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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(6): 524-526 (2016)
doi:10.9794/jspccs.32.524

Editorial CommentEditorial Comment

左冠動脈肺動脈起始症を認識するには?How to Recognize Anomalous Origin of the Left Coronary Artery from the Right Pulmonary Artery?

神奈川県立こども医療センター循環器内科Department of Cardiology, Kanagawa Children’s Medical Center, Yokohama, Japan

発行日:2016年11月1日Published: November 1, 2016
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山本英範氏の論文「経皮的経カテーテル動脈管閉鎖術を契機に急性発症し診断に至った左冠動脈肺動脈起始症の1例」は,臨床上有意義で,かつ左冠動脈肺動脈起始症(ALCAPA)の診断の重要性を喚起するものとなっている.日常診療の中で比較的多く扱う動脈管開存や心室中隔欠損合併例もみられることから,今一度本疾病の可能性を念頭に入れた念入りなスクリーニングを肝に銘じる必要がある.

疫学

ALCAPAは,1886年にBrooksによって報告された稀な疾患である.1998年のFrescuraらの報告では,先天性心疾患1,200例の剖検例の27例の2%に冠動脈奇形を認め,このうちALCAPAは5例であった.Toronto Heart Registryでは,300,000出生児に1人の頻度としている.

心筋虚血から乳児期早期死亡また成人期の突然死を来す疾患である.こうした自然歴は不良のため,心筋虚血を来す前に外科的介入が求められている.

ほとんどのALCAPAは,単独で存在するが,稀に他の疾患と合併することも知られている.過去に報告されている疾患としては,心房中隔欠損,心室中隔欠損,本論文で取り上げられている動脈管開存,大動脈縮窄,大動脈離断,ファロー四徴に代表される円錐中隔異常や総動脈管症などがある.こうした場合に,術前にALCAPAの存在を確認することは,小児循環器科医にとって困難な場合が多い.心不全症状が,ALCAPAによる心筋虚血のみではなく,原疾患の血行動態によって引き起こされていることも一因と考えられる.

しかしながら,ALCAPAの存在が認識されることなく,原疾患のみの外科的手術が行われた場合に,術中や術後早期に惹起される急激な心筋虚血によって急性左心不全を来し,極めて予後不良の転機をとることは,過去の数多く報告によって明らかにされている.

病態生理

胎児期には,本疾患の存在は,胎児の循環状態に影響しないことが予想される.大動脈や肺動脈内の血圧や酸素飽和素度に差異を認めないからである.したがって心筋灌流はおそらく保たれており,側副血行路の発育を惹起する要因は見当たらない.しかしながら出生直後,肺血管抵抗の改善に伴い,また動脈管開存の閉鎖を認めてからは,肺動脈圧の急激な低下を来すだけなく,肺動脈内に酸素化されていない静脈血が循環するようになる.左冠動脈の血流によって成り立っていた左冠動脈領域の心筋灌流は,低圧系でかつ酸素化されていない血流にさらされることになる.当初は,低下した酸素運搬能を改善すべく,左冠動脈の末梢血管は拡張し,血管抵抗を低下させ,より多くの血流を確保すべく働くが,次第に酸素需用量を満たすことが困難となり,心筋虚血を生ずるようになる.酸素消費量が限られている乳児期早期には,心筋虚血は,酸素消費量が高まる涕泣時や哺乳時に限られ一過性であるが,活動度が高まるにつれ酸素消費量が増加し,anterolateral側の左室自由壁の梗塞を来すようになる.心拍出量の低下に伴い,冠灌流の減少にもっとも影響を受けやすいとされる心内膜下とくに前外側乳頭筋の虚血を認めるようになる.乳頭筋機能不全から,僧帽弁逆流を来すようになり,拡張した僧帽弁弁輪を認めるようになる.急激な僧帽弁逆流に伴う,左心系への容量負荷から肺うっ血などの重症左心不全症状を来すようになる.

生後間もないうちは,側副血行路はあまり発達していないが,正常右冠動脈と異常左冠動脈との間に連結が図られるように発達する.肺動脈圧が下がり,左冠動脈の冠血流が不足するに従い,側副血行路を介した肺動脈内へ盗血現象steal phenomenonを認めるようになる.肺動脈に比べ相対的に高い血管抵抗をもつ正常左冠動脈領域の心筋内を通過するよりは,肺動脈内へ流入するようにみられる.少量であるが左右シャントに加え,冠動脈から肺動脈への盗血現象がみられ,心筋虚血は増悪する.何らかの理由で,左冠動脈の冠血流が保たれ,成人期に達するのは15%とされている1)

いったん心筋虚血に陥った左室は拡張し,梗塞像や一部繊維化を認めるようになる.繊維化は左室心内膜面のみならず,乳頭筋や僧帽弁まで及ぶことがある.僧帽弁閉鎖不全はこうした弁形態の変化によって生じていると考えられる.

ALCAPAの未治療例の90%が,1年以内に死亡すると考えられている.

肺高血圧合併例のALCAPA

前述のように,多種の心疾患にALCAPAが合併することが知られている.なかでも太い動脈管開存や大きな心室中隔欠損合併例の場合,大きなシャント血流や直接動脈圧や左室圧の影響を受け,肺動脈圧が高い状態に保持されることがある.すなわち肺血管抵抗が充分に下がることが予想される時期においてもこうした疾患合併例では,肺動脈圧は高い状態で保たれている.こうした症例に対する動脈管開存や心室中隔欠損のシャント血流途絶だけを目的とする外科的治療の結果は大惨事catastrophicで,致死的である.

本論文の筆者らも言及しているが,Lauxら2)も,合併心疾患を有する12例のALCAPAの中で,術前に心奇形と冠動脈奇形の両方に対し正しい診断が得られていたのは4例にとどまったと報告している.合併する心奇形によりもたされる血行動態が,ALCAPAの症状をマスクするため,診断に至る困難さについて言及している.Awasthyら3)は,動脈管開存合併例のALCAPAを報告しているが,動脈管開存の術前評価で,乳頭筋の高輝度エリアや僧帽弁逆流を認めたことから,ALCAPAの可能性を疑い,診断に至っている.

カラードップラー使用前には,偽陰性率が50%であったとKudoら4)は報告している.短軸画面で大動脈と左冠動脈の連続性を確認する場合,あたかも左冠動脈が大動脈から起始しているかのような画像が得られることがある.本論文で言及されている通りなのであるが,カラードップラーを併用することにより,大動脈と左冠動脈との連続性がないことを確認し,かつ左冠動脈内に逆行性する血流を確認することによりALCAPAの診断が可能となる.側副血行路の血流量にも依存するが,右冠動脈内へ流れ込む血流量は健常児と比較すると増加しているため,右冠動脈は拡張している.また右室壁や心室中隔に微小な連続性シャント血流を数カ所確認できることがある.冠動脈内間の側副血行路と考えられる.心内膜面,乳頭筋や僧帽弁の一部に輝度が亢進していたり,繊維化を疑わせる所見や僧帽弁閉鎖不全の存在は,ALCAPAを疑わせる所見となる.

Wangらの2016年の報告5)では,大動脈と左冠動脈との連続性を確認する際に,通常の短軸画面からさらにプローベをねじると,左冠動脈の真の開口部が観察され,左冠動脈開口部から肺動脈内へ拡張ないし連続性シャント血流を確認できるとしている.カラードップラーは,ALCAPAの診断にcrucial clueをもたらす.

最終診断は,従来通りの造影カテーテル検査や造影CT検査により行われる可能性はまだ残るものの,児の状態が不安定であったり,心不全の状態がそうした侵襲的検査を許さない場合も経験する.未診断例の開心術の結果が,今日いまだcatastropheであることを考慮すると,心疾患のスクリーニングの際には,ALCAPAの可能性を念頭に入れ,カラードップラーを併用した冠動脈の観察を徹底すべきで,場合によっては,second lookや違う検者によるダブルチェックなどの用心を欠かさない努力が必要である.本論文を通して,改めてALCAPAの鑑別診断の重要性を再認識した次第である.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである. 山本英範,ほか:経皮的経カテーテル動脈管閉鎖術を契機に急性発症し診断に至った左冠動脈肺動脈起始症の1例.日小児循環器会誌2016; 32: 518–523

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