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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(4): 319-320 (2016)
doi:10.9794/jspccs.32.319

Editorial CommentEditorial Comment

小児における心臓原発の炎症性筋線維芽細胞腫とマネジメントManagement of Pediatric Patients with Cardiac Inflammatory Myofibroblastic Tumors

自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児科Department of Pediatrics, Jichi Children’s Medical Center Tochigi ◇ Tochigi, Japan

発行日:2016年7月1日Published: July 1, 2016
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若宮論文は,心臓原発の炎症性筋線維芽細胞腫(inflammatory myofibroblastic tumor: IMT)についての報告である.小児の原発性心臓腫瘍はまれで,その多くは横紋筋腫,線維腫,粘液腫などの良性腫瘍であるが,悪性の肉腫(sarcoma)も報告されている1, 2).IMTは間葉系に由来する稀な腫瘍で,再発や遠隔転移を含めた悪性腫瘍の性格も有する3).以前には,炎症後の過剰反応と考えられ,炎症性偽腫瘍(inflammatory pseudotumor)や,その病理学的特徴から線維性組織球腫(fibrous histiocytoma),形質細胞肉芽腫(plasma cell granuloma)などの名称で呼ばれていた.その後,転移・再発の報告がみられると同時に,染色体2p23上の未分化リンパ腫リン酸化酵素(ALK)遺伝子再構成(染色体転座)によるALK蛋白の過剰発現が報告された(このALKはt(2;5)(p23;q25)染色体転座をもつ未分化大細胞リンパ腫で初めて同定され,日本人の肺がんや,小児の神経芽腫においてALK遺伝子の突然変異が報告されている).そのため,この病変が炎症を主体としたものから,腫瘍的性格を有する筋線維芽細胞を主体としたグループではないかと考えられるようになり,Pettinato4)やCoffin5)らにより,IMTとしてまとめて報告された.IMTは,2002年のWHO分類では,軟部腫瘍の良・悪性中間型に分類された.これはさらに,局所破壊性に増殖するが遠隔転移はしない(locally aggressive)と,稀に遠隔転移する(rarely metastasizing)とに細分化され,IMTは後者に属する6)

心臓原発のIMTは,典型的には心内膜に位置し,右房内にポリープ様の腫瘍を形成する.小児のIMTも報告されており7, 8),Mizia-Malarzら9)は過去の乳児の報告例21例をreviewしている.これによると,発生部位は乳児21例中,右房8例(38%),右室6例(28.5%),左室3例(14.2%),僧帽弁2例(9.5%)で,腫瘍の大きさは,2.0~6.0 cmであった.病理組織学的には,様々な程度に混在した炎症細胞浸潤と紡錘形の筋線維芽細胞の増殖が特徴である.免疫染色では,α-smooth muscle actin(筋),CD68(組織球),ALK蛋白などの陽性例が多い10).小児や若年成人の軟部組織に好発し,腹腔・骨盤内や肺に多いが,心臓,肝,膀胱にも発生する.性差はないとされている.臨床症状は,乳児においては,腫瘍の位置にもよるが,無症状の場合や,呼吸不全,チアノーゼ,心雑音,頻脈,咳嗽などが報告されている.IMTの病因は現在も不明であるが,ALK蛋白の過剰発現や,human herpes virus(HHV)-8やEpstein-Barv Virusの感染による免疫反応が原因として考えられている.

本報告では,右房内腫瘤と大量の心嚢液を認めている.IMTでは,interleukin(IL)-1βやIL-6の増加が報告され,発熱や血小板増加への関与が考えられている.本報告でもIL-6が高値で,術後に改善が確認されていることからIL-6が心嚢液増加に関与したと推測される.心嚢液貯留や心タンポナーデは,右房での発生が知られているsarcomaの心膜腔への増殖だけでなく,白血病・リンパ腫などの非心臓性悪性腫瘍の播種性転移でも起こるため,原発性心臓腫瘍より30~40倍多い転移性腫瘍を鑑別しておくことも重要である.成人例では,転移巣を含めた検査にFDG-PETも用いられている.血液検査では,成人例ではあるが,約50%に血沈の亢進を認め,軽度の貧血や血小板増加も報告されている.

IMTの治療は,小児においても外科的切除が最も多い9).海外では,腫瘍の再発例で心臓移植を行った報告もある.また,生検後にステロイド療法を行った報告や放射線治療,化学療法(ifosfamide+Adriamycin; vinblastine+methotrexateなど)も報告されている.最近では,ALK遺伝子再構成のある患者に対しては,ALK inhibitor(crizotinib)も用いられている(現在本邦では,クリゾチニブの保険適応は,ALK融合遺伝子陽性で切除不能の進行・再発の非小細胞肺がんのみ).乳児の予後は,前述のMizia-Malarzらの報告では,乳児のIMT 21例中死亡例は4例であった.また,再発率は25%とされる11).成人ではあるが,切除11年目の局所再発例も報告されているため12),切除後の定期的なフォローアップも重要である.

一般に,本報告のような画像を見た場合,右房内腫瘤の鑑別として,血栓,粘液腫,感染性心内膜炎などが挙げられる.小児では原発性の心臓腫瘍は良性のものが大部分であり,その手術適応は,腫瘤が血流により流れて肺塞栓などを起こすリスクが高い場合の腫瘍全体の摘除や,流出路狭窄などの血流障害を伴う場合の狭窄の軽減,不整脈がある場合その制御を目的とする.横紋筋腫に代表される小児の良性心臓腫瘍では,自然退縮も期待されるため外来で経過観察されることも多い.ところで,心臓原発IMTの診断は,心臓超音波検査や,3D-CT,MRIなどの画像診断を駆使しても,臨床医にとっては,その非特異的な性格と極めて低い発生頻度から術前診断は非常に難しい.それに加え,病理学的にも場所により,炎症細胞浸潤が主体であったり,筋線維芽細胞の増殖が主体であったりとバラツキが大きいため,針や鉗子による生検の部分的な標本で診断することも容易ではない.しかし,IMTは再発や転移など悪性腫瘍の性格も有することから,その診断は特に重要である.そのため,本症を疑った場合には血流障害や肺塞栓のリスクを除くだけでなく,確定診断する上でも,外科的摘出を積極的に考慮していく必要がある.その意味で,若宮論文は,乳児のIMTの特徴を知るとともに,心臓腫瘍の手術適応を含めたマネジメントを考える上で貴重な報告となっている.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.

  • 若宮卓也,ほか,右房内に発生した炎症性筋線維芽細胞腫の乳児例.日小児循環器会誌 2016; 32: 314–318

引用文献References

1) Günther T, Schreiber C, Noebauer C, et al: Treatment strategies for pediatric patients with primary cardiac and pericardial tumors: A 30-year review. Pediatr Cardiol 2008; 29: 1071–1076

2) Burke A, Virmani R: Pediatric heart tumors. Cardiovasc Pathol 2008; 17: 193–198

3) Miller DV, Tazelaar HD: Cardiovascular pseudoneoplasms. Arch Pathol Lab Med 2010; 134: 362–368

4) Pettinato G, Manivel JC, De Rosa N, et al: Inflammatory myofibroblastic tumor (plasma cell granuloma). Clinicopathologic study of 20 cases with immunohistochemical and ultrastructural observations. Am J Clin Pathol 1990; 94: 538–546

5) Coffin CM, Watterson J, Priest JR, et al: Extrapulmonary inflammatory myofibroblastic tumor (inflammatory pseudotumor): A clinicopathologic and immunohistochemical study of 84 cases. Am J Surg Pathol 1995; 19: 859–872

6) Fletcher CD, Unni KK, Mertens F: WHO Classification of Tumours, Volume 5. Pathology and Genetics of Tumours of Soft Tissue and Bone, 3rd ed. IARC Press, Lyon, 2002

7) Lai LM, McCarville MB, Kirby P, et al: Shedding light on inflammatory pseudotumor in children: Spotlight on inflammatory myofibroblastic tumor. Pediatr Radiol 2015; 45: 1738–1752

8) Penk J, Koenig P, Mavroudis C: Rare pediatric cardiac tumor presentation. Pediatr Cardiol 2009; 30: 1016–1018

9) Mizia-Malarz A, Sobol-Milejska G, Buchwald J, et al: Inflammatory myofibroblastic tumor of the heart in the infant: Review of the literature. J Pediatr Hematol Oncol 2016; 1 [Epub ahead of print]

10) Tan H, Wang B, Xiao H, et al: Radiologic and clinicopathologic findings of inflammatory myofibroblastic tumor. J Comput Assist Tomogr 2016; 1 [Epub ahead of print]

11) Coffin CM, Hornick JL, Fletcher CD: Inflammatory myofibroblastic tumor: Comparison of clinicopathologic, histologic, and immunohistochemical features including ALK expression in atypical and aggressive cases. Am J Surg Pathol 2007; 31: 509–520

12) Weinberg PB, Bromberg PA, Askin FB: “Recurrence” of a plasma cell granuloma 11 years after initial resection. South Med J 1987; 80: 519–521

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