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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(6): 509-511 (2016)
doi:10.9794/jspccs.32.509

Editorial CommentEditorial Comment

先天性心疾患における3D Rotational AngiographyUse of Three-Dimensional Rotational Angiography for Congenital Heart Disease

岡山大学病院IVRセンター小児循環器科Department of Pediatric Cardiology, Interventional Radiology Center ◇ Okayama University Hospital, Okayama, Japan

発行日:2016年11月1日Published: November 1, 2016
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はじめに

先天性心疾患における心臓カテーテル検査,心血管造影,およびカテーテルインターベンションの際には,フラットパネルディテクター(FPD)を用いた二方向性撮影がスタンダードである.しかし,二方向性撮影では重なり合う構造物の分離が困難なことや,適切な撮影角度でなければ構造物を短縮して描出してしまうなどの二次元的画像診断に伴う制約が存在する.このような制約を解決するために,三次元的画像診断がまずCT, MRI等から広く応用されるようになってきたが,血管造影においてもFPDを回転させて撮影する3D Rotational Angiography(3DRA)が脳神経外科領域でまず応用されるようになり,先天性心疾患領域においても2010年頃より報告例が増加している1)

石垣論文の重要性

石垣論文は一施設での先天性心疾患に対する3DRAの経験をまとめた本邦初の原著論文であり,その撮影方法,再構築画像の提示,3DRAの適応や有用性,課題など詳細に報告している.現在積極的に3DRAを利用している施設だけでなく,装置はあるもののあまり利用していない施設や今後導入を検討する施設に勤務するスタッフにとっても非常に有益な論文であると思われる.

3DRA撮影の実際

石垣論文でも実際の撮影方法に関して詳細な記述はあるが,施設ごとに多少異なっている部分もあり,各施設からの報告を参考に実際に撮影を行うにあたって注意すべき点を中心に述べる.

1) FDPが高速に回転して撮影するため,麻酔機器等の周辺環境を整備し,安全に撮影ができるかを事前に必ず確認する.

2) 呼吸性変動による撮影の影響を最小限にするために,全身麻酔下では呼吸器一時停止を行うが,呼吸器一時停止の前には100%酸素2分間投与する2).覚醒下の場合は息こらえをしてもらう.

3) 良好な画像を得るために一時的に心拍出量を落とす目的で心室オーバードライブやアデノシン急速静注(0.1~0.4 mg/kg)を行っている施設も多い1–3, 6).心室オーバードライブは血圧,脈圧が50%以上低下することを目標に事前にテストし,設定する2).石垣論文ではグレン,フォンタン循環のいわゆるCavo-pulmonary connection(CPC)ではオーバードライブを併用していないが,CPCでも併用している施設もある2).一方で,二心室修復後の肺動脈造影や大動脈造影においてもオーバードライブを併用せずに良好な画像描出を報告している施設もある4, 5).血流が層流に近いCPCではオーバードライブを併用しないという石垣論文の選択は妥当なものと考えられる.またGlöcklerらは1例食道ペーシングを用いて撮影を行ったが,アーチファクトのため良好な画像が得られなかったと報告6)しているのは今後の参考になる.

4) 石垣論文でも関心領域の手前から多側孔のカテーテルで注入との記載があるが,Zahnら1)も二方向性撮影の際に行うように関心領域内に多側孔カテーテルを位置決めするよりも3DRAの場合は関心領域の手前に位置決めする方が良好な画像が得られると報告している.

5) 撮影条件としては統一されたものはなく,様々な報告がある.Bermanら1, 2)は2~3倍希釈造影剤を造影剤として0.5~2 mL/kgを5秒かけて投与し,0.5秒のdelay timeを設定して200°の範囲を4~5秒かけて画像収集する.Faganら3, 4)は1.5倍希釈造影剤を,対象領域が二心室修復後の肺動脈造影や大動脈造影では造影剤として2 mL/kg,CPCでは造影剤として1 mL/kgをdelay time 1秒で240°の範囲を4秒かけて画像収集する.Glatzら1)は2倍希釈造影剤を造影剤として1.5 mL/kg,190°の範囲を5秒かけて画像収集するが,delay timeは対象領域がCPCでは0.5~1秒,二心室修復後の肺動脈造影では1秒,肺静脈では5秒としている.Glöckler6)もdelay timeを対象領域別に分けて報告しており,二心室修復後の肺動脈造影や大動脈造影では1~2秒,CPCでは2~3秒,肺静脈では5~6秒としているが,特に肺静脈の場合は時に透視下でテストショットを行いdelay timeを決定するとしている.石垣論文では2倍希釈造影剤を造影剤として2 mL/kg,200°の範囲を5秒かけて画像収集とされているが,対象領域として肺静脈は含まれていないため肺静脈を対象領域として考慮する場合はGlatzやGlöcklerらの報告が参考になると思われる.

3DRAの利点

他の三次元的画像と同様に任意の角度からの立体的な病変観察が可能で,収集した画像から迅速な三次元再構築やmultiplanar reformat(MPR)を作製し,任意の断面からの計測,ワーキングアングルの選別や,透視上に収集した画像を投影する3Dロードマッピングを利用できるという点は石垣論文の中にも詳細に述べられている通りである.また石垣論文では再構成時間を要するため気道情報の提供は行っていないとあるが,3DRAにより血管と気管,食道,骨等の周辺臓器との空間的な位置関係も評価可能で有用であると多く報告6, 7)されている.3DRAにより肺動脈狭窄の原因が拡大した上行大動脈による圧迫や,中心肺動脈のねじれ等と特定でき,気管との位置関係も確認した上でステント留置を施行している例も報告3)されている.また3DRAの利点として従来の二方向性撮影と異なりmanual calibrationを行わなくてよいため,計測誤差がより少なくなる可能性も指摘3)されている.

3DRAの課題

3DRAは三次元的画像を提供してくれる優れたツールであるがいくつかの課題も存在する.3DRAは冠動脈の描出にも有用ではあるが,末梢の冠動脈瘻や冠動脈瘤では鮮明な画像が得られにくいことが指摘4)されている.また3DRAでは非常に強い狭窄やステントに近接する部位が造影されない“drop out”という現象がみられることがGlatzらより報告1)されているが,それにも関連してManicaらはステントの破損や,血管内膜の過形成に関しては従来の二方向性血管造影の方が3DRAより得られる情報量が多いと述べている8).またこれは3DRAの特性に起因するのだが,構成される画像は撮影時間内の平均加算された静的なものであって心周期を反映する動的な画像ではない.そのため,血管拍動の影響が少ないCPCでは従来の二方向性血管撮影と3DRAとの血管計測における良好な相関も報告されている3, 7)ものの,3DRAでの計測値は平均加算値ということを常に念頭に置く必要がある.心周期も考慮する動的な3D画像構築のためには次世代の四次元画像構築の可能な装置の出現まで待たなければならない.

被曝線量

総被曝線量に関しては従来の二方向性血管撮影と比較して3DRAの方が多くなるという報告8)もあるが,フレームあたりの放射線量の低減や,フレームレートの削減,散乱線除去用グリッドを体格によっては使用しない等の工夫を行えば同等程度になるとの報告も多い1, 2, 4).しかしそのためにはある程度のlearning curveが必要ともいわれている.

さいごに

先天性心疾患のカテーテル治療のツールとして3DRAを利用する場合,その血行動態や患者の体格などの多様性も考慮しながら適切な撮影条件を設定し,良好な画像構築を目指すとともに総被曝線量の低減に関しても可能な限り試みる必要がある.そのためには医師,放射線技師,撮影機器メーカー等の各部門のスタッフが密接な連携を行い,症例ごとに知見を重ねてより良いものにしていくことが重要と思われる.

引用文献References

1) Glatz AC, Zhu X, Gillespie MJ, et al: Use of angiographic CT imaging in 30 the cardiac catheterization laboratory for condenital heart disease. JACC Cardiovasc Imaging 2010; 3: 1149–1157

2) Zahn EM: The emerging use of 3-Dimensional rotational angiography in congenital heart disease. Congenital Cardiology Today 2011; 9: 1–13

3) Berman DP, Khan DM, Gutierrez Y, et al: The use of three-dimensional rotational angiography to assess the pulmonary circulation following cavo-pulmonary connection in patients with single ventricle. Catheter Cardiovasc Interv 2012; 80: 922–930

4) Aldoss O, Fonseca BM, Truong UT, et al: Diagnostic utility of three-dimensional rotational angiography in congenital cardiac catheterization. Pediatr Cardiol 2016; 37: 1211–1221

5) Fagan TE, Truong UT, Jone PN, et al: Multimodality 3-dimensional image integration for congenital cardiac catheterization. Methodist DeBakey Cardiovasc J 2014; 10: 68–76

6) Glöckler M, Koch A, Greim V, et al: The value of flat-detector computed tomography during catheterisation of congenital heart disease. Eur Radiol 2011; 21: 2511–2520

7) Borik S, Volodina S, Chaturvedi R, et al: Three-dimensional rotational Angiography in the assessment of vascular and airway compression in children after a cavopulmonary anastomosis. Pediatr Cardiol 2015; 36: 1083–1089

8) Manica JL, Borges MS, Medeiros RF, et al: A comparison of radiation dose between standard and 3D angiography in congenital heart disease. Arq Bras Cardiol 2014; 103: 131–137

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである. 石垣瑞彦,ほか:先天性心疾患における3DRAの有用性.日小児循環器会誌2016; 32: 498–508

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