日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(3): 213-214 (2016)
doi:10.9794/jspccs.32.213

Editorial CommentEditorial Comment

左心低形成症候群に対する肺動脈幹温存法Norwood手術の意義The Role of Modified Norwood Operation Using Pulmonary Artery Trunk Saving Procedure for Patients with Hypoplastic Left Heart Syndrome

独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院 心臓血管外科Department of Cardiovascular Surgery, Chukyo Hospital, Japan Community Healthcare Organization ◇ Nagoya, Japan

発行日:2016年5月1日Published: May 1, 2016
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はじめに

日本胸部外科学会の学術調査による全国統計でNorwood手術の成績がはじめて掲載された2004年の統計1)では,新生児期および乳児期のNorwood手術の入院死亡率は,40.0%,40.6%と非常に高く,日本のleading hospitalである数施設のみが欧米並みの優れた成績を残している状況であった.その後最新の2013年の全国統計2)では,新生児期および乳児期のNorwood手術の入院死亡率は,25.7%,15.7%へと低下し,いまだ十分とは言えないまでも約10年でかなり改善してきた.そのような状況の中,左心低形成症候群に対する国内の各関連学会での話題も生死そのものに関する手術成績だけでなく,Norwood術後から,Fontan手術まで,あるいはさらに長期予後までを見据えたものとなってきている.

Norwood手術後の弓部再建に関連した合併症として,大動脈の再狭窄,左肺動脈狭窄,左気管支狭窄などがあり3–5),これらはいずれもその予後に大きく影響するものである.一方ではこれらの合併症は,手技的な工夫によりある程度軽減が可能なものでもあり,弓部再建をする上でのデザインがその結果を左右するものとなりうる.

肺動脈幹温存法について

小沼論文における肺動脈幹温存法(PA trunk saving法:PATS)を用いたNorwood手術の利点は,左右肺動脈を肺動脈幹の起始部で切離し端々吻合を行い,切離部の孔は直接縫合閉鎖することで新大動脈再建に利用できる肺動脈幹長軸距離を従来のNorwood手術より長く確保できること,結果的に肺動脈幹の短軸径を縮小することになり新大動脈弓下空間を広く再建できること,自己血管壁のみの再建法で成長により期待が持てること,の3点と考えられる.

本論文での報告例は,先天的な左気管支軟化症を合併した左心低形成症候群であるが,PATS法を用いて術後に左気管支の変形は改善し,人工呼吸器も円滑に離脱できている.PATS法は本例のように先天性左気管支狭窄を合併した症例に対して有用と思われるが,より頻度の高い,新大動脈の圧排による二次的な左気管支狭窄や軟化症,左肺動脈狭窄の予防にも有効と考えられる.

従来より大動脈弓部の再建には,自己血管壁のみによる再建法と,ホモグラフトや異種および自己心膜パッチを補填して再建する方法が行われてきている.自己血管壁のみによる再建法では,十分な成長が期待できる反面,上行大動脈と下行大動脈の接合部の角度が急峻になりやすく,弓下空間も狭くなりやすい傾向がある.パッチを補填して再建する場合は,弓部の自然な彎曲を再現しやすく広い弓下空間を確保しやすいが,十分な成長が得られなかったり,パッチが瘤化したりする恐れもありうる6)

また,いずれの方法にしろもともと太い肺動脈幹をそのままの径で使用するため,新大動脈基部は非常に太くなり,弓下空間を前方から圧迫しやすくなる.Dasiら7)は,Norwood術後遠隔期のMRI画像による検討で,大動脈弓再建術後の太い大動脈弓部断面積は,細い左肺動脈断面積と有意に逆相関していたと報告している.さらには大動脈が太いこと自体も血行動態的にエネルギーロスが多く不利であるとしている.

PATS法によるNorwood手術は,積極的に肺動脈幹径を縮めるというデザインを加えることでこれまでの術式と異なり,弓下の肺動脈発育にも有利になる可能性が高い.同様なコンセプトでの術式は,浅田ら8)もlongitudinal extension and horizontal plication法として報告しており,左右肺動脈をU字状に一塊にして切離するという点が本法とは異なるが,切離後肺動脈幹を縦方向に縫合して径を縮小し,肺動脈幹を長く活かすことができ,やはり弓下の空間を広く確保できたとしている.

本例では,PATS法をNorwood-Glenn手術の治療方針のもとで行っており,生後5ヵ月,体重5.18 kgの症例であった.PATS法をさらに広く用いる上での関心事は,新生児期のNorwood手術で,体重3 kg前後で用いた場合の手技的な難易度はどうであろうかという点である.左右肺動脈を別々に切離して再吻合する際,径がより細くなる分さらに繊細な手技が必要となると思われ,今後新生児例での経験を積まれた場合にはその情報提供をお願いしたい.また,PATS法の実際の効果として,遠隔期に左右肺動脈の発育が以前の方法に比してより大きな成長が得られていくかどうかも非常に知りたいところであり,このような手術手技のちょっとした工夫が結果的に患児の長期的な予後の改善に大きく寄与していってくれることを期待しつつ,遠隔期の著者らの報告を待ちたい.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.

  • 小沼武司,ほか:肺動脈幹温存法Norwood変法を行い改善した,左心低形成症候群に合併する気管支軟化症の一例.日小児循環器会誌2016; 32: 208–212

引用文献References

1) Kazui T, Osada H, Fujita H: Thoracic and cardiovascular surgery in Japan during 2004: Annual report by the Japanese Association for Thoracic Surgery. Jpn J Thorac Cardiovasc Surg 2006; 54: 363–386

2) Masuda M, Kuwano H, Okumura M, et al: Thoracic and cardiovascular surgery in Japan during 2013: Annual report by The Japanese Association for Thoracic Surgery. Gen Thorac Cardiovasc Surg 2015; 63: 670–701

3) Baker CJ, Wells WJ, Derby CA, et al: Ascending aortic extension for enlargement of the aortopulmonary space in children with pulmonary artery stenosis. Ann Thorac Surg 2005; 80: 1647–1651

4) Menon A, Jones T, Barron D, et al: Posterior reduction aortoplasty for left pulmonary artery compression after Norwood procedure. Ann Thorac Surg 2011; 91: 1300–1301

5) Ashcraft TM, Jones K, Border WL, et al: Factors affecting long-term risk of aortic arch recoarctation after the Norwood procedure. Ann Thorac Surg 2008; 85: 1397–1401

6) Ehsan A, Singh H, Vargas SO, et al: Neoaortic aneurysm after stage I Norwood reconstruction. Ann Thorac Surg 2005; 79: e23–e25

7) Dasi LP, Sundareswaran KS, Sherwin C, et al: Larger aortic reconstruction corresponds to diminished left pulmonary artery size in patients with single-ventricle physiology. J Thorac Cardiovasc Surg 2010; 139: 557–561

8) 浅田 聡,山岸正明,宮崎隆子,ほか:左心低形成症候群における左右肺動脈分岐形態の検討—大動脈再建における主肺動脈Longitudinal extension and horizontal plication法の妥当性について—.日小児循環器会誌2015; 32: S1-I-P-169

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