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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(6): 449-450 (2016)
doi:10.9794/jspccs.32.449

巻頭言Preface

自分らしくBeing Your True Nature

大阪大学大学院医学系研究科小児科Department of Pediatrics, Osaka University Graduate School of Medicine ◇ Osaka, Japan

発行日:2016年11月1日Published: November 1, 2016
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小児科医として歩み28年,小児循環器学会の門をたたいて22年が過ぎようとしている.子どもの心臓病の診療に携わり20年あまりの年月が流れたことになるが,私がこの道に導かれ,山あり谷ありながらも今日まで続けられているのは,諸先輩の先生方の導きと,多くの仲間と若手医師たちの支え,そして何よりも喜びも涙もともにしてきた数知れぬ心臓病の子どもとその家族がいたからに他ならない.医学の道を志した学生のころは,自分は町のお医者さんになるのだとばかり思っていたのだが.

小児循環器医が向き合う疾患は実に広くて深い.心房–弁–心室–血管–肺という各々の循環臓器には,構造(形態)という縦軸と,機能という横軸,そこに胎児から成人にいたるまでの時間軸があり,多岐にわたる多様な疾患と病態が存在する.ひとりの小児循環器医が一生かかっても経験しきれないくらいの数がある.同じ診断名であっても,個々の症例で病態は少しずつ異なり,これが年齢とともに変化するから奥が深い.また,一つひとつの病理病態が基礎生物学的にすべて解明されているかというと決してそうではない.まだまだ解明したい研究課題は山積みである.小児循環器学は,循環器疾患に対する「生涯」にわたる医学と医科学であり,これだけバラエティに富んだ疾病を相手に,実臨床であれ基礎研究であれ,高い専門性をもって仕事ができるのだから,辛いことやしんどい時はあっても,やりがいのある魅力的な職の道であると思う.加えて,心臓病の子どもとのつきあいは,ひとりの人間としてのつきあいでもあり,生き方について考えさせられ,教えられ,己の未熟さを知らされることも多い.患者家族を中心に,自分の領域とは異なる多職種の人との人づきあいができるのも,楽しくそして人として多くのことを学ばせていただく機会を与えられているのだと思う.

多くの心臓病の子どもとの出会いの中で「生きる」ということを考えさせられる.生まれたその日に命の幕を閉じた子,生後一度も病院から出ることなく年余にわたる病床生活の中ある日突然天に召された子,友達とは違う自分を受け入れことができず家に引きこもる子,発達障害をあわせもつ子,姑息手術にとどまり成人となり問題をかかえる子,それぞれの「生きる」に私は何ができただろうか.移植医療の現場に携わる機会を与えていただいた.ここでも「生きる」を考えさせられる.心臓移植は,医学的に移植対象となる心疾患があるだけでは適応にはならない.消える命と生きる命の連続,「新しい贈り物であるドナー心が現れることが前提となる」医療である.からだの一部である心臓を“贈りたい”(“だれかに受け取ってもらいたい”)というドナーあるいはドナー家族の尊い気持ち(希望)と,そのいのちの贈り物を“しっかり受けとり大切にしたい”(“贈ってくれてありがとう”)というレシピエントあるいはレシピエント家族の希望(感謝)とがリレーされることで成り立つ医療である.わが子の命を救いたいと思うレシピエント家族の気持ちも,わが子の命を助けたかったけれど助からない今,子どもの一部がどこかで生きていてほしいと願うドナー家族の気持ちも,どちらもわが子を大切に思う気持ちに寸分の差もない.ともに「生きる」こと探している.つねにレシピエントの家族に伝えている.「ドナーとドナー家族そして自らの家族,医療に携わった人たちすべて(命のリレーにかかわってくれたすべての人たち)に“ありがとう”の感謝の気持ちをずっと持ち続けることが何よりも大切である」と.

小児循環器疾患が多種多様であるように,循環器疾患の子どもとその家族の生き方もさまざまである.「生きる」に何か正解があるわけではない.一人ひとりその子とその家族が心臓病とつきあいながら,「自分らしい」生き方を探し,「自分らしく」輝いて前向きに過ごせる時間がもてることを願っている.今この瞬間にも小児循環器を学び奮闘している若き小児科医にも伝えたい.小児循環器医としてのスタイルに正解はない.「自分らしい」小児循環器医を探して歩んでいってほしい.そういう私も,小児科医として小児循環器医として年長さんとなった今,「自分らしい」生き方を探して,何が自分らしく生きることなのかを再考する時期にきているのかもしれない.

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