日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(3): 250 (2016)
doi:10.9794/jspccs.32.250

Editorial CommentEditorial Comment

日々の小さな積み重ねが必ず大きな成果を生むDaily Small Accumulation Surely Produces Big Results

慶應義塾大学医学部小児科学教室Department of Pediatrics, Keio University School of Medicine ◇ Tokyo, Japan

発行日:2016年5月1日Published: May 1, 2016
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池川論文は,新たなendoglin遺伝子変異を有する遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)例の報告である.HHTは多くの未解決な謎を有しており,臨床的な対応にも難渋することが多い疾患である.ことに,本論文でも中心的な話題となっている肺動静脈瘻は,臨床像が多彩であるため,個々の症例の特徴に即した治療法の選択を要する.本誌31巻6号に掲載された本間論文1)を記憶されている読者もおられよう.池川論文は,このHHTという疾患にとって,小さいかもしれないが,有意義な知見を加えたという点で価値がある.

ある疾患の原因遺伝子に新たな変異が見出された場合,その変異が真に疾患を生じているのか,あるいは予測に反して病的意義が小さい変異であるのかは,慎重に判断しなければならない.この点に関して,著者らは論文中で緻密な検討と推論を行っている.論文に記載された複数の根拠から,最終的な結論は同一の遺伝子変異を認めるHHT症例の追加報告を待たねばならないものの,endoglinのIVS2-1G>C(c.220-1G>C)という遺伝子変異がHHTを生じる原因となりうるという推論に同意したい.著者らには,追加報告を促すという意図をもって,何かしらの英文での情報発信を期待する.

疾患の原因となりうる新規遺伝子変異を見出す重要な意義の一つは,遺伝子型と臨床的表現型との関連が明らかになることであろう.この点においても,著者らは報告例の臨床症状を詳細に記載しており,本論文の意義を高めている.すでに,HHTの原因遺伝子のいずれに変異を有するかによって臨床的表現型が大きく異なることが知られているが,例えば,endoglinの個々の遺伝子変異と各症例の肺動静脈瘻の性質との関連はいまだ明らかになっていない.肺動静脈瘻に対する治療法にはコイル塞栓術,バスキュラープラグによる塞栓術,部分肺切除術や肺移植術に至るまで多くのバリエーションがある.手技の選択は,主に肺動静脈瘻の形態や分布により決定されるが,現状では手技の短期的・長期的効果を正確に予測することは困難である.今後,この遺伝子変異を有する症例にはこの治療法が長期的な予後の観点から適している,といった知見が得られることを期待したい.

さらに,原因遺伝子の変異を集積することはHHTの病態の本質に迫り,根本的な治療法を見出す端緒となる可能性も秘めている.最近,HHTの病態の本質はangiogenetic-angiostatic balanceのangiogeneticな方向への乱れであることを裏付ける知見が得られており,根本的な治療法としてanti-angiogenetic therapyが提唱されている2).一つの新規遺伝子変異の発見が,真実の探求における重要な糸口となることもありえよう.

個々の症例への日々の真摯な取り組みは,小さくても意義のある知見を生み,論文として世界に発信されることを通じて,必ず大きな成果をもたらすと信じている.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.

  • 池川 健,ほか:肺動静脈瘻を伴う遺伝性毛細血管拡張症の新規遺伝子変異1女児例.日小児循環器会誌2016; 32: 244–249

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