に,心室中隔が先んじて収縮し,内外にペコペコと震えるような異常な動きであり,CRT有効例を予測する同期不全の重要な所見である2).PSSは,収縮期終了後の収縮(Fig. 916)で,ほかの部位のピークが収縮期であるのに比して,収縮期を超えて遅れて収縮するものを言う.正常例でも認めることがあるため,PSSの存在が即異常ではないが,成人ではFig. 9のように大動脈弁閉鎖点のストレインが低下し(細矢印),大動脈弁閉鎖後90 ms以上持続するPSSがあれば病的な可能性が高い16)とされる.このようにSpeckle tracking法は見た目では捉えがたい,あるいは異常と認識できても報告しにくい心筋壁運動の異常を,時間軸に対する部位毎の運動変化の異常として可視化できる.

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Fig. 8 The typical dyssynchrony pattern in the radial strain by speckle tracking with a septal flash and post systolic shortening (PSS) in a dilated cardiomyopathy patient with a complete left bundle-branch block. Septal flash or early systolic shortening (ESS) in the anteroseptal (red) and inferoseptal (yellow) portion was observed as shown by the red arrow. This occurred during early systole before the left ventricular pressure had sufficiently increased. PSS isshown by red dashed arrows, which denote the contraction following aortic valve closure. Reprinted with permission from Abe4) (modified)

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Fig. 9 A typical dyssynchrony pattern with post systolic shortening (PSS) in a longitudinal strain by speckle tracking. PSS is indicated by the arrow, which occurred following aortic valve closure. Reprinted with permission from Asanuma et al.16) (modified)

CRTの適応症例(Table 2)をいかに心エコーで抽出するかは定まっていない.Table 2の基準に加え,心室内,心室間,心房心室間に機械的同期不全が存在することが重要であり2),その解消がCRTの直接のターゲットである.CRTを行う際に,どこにペーシング電極を置くかはCRTの成功・不成功を左右する最重要項目であり2),心エコーのSpeckle tracking法を用いた同期評価15)が非常に参考になる.エキスパート・オピニオンとして,心電図のR波からもっとも収縮のpeakが遅いsegmentに一方のペーシング部位をまず設定し,もう一方は,心臓全体を包み込み,最大心拍量が得られる部位とする戦略が紹介されている2, 17).この戦略を基本とし,至適ペーシング部位の確認・同定を行うことが多く行われている.部位を少しずつ変更しながら,その箇所でペーシングが実際に可能か,その他の部位より心拍出量が多いか,平均大動脈圧はどうか,左室dp/dt maxはどうかを確認する.体血管抵抗はペーシング変更により短時間では著変しないため,心拍出量変化は平均大動脈圧変化によりおよそ評価できる.したがって大動脈平均圧はシンプルでリアルタイムのモニタリング指標として有用である.左室dp/dt maxは前負荷が大きく変わらない状況では収縮性変化を良好に反映し18),比較的リアルタイムに表示できるため,参考になる.しかし,小児でペーシング至適部位を適切にガイドするために,どのようにSpeckle tracking法を使用したらよいかについて,科学的根拠が十分に確立されているとはいえない.また仮にガイドラインが策定されたとしても上述のような患者毎の検証は必要であり,今後の知見の集積が必要である.

Table 2 A general indication of CRT in adults and children2)
AdultsChildren
NYHA III–IVSystemic ventricular failure
ECGLBBBLBBB (anatomical systemic left ventricle)
RBBB (anatomical systemic right ventricle)
Intraventricular conduction disturbance (single ventricle)
ECG (QRS interval)QRS>150 msQRS>150 ms
Ejection FractionLVEF<35%Systemic ventricular EF<35%
CRT, cardiac resynchronization therapy; ECG, electrocardiography; NYHA, New York Heart Association functional class; LBBB, left bundle-branch block; RBBB, right bundle-branch block; LVEF, left ventricular ejection fraction.

Speckle tracking法を用いるための撮像の留意点

Speckle tracking法では,元となる良質なB-mode動画記録が何より重要である.心エコー機器の心電図を貼付して,斜め切りでない明瞭なB-mode動画を記録する.さらなる計測のポイント(Table 33, 8)として,画角は狭く,深度を浅くし,フォーカスを左室短軸では心室中隔付近に,心尖部断面では心室中部から心基部付近に当てる3).Speckle tracking法はエコー上の小斑点を追跡するものであるから,gainは通常よりやや高めに設定し3),特に心内膜面を良好に描出する.小児の場合,Frame rateはほぼ心拍と同等に適切に確保する(機種によってはフレームレートが心拍に比して遅いとtrackingができない.またtrackingをして結果が出たとしても,ストレインやストレイン・レートのピーク値を過小評価する場合がある.フレームレートが速すぎてもtrackingの精度が低下する).

Table 3 General tips for data acquisition for speckle tracking echocardiography
Adults8)Children3)
GainClear and fine image, especially in the endocardiumSlightly higher gain than usual 2D
Frame rateMore than 2/3 of heart rate60–80 (−120) fps
If too fast, azimuth resolution will be worsened
Angle of viewNarrow
DepthShallow
FocusIVS level in LV short axis
Mid to basal of LV in apical view
Cross-sectionAccurate plane
Avoid diagonal cutting
All muscular layer in the angle
fps, frame per second; IVS, interventricular septum; LV, left ventricular.

Speckle tracking法の問題点と今後の課題

現在のSpeckle tracking法の自動解析機能はまだ十分ではない.さらなる自動解析精度の向上が期待されるとともに,現状では肉眼でトラッキングを確かめ,不良部位を除外することが精度を上げるために必要である.

日本で施行された大規模多施設共同研究であるJUSTICE研究は,メーカー3社によるSpeckle tracking法のストレイン測定値を検討し,各メーカーの算出する3方向のストレイン値は異なり,互換性がないことを明らかにした12).例えばFig. 5に示す通り,GLSは,GEでは年齢依存性を認めないが,TOSHIBA,Phillipsでは年齢とともにGLSの大きさが有意に減少した.ブラックボックスの中にある画像処理や演算過程に,決定的なメーカーごとの差異があることが考えられる.したがって現状での対処としては,検査レポートに測定エコーメーカー,機器名,解析ソフトウエアの明示が必要であり,同一患者のフォローで経時変化を検討するには,同一機種,同一解析ソフトウエア,同一断面で計測することが求められる.同一解析ソフトウエアでも,Versionが異なるとstrain等の結果が異なる場合があり,注意を要する.二点間距離の変化率というストレインの定義は簡明だが,心筋壁および心筋全体にどのように当てはめてグローバル・ストレインを算出しているかが不明で,かつ大きく異なっているのが現状と思われる.Speckle tracking法によるストレインを臨床で活かすために,メーカーを超えて測定値に互換性がでること,結局のところグローバル・ストレインは実際どのように算出され,したがってその生理的意義は何かがより明らかにされることが,今後期待される.

2008年に発表されたCRT有効性予測の大規模研究(PROSPECT trial)で,心エコーを用いた,組織ドプラ法による同期不全を含む評価は,CRT有効例を予測できず,QRS幅などの心電図指標を中心とする評価に対して有用性が科学的に示されなかった19).これに対し,Speckle tracking法を用いた同期不全評価によりCRT有効例予測を検討したSTART研究が2015年,日本から発表された.円周方向ストレインにおける最初のピークまでの時間の標準偏差が,CRT有効例を予測するSpeckle tracking法の指標として最良であった.しかし,そのCRT有効例予測のROC曲線解析のAUCは0.76にとどまるため,単独での予測よりほかの指標との組み合わせての評価がより大切と考えられた.この研究はSpeckle tracking法による同期不全評価がCRT有効例予測に有用であることを示す重要な研究であり15),小児において同様の展開が可能か,今後多数例での検証が期待される.

心筋壁運動は,ねじれ・ほどけのある,すなわち心尖部から見て,雑巾絞りのような回転を伴い,心基部と心尖部が引き寄せられる立体運動である.したがって,実際の心筋組織の移動は2Dエコーで描出された同一平面上ではなく,2D Speckle tracking法による同一平面上のSpeckleの追跡が,真の同一部位の追跡ではない.特に心尖部短軸断面の位置が心基部よりだと,測定される回転角度が過小評価されるので注意が必要である.3D Speckle tracking法が発展して時間分解能が大きく向上し,小児の早い心拍数に対応できるようになれば,より真実に近いSpeckle追跡の解析となり,適切な病態把握と治療への展開ができると期待される.

結語

Speckle tracking法は,局所とグローバル,同期不全を同時に評価できる優れた評価法である.その敷居の高さに反し施行は非常に簡単である.Speckle tracking法はいまだ多くのlimitationを有するが,個々の患者の病態生理に基づいたtailor-madeな治療法構築に向け,その役割は今後増大すると思われる.本稿が,Speckle tracking法施行を躊躇してきた心エコー検者の皆様が自ら検査施行に踏み出すきっかけになれば幸いである.

謝辞Acknowledgments

ご多忙の中,ご高閲をいただきました,長野県立こども病院循環器科 瀧聞浄宏先生,埼玉医科大学総合医療センター小児循環器科 先崎秀明先生に深謝いたします.

付記

この論文の電子版にて動画を配信している.

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